不動産投資に興味はあっても、数千万円もの自己資金を準備するのは簡単ではありません。そんな悩みを持つ方に、新しい選択肢として広がりつつあるのが不動産セキュリティトークンです。案件によっては10万円程度から始められ、まとまった資金がなくても不動産投資に参加できる点が個人投資家の関心を集めています。
この記事では、2026年8月時点で確認できるデータをもとに、不動産セキュリティトークンの利回り相場から仕組み、税金、リスクまでを整理します。まず結論からお伝えすると、利回りの中心は年率3〜4%程度で、案件によっては5%を超えるものもあります。ただし高利回り案件には条件の違いがあるため、その中身を丁寧に読み解くことが大切です。
まず結論|不動産セキュリティトークンの利回り相場
最初に多くの方が知りたい「結局、利回りは何%なのか」に答えます。野村證券の解説によると、これまで国内で販売された不動産セキュリティトークンでは、第1期の予想分配金利回り(年率換算・税引前)は3.0%から4.0%程度のものが多いとされています。賃料収入を主な原資とする安定運用型の商品が中心であることが、この水準に反映されています。
一方で、ホテルやレジデンスなど収益変動のある物件を対象とした案件では、想定利回りが5%を超えるものも見られます。ただし高い数字がそのまま有利さを意味するわけではありません。表示された利回りが税引前か税引後か、元本の一部払戻しを含むかどうか、運用期間はどれくらいか、これらの条件によって実際の収益性は大きく変わります。数字の大小だけでなく、その中身を必ず確認する姿勢が欠かせません。
比較の目安として、日本銀行は2026年7月31日会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.5%程度で推移するよう促す方針を決定しています。銀行預金の金利と比べれば不動産セキュリティトークンの3〜4%は魅力的ですが、後述するようにJ-REITと比べると必ずしも高いわけではありません。位置づけを冷静に捉えることが判断の第一歩です。
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不動産セキュリティトークンとは何か
セキュリティトークンとは、不動産や株式などの有価証券をブロックチェーン技術でデジタル化したものです。難しく聞こえますが、要するに「デジタル化された不動産の権利」と考えると分かりやすいでしょう。従来の証券と同じく金融商品取引法の枠組みで扱われながら、デジタル資産としての利便性も兼ね備えている点が特徴です。
不動産投資の文脈では、一棟のマンションやオフィスビル、ホテルなどを小口化し、それをトークンという形で発行します。投資家はこのトークンを購入することで、その不動産から生じる収益を受け取る権利を持ちます。野村證券の解説では、不動産セキュリティトークンは現物不動産やJ-REITとも異なる「第3の選択肢」として位置づけられています。資金面で諦めていた方にとって、不動産投資への入口が広がったといえるでしょう。
ブロックチェーンを使うことで、取引履歴が改ざんされにくい形で記録され、所有権の管理も明確になります。発行や運営を担う事業者は金融商品取引業の登録が必要で、情報開示の義務も課されています。新しい技術を用いながらも、従来の金融商品と同等の投資家保護の枠組みのなかで運用されている点は安心材料といえます。なお、証券化された権利そのものを指す言葉がST、その発行を通じた資金調達をSTOと呼ぶ点も押さえておくとよいでしょう。
利回りの「見方」を理解する
不動産セキュリティトークンの利回りを正しく読むには、いくつかの前提を理解しておく必要があります。ポイントは、多くの案件が「第1期の予想分配金利回り」を年率換算・税引前で示している点です。第1期の数字と運用期間全体の実績は一致するとは限らず、あくまで一定の前提のもとで算出された予測値である点を忘れてはいけません。
分配の頻度も基本情報として重要です。野村證券によると、不動産セキュリティトークンの分配金は基本的に半年に1度支払われる形が多いとされています。年に一度まとめて受け取るわけではないため、利回りだけでなく分配のタイミングも把握しておくと資金計画が立てやすくなります。
さらに注意したいのが、利回りの計算に元本の一部払戻しが含まれる場合があることです。ASTOMOで案内された案件では、第一期の税引前予想分配金利回りが年率3.0%とされ、その計算には元本の一部払戻しが含まれると説明されています。つまり、表示された利回りのすべてが純粋な収益とは限りません。また、手数料の扱いも案件ごとに異なり、想定利回りを手数料控除後で示す商品もあれば、控除前で表示する商品もあります。複数の案件を比べるときは、同じ条件に揃えて検討する意識が求められます。
実際の案件で見る利回りの幅
具体的な案件を見ると、利回りの幅がよりはっきりします。野村證券の過去の募集実績ベースでは、不動産セキュリティトークンの予想分配金利回りは年率3.0%〜4.5%、税引き後では2.4%〜3.6%、最低投資単位は100万円から1口という案内が確認できます。大手金融機関が手がける都心・大都市の物件では、安定性を重視した3%前後が一つの目安といえるでしょう。
用途によっては、より高い利回りを提示する案件もあります。ケネディクス・リアルティ・トークンの案件では、複数口数の運用で予想分配金利回りが5%台とされているものもあります。同じケネディクスでもW OSAKA案件は投資金額10万円から、予想年間分配金2,500円、予想利回り2.5%と、商品ごとに条件が大きく異なります。この幅は、対象不動産の用途やリスクの違いをそのまま映し出しているのです。
少額から投資できる案件も増えています。デジタル証券「renga」の案件一覧では、静鉄ホテルプレジオ京都烏丸御池が想定利回り年6.5%・運用期間3年・10万円から、南青山のレジデンスが年4.0%・3年・10万円から、北品川のレジデンスが年5.5%・5年・10万円からと、用途と利回りの関係が分かりやすく並んでいます。renga第1号の北品川レジデンスは発行総額14.25億円・運用期間5年で、想定平均分配金利回りは運用報酬や販売報酬等を控除した後の数字と説明されている点が特徴です。
業績が改善しても分配金が増えるとは限らない点も理解しておきましょう。KJRM・リアルティ・トークン汐留シティセンターは1口当たり基準価格10万円で、第1期にNOI(純営業収益)が当初予想比122.6%増、当期純利益が69.7%増へ上方修正されました。それでも1口当たり分配金882円・年換算1.5%は据え置かれています。これは元本の一部払戻し額を減らし、安定運営を優先した結果であり、業績と分配金の関係が単純ではないことを示す好例です。
J-REIT・現物不動産・株式との違い
不動産セキュリティトークンを検討するなら、似た投資商品との違いを押さえておくと選びやすくなります。まず利回りの面では、J-REITの平均予想分配金利回りは直近の時点で一定水準にあるとされており、不動産セキュリティトークンの3〜4%中心という水準との比較を検討する際は、最新の市場データを確認することが重要です。つまり「不動産をデジタル化した新しい商品だから利回りが高い」というわけではありません。
では何が違うのかというと、投資対象の見え方と値動きの性質です。J-REITは複数の物件を束ねたファンドに投資する形で、市場で日々価格が変動し、いつでも売買できる高い流動性を備えています。一方、不動産セキュリティトークンは特定の一棟や特定物件に投資する性格が強く、どの物件に投資しているかが明確です。個別物件を自分で選びたい人にとっては、この点が魅力になります。
現物不動産と比べると、投資単位の小ささと管理の手軽さが際立ちます。現物では数千万円の資金とローン、入居者対応や修繕といった手間が伴いますが、不動産セキュリティトークンなら10万円前後から始められ、実務は運用会社が担います。大和総研の整理でも、不動産セキュリティトークンはJ-REITと現物不動産の中間的な位置づけと説明されています。手軽さと個別物件性を両立できる点が、この商品ならではの立ち位置といえます。
知っておくべきリスクと注意点
魅力の裏側にあるリスクも、しっかり理解しておく必要があります。最も重要なのは元本保証がないことです。銀行預金とは異なり、不動産市況の悪化や空室率の上昇によって投資額を下回る可能性があります。各社の案内でも利回りは「予想」と明記されており、賃料や費用、金利の変動によって上下する点を前提に考えるべきです。
流動性リスクも見逃せません。野村證券の注意事項では、不動産セキュリティトークンの流動性は限られており、売却の機会は保証されておらず、譲渡制限が付されている場合があると明記されています。多くの案件は数年単位の運用期間が設定され、その間は基本的に資金が拘束されます。一方で二次流通の受け皿も整いつつあり、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が運営するSTARTでは、取扱いを承認した不動産セキュリティトークンを取引でき、過去の約定価格を日報や月報で確認できます。それでも、いつでも希望価格ですぐ売れる保証はないと考えておくべきでしょう。
デジタル資産ならではのリスクも押さえておきたいところです。日本STO協会は、一般的な価格変動リスクや信用リスクに加えて、秘密鍵の流出リスクやシステム障害リスクを投資家向けに示しています。ブロックチェーン上で権利が管理される以上、システムやセキュリティに起因するトラブルの可能性はゼロではありません。従来の不動産投資では意識しにくかった観点として、頭の片隅に置いておきましょう。
不動産セキュリティトークンの税金
税金は検索ニーズも高い重要なテーマです。基本的な考え方として、国税庁は上場株式等の利子等・配当等について20.315%の税率を示しています。不動産セキュリティトークンの分配金や売却益の課税も、こうした金融商品の枠組みに沿って扱われるのが一般的ですが、商品のスキームによって取り扱いが異なる場合があります。
とくに注意したいのが、元本の一部払戻しを伴う商品です。国税庁の資料によると、令和8年4月1日以後に行われる特定受益証券発行信託の元本払戻しについて、譲渡損益の計算に「元本減少割合」を用いる見直しが行われます。具体的には、譲渡原価を帳簿価額に元本減少割合を乗じて計算する方法へ改められる内容です。不動産セキュリティトークンには元本払戻しを伴う商品もあるため、税務上の取り扱いがどう変わるかは把握しておく価値があります。
もっとも、個別の課税関係は各人の状況や商品スキームによって異なります。最新の制度情報は国税庁など公的機関の公式サイトで確認し、判断に迷う場合は税理士に相談することをおすすめします。表示された利回りに対して実際に手元に残る金額は税引後で考える習慣をつけると、より現実的な資産計画を立てられます。
2026年の市場環境と背景
利回りの水準を理解するうえで、市場全体の背景を知っておくと納得感が増します。国土交通省の不動産証券化実態調査では、2024年度末時点の証券化対象不動産の資産総額は約66.6兆円とされています。不動産セキュリティトークンは、この大きな証券化市場のなかではまだ新しく小さな存在ですが、着実に選択肢の一つとして育ちつつあります。
地価の動向も追い風です。国土交通省の地価公示では、全国の地価は安定的な上昇傾向を示しており、地価が底堅い環境は不動産を裏付けとする投資商品にとって基盤となる要素です。なお、不動産価格指数については、2026年8月時点で確認できる最新公表値は2025年12月分・2025年第4四半期分(2026年3月31日公表)となっており、最新データを参照する際は公表時期の確認が必要です。
こうした地価上昇の一方で、金利は緩やかに上向いています。日本銀行は2026年7月31日会合で無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.5%程度で推移するよう促す方針を決定しています。物件から得られる賃料収入に対して調達コストが上がれば、分配可能な利益は圧迫されやすくなります。3〜4%という利回りの中心水準は、地価の底堅さと金利上昇という二つの力のバランスのうえに成り立っていると理解すると、数字の意味がより立体的に見えてきます。
失敗しない選び方とFAQ
商品選びで大切なのは、運用会社や発行体の信頼性、対象不動産の質、利回りの中身、そして自分の資金計画との整合性を一つずつ確認することです。都心のオフィスは利回りが3%前後でも空室リスクが小さく安定的で、ホテルやレジデンスは高利回りでも収益変動が大きい傾向があります。運用期間は5年前後の案件が多く、その間は原則として資金が拘束されるため、生活資金ではなく余裕資金で投資するのが鉄則です。
最後に、よくある疑問に簡潔に答えます。利回り相場は年3〜4%が中心で、5%超の案件もありますが、その場合は物件タイプのリスクや元本払戻しの有無を必ず確認しましょう。J-REITと比べた利回りの相対的な位置づけについては、最新の市場データで確認することが重要で、個別物件を選びたいか流動性を重視するかで向き不向きが分かれます。途中売却はSTARTなどの二次流通で可能な場合もありますが、希望価格ですぐ売れる保証はありません。すぐ換金したい人には不向きで、余裕資金で個別物件に投資したい人に向いた商品といえます。
まとめ
不動産セキュリティトークンは、2026年時点で年率3〜4%を中心としつつ、案件によっては5%を超える利回りも提示される新しい投資手法です。少額から始められ、分散投資がしやすく、管理の手間がかからない一方で、元本保証がないこと、流動性が限られること、手数料や元本払戻しが利回り表示に影響することなど、理解すべき点も少なくありません。
成功のカギは、表示された数字だけでなくその背景まで読み解くことにあります。まずは余裕資金の範囲で少額から始め、仕組みや特性を実際に体験しながら、徐々に知識と経験を積み重ねていくとよいでしょう。投資は自己責任が原則です。最新の制度や各案件の条件は必ず公式サイトで確認し、必要に応じて専門家に相談しながら、自分のリスク許容度に合った判断を心がけてください。
参考文献・出典
- 野村證券 – 不動産STとは? https://www.nomura.co.jp/sto/about/
- 野村證券 – 不動産投資の「第3の選択肢」 https://www.nomura.co.jp/wealthstyle/article/0633/
- 野村證券 – 不動産セキュリティ・トークン 取扱実績 https://www.nomura.co.jp/sto/archive/index.html
- ケネディクス・リアルティ・トークン W OSAKA https://www.kdx-sto.com/funds/015_w-osaka
- KJRM・リアルティ・トークン 汐留シティセンター https://www.kjrm-sto.com/fund_001/
- デジタル証券「renga」ファンド一覧 https://renga.digitalsecurities.jp/fund/
- 大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)よくあるご質問 https://www.odx.co.jp/st/ja/questions/
- 国税庁 – 所得税法等の一部を改正する法律(令和8年度税制改正関係)関連資料 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/0025005-010.pdf
- 国税庁 – 暮らしの税情報 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/04_5.htm
- 国土交通省 – 不動産証券化の実態調査 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001898183.pdf
- 国土交通省 – 地価公示関連資料 https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/002001353.pdf
- 国土交通省 – 不動産価格指数 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000085.html
- 日本銀行 – 金融政策決定会合 https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/state_2025/k250731a.htm