不動産投資を始めようと考えたとき、多くの方が最初に悩むのが「一棟アパートと区分所有、どちらを選べばいいのか」という問題です。それぞれにメリットとデメリットがあり、投資家の資金力や目的によって最適な選択は変わってきます。この記事では、一棟アパートと区分所有の違いを基礎から丁寧に解説し、あなたに合った投資スタイルを見つけるお手伝いをします。初期投資額、収益性、リスク管理、そして将来性まで、実際のデータを交えながら分かりやすくお伝えしていきます。
一棟アパートと区分所有の基本的な違いとは

不動産投資における一棟アパートと区分所有は、まったく異なる投資スタイルです。まず押さえておきたいのは、それぞれの定義と基本的な特徴になります。
一棟アパートとは、建物全体を一人のオーナーが所有する投資方法です。土地と建物すべてがあなたの資産となり、各部屋の管理から建物全体の運営まで、すべての決定権を持つことができます。例えば、8室あるアパートを購入すれば、その8室すべてがあなたの収益源となります。
一方、区分所有とはマンションの一室だけを購入する投資方法です。建物全体ではなく、特定の部屋とその部屋に対応する土地の持分だけを所有します。多くの場合、分譲マンションの一室を投資用として購入するケースがこれに該当します。
この違いは投資規模だけでなく、管理の自由度や責任の範囲にも大きく影響します。一棟アパートでは建物の外壁塗装や屋根の修繕など、すべての判断を自分で行えますが、区分所有では管理組合の決議が必要になることがほとんどです。つまり、自由度と引き換えに責任も大きくなるのが一棟アパート、限定的な権利の中で比較的手軽に始められるのが区分所有という特徴があります。
初期投資額と資金計画の違い

投資を始める際に最も気になるのが、実際にどれくらいの資金が必要なのかという点です。一棟アパートと区分所有では、必要な初期投資額に大きな差があります。
区分所有の場合、都心部のワンルームマンションであれば1500万円から2500万円程度で購入できる物件が多く見られます。自己資金として物件価格の20%程度、つまり300万円から500万円を用意できれば、残りは金融機関からの融資でカバーすることが可能です。さらに諸費用として物件価格の7%から10%程度を見込んでおく必要があります。
一方、一棟アパートの場合は規模によって大きく異なりますが、地方都市の小規模物件でも5000万円から1億円程度の投資が必要になります。自己資金は最低でも1000万円以上、できれば2000万円程度を用意しておくことが望ましいでしょう。金融機関の融資審査も厳しくなる傾向があり、年収や資産背景がより重視されます。
しかし、初期投資額が大きいからといって一棟アパートが不利というわけではありません。実は、投資効率という観点では一棟アパートの方が優れているケースも多いのです。複数の部屋から家賃収入を得られるため、一室が空室になっても他の部屋の収入でカバーできます。区分所有では一室しかないため、空室になると収入がゼロになってしまうリスクがあります。
資金計画を立てる際は、物件価格だけでなく、購入後の運営資金も考慮することが重要です。一棟アパートでは大規模修繕に備えて年間家賃収入の10%から15%程度を積み立てておくことが推奨されます。区分所有では管理費や修繕積立金が毎月発生しますが、これらは比較的予測しやすい固定費となります。
収益性とキャッシュフローの比較
不動産投資で最も重要な指標の一つが収益性です。一棟アパートと区分所有では、利回りやキャッシュフローに明確な違いが現れます。
表面利回りで比較すると、一般的に一棟アパートの方が高い傾向にあります。地方都市の一棟アパートでは8%から12%程度の利回りが期待できる物件も珍しくありません。これに対して、都心部の区分所有マンションでは4%から6%程度が一般的です。ただし、表面利回りだけで判断するのは危険です。実際の手取り収入を示す実質利回りで考える必要があります。
実質利回りを計算する際は、管理費、修繕費、固定資産税、保険料などの経費を差し引きます。区分所有では管理費と修繕積立金が毎月固定で発生し、これが家賃収入の20%から30%を占めることもあります。一棟アパートでは管理費は発生しませんが、自分で修繕費を積み立て、管理会社への委託費用を支払う必要があります。
キャッシュフローの安定性という点では、一棟アパートに軍配が上がります。国土交通省の住宅統計によると、2025年12月の全国アパート空室率は21.2%でした。しかし、これは一棟アパート全体が空室という意味ではなく、全室のうち約2割が空室という意味です。8室あるアパートなら、常時6室から7室は埋まっている計算になります。
一方、区分所有では一室しかないため、空室になると収入がゼロになります。入居者の退去から次の入居者が決まるまで、平均で2ヶ月から3ヶ月かかることを考えると、年間の実質稼働率は90%程度と見込むのが現実的です。つまり、表面利回り5%の物件でも、実質的には4.5%程度になる可能性があります。
さらに、一棟アパートでは家賃設定の自由度が高いという利点があります。市場動向を見ながら柔軟に家賃を調整したり、リフォームによって付加価値を高めたりすることで、収益性を向上させることができます。区分所有では同じマンション内の他の部屋との兼ね合いもあり、家賃設定の自由度は限定的です。
リスク管理と運営の違い
不動産投資において、リスクをどう管理するかは成功の鍵を握ります。一棟アパートと区分所有では、直面するリスクの種類と対処方法が大きく異なります。
区分所有の最大のリスクは、先ほども触れた空室リスクです。一室しかないため、空室になると収入が完全にストップします。しかし、このリスクは立地選びで大きく軽減できます。駅から徒歩10分以内、都心部へのアクセスが良好な物件を選べば、空室期間を最小限に抑えられます。また、管理の手間が少ないため、本業が忙しい方でも比較的取り組みやすいという利点があります。
一棟アパートでは空室リスクは分散されますが、建物全体の管理責任が生じます。外壁の劣化、屋根の雨漏り、給排水設備の故障など、建物全体のメンテナンスを計画的に行う必要があります。築20年を超えると大規模修繕が必要になり、その費用は数百万円から1000万円以上になることもあります。
災害リスクへの対応も考慮すべき点です。一棟アパートでは建物全体に被害が及ぶ可能性があり、火災保険や地震保険の保険料も高額になります。区分所有では自分の部屋だけの保険で済むため、保険料の負担は軽くなります。ただし、マンション全体が被災した場合、修繕の決定権は管理組合にあり、自分の意思だけでは進められないというジレンマもあります。
運営面では、一棟アパートの方が自由度が高い反面、責任も重くなります。入居者トラブルへの対応、家賃滞納への対処、設備故障時の修理手配など、オーナーとして判断すべき場面が多くあります。管理会社に委託することもできますが、その場合は家賃収入の5%から10%程度の管理委託費が発生します。
区分所有では、建物の管理は管理組合が行うため、オーナーの負担は比較的軽くなります。ただし、管理組合の運営状況によっては、修繕積立金が不足したり、管理費が値上げされたりするリスクがあります。購入前に管理組合の財務状況や修繕計画を確認することが重要です。
出口戦略と資産価値の将来性
不動産投資では、購入時だけでなく売却時のことも考えておく必要があります。一棟アパートと区分所有では、出口戦略の選択肢と資産価値の推移に違いがあります。
区分所有マンションは流動性が高いという大きな利点があります。都心部の駅近物件であれば、売却したいと思ったときに比較的短期間で買い手が見つかる可能性が高いです。価格も手頃なため、実需の購入者(自分で住む人)も買い手候補になります。ただし、築年数が経過すると資産価値の下落が避けられません。特に築30年を超えると、建物の価値はほぼゼロとなり、土地の持分だけが資産価値として残ります。
一棟アパートの場合、売却には時間がかかることが多いです。購入できる層が限られるため、買い手を見つけるまで半年から1年以上かかることも珍しくありません。しかし、土地と建物を一体として所有しているため、建物が古くなっても土地の価値が残ります。立地が良ければ、建物を解体して土地として売却したり、新たに建て替えたりする選択肢もあります。
資産価値の観点では、土地の持分が大きい一棟アパートの方が長期的には有利です。日本では建物の価値は年々減少していきますが、土地の価値は立地によっては維持または上昇する可能性があります。区分所有では土地の持分が小さいため、この恩恵を十分に受けられません。
相続対策としても、一棟アパートと区分所有では違いがあります。一棟アパートは相続税評価額を大きく圧縮できる可能性があり、相続税対策として活用されることが多いです。区分所有でも一定の評価減は受けられますが、その効果は一棟アパートほど大きくありません。
将来的な人口動態も考慮すべき要素です。日本全体では人口減少が進んでいますが、都心部では依然として人口流入が続いています。区分所有で都心部の物件を選べば、長期的な需要が見込めます。一方、地方都市の一棟アパートでは、人口減少の影響を受けやすく、空室率の上昇リスクが高まる可能性があります。
あなたに合った投資スタイルの選び方
ここまで一棟アパートと区分所有の違いを詳しく見てきましたが、最終的にどちらを選ぶべきかは、あなたの状況や目的によって変わります。
区分所有が向いているのは、不動産投資の初心者や、本業が忙しく管理に時間を割けない方です。自己資金が1000万円以下でも始められ、管理の手間も少ないため、まずは不動産投資を経験してみたいという方に適しています。また、都心部に住んでいて、物件を自分の目で確認しやすい環境にある方にもおすすめです。
一棟アパートが向いているのは、ある程度の自己資金があり、本格的に不動産投資に取り組みたい方です。自己資金2000万円以上、年収800万円以上が一つの目安となります。また、不動産の管理や運営に興味があり、時間を投資できる方、将来的には複数の物件を所有して規模を拡大したいと考えている方に適しています。
投資目的によっても選択は変わります。安定した副収入を得たいのであれば、都心部の区分所有マンションが適しています。一方、資産形成や相続対策を重視するなら、土地付きの一棟アパートの方が有利です。また、将来的に不動産投資を本業にしたいと考えているなら、一棟アパートから始めて経験を積むことをおすすめします。
リスク許容度も重要な判断基準です。大きなリスクを取ってでも高い収益を目指したい方は一棟アパート、リスクを抑えて着実に資産を増やしたい方は区分所有が向いています。ただし、どちらを選ぶにしても、立地選びと物件選びが成功の鍵を握ることを忘れてはいけません。
実際には、最初は区分所有から始めて経験を積み、その後一棟アパートに挑戦するという段階的なアプローチも有効です。区分所有で不動産投資の基礎を学び、融資実績を作ってから、より大きな投資に進むという戦略です。このように、一棟アパートと区分所有は対立するものではなく、投資家の成長段階に応じて使い分けることができます。
まとめ
一棟アパートと区分所有は、それぞれに明確な特徴とメリット・デメリットがあります。区分所有は初期投資額が少なく、管理の手間も軽いため、不動産投資の入門として最適です。一方、一棟アパートは初期投資額は大きいものの、収益性が高く、資産価値の保全という点でも優れています。
重要なのは、自分の資金力、投資目的、リスク許容度、そして将来のビジョンに合った選択をすることです。焦って決める必要はありません。まずは複数の物件を見学し、収支シミュレーションを作成し、信頼できる不動産会社や税理士に相談しながら、じっくりと検討してください。
不動産投資は長期的な資産形成の手段です。最初の一歩を踏み出すことは勇気が要りますが、正しい知識と慎重な判断があれば、着実に資産を増やしていくことができます。この記事が、あなたの不動産投資の第一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計 – https://www.mlit.go.jp/statistics/
- 国土交通省 不動産市場動向マンスリーレポート – https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000086.html
- 公益財団法人 東日本不動産流通機構 – https://www.reins.or.jp/
- 一般財団法人 日本不動産研究所 – https://www.reinet.or.jp/
- 金融庁 投資信託協会 不動産投資ガイド – https://www.fsa.go.jp/
- 総務省統計局 住宅・土地統計調査 – https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/
- 公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会 – https://www.zentaku.or.jp/