賃貸物件を所有していると、いつかは必ずやってくるのが設備の老朽化です。なかでもユニットバスの交換は費用が大きくなりやすく、「これは修繕費として一括で経費にできるのか、それとも資本的支出として減価償却しなければならないのか」と頭を悩ませるオーナーは少なくありません。この判断を誤ると、税務申告の際に思わぬ修正が必要になることもあります。この記事では、修繕費と資本的支出の基本的な考え方から、ユニットバス交換に当てはめた判断の目安、そして実際の仕訳の考え方まで、初心者にもわかりやすく解説します。
修繕費と資本的支出、何が違うのか

まず押さえておきたいのは、修繕費と資本的支出はどちらも「建物や設備にお金をかけた」という点では同じですが、税務上の扱いがまったく異なるという点です。修繕費は支出した年に全額を経費として計上できますが、資本的支出は固定資産として計上し、減価償却を通じて複数年にわたって費用化していきます。
国税庁の情報(令和7年4月1日現在法令等)によると、貸付けや事業の用に供している資産の修繕費のうち、通常の維持管理や修理のための支出は必要経費として認められています。一方で、「資産の使用可能期間を延長させたり、資産の価値を高めたりする部分の支出は資本的支出とされ、修繕費とは区別されます」と明記されています(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1379.htm)。
重要なのは、この区別が「修繕」や「改良」という工事の名目ではなく、実質によって判定されるという点です。つまり、見積書や請求書に「修繕工事」と書かれていても、実態として建物の価値を高めたり耐用年数を延ばしたりする内容であれば、資本的支出として扱わなければなりません。逆に「リフォーム工事」と書かれていても、原状回復の範囲にとどまるなら修繕費として処理できる場合があります。
このように、工事の名称や見た目ではなく「その支出が何をもたらしたか」という実質で判断することが、税務上の大原則です。初心者のうちはこの考え方をしっかり頭に入れておくことが、後々の判断ミスを防ぐ第一歩になります。
ユニットバス交換はどちらに該当するのか

ユニットバスの交換が修繕費になるか資本的支出になるかは、工事の内容によって変わります。一般的には、部分的な補修や部品の交換であれば修繕費寄りに、在来浴室からユニットバスへの変更や既存ユニットバスの全面取替であれば資本的支出寄りに整理されています。
この点について、既存設備を全面的に取り壊し新たに設置する工事のケースが参考になります。賃貸用マンションの台所と浴室について、既存設備を全面的に取り壊し、新たにシステムキッチンおよびユニットバスを設置した工事では、「単に既存の台所設備及び浴室設備の一部を補修・交換したものではなく、既存の各設備等を全面的に取り壊し、新たにシステムキッチン及びユニットバスを設置した」として、修繕費ではなく資本的支出と判断される傾向があります。
この事例からわかるように、「全面的な取り壊しと新設」という工事の実態が、資本的支出と判断される大きな根拠になっています。一方で、シャワーヘッドの交換や浴槽のひび割れ補修、換気扇の部品交換といった部分的な修理は、建物の価値を高めるものではなく原状維持のための支出と考えられるため、修繕費として処理しやすいといえます。
ただし、同じ「ユニットバス交換」でも工事の範囲や目的によって判断が変わることがあります。判断に迷う場合は、税理士や税務署に相談することを強くおすすめします。
金額による判定の目安を知っておこう
工事の内容だけでなく、金額の大きさも修繕費か資本的支出かを判断する際の重要な目安になります。国税庁の情報(令和7年4月1日現在法令等)によると、所得税では、修繕費か資本的支出か明らかでない支出について、60万円未満または前年末の取得価額のおおむね10%以下であれば修繕費として処理できるとされています(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/07.htm)。
法人の場合は、所得税とは異なる基準が設けられています。国税庁の情報によると、支出額の30%相当額と前事業年度末取得価額の10%相当額のいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理処理が認められています(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5402.htm)。個人と法人では適用される基準が異なるため、自分がどちらの立場で申告しているかを確認したうえで判断することが大切です。
実際のユニットバス交換では、工事費用が高額になるケースも多く、金額だけで修繕費と断定できない場合があります。そのような場合は、工事の内容(原状回復か価値向上か)と金額の両方を総合的に判断することになります。どちらとも判断しにくい場合は、税理士に相談するのが最も確実な方法です。
仕訳の考え方と実務上のポイント
修繕費か資本的支出かが決まったら、次は実際の仕訳です。修繕費として処理する場合は、支出した年度に「修繕費」として費用計上します。一方、資本的支出として処理する場合は、固定資産として計上し、減価償却を通じて費用化していきます。
資本的支出の減価償却については、国税庁の情報(令和7年4月1日現在法令等)によると、「その資本的支出を行った減価償却資産と種類及び耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとして、償却費の額を計算します」とされています(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2107.htm)。つまり、ユニットバスの交換が資本的支出と判断された場合、建物附属設備として新たな資産を取得したものとみなし、対応する耐用年数で減価償却を行うことになります。
仕訳の具体的な勘定科目については、個人の不動産所得の場合と法人の場合で運用が異なることがあり、また税理士や会計ソフトによっても表現が変わる場合があります。修繕費として処理する場合は「修繕費」、資本的支出として処理する場合は「建物附属設備」などの固定資産科目を使うのが一般的ですが、詳細な科目の設定は個別の状況によりますので、税理士に確認することをおすすめします。
実務上のポイントとして、工事の際には見積書や請求書をしっかり保管しておくことが重要です。工事の内容が詳細に記載された書類があれば、後から税務調査が入った際にも判断の根拠を示しやすくなります。また、複数の工事をまとめて発注した場合は、修繕費に該当する部分と資本的支出に該当する部分を分けて把握しておくと、より正確な処理が可能になります。
まとめ
ユニットバスの交換が修繕費になるか資本的支出になるかは、工事の実質的な内容と金額の両方から総合的に判断する必要があります。部分的な補修や部品交換は修繕費寄り、在来浴室からの変更や全面取替は資本的支出寄りというのが基本的な考え方です。また、修繕費か資本的支出か明らかでない場合は、60万円未満または前年末取得価額のおおむね10%以下であれば修繕費として処理できるという目安も覚えておくと役立ちます。いずれにせよ、工事の名目ではなく実質で判断するという大原則を忘れないことが大切です。判断に迷う場合は、工事の見積書や請求書を手元に用意したうえで、税理士や税務署に相談することが最も確実な方法です。適切な処理を行うことで、税務上のリスクを減らし、安心して賃貸経営を続けていきましょう。
参考文献・出典
- 国税庁 No.1379 修繕費とならないものの判定 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1379.htm
- 国税庁 No.2107 資本的支出を行った場合の減価償却 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2107.htm
- 国税庁 No.5402 修繕費とならないものの判定(法人) — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5402.htm
- 賃貸の設備交換は修繕費?資本的支出?設備別に解説 — https://reform.pc-k.co.jp/rental-equipment-repair-expense-capital-expenditure/