一棟アパート投資の収支シミュレーションをExcelで行う重要性
一棟アパート投資を検討する際、物件価格や家賃収入だけを見て判断すると、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。実は、不動産投資で成功するためには、Excelを活用した正確な収支シミュレーションが何よりも重要なのです。国土交通省が発表した「不動産価格指数2025年9月分」によると、マンション区分所有指数は222.2(基準年2010年=100)と高水準を維持しており、物件価格が上昇傾向にある中で、より慎重な投資判断が求められています。
収支シミュレーションの目的は大きく分けて三つあります。まず一つ目は、購入前の投資判断材料として活用することです。Excelでシミュレーションを行うことで、その物件が本当に投資価値があるのかを数値で客観的に評価できます。二つ目は、金融機関への融資申請時に必要な資金計画の根拠を示すためです。CEIC Dataの速報によると、2026年1月時点での日本の銀行貸出金利は平均1.875%で推移しており、この金利環境下での返済計画を明確に示す必要があります。三つ目は、購入後の運営管理と税務申告の準備です。不動産所得の計算には正確な収支記録が必要になるため、最初から適切なフォーマットで管理することが効率的です。
Excel収支シミュレーションの最大のメリットは、様々な条件を変更して即座に結果を確認できることです。空室率が10%から20%に上がったら収支はどう変わるのか、金利が0.5%上昇したらキャッシュフローはマイナスになるのか。こうした感度分析を瞬時に行えるのがExcelの強みです。不動産AI研究所(TSON)では、会員登録者向けに「収支シミュレーションに使うエクセルシート」を無料配布しており、多くの投資家がこうしたテンプレートを活用して物件選びの精度を高めています。
収支シミュレーションで把握すべき収入項目
一棟アパート投資における収入の中心は、当然ながら家賃収入です。ただし、満室を前提とした収入だけを計算するのは危険です。イエウール土地活用の調査によると、実際の運用では空室率を15%から20%程度見込む必要があり、この数字を無視した計算では実態とかけ離れた結果になってしまいます。例えば、6戸の一棟アパートで月額家賃7万円の設定であれば、年間の満室想定収入は504万円(7万円×6戸×12ヶ月)ですが、空室率15%を織り込むと実質収入は428.4万円まで下がります。
家賃設定を行う際は、周辺の類似物件を最低でも10件以上調査することが重要です。不動産ポータルサイトで同じエリア、同じ間取り、同じ築年数帯の物件を検索し、平均値を算出します。ただし、最高値と最低値は除外して中央値を参考にすると、より現実的な家賃設定ができます。また、築年数が経過するにつれて家賃は下落する傾向があり、一般的には年1%から2%程度の下落率を見込む必要があります。つまり、新築時に月額7万円だった家賃は、10年後には6万円台前半まで下がる可能性があるということです。
家賃以外の収入として、礼金や更新料も考慮に入れます。礼金は入居時に借主から受け取る一時金で、一般的に家賃の1ヶ月分から2ヶ月分です。ただし、最近では礼金ゼロの物件も増えており、競争力を高めるために礼金を設定しないケースも多くなっています。更新料は賃貸借契約を更新する際に受け取る費用で、通常は2年ごとに家賃の1ヶ月分程度です。これらは毎月発生するわけではないため、年間平均額に換算してシミュレーションに組み込みます。
駐車場収入や駐輪場収入も、物件によっては重要な収入源となります。都心部では駐車場の需要は限定的ですが、地方都市や郊外の物件では月額5,000円から1万円程度の駐車場収入が見込めることもあります。6戸のアパートで4台分の駐車場を月額8,000円で貸し出せば、年間38.4万円の追加収入になります。駐輪場は月額300円から500円程度と少額ですが、複数台分を貸し出せば年間で数万円の収入になります。こうした細かい収入項目も、長期的には収益性に大きく影響するため、漏れなくExcelシートに盛り込むことが大切です。
支出項目の全体像と見落としがちな費用
一棟アパート投資では、ワンルームマンション投資以上に多くの支出項目が存在します。最も大きな支出はローン返済です。例えば、1億円の物件を頭金2,000万円、借入8,000万円、金利1.875%、返済期間25年で購入した場合、元利均等返済では月々の返済額は約35万4,000円となります。年間では約424万8,000円の支出です。青山地所の「一棟アパート返済シミュレーションの完全ガイド」では、返済方法による違いも詳しく解説されており、元金均等返済を選択すると初期の返済額は高くなるものの、総返済額は元利均等より少なくなることが示されています。
一棟アパートでは、管理費や修繕積立金の考え方が区分所有マンションとは異なります。一棟丸ごと所有するため、共用部分の管理や修繕もすべて自己負担となります。エレベーターがある物件では保守点検費用として年間30万円から50万円、階段式の物件でも共用部分の清掃や電気代として年間10万円から20万円程度が必要です。また、外壁塗装や屋上防水などの大規模修繕は10年から15年ごとに実施する必要があり、一棟アパートの場合は500万円から1,000万円規模の費用がかかることも珍しくありません。この費用を毎年の修繕積立として年間30万円から60万円程度計上しておくことが賢明です。
賃貸管理委託料は、入居者募集や家賃回収、クレーム対応などを管理会社に委託する費用です。相場は家賃収入の5%から8%程度で、年間家賃収入が500万円の場合は年間25万円から40万円となります。不動産投資連合隊が公開している「簡易収支シミュレーション(利回り計算)」のExcelテンプレートでは、この管理委託料を変動費として設定し、空室率の変動に応じて自動計算される仕組みになっています。自主管理も可能ですが、一棟アパートは複数戸を管理する必要があるため、本業が忙しい方や遠方の物件には管理委託がおすすめです。
固定資産税と都市計画税は、毎年1月1日時点の所有者に課税される税金です。固定資産税は固定資産税評価額の1.4%、都市計画税は0.3%が標準税率となっています。1億円の物件で評価額が7,000万円の場合、年間で約119万円の税負担となります。新築住宅の場合は一定期間の軽減措置がありますが、軽減期間終了後は税額が上がることを計画に織り込んでおく必要があります。イエウール土地活用では、この固定資産税のシミュレーション例も詳しく解説されており、特に地方都市と東京23区での税額の違いが具体的な数値で示されています。
火災保険料と地震保険料も重要な支出項目です。一棟アパートの火災保険料は建物の構造や所在地、保険金額によって大きく変わりますが、木造アパートの場合は年間10万円から30万円、鉄骨造や鉄筋コンクリート造では年間5万円から15万円程度が目安です。地震保険は火災保険の30%から50%程度の保険料で、任意加入ですが、日本は地震大国であることを考えると加入しておくことが賢明です。特に一棟アパートは資産規模が大きいため、万が一の災害に備えた保険は必須と言えます。
見落としがちな費用として、原状回復費用や設備交換費用があります。入居者が退去する際には、壁紙の張り替えやハウスクリーニングが必要で、1部屋あたり10万円から20万円程度かかります。6戸のアパートで平均入居期間が3年とすると、年間で2回程度の退去があり、年間20万円から40万円の原状回復費用が必要です。また、エアコンや給湯器などの設備は10年から15年で交換時期を迎え、1台あたり10万円から30万円の出費となります。TSONの資料では、こうした「見落としがちな費用」を詳細にリストアップし、年間の修繕積立額として計上する重要性が強調されています。
Excelテンプレートを使った実践的な収支計算手順
収支シミュレーションを正確に行うためには、Excelテンプレートを活用することが最も効率的です。まず基本的なシート構成として、「入力シート」と「計算結果シート」の2つを用意します。入力シートには物件価格、頭金、借入金額、金利、返済期間、想定家賃、戸数、空室率、各種経費などの前提条件を入力します。セルの色分けを行い、青色セルは入力項目、灰色セルは自動計算される項目として視覚的に分かりやすくします。
収入欄には、月額家賃、戸数、稼働率(100%-空室率)から年間家賃収入を自動計算する数式を設定します。例えば「=月額家賃×戸数×12×稼働率」という数式です。礼金や更新料は発生頻度を考慮して年間平均額を算出します。礼金は「=月額家賃×戸数÷平均入居年数」、更新料は「=月額家賃×戸数÷2」といった数式で計算できます。駐車場収入や駐輪場収入も同様に、月額×台数×12ヶ月で年間収入を算出します。
支出欄では、まずローン返済額を計算します。ExcelのPMT関数を使えば、元利均等返済の月額返済額を簡単に算出できます。「=PMT(金利÷12,返済期間×12,-借入金額)」という数式です。年間返済額はこの月額返済額を12倍します。管理費、修繕積立金、賃貸管理委託料、固定資産税、都市計画税、保険料、原状回復費用積立、設備交換費用積立などの項目を設けます。賃貸管理委託料は「=年間家賃収入×管理委託料率」のように、家賃収入に連動させると、空室率を変更した際に自動的に委託料も変動します。
計算結果シートでは、年間収入から年間支出を差し引いてキャッシュフローを算出します。さらに重要な投資指標として、表面利回り、実質利回り、NPV(正味現在価値)、IRR(内部収益率)を計算します。表面利回りは「=年間家賃収入÷物件価格×100」、実質利回りは「=(年間家賃収入-年間経費)÷(物件価格+購入諸費用)×100」で計算します。イエウール土地活用では、NPVとIRRの計算式も詳しく解説されており、Excel関数を使った実装例が示されています。NPVはNPV関数、IRRはIRR関数を使って計算できます。
感度分析を行うには、データテーブル機能が便利です。例えば、空室率を5%から30%まで5%刻みで変化させた場合のキャッシュフローの変動を一覧表示できます。また、金利と空室率の2変数を同時に変化させて、キャッシュフローへの影響を確認することも可能です。TSONのExcelシートでは、こうしたシナリオ分析機能が実装されており、楽観的シナリオ、標準シナリオ、悲観的シナリオの3パターンを同時に表示できるようになっています。これにより、最悪の状況でも収支が成り立つかを事前に確認できます。
ケーススタディ:東京23区の1億円物件シミュレーション
実際のシミュレーション例として、東京23区内の築浅一棟アパート(物件価格1億円)のケースを見てみましょう。前提条件は以下の通りです。物件価格1億円、頭金2,000万円、借入金額8,000万円、金利1.875%、返済期間25年、戸数6戸、月額家賃7.5万円、空室率15%、管理委託料5%、修繕積立金年間60万円、固定資産税・都市計画税年間120万円、保険料年間10万円とします。
年間収入は、家賃収入が「7.5万円×6戸×12ヶ月×(1-0.15)=459万円」、礼金・更新料の平均が年間約30万円、駐車場収入が年間48万円で、合計537万円となります。年間支出は、ローン返済が約425万円、管理委託料が約23万円、修繕積立金が60万円、固定資産税等が120万円、保険料が10万円、原状回復費用積立が30万円で、合計668万円となります。この結果、年間キャッシュフローは「537万円-668万円=-131万円」となり、残念ながら赤字です。
この物件の表面利回りは「459万円÷1億円×100=4.59%」、実質利回りは「(459万円-243万円)÷(1億円+700万円)×100=2.02%」となります。一見すると表面利回りは悪くないように見えますが、実際にはローン返済を含めると赤字になってしまうことが分かります。ただし、ローン返済のうち元金返済部分は資産の積み上げとなるため、単純な赤字とは異なります。また、減価償却費を経費計上することで所得税の節税効果もあります。
この物件の収支を改善するには、いくつかの方法があります。まず、頭金を3,000万円に増やしてローン返済額を減らす方法です。借入7,000万円にすると月額返済額は約30万9,000円に下がり、年間返済額は約371万円となります。この場合の年間キャッシュフローは「537万円-614万円=-77万円」となり、赤字幅は縮小しますがまだマイナスです。次に、空室率を10%に抑える努力をします。空室率10%の場合、家賃収入は486万円に増え、キャッシュフローは改善します。
地方都市物件との比較と感度分析
同じ1億円の投資でも、地方都市では異なる収支構造になります。地方都市の一棟アパート(物件価格5,000万円、10戸)を例に見てみましょう。前提条件は、物件価格5,000万円、頭金1,000万円、借入金額4,000万円、金利1.875%、返済期間25年、戸数10戸、月額家賃4.5万円、空室率20%、管理委託料5%、修繕積立金年間30万円、固定資産税・都市計画税年間40万円、保険料年間15万円(木造のため高め)とします。
年間収入は、家賃収入が「4.5万円×10戸×12ヶ月×(1-0.20)=432万円」、礼金・更新料の平均が年間約30万円、駐車場収入が年間60万円(地方では駐車場需要が高い)で、合計522万円となります。年間支出は、ローン返済が約212万円、管理委託料が約22万円、修繕積立金が30万円、固定資産税等が40万円、保険料が15万円、原状回復費用積立が40万円(退去回数が多いため)で、合計359万円となります。この結果、年間キャッシュフローは「522万円-359万円=163万円」となり、黒字です。
地方物件の表面利回りは「432万円÷5,000万円×100=8.64%」と、東京の物件より圧倒的に高くなります。実質利回りも「(432万円-147万円)÷(5,000万円+350万円)×100=5.33%」と良好です。ただし、地方物件には人口減少リスクや空室率上昇リスクがあることを忘れてはいけません。感度分析を行い、空室率が30%に上昇した場合のシミュレーションも確認しておくべきです。
Excelのデータテーブル機能を使って、金利と空室率の2変数感度分析を行います。縦軸に空室率を10%から40%まで5%刻みで、横軸に金利を1.0%から3.0%まで0.5%刻みで設定し、各条件でのキャッシュフローを計算します。この分析により、「空室率25%かつ金利2.5%」といった複合的な悪条件下でも収支が成り立つかを確認できます。青山地所のシミュレーションガイドでも、こうした複数シナリオの検討が推奨されており、最悪のケースでも年間キャッシュフローがマイナス50万円以内に収まる物件を選ぶことが、リスク管理の観点から重要だと指摘されています。
融資審査で重視されるDSCRとは
金融機関が一棟アパートへの融資を審査する際、重視する指標の一つがDSCR(Debt Service Coverage Ratio:債務返済カバー率)です。DSCRは、営業純利益が年間のローン返済額の何倍あるかを示す指標で、「DSCR=営業純利益÷年間ローン返済額」で計算されます。一般的に、DSCRが1.2以上あれば融資が通りやすいとされています。
先ほどの東京23区の物件例で計算すると、営業純利益は「537万円(収入)-243万円(ローン返済以外の支出)=294万円」、年間ローン返済額は425万円なので、「DSCR=294万円÷425万円=0.69」となります。これは1.0を大きく下回っており、融資審査では厳しい評価になります。一方、地方都市の物件では、営業純利益は「522万円-147万円=375万円」、年間ローン返済額は212万円なので、「DSCR=375万円÷212万円=1.77」となり、融資審査では良好な評価になります。
DSCRを改善するには、営業純利益を増やすか、ローン返済額を減らす必要があります。営業純利益を増やすには、家賃を上げる、空室率を下げる、経費を削減するなどの方法があります。ローン返済額を減らすには、頭金を増やす、返済期間を延ばす、金利の低い金融機関を選ぶなどの方法があります。ExcelシートにこのDSCR計算式を組み込んでおけば、物件条件や融資条件を変更した際に、即座にDSCRへの影響を確認できます。
減価償却費と税務シミュレーション
不動産投資では、減価償却費の計上により税務上の所得を圧縮できるメリットがあります。減価償却費とは、建物の取得費用を耐用年数にわたって経費計上する仕組みです。一棟アパートの場合、建物部分の価格と構造によって償却年数が変わります。木造は22年、軽量鉄骨造は27年、鉄筋コンクリート造は47年が法定耐用年数です。
例えば、1億円の物件のうち建物価格が7,000万円、構造が木造の新築アパートとします。定額法で計算すると、年間の減価償却費は「7,000万円÷22年=約318万円」となります。この318万円は実際の現金支出を伴わない経費として計上できるため、税務上の所得を大幅に圧縮できます。仮に年間の不動産所得(収入-経費)が200万円の黒字だとしても、減価償却費318万円を計上すれば、税務上は118万円の赤字となり、給与所得などと損益通算することで所得税や住民税を軽減できます。
ただし、減価償却費は売却時の譲渡所得計算に影響します。減価償却費の累計額は、売却時の取得費から差し引かれるため、譲渡所得が大きくなり税負担が増えます。また、築年数が経過した中古物件を購入する場合は、残存耐用年数が短くなるため、年間の減価償却費は大きくなりますが、償却期間は短くなります。こうした税務上の影響もExcelシートに組み込んでおくと、長期的な税引後キャッシュフローを正確に把握できます。
NPV・IRRを使った投資判断
より高度な投資判断指標として、NPV(正味現在価値)とIRR(内部収益率)があります。NPVは、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いた合計から初期投資額を差し引いた値です。NPVがプラスであれば、その投資は期待利回りを上回る収益が見込めることを意味します。ExcelのNPV関数を使えば簡単に計算できます。
例えば、初期投資3,000万円(頭金+諸費用)、年間キャッシュフロー150万円が20年間続き、20年後に物件を5,000万円で売却すると仮定します。割引率を5%とした場合、ExcelでNPVを計算すると約2,870万円となり、初期投資3,000万円を下回るためNPVはマイナス130万円となります。これは、この投資が期待利回り5%を下回ることを意味します。一方、割引率を3%で計算するとNPVはプラスになり、投資判断は変わります。
IRRは、NPVをゼロにする割引率のことで、その投資の実質的な利回りを表します。ExcelのIRR関数を使って計算します。先ほどの例でIRRを計算すると約4.2%となり、これがこの投資の実質利回りということになります。銀行預金や他の投資商品と比較して、IRRが十分に高ければ投資価値があると判断できます。イエウール土地活用では、このNPV・IRRを使った投資判断手法が詳しく解説されており、実際のExcel実装例も示されています。
無料Excelテンプレートの活用法
ここまで解説してきた収支シミュレーションを自分で一から作るのは大変です。そこで活用したいのが、無料で公開されているExcelテンプレートです。不動産AI研究所(TSON)では、会員登録することで「収支シミュレーションに使うエクセルシート」を無料でダウンロードできます。このシートには、基本的な収支計算だけでなく、複数年のキャッシュフロー推移、グラフ表示、シナリオ分析機能などが実装されています。
また、不動産投資連合隊が公開している「簡易収支シミュレーション(利回り計算)」のExcelファイルも初心者に分かりやすい設計になっています。このテンプレートでは、青色のセルに必要な