確定申告の時期が近づくと、多くの個人事業主や不動産投資家が頭を悩ませるのが書類の整理です。特に2024年1月から電子帳簿保存法の要件が厳格化され、2026年の確定申告では完全対応が求められるようになりました。「電子データで受け取った請求書をどう保存すればいいの?」「紙で保存していたものはどうなるの?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。この記事では、2026年の確定申告に向けて、電子帳簿保存法への対応方法を基礎から分かりやすく解説します。正しい知識を身につけることで、税務調査にも自信を持って対応でき、日々の経理業務も効率化できるようになります。
電子帳簿保存法とは何か?基本を理解する

電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存するためのルールを定めた法律です。1998年に制定されて以来、何度も改正が重ねられてきましたが、2022年1月の改正で大きな転換点を迎えました。
この法律が定めているのは、主に3つの保存方法です。まず「電子帳簿等保存」は、会計ソフトで作成した帳簿や決算書類を電子データのまま保存する方法です。次に「スキャナ保存」は、紙で受け取った領収書や請求書をスキャンして電子データとして保存する方法を指します。そして最も重要なのが「電子取引データ保存」で、メールやウェブサイトで受け取った請求書などの電子データを、そのまま電子形式で保存することを義務付けています。
2024年1月からは、電子取引データ保存が完全義務化されました。つまり、電子メールで受け取った請求書をプリントアウトして紙で保存するだけでは、法律上認められなくなったのです。国税庁の調査によると、2025年時点で中小事業者の約40%がまだ完全対応できていないという結果が出ており、2026年の確定申告に向けて早急な対応が必要とされています。
この法改正の背景には、社会全体のデジタル化推進があります。政府は2030年までに行政手続きの完全デジタル化を目指しており、税務関係書類の電子化もその一環として位置づけられています。事業者にとっては対応の手間がかかる一方で、書類保管スペースの削減や検索性の向上といったメリットも得られます。
2026年確定申告で求められる具体的な対応

2026年の確定申告では、2025年1月から12月までの取引データが対象となります。この期間中に電子的に授受した取引情報は、すべて電子帳簿保存法の要件に従って保存しなければなりません。
具体的に保存が必要な電子取引データには、さまざまなものが含まれます。メールに添付されたPDF形式の請求書や領収書はもちろん、クラウド会計サービスからダウンロードした取引明細、ECサイトで購入した際の電子領収書、クレジットカード会社から送られてくる利用明細なども対象です。さらに、不動産投資を行っている方であれば、管理会社から送られてくる月次報告書や修繕見積書なども電子データで受け取ることが多いでしょう。
保存方法には明確な要件があります。まず「真実性の確保」として、データの改ざん防止措置が必要です。これはタイムスタンプを付与するか、訂正削除の履歴が残るシステムを使用するか、または訂正削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用することで対応できます。多くの中小事業者は、コストを抑えられる事務処理規程の作成で対応しています。
次に「可視性の確保」として、税務調査の際にすぐに画面表示や印刷ができる状態を保つ必要があります。具体的には、取引年月日、取引金額、取引先名で検索できるようにしておくことが求められます。ファイル名に「20250415_ABC商事_50000円」のように情報を含める方法や、索引簿を作成してExcelで管理する方法が一般的です。
保存期間は原則として7年間です。ただし、欠損金が生じた年度については10年間の保存が必要になります。不動産投資で大規模修繕を行った年などは、この点に特に注意が必要です。
実務で使える電子帳簿保存の方法
実際に電子帳簿保存法に対応するには、いくつかの方法があります。自分の事業規模や予算に合わせて、最適な方法を選ぶことが重要です。
最も手軽なのは、無料または低コストで始められる方法です。Googleドライブやクラウドストレージに専用フォルダを作成し、受け取った電子データを「日付_取引先_金額」という命名規則で保存していきます。同時にExcelで索引簿を作成し、ファイル名、取引日、金額、取引先、保存場所を記録します。この方法なら月額数百円程度のストレージ費用だけで対応できます。
中規模事業者には、会計ソフトの電子帳簿保存機能を活用する方法がおすすめです。freee、マネーフォワード、弥生会計などの主要な会計ソフトは、2026年度版で電子帳簿保存法に完全対応した機能を提供しています。これらのソフトを使えば、電子データのアップロードから検索、保存まで一元管理できます。月額料金は2,000円から5,000円程度で、確定申告機能も含まれているため、トータルでのコストパフォーマンスは高いといえます。
不動産投資を本格的に行っている方や、複数の事業を展開している方には、専用の文書管理システムの導入も検討に値します。これらのシステムは自動的にタイムスタンプを付与し、改ざん防止機能も備えています。初期費用は10万円から30万円程度かかりますが、長期的には業務効率化による時間削減効果が期待できます。
どの方法を選ぶにしても、事務処理規程の作成は必須です。国税庁のウェブサイトでは、中小企業向けのサンプルが公開されており、これをベースに自社の実情に合わせてカスタマイズできます。規程には、電子データの保存責任者、保存方法、検索方法、バックアップ方法などを明記します。
よくある失敗例と対策
電子帳簿保存法への対応で、多くの事業者が陥りやすい失敗があります。これらを事前に知っておくことで、スムーズな対応が可能になります。
最も多い失敗は、電子データを受け取った後にプリントアウトして、元のデータを削除してしまうケースです。2024年以降、この方法は認められません。紙で保存したい場合でも、必ず電子データを要件に従って保存する必要があります。実際に2025年の税務調査では、この点を指摘されて追徴課税を受けた事例が報告されています。
次に多いのが、ファイル名や保存場所の管理が不十分なケースです。「請求書1」「請求書2」といった曖昧なファイル名では、検索要件を満たせません。また、デスクトップやダウンロードフォルダに無造作に保存していると、いざという時に見つけられなくなります。税務調査では、調査官が指定した取引データを速やかに提示できなければ、保存要件を満たしていないと判断される可能性があります。
バックアップを取っていないことも重大な問題です。クラウドストレージを使用していても、アカウントの乗っ取りやサービス終了のリスクはゼロではありません。重要なデータは、異なる場所に複数のバックアップを取ることが推奨されます。外付けハードディスクへの定期的なバックアップや、複数のクラウドサービスの併用などが有効です。
スキャナ保存と電子取引データ保存を混同するケースもよく見られます。紙で受け取った領収書をスキャンする場合は「スキャナ保存」の要件に従い、解像度や色調などの技術的要件を満たす必要があります。一方、最初から電子データで受け取ったものは「電子取引データ保存」の要件に従います。両者は別の規定なので、それぞれの要件を正しく理解することが大切です。
不動産投資家が特に注意すべきポイント
不動産投資を行っている方には、一般的な事業者とは異なる注意点があります。不動産取引特有の書類や取引形態に対応する必要があるためです。
まず、管理会社とのやり取りで発生する電子データの扱いです。月次の賃料入金報告書、修繕費の見積書、工事完了報告書など、管理会社から送られてくる書類の多くが電子化されています。これらはすべて電子帳簿保存法の対象となるため、受け取ったらすぐに適切な方法で保存する必要があります。特に修繕費の見積書は、後日の税務調査で資本的支出か修繕費かを判断する重要な証拠となるため、確実に保存しておくことが重要です。
不動産売買に関する書類も注意が必要です。売買契約書や重要事項説明書は、現在でも紙での交付が一般的ですが、電子契約サービスを利用するケースも増えています。電子契約で締結した場合、そのデータは電子取引データ保存の要件に従って保存しなければなりません。不動産は高額な取引であり、契約書類は長期間保存する必要があるため、確実な保存方法を選ぶことが大切です。
減価償却資産の管理にも影響があります。建物や設備の購入に関する請求書や領収書を電子データで受け取った場合、それらを適切に保存しておかないと、減価償却の根拠を示せなくなる可能性があります。特に大規模修繕を行った際の工事請負契約書や支払証明書は、資本的支出として計上する際の重要な証拠となります。
火災保険や地震保険の証券も、最近は電子化が進んでいます。保険会社から送られてくるPDF形式の保険証券や更新通知は、必要経費として計上する際の証拠書類となるため、確実に保存しておく必要があります。また、保険金を受け取った際の支払通知書も、収入として計上する根拠となる重要な書類です。
複数の物件を所有している場合は、物件ごとにフォルダを分けて管理することをおすすめします。「物件A_2025年度」「物件B_2025年度」といった形でフォルダを作成し、その中に月次報告書、修繕関係書類、保険関係書類などをさらに分類して保存します。この方法なら、確定申告の際に必要な書類をすぐに見つけられます。
税務調査に備えた準備
電子帳簿保存法に対応していても、税務調査の際に適切に対応できなければ意味がありません。日頃から調査を意識した準備をしておくことが重要です。
税務調査では、調査官から特定の取引に関する証拠書類の提示を求められます。このとき、電子データで保存している書類については、速やかに画面表示または印刷できる状態にしておく必要があります。検索機能が正しく機能するか、定期的にテストしておくことが大切です。実際に「2025年4月15日」「ABC商事」「50,000円」といった条件で検索して、該当するデータが正しく表示されるか確認しましょう。
事務処理規程は、単に作成するだけでなく、実際にその通りに運用していることが重要です。規程で定めた保存責任者、保存方法、検索方法が実態と合っているか、定期的に見直します。規程と実態が異なっていると、税務調査で指摘を受ける可能性があります。
バックアップの状態も確認しておくべきポイントです。クラウドストレージに保存しているから安心と思っていても、実際にデータが正しくバックアップされているか、復元できる状態にあるか、定期的にチェックする必要があります。年に1回程度、実際にバックアップからデータを復元する訓練をしておくと、いざという時に慌てずに済みます。
電子データの保存期間も重要なチェックポイントです。原則7年間、欠損金がある場合は10年間の保存が必要ですが、うっかり古いデータを削除してしまうケースがあります。自動削除機能を設定している場合は、保存期間を正しく設定しているか確認しましょう。不動産投資では、物件を売却するまで関連書類を保存しておくことが推奨されます。
調査官への説明資料も準備しておくと良いでしょう。自社の電子帳簿保存の方法を簡潔にまとめた資料を作成し、使用しているシステムやソフト、保存場所、検索方法などを説明できるようにしておきます。これにより、調査がスムーズに進み、調査官からの信頼も得やすくなります。
2026年に向けた準備スケジュール
2026年の確定申告に向けて、今から計画的に準備を進めることが重要です。段階的に対応することで、無理なく電子帳簿保存法に対応できます。
まず現在から2025年6月までの期間は、基盤整備の時期と位置づけます。この期間に、保存方法の選定、必要なシステムやソフトの導入、事務処理規程の作成を完了させます。会計ソフトを使用する場合は、この時期に導入して操作に慣れておくことが大切です。無料トライアル期間を活用して、複数のソフトを比較検討することもおすすめです。
2025年7月から9月は、運用テストの期間です。実際に電子データを受け取ったら、決めた方法で保存し、検索できるか確認します。この期間に問題点を洗い出し、必要に応じて方法を修正します。特にファイル命名規則や索引簿の作成方法が実務に合っているか、実際に運用しながら確認することが重要です。
2025年10月から12月は、本格運用の開始時期です。この時期には、すべての電子取引データを確実に保存できる体制が整っているはずです。年末に向けて取引が増える時期でもあるため、忙しい中でも確実に対応できるよう、業務フローを確立しておきます。
2026年1月から3月は、確定申告の準備期間です。保存した電子データを確認しながら、確定申告書類を作成します。この時期に初めて1年分のデータを見返すことになるため、保存方法に問題がなかったか、改善点はないか振り返る良い機会となります。
確定申告が終わった後も、継続的な改善が必要です。税務調査は通常、確定申告から1〜2年後に実施されることが多いため、2026年分のデータは2028年頃まで調査対象となる可能性があります。保存したデータが確実にアクセスできる状態を維持し、必要に応じてバックアップを更新していきます。
まとめ
2026年の確定申告では、電子帳簿保存法への完全対応が必須となります。電子的に授受した取引データは、真実性と可視性を確保した方法で保存しなければなりません。具体的には、改ざん防止措置を講じ、取引年月日・金額・取引先で検索できる状態を保つ必要があります。
対応方法は、事業規模や予算に応じて選択できます。小規模事業者であれば、クラウドストレージと索引簿の組み合わせで低コストに対応できます。中規模以上であれば、会計ソフトの電子帳簿保存機能を活用することで、業務効率化も同時に実現できます。どの方法を選ぶにしても、事務処理規程の作成と、それに基づいた確実な運用が重要です。
不動産投資家の方は、管理会社からの報告書、修繕関係書類、保険関係書類など、不動産特有の電子データにも注意が必要です。物件ごとにフォルダを分けて管理し、将来の税務調査にも対応できる体制を整えておきましょう。
今から計画的に準備を進めることで、2026年の確定申告をスムーズに乗り切ることができます。電子帳簿保存法への対応は、最初は手間に感じるかもしれませんが、一度体制を整えれば、書類管理の効率化や保管スペースの削減といったメリットも得られます。この機会に、デジタル時代に適した経理体制を構築していきましょう。
参考文献・出典
- 国税庁 – 電子帳簿保存法関係 – https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/index.htm
- 国税庁 – 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】 – https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/0021006-031.htm
- デジタル庁 – 電子帳簿保存法への対応について – https://www.digital.go.jp/policies/electronic_ledger/
- 中小企業庁 – 電子帳簿保存法対応支援 – https://www.chusho.meti.go.jp/
- 日本税理士会連合会 – 電子帳簿保存法の実務対応 – https://www.nichizeiren.or.jp/
- 一般社団法人日本クラウド産業協会 – 電子帳簿保存法対応クラウドサービス – https://www.aspicjapan.org/
- 総務省 – 電子文書の長期保存に関するガイドライン – https://www.soumu.go.jp/