医師という職業は高収入で社会的信用も高く、金融機関からの融資も受けやすいため、アパート経営を検討される方が少なくありません。しかし、本業が多忙な医師だからこそ、不動産投資特有のリスクを正しく理解せずに始めてしまうと、思わぬ損失を被る可能性があります。
実は、医師の不動産投資失敗事例の多くは、専門知識の不足や時間的制約から適切な物件選定ができなかったことに起因しています。本記事では、医師がアパート経営を始める前に必ず押さえておくべきリスクと、それぞれの具体的な対策方法を詳しく解説します。この記事を読むことで、安全かつ効率的な資産形成の第一歩を踏み出すことができるでしょう。
医師がアパート経営に向いている理由と落とし穴

医師がアパート経営に取り組む最大の利点は、高い信用力と安定した収入です。金融機関は医師という職業を高く評価するため、一般的なサラリーマンと比較して融資審査が通りやすく、低金利での借り入れも可能になります。さらに、高額な所得に対する節税効果も期待できるため、資産形成の手段として注目されています。
しかし、この「融資を受けやすい」という利点が、実は大きな落とし穴にもなり得ます。医師は本業が多忙なため、物件の詳細な調査や市場分析に十分な時間を割けないケースが多いのです。その結果、不動産業者の言葉を鵜呑みにして、収益性の低い物件を高値で購入してしまうリスクがあります。
国土交通省の調査によると、2026年2月時点で全国のアパート空室率は21.2%に達しています。つまり、5室に1室以上が空室という厳しい市場環境です。医師という職業の信用力だけでは、この競争を勝ち抜くことはできません。立地選定、物件管理、収支計画など、不動産投資の基本をしっかり学ぶ必要があります。
また、医師特有のリスクとして、転勤や開業による生活環境の変化があります。勤務医の場合、数年ごとに転勤する可能性があり、購入した物件から離れた場所で生活することになるかもしれません。このような状況では、物件管理が困難になり、トラブル対応が遅れる可能性も考慮しなければなりません。
空室リスクと賃料下落の現実

アパート経営における最大のリスクは、空室による収入減少です。前述の通り、2026年2月の全国平均空室率は21.2%ですが、地域によってはさらに高い数値を示すエリアも存在します。特に地方都市や郊外では、人口減少の影響で空室率が30%を超える地域も珍しくありません。
空室が発生すると、家賃収入がゼロになるだけでなく、ローン返済や固定資産税、管理費などの支出は継続します。例えば、月額家賃8万円の部屋が3ヶ月空室になれば24万円の損失です。さらに、新しい入居者を募集するための広告費や、場合によってはリフォーム費用も必要になります。
賃料下落リスクも見逃せません。新築時は周辺相場より高めの家賃設定が可能ですが、築年数が経過するにつれて賃料は下がっていきます。一般的に、築10年で新築時の80〜85%、築20年で70〜75%程度まで下落すると言われています。月額10万円でスタートした物件が、10年後には8万円、20年後には7万円程度になる計算です。
この賃料下落を収支計画に織り込まずに投資を始めると、当初の想定より大幅に収益が悪化します。特に医師の場合、高額な融資を受けやすいため、物件価格が高くなりがちです。賃料下落によって返済が困難になり、最悪の場合は物件を手放さざるを得ない状況に陥ることもあります。
対策としては、立地選定を慎重に行うことが最も重要です。駅から徒歩10分以内、周辺に大学や大企業があるエリア、人口が増加傾向にある地域など、需要が見込める場所を選びましょう。また、収支シミュレーションを作成する際は、空室率を20〜30%、賃料下落率を年1〜2%程度で計算し、厳しめの条件でも収益が出るか確認することが大切です。
修繕費と維持管理コストの想定外負担
アパート経営では、建物や設備の修繕費用が定期的に発生します。多くの初心者投資家が見落としがちなのが、この修繕費の積み立てです。新築物件であっても、10年後には外壁塗装や屋根の補修が必要になり、15〜20年後には給排水設備の交換も視野に入れなければなりません。
具体的な修繕費用の目安として、外壁塗装は1棟あたり100〜200万円、屋根の補修は50〜100万円、給排水設備の全面交換は200〜300万円程度かかります。さらに、エアコンや給湯器などの設備は10〜15年で交換が必要になり、1台あたり10〜20万円の費用が発生します。8室のアパートであれば、設備交換だけで80〜160万円の出費です。
これらの大規模修繕に加えて、日常的な維持管理コストも継続的に発生します。共用部分の清掃費、電気代、消防設備の点検費用、エレベーターがあれば保守点検費用など、月々数万円の固定費がかかります。また、入居者の退去時には原状回復工事が必要で、1室あたり10〜30万円程度の費用を見込む必要があります。
医師の場合、本業が忙しく、これらの修繕や管理業務を自分で行うことは現実的ではありません。そのため、管理会社に委託することになりますが、管理委託費として家賃収入の5〜10%程度が必要です。月額家賃8万円の物件であれば、毎月4,000〜8,000円の管理費が発生する計算になります。
修繕費リスクへの対策として、毎月の家賃収入から修繕積立金を確保することが重要です。目安として、家賃収入の10〜15%程度を修繕費として積み立てておくと安心です。また、物件購入時には建物診断を実施し、今後10年間で必要になる修繕項目とその費用を把握しておきましょう。中古物件の場合は特に、配管や電気設備の劣化状況を専門家にチェックしてもらうことをお勧めします。
融資リスクと金利上昇の影響
医師は融資を受けやすい職業ですが、それゆえに過剰な借り入れをしてしまうリスクがあります。金融機関は医師の高収入を評価して、物件価格の100%、場合によっては諸費用まで含めたフルローンを提案することもあります。しかし、自己資金をほとんど投入せずに始めた不動産投資は、わずかな収支の悪化で赤字に転落する可能性が高くなります。
変動金利で融資を受けている場合、金利上昇リスクも考慮しなければなりません。2026年現在、日本の金利は依然として低水準ですが、今後の経済状況によっては上昇する可能性があります。例えば、5,000万円を金利1.5%で借り入れている場合、年間の利息は75万円です。これが金利3%に上昇すると、利息は150万円となり、年間75万円の負担増加になります。
返済期間の設定も重要なポイントです。医師の場合、定年が一般企業より遅いため、長期の返済計画を立てやすいという利点があります。しかし、30年や35年といった長期ローンを組むと、総返済額が大幅に増加します。5,000万円を金利2%で借りた場合、返済期間25年なら総返済額は約6,350万円ですが、35年なら約7,000万円と、650万円もの差が生じます。
また、医師特有のリスクとして、開業資金との兼ね合いがあります。将来的に開業を考えている場合、アパート経営のローンが残っていると、開業資金の融資審査に影響する可能性があります。金融機関は総借入額を重視するため、不動産投資のローンが多額に残っていると、開業資金の借り入れが難しくなることもあるのです。
融資リスクへの対策として、まず自己資金を物件価格の20〜30%は用意することが理想的です。これにより月々の返済負担が軽減され、金利上昇時のリスクも抑えられます。また、変動金利を選択する場合は、金利が2〜3%上昇しても返済可能かシミュレーションしておきましょう。固定金利は当初の金利が高めですが、長期的な返済計画が立てやすいというメリットがあります。自分のリスク許容度と将来計画に合わせて選択することが大切です。
税務リスクと確定申告の複雑さ
アパート経営を始めると、確定申告が複雑になります。医師の給与所得に加えて、不動産所得の申告が必要になるためです。不動産所得は、家賃収入から必要経費を差し引いた金額ですが、この経費計上が適切でないと、税務調査の対象になるリスクがあります。
不動産所得で計上できる経費には、固定資産税、都市計画税、火災保険料、管理委託費、修繕費、減価償却費、ローンの利息部分などがあります。しかし、ローンの元本返済部分は経費にならない、修繕費と資本的支出の区別が必要など、専門的な知識が求められます。特に減価償却の計算は複雑で、建物の構造や築年数によって償却期間が異なります。
医師の場合、所得税率が高いため、不動産所得が赤字になると給与所得と損益通算できるメリットがあります。しかし、この節税効果を過度に期待して、実質的に赤字の物件を購入してしまうケースも見られます。確かに初年度は減価償却費が大きく、帳簿上は赤字になりやすいですが、長期的には黒字化しなければ投資として成功とは言えません。
また、消費税の課税事業者になるリスクも考慮が必要です。住宅の家賃収入は消費税非課税ですが、事務所や店舗として貸し出す場合は課税対象になります。さらに、駐車場収入や自動販売機の設置収入なども課税売上に含まれるため、これらの合計が1,000万円を超えると、2年後から消費税の申告・納付義務が発生します。
税務リスクへの対策として、不動産投資に詳しい税理士に相談することを強くお勧めします。税理士報酬は年間10〜30万円程度かかりますが、適切な経費計上や節税アドバイスを受けられるメリットは大きいです。また、日頃から領収書や契約書などの書類を整理し、収支を記録する習慣をつけましょう。会計ソフトを活用すれば、日々の記帳作業も効率化できます。
災害リスクと保険の重要性
日本は地震、台風、水害などの自然災害が多い国です。アパート経営では、これらの災害によって建物が損傷したり、最悪の場合は全壊したりするリスクを常に抱えています。特に近年は気候変動の影響で、豪雨による水害や土砂災害が増加傾向にあり、これまで安全とされていた地域でも被害が発生しています。
地震リスクは特に深刻です。1981年以前に建てられた旧耐震基準の建物は、大地震で倒壊する危険性が高いとされています。中古物件を購入する際は、必ず建築年と耐震基準を確認しましょう。新耐震基準の建物であっても、地盤が軟弱な地域や活断層の近くでは、被害を受ける可能性があります。
火災リスクも見逃せません。入居者の不注意による火災はもちろん、隣接する建物からの延焼リスクもあります。木造アパートの場合、火災による損害は特に大きくなりがちです。また、漏水事故も頻繁に発生するトラブルの一つです。上階の配管から水漏れが発生し、下階の入居者の家財に損害を与えた場合、オーナーとして賠償責任を負う可能性があります。
これらのリスクに対応するため、適切な保険加入が不可欠です。基本となるのは火災保険で、建物の再調達価格を基準に保険金額を設定します。さらに、地震保険、施設賠償責任保険、家賃収入保険なども検討すべきです。地震保険は火災保険の50%までしか補償されませんが、地震による火災は火災保険だけではカバーされないため、必ず加入しておきましょう。
保険料は建物の構造や所在地によって異なりますが、年間10〜30万円程度が目安です。医師の場合、本業が忙しく災害時の対応が難しいため、保険でリスクをカバーすることは特に重要です。また、物件購入前にハザードマップを確認し、洪水や土砂災害のリスクが高い地域は避けるという判断も必要です。国土交通省のハザードマップポータルサイトでは、全国の災害リスク情報を確認できます。
時間的制約と管理会社選びの重要性
医師という職業は、長時間労働が常態化しており、アパート経営に十分な時間を割くことが困難です。入居者からのクレーム対応、設備の故障対応、退去時の立ち会い、新規入居者の募集など、アパート経営には様々な業務が発生します。これらを自分で行うことは現実的ではないため、信頼できる管理会社の選定が成功の鍵となります。
管理会社には大きく分けて、賃貸管理のみを行う会社と、サブリース(一括借り上げ)を行う会社があります。賃貸管理の場合、管理委託費は家賃収入の5〜10%程度で、空室リスクはオーナーが負います。一方、サブリースは管理会社が物件を一括で借り上げ、オーナーに固定賃料を支払う仕組みです。空室リスクは管理会社が負いますが、受け取れる賃料は相場の80〜90%程度になります。
サブリースは一見魅力的に見えますが、注意が必要です。契約書に「賃料の見直し条項」が含まれていることが多く、数年後に賃料が大幅に減額されるケースがあります。また、管理会社が倒産した場合、入居者との契約関係が複雑になり、トラブルに発展することもあります。過去には、サブリース会社の倒産によって、多くのオーナーが損失を被った事例も報告されています。
管理会社を選ぶ際のポイントは、実績と対応力です。地域での管理実績が豊富で、入居率が高い会社を選びましょう。また、トラブル発生時の対応スピードも重要です。夜間や休日でも緊急対応してくれる体制が整っているか確認してください。さらに、定期的な報告書の提出や、修繕提案の質なども、良い管理会社を見分けるポイントになります。
医師の場合、転勤の可能性も考慮して、全国展開している大手管理会社を選ぶという選択肢もあります。地域密着型の会社は地元の情報に強い反面、転勤で遠方に移った場合の対応が難しくなることがあります。自分のライフプランと照らし合わせて、最適な管理会社を選びましょう。また、管理会社に任せきりにせず、定期的に収支報告を確認し、物件の状況を把握する習慣をつけることも大切です。
まとめ
医師がアパート経営を成功させるためには、職業特有の利点を活かしつつ、様々なリスクを正しく理解し対策を講じることが不可欠です。融資を受けやすいという利点は、同時に過剰な借り入れリスクにもつながります。本業が多忙だからこそ、物件選定は慎重に行い、信頼できる管理会社との連携が重要になります。
空室リスク、修繕費、金利上昇、税務、災害など、アパート経営には多様なリスクが存在します。しかし、これらのリスクは適切な知識と準備によって、大幅に軽減することが可能です。立地選定を慎重に行い、保守的な収支計画を立て、専門家のサポートを受けながら進めることで、長期的に安定した資産形成が実現できます。
まずは不動産投資の基礎知識を学び、信頼できる不動産会社や税理士、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することから始めましょう。焦って物件を購入するのではなく、十分な準備期間を設けることが、失敗を避ける最善の方法です。医師という職業の強みを活かした、賢明な不動産投資を実現してください。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計 – https://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-jutaku-2.html
- 国土交通省 ハザードマップポータルサイト – https://disaportal.gsi.go.jp/
- 国税庁 不動産所得の課税について – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1370.htm
- 金融庁 投資用不動産向け融資に関する実態調査 – https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20190329.html
- 総務省統計局 住宅・土地統計調査 – https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.html
- 日本不動産研究所 不動産投資家調査 – https://www.reinet.or.jp/
- 公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会 – https://www.jpm.jp/