不動産投資で法人を設立している方、またはこれから法人化を検討している方にとって、2026年10月に予定されている社会保険の適用拡大は見逃せない重要な制度変更です。従業員が少ない小規模な不動産法人でも社会保険への加入義務が生じる可能性があり、経営コストや資金計画に大きな影響を与えます。この記事では、社会保険適用拡大の具体的な内容と不動産法人への影響、そして今から準備すべき対策について、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。制度変更に備えて早めに準備を始めることで、安定した不動産経営を続けることができます。
2026年社会保険適用拡大とは何か

社会保険適用拡大とは、これまで社会保険への加入義務がなかった小規模な企業や短時間労働者にも、健康保険と厚生年金保険への加入を義務付ける制度改正のことです。2016年から段階的に進められてきたこの改革は、2026年10月にさらに大きな変更を迎えます。
現在、社会保険への加入義務があるのは従業員数51人以上の企業ですが、2026年10月からはこの基準が撤廃される予定です。つまり、従業員が1人でもいる法人であれば、一定の条件を満たす従業員を社会保険に加入させる義務が生じることになります。これは不動産法人にとって非常に大きな変化といえるでしょう。
厚生労働省の調査によると、現在社会保険に加入していない短時間労働者は約125万人いるとされています。この中には不動産管理会社や賃貸業を営む法人で働くパートタイム従業員も多く含まれており、2026年の制度変更で新たに加入対象となる可能性が高いのです。
社会保険適用拡大の背景には、働き方の多様化と社会保障制度の持続可能性という2つの大きな課題があります。パートタイムやアルバイトといった短時間労働者も、正社員と同様に社会保険の保護を受けられるようにすることで、より公平で安定した社会保障制度を目指しているのです。
不動産法人が対象となる具体的な条件

不動産法人で働く従業員が社会保険の加入対象となるには、いくつかの条件があります。まず押さえておきたいのは、すべての従業員が対象になるわけではないという点です。
加入対象となるのは、週の所定労働時間が20時間以上の従業員です。これは1日4時間、週5日勤務といった働き方が該当します。不動産管理業務で清掃スタッフや受付スタッフを雇用している場合、この条件に当てはまるケースが多いでしょう。
次に重要なのが月額賃金の基準です。月額8万8000円以上(年収約106万円以上)の従業員が対象となります。この金額には残業代や賞与、通勤手当は含まれず、基本給と諸手当のみで判断されます。したがって、時給1100円で週20時間働く従業員であれば、月額8万8000円を超えるため加入対象となる計算です。
さらに、雇用期間が2カ月を超える見込みがあることも条件の一つです。短期のアルバイトや臨時雇用は対象外となりますが、継続的に雇用している従業員は基本的に対象となると考えてよいでしょう。
学生は原則として適用除外となりますが、夜間学生や通信制の学生は対象となる場合があります。不動産法人で学生アルバイトを雇用している場合は、個別に確認が必要です。
これらの条件をすべて満たす従業員がいる場合、法人の規模に関わらず社会保険への加入手続きが必要になります。従業員が家族だけの場合でも、上記の条件を満たせば加入義務が生じる点に注意が必要です。
不動産法人の経営コストへの影響
社会保険適用拡大によって、不動産法人の経営コストは確実に増加します。具体的にどの程度の負担増となるのか、数字で見ていきましょう。
社会保険料は従業員と会社が折半して負担します。健康保険料と厚生年金保険料を合わせると、標準報酬月額に対して約30%の保険料が発生し、このうち会社負担分は約15%となります。月額10万円の給与を支払っている従業員の場合、会社負担分は月額約1万5000円、年間で約18万円のコスト増となる計算です。
複数の従業員を雇用している不動産法人では、この影響はさらに大きくなります。たとえば月額10万円の従業員を3人雇用している場合、年間の社会保険料負担は約54万円に達します。これは小規模な不動産法人にとって決して小さくない金額といえるでしょう。
国土交通省の調査によると、賃貸住宅管理業を営む企業の約60%が従業員10人未満の小規模事業者です。これらの事業者にとって、社会保険料の負担増は収益性に直接影響を与える重要な問題となります。
一方で、社会保険への加入は従業員にとってメリットもあります。将来受け取れる年金額が増えるほか、傷病手当金や出産手当金といった給付も受けられるようになります。優秀な人材を確保し定着させるという観点では、社会保険完備は大きなアピールポイントになるのです。
経営者としては、短期的なコスト増だけでなく、長期的な人材戦略も含めて社会保険適用拡大を捉える必要があります。従業員の満足度向上と離職率低下につながれば、結果的に採用コストや教育コストの削減にもつながるでしょう。
不動産法人が今すぐ始めるべき準備
2026年10月の制度施行まで時間があるように思えますが、準備は早めに始めることが重要です。まず取り組むべきは、現在雇用している従業員の労働条件を正確に把握することです。
従業員ごとに週の所定労働時間、月額賃金、雇用期間を一覧表にまとめましょう。これにより、誰が新たに社会保険の加入対象となるのかが明確になります。家族従業員も含めて、すべての雇用者について確認することが大切です。
次に、社会保険料負担増を織り込んだ収支シミュレーションを作成します。現在の収益構造で社会保険料を負担した場合、キャッシュフローにどの程度の影響があるのかを数値で確認しましょう。必要に応じて、家賃収入の見直しや経費削減の検討も必要になります。
資金繰りの準備も欠かせません。社会保険料は毎月の支払いが必要となるため、安定したキャッシュフローを確保する必要があります。予備資金として、少なくとも3カ月分の社会保険料相当額を確保しておくと安心です。
従業員とのコミュニケーションも重要なポイントです。制度変更の内容と会社の方針について、早めに説明の機会を設けましょう。社会保険加入によるメリットを丁寧に説明することで、従業員の理解と協力を得やすくなります。
社会保険労務士など専門家への相談も検討してください。加入手続きの方法や必要書類の準備、労働条件の見直しなど、専門的なアドバイスを受けることで、スムーズな対応が可能になります。初回相談は無料で受け付けている社労士事務所も多いため、まずは気軽に相談してみるとよいでしょう。
法人化のメリット・デメリットを再検討する
社会保険適用拡大を機に、そもそも不動産投資で法人化を続けるべきかどうか、改めて検討する価値があります。法人化には税制面でのメリットがある一方、社会保険料負担というデメリットも大きくなるからです。
法人化の最大のメリットは所得税と法人税の税率差を活用できる点です。個人の所得税は累進課税で最高税率45%に達しますが、法人税の実効税率は約30%程度です。不動産所得が年間800万円を超える場合、法人化によって税負担を軽減できる可能性が高くなります。
また、法人では経費として認められる範囲が個人より広いという利点もあります。家族への給与支払いや退職金の準備、生命保険料の損金算入など、節税の選択肢が増えます。相続対策としても、法人化は有効な手段の一つです。
一方で、社会保険適用拡大によって法人化のコストは確実に上昇します。従業員を雇用している場合はもちろん、経営者自身も役員報酬を受け取れば社会保険への加入義務が生じます。役員報酬が月額20万円の場合、社会保険料の会社負担分は年間約36万円となり、これは無視できない金額です。
法人の維持コストも考慮する必要があります。税理士への顧問料、法人住民税の均等割(最低年間7万円)、決算申告費用など、年間で数十万円のコストが発生します。これらのコストと社会保険料負担を合わせると、小規模な不動産法人では税制メリットを上回る可能性もあるのです。
日本不動産研究所の調査では、不動産所得が年間1000万円未満の場合、個人事業のままの方が有利なケースが多いとされています。ただし、これは社会保険適用拡大前のデータであり、2026年以降はこの基準がさらに上がる可能性があります。
法人化を続けるか個人に戻るかの判断は、税理士などの専門家に相談しながら、総合的に検討することをお勧めします。将来の事業拡大計画や相続対策なども含めて、長期的な視点で最適な選択をすることが大切です。
従業員の働き方を見直す選択肢
社会保険料負担を抑えるために、従業員の働き方を見直すという選択肢もあります。ただし、この方法には慎重な検討が必要です。
一つの方法は、週の労働時間を20時間未満に調整することです。たとえば週19時間勤務にすれば、社会保険の加入対象から外れます。しかし、これは従業員の収入減少につながるため、本人の同意と理解が不可欠です。また、業務に支障が出ないよう、複数の従業員で業務を分担するなどの工夫も必要になります。
月額賃金を8万8000円未満に抑えるという方法もありますが、これも従業員の生活に影響を与えます。最低賃金との兼ね合いもあり、実質的には労働時間の調整と同じ効果となるでしょう。
業務委託契約への切り替えを検討する法人もあります。雇用契約ではなく業務委託契約であれば、社会保険の加入義務は生じません。ただし、実態として雇用関係にあると判断されれば、後から社会保険料の遡及徴収を受けるリスクがあります。業務委託契約が適切かどうかは、業務の指揮命令関係や時間的拘束の有無など、複数の要素から総合的に判断されます。
厚生労働省は、社会保険の適用を逃れるための不適切な労働条件変更について、監督を強化する方針を示しています。形式的に労働時間を調整しただけで、実態として以前と変わらない働き方をさせている場合、法令違反と判断される可能性があります。
むしろ、社会保険加入を前提として、業務の効率化や生産性向上に取り組む方が建設的です。ITツールの導入による業務の自動化、マニュアル整備による作業時間の短縮など、少ない労働時間で同じ成果を上げられる仕組みづくりが重要になります。
従業員との信頼関係を維持しながら、法令を遵守した適切な対応を心がけることが、長期的には不動産法人の安定経営につながるでしょう。
助成金・補助金の活用を検討する
社会保険適用拡大に伴う負担を軽減するため、国や自治体が提供する助成金・補助金の活用も検討する価値があります。2026年度においても、中小企業の社会保険加入を支援する制度が用意される見込みです。
厚生労働省では、社会保険適用拡大に対応する中小企業向けに「キャリアアップ助成金」の特別コースを設けています。短時間労働者の社会保険加入に伴う労働時間延長や賃金引上げを行った場合、一定の助成金が支給される制度です。ただし、この制度は年度ごとに内容が変更される可能性があるため、最新情報を確認することが重要です。
また、業務効率化のための設備投資に対する補助金も活用できます。IT導入補助金などを利用して、不動産管理システムや会計ソフトを導入すれば、少ない人員で効率的な業務運営が可能になります。これにより、社会保険料負担増を吸収できる体制を整えることができるでしょう。
地方自治体によっては、独自の中小企業支援制度を設けているケースもあります。東京都や大阪府など大都市圏では、不動産業を含む中小企業向けの経営支援策が充実しています。所在地の自治体ホームページや商工会議所で情報を確認してみましょう。
助成金・補助金の申請には、事前の計画書作成や事後の実績報告など、一定の手続きが必要です。また、申請期間が限定されていることも多いため、早めの情報収集と準備が欠かせません。社会保険労務士や中小企業診断士などの専門家に相談しながら、活用できる制度を見逃さないようにすることが大切です。
ただし、助成金・補助金はあくまで一時的な支援であり、恒久的な解決策ではありません。根本的には、社会保険料負担を織り込んだ持続可能な経営体制を構築することが重要です。助成金を活用しながら、経営基盤の強化に取り組むという姿勢が求められます。
まとめ
2026年10月に予定されている社会保険適用拡大は、不動産法人の経営に大きな影響を与える制度変更です。従業員数に関わらず、週20時間以上働く月額8万8000円以上の従業員がいる法人は、社会保険への加入義務が生じます。
この変更により、不動産法人の経営コストは確実に増加しますが、早めの準備と適切な対応によって、影響を最小限に抑えることができます。まずは現在の雇用状況を正確に把握し、社会保険料負担を織り込んだ収支シミュレーションを作成しましょう。
法人化のメリット・デメリットを再検討し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることも重要です。従業員との信頼関係を維持しながら、法令を遵守した適切な対応を心がけることが、長期的な安定経営につながります。
社会保険適用拡大は負担増だけでなく、従業員の福利厚生充実という側面もあります。優秀な人材の確保と定着に役立つ制度として前向きに捉え、この機会に経営体制を見直すことで、より強固な不動産法人を築いていきましょう。
制度施行まで時間はありますが、準備は今から始めることが成功の鍵です。一つひとつ着実に対策を進めることで、2026年の制度変更を乗り越え、安定した不動産経営を続けることができるはずです。
参考文献・出典
- 厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」 – https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/
- 厚生労働省「年金制度改正について」 – https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284.html
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大」 – https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/jigyosho-hiho/tekiyo/20150518.html
- 国土交通省「不動産業統計集」 – https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000001.html
- 中小企業庁「中小企業・小規模事業者の人手不足対応事例集」 – https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/koyou/index.html
- 全国社会保険労務士会連合会「社会保険適用拡大への対応」 – https://www.shakaihokenroumushi.jp/
- 日本不動産研究所「不動産投資家調査」 – https://www.reinet.or.jp/