不動産の税金

不動産収支表エクセル無料|一棟アパート実践ガイド

不動産の収支表をエクセルで作る意味とは

一棟アパートへの投資を検討するとき、物件価格や表面利回りだけで判断すると、思わぬ落とし穴にはまることがあります。実際に手元へ残るお金を正しく把握するには、収支表をエクセルで作り込むことが欠かせません。エクセルであれば、家賃や金利、空室率といった条件を変えるだけで、キャッシュフローがどう動くかを瞬時に確認できます。

収支シミュレーションには大きく三つの役割があります。まず購入前の投資判断です。数値で客観的に評価することで、感覚だけに頼らない冷静な意思決定ができます。次に金融機関への融資申請時の裏付け資料です。返済計画の妥当性を示すことで、審査を有利に進めやすくなります。そして購入後の運営管理と確定申告の準備です。国税庁の帳簿記帳の手引きでも、不動産所得の経費は給料賃金、減価償却費、地代家賃、借入金利子、その他の経費といった区分で記録するよう定められており、最初から適切な項目立てで管理しておくと申告作業がぐっと楽になります。

エクセルの強みは、なんといっても感度分析にあります。空室率が10%から20%に上がったら収支はどう変わるのか、金利が0.5%上昇したらキャッシュフローはマイナスに転じるのか。こうした問いに即座に答えを出せるのがエクセルです。まずは自分で作る前に、無料で使えるテンプレートを知っておくと、作業の出発点がはっきりします。

無料で入手できるエクセルテンプレート

収支表を一から作るのは大変なので、無料テンプレートの活用から始めるのが現実的です。代表的なものとして、bizoceanが公開している「収益試算表(不動産賃貸)」があります。ファイル形式はエクセルで価格は無料ですが、ダウンロードには会員登録が必要になっています。基本的な収益試算の枠組みが整っているため、初めての方でも項目を埋めていく感覚で使えます。

より投資分析に踏み込んだテンプレートを求めるなら、不動産投資会社のTSONが配布しているエクセルが参考になります。こちらはメール会員またはLINE登録をした方に無料で送られる仕組みです。具体例として、木造8戸・物件価格1億1,480万円・借入9,000万円・金利1.40%・借入期間30年・固定資産税245,209円・年間賃料601万2,000円といった入力値でシミュレーションを組み立てており、実際の数字の入れ方をイメージしやすくなっています。

金融機関系では、みずほ不動産販売がウェブ上で使える運用シミュレーターを公開しています。こちらはエクセルではありませんが、初期値の設計思想が参考になります。賃料変動率を「5年経過後、2年ごとに3%下落」と置き、建物管理費を実質賃料の5%、修繕費等の予備経費を同じく5%で設定しているのが特徴です。こうした大手の初期値は、自作のエクセルで前提を決める際の目安として役立ちます。

収入項目のとらえ方と家賃下落の織り込み

一棟アパートの収入の柱は、いうまでもなく家賃収入です。ただし満室を前提にした計算は危険で、必ず空室率を織り込む必要があります。TSONの解説では、まず入居率を100%で計算し、その後に徐々に下げていって、どの程度のストレスまで耐えられるかを確認するやり方が実務的だとされています。まず理想値を出し、そこから現実的な水準へ落とし込む流れを覚えておくとよいでしょう。

家賃設定を行うときは、周辺の類似物件を複数調べ、同じエリア・間取り・築年数帯の相場を把握することが基本です。さらに重要なのが、時間の経過による家賃下落を計画に組み込むことです。前述のみずほ不動産販売の初期値のように、一定期間経過後に段階的な下落を見込んでおくと、将来の収入減を見落とさずに済みます。新築時の家賃がずっと続くという前提は、長期のシミュレーションでは通用しません。

家賃以外の収入としては、礼金や更新料、駐車場・駐輪場の収入があります。これらは毎月発生するとは限らないため、年間平均額に換算してエクセルに組み込みます。とくに地方物件では駐車場需要が高く、月額数千円から1万円程度の収入が積み重なると、年間では無視できない金額になります。細かい収入項目も漏れなく計上することが、正確な収支把握につながります。

支出項目を国税庁の区分に沿って整理する

一棟アパートは共用部分もすべて自己負担になるため、区分マンションより支出項目が多くなります。エクセルの費目名を決めるときは、国税庁の帳簿記帳の手引きに沿って整理しておくと、そのまま確定申告に活かせます。手引きの記載例には、貸家の壁塗り替えなどの修繕費、地代、管理手数料といった経費行が登場するため、これらをそのまま行名として使うと迷いがありません。

最も大きな支出はローン返済です。返済に含まれる元金と利息はエクセルのPMT関数で計算できますが、税金や手数料は別の行に置く必要があります。次に管理委託料で、TSONは運営経費を一律固定ではなく、地域事情を踏まえて6%から10%のレンジで動かして見ることを勧めています。空室が出れば手取り家賃も下がるため、率で連動させておくと現実に近い数字になります。

税金も忘れてはならない項目です。国税庁の資料では、不動産賃貸にかかる税金として固定資産税のほか、不動産取得税、登録免許税、印紙税などが挙げられています。固定資産税と都市計画税は毎年課税されるため収支表の固定行に、取得時だけかかる税金は初期費用として分けて扱うのが整理のコツです。加えて、火災保険料や退去時の原状回復費用、設備の交換費用なども見落としやすい支出として、あらかじめ積立の考え方で計上しておくと安心です。

固定資産税は住宅用地特例を必ず反映する

固定資産税を単純に評価額の1.4%、都市計画税を0.3%で計算するだけでは、一棟アパートでは実態より高い税額になってしまいます。ポイントは住宅用地の特例です。金沢市の公式サイトの説明によると、小規模住宅用地では固定資産税が価格の6分の1、都市計画税が価格の3分の1に軽減されます。この軽減を土地部分に反映しないと、収支が過度に厳しく見えてしまいます。

さらに重要なのが、アパートやマンションの場合の判定基準です。同資料では、共同住宅の小規模住宅用地は「戸数×200平方メートル以下の部分」で判定するとされています。つまり6戸のアパートなら1,200平方メートルまでが小規模住宅用地の対象になり得るということです。一棟物件では土地面積が大きくなりがちなので、この戸数換算を知っているかどうかで税額の見積もりが大きく変わります。

PMT・CUMIPMT・XIRR関数の実装

「エクセルで」収支表を作る以上、関数の使い方まで押さえておきたいところです。まずローン返済額はPMT関数で算出します。マイクロソフトの公式説明によれば、PMTは一定利率で定期的に支払う場合のローン返済額を返す関数です。月次返済で組むなら、公式の解説にあるとおり年利を12で割り、期間を年数×12にそろえます。たとえば「=PMT(金利/12, 返済年数*12, -借入金額)」と入力すれば、月々の返済額が求められます。

返済のうち利息がいくらかを知りたいときはCUMIPMT関数が便利です。公式説明では、指定した期間内に支払われる利息の累計を返す関数とされており、初年度の利息や最初の5年間の利息合計をまとめて把握できます。利息部分は経費になる一方、元金返済は経費にならないため、この区別は税務シミュレーションでも役立ちます。

投資全体の利回りを評価するにはIRRですが、購入日・売却日・修繕時期のように日付が不定期なキャッシュフローには、XIRR関数の方が適しています。公式説明によると、XIRRは定期的でないキャッシュフローに対する内部利益率を返す関数です。ただし計算するには、キャッシュフローに正の値と負の値が少なくとも1つずつ含まれている必要があります。初期投資をマイナス、家賃収入や売却代金をプラスとして日付とともに並べれば、実質的な利回りを求められます。

楽観・現状維持・悲観の3シナリオで作る

収支計画は単一の前提だけで作ると、想定外の事態に弱くなります。北信不動産の解説でも「一つのシナリオだけでは不十分」と指摘されており、楽観シナリオ・現状維持シナリオ・悲観シナリオという3つを想定する考え方が示されています。入居率、家賃下落率、金利という主要な変数を、それぞれのシナリオで少しずつ動かして比較するわけです。

エクセルでこれを実装するには、What-If分析ツールを使います。マイクロソフト公式によると、エクセルにはシナリオ、ゴールシーク、データテーブルという3種類のWhat-If分析ツールがあります。空室率と金利のように変数が1つか2つならデータテーブルが向いており、家賃・空室・金利・経費率など複数の変数を同時に動かしたいときはシナリオ機能が適しています。悲観シナリオでもキャッシュフローが破綻しない物件を選ぶことが、リスク管理の基本になります。

TSONの解説では、売却まで含めた分析も推奨されています。売却時の表面利回りを購入時より1%から2%上げたケースまで見ておくと、出口の売却価格がどこまで下がり得るかを把握できます。保有中のキャッシュフローだけでなく、売却も含めた通算収支で判断する視点を持つことが大切です。

NOIとDSCRで融資の通りやすさを測る

金融機関が融資審査で重視する指標に、NOIとDSCRがあります。NOIは営業純利益のことで、みずほ不動産販売は「実質賃料収入−経費(固定資産税、管理費、予備費など)」と定義しています。ローン返済を差し引く前の、物件そのものが生み出す利益と考えると分かりやすいでしょう。

このNOIを使って計算するのがDSCR(債務返済カバー率)です。DSCRは「NOI÷年間返済額」で求められ、たとえばNOIが120万円で年間返済額が100万円なら、DSCRは1.2になります。この数値が大きいほど返済に余裕があることを意味し、金融機関の融資判断では一定の水準が目安とされています。1.0を下回ると、家賃収入だけでは返済をまかなえない状態です。

DSCRを改善するには、NOIを増やすかローン返済額を減らす必要があります。NOIを増やすには家賃を上げる、空室率を下げる、経費を抑えるといった手があり、返済額を減らすには頭金を増やす、金利の低い融資を選ぶといった方法があります。エクセルにDSCRの計算式を組み込んでおけば、条件を変えたときに返済余力がどう動くかを即座に確認できます。

減価償却は土地と建物を分けて計算する

不動産投資では、減価償却費の計上によって税務上の所得を圧縮できます。ここで最初に押さえるべきは、国税庁が明記しているとおり「土地や骨とう品などのように時の経過により価値が減少しない資産は、減価償却資産ではない」という点です。したがって収支表では、取得価格を土地と建物に分け、建物側だけを償却の対象にする必要があります。

建物の耐用年数は構造によって決まっています。国税庁の耐用年数表では、木造・住宅用の建物は22年、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の住宅用は47年とされています。金属造(鉄骨造)の住宅用は骨格材の肉厚で分かれ、4ミリを超えるものは34年、3ミリを超え4ミリ以下は27年、3ミリ以下は19年です。中古物件では残存耐用年数が短くなるため、年間の償却費は大きくなる一方、償却できる期間は短くなります。

減価償却の対象になるのは、国税庁の資料によれば賃貸している建物のほか、建物附属設備や構築物です。給排水設備や電気設備などを建物本体と分けて計上すると、より実態に近い償却計算ができます。減価償却費は現金支出を伴わない経費なので、帳簿上は赤字でも手元にキャッシュが残るという状況が生まれます。この効果と、売却時に取得費から差し引かれる影響の両面をエクセルに織り込んでおくと、税引後のキャッシュフローを長期で見通せます。

実数サンプルで収支表を組み立てる

具体的なイメージをつかむため、TSONが示す入力値を土台に考えてみましょう。木造8戸・物件価格1億1,480万円・借入9,000万円・金利1.40%・借入期間30年というケースです。年間賃料601万2,000円を満室想定とし、まず入居率100%で計算してから、90%、85%と下げていって耐性を確認します。運営経費は地域事情を踏まえて6%から10%のレンジで動かし、固定資産税245,209円は住宅用地特例を反映した水準として固定行に置きます。

返済額はPMT関数で「=PMT(0.014/12, 30*12, -90000000)」と入力すれば月々の金額が出ます。この返済額と運営経費を賃料から差し引いた残りが、手元のキャッシュフローです。さらにNOIを算出してDSCRを確認し、返済余力が十分であるかどうかを見ます。木造のため建物部分は22年で償却し、その効果を税引後キャッシュフローに反映させれば、表面利回りだけでは見えない本当の収益力が浮かび上がります。

なお、本記事で示した空室率や家賃下落率、保険料や原状回復費などのレンジは、あくまで計画を立てる際の前提値です。実際の数値は物件の立地や築年数、金融機関の条件によって大きく異なります。制度や税率の最新情報については、国税庁や各自治体の公式サイトで必ず確認するようにしてください。まずは無料テンプレートで土台を作り、自分の物件の実数に置き換えながら、複数シナリオで検証を重ねることが、失敗しない投資判断への近道です。

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