中古物件を購入しようとしたとき、「越境」という言葉を耳にして戸惑った経験はないでしょうか。越境とは、隣地の建物や塀・樹木などが自分の土地に入り込んでいる、あるいは逆に自分の建物が隣地にはみ出している状態のことです。初めて中古物件を検討する方にとって、越境は「契約を進めていいのか」「どう対処すればいいのか」と不安になりやすいポイントのひとつです。この記事では、越境が見つかったときの基本的な対処法から、値引き交渉への活かし方、トラブルを防ぐための注意点まで、初心者にもわかりやすく解説します。
越境とは何か、なぜ中古物件で問題になるのか

まず押さえておきたいのは、越境が中古物件の取引で特に問題になりやすい理由です。新築物件と違い、中古物件は長年にわたって使われてきた歴史があります。その間に、隣地との境界が曖昧になったり、増改築によって建物の一部がはみ出したりするケースが少なくありません。
越境の種類はさまざまです。隣家のブロック塀や擁壁が境界線を越えているケース、樹木の枝や根が越境しているケース、あるいは屋根の軒先や雨どいが隣地上空に出ているケースなどが代表的です。いずれも、目視では気づきにくいことが多く、専門家による調査ではじめて発覚することも珍しくありません。
越境が問題になる理由は、将来的なトラブルの火種になりやすいからです。たとえば、隣地の所有者が変わったタイミングで「越境物を撤去してほしい」と求められることがあります。また、建物を建て替えようとした際に越境が障害となり、工事が進められないケースも考えられます。こうしたリスクを事前に把握しておくことが、安心して中古物件を購入するための第一歩です。
越境が見つかったときに確認すべき書類と手続き

越境が発覚した場合、まず確認すべきなのは重要事項説明書と建物状況調査(インスペクション)の内容です。国土交通省によると、不動産取引の際には買主が重要な事項の説明を受けることとなっており、越境に関する情報もこの説明の対象に含まれます(国土交通省 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bf_000013.html)。
重要事項説明書に越境の記載があるかどうかを確認したうえで、実際の境界状況を把握するために実測図や隣地との境界確認書も取り寄せましょう。中古住宅の取引実務では、実測図・隣地との境界確認書・越境に関する覚書をそろえることが望ましいとされています。これらの書類が揃っているかどうかは、物件の信頼性を判断するうえでも重要な指標になります。
越境に関する覚書とは、越境の事実を双方が認め、将来的な解消方法について合意した内容を文書化したものです。越境物の解消方法については、簡単に撤去できる場合は撤去することが考えられ、撤去が難しい場合は建物の建て替えや解体の際に越境を解消することが取り決められることもあります。こうした覚書が既に締結されているかどうかも、必ず確認しておきたいポイントです。
越境を値引き交渉の根拠として活用する方法
越境の存在は、買主にとって値引き交渉の正当な根拠になり得ます。重要なのは、越境によって生じるリスクや将来的な費用を具体的に整理したうえで、冷静かつ誠実に交渉を進めることです。
値引き交渉の基本的な流れとして、物件の内見を終えて購入の意思が固まった段階で、仲介の不動産会社を通して交渉を始めるのが一般的です(HOMES https://www.homes.co.jp/cont/money/money_00352/)。越境の問題を交渉材料にする場合も、直接売主に話を持ちかけるのではなく、必ず仲介会社の担当者を介して進めましょう。担当者は売主との関係を維持しながら交渉を進めるプロですので、伝え方や交渉のタイミングについてアドバイスをもらうことも大切です。
交渉を有利に進めるためには、越境の状況を客観的に示す材料を用意することが効果的です。たとえば、越境物の撤去に費用がかかる場合はその見積もりを取得する、覚書が未締結であれば締結を条件に交渉するといった方法が考えられます。また、相場より高値で売り出されている物件や、長期間売れ残っている物件は値引き交渉が成立しやすい傾向があるとされています(HOMES 同上)。越境という具体的な問題点を示すことで、交渉の説得力がさらに高まります。
一方で、売主の立場を考えずに大幅な値引きを求めるような無理な交渉は避けるべきです(HOMES 同上)。越境の解消に向けた誠実な姿勢を示しながら、双方が納得できる落としどころを探ることが、交渉を成功させる鍵となります。
越境トラブルを防ぐために知っておくべきリスク
越境に関するトラブルは、購入後に発覚するケースも少なくありません。実は、越境を見落とした場合でも、仲介業者の調査義務が軽いとはいえず、専門業者としての調査責任が争点になることがあります。仲介業者には、契約当事者であり専門業者として、一定の調査義務が求められるとされています。
また、越境物の説明不備をめぐるトラブルは、仲介業者の説明義務違反が争点になることがあります(RETIO判例検索システム https://www.retio.or.jp/case_search_category/case4-1-6/)。つまり、仲介業者が越境を把握していながら買主に説明しなかった場合、後から法的な問題に発展する可能性があるということです。
こうしたリスクを避けるためにも、買主自身が積極的に情報収集を行う姿勢が大切です。仲介業者に任せきりにするのではなく、「越境の有無を確認してほしい」「覚書の有無を教えてほしい」と具体的に質問することで、見落としを防ぐことができます。また、インスペクション(建物状況調査)を活用して、専門家の目で物件の状態を確認することも有効な手段のひとつです。住宅ローンの審査においても越境物件の扱いは金融機関によって異なる場合があるため、事前に担当者へ確認しておくと安心です。
まとめ
中古物件における越境は、適切に対処すれば値引き交渉の有力な根拠になり得ます。まず重要事項説明書や実測図・境界確認書・越境に関する覚書といった書類を確認し、越境の状況を正確に把握することが出発点です。そのうえで、仲介会社を通じて誠実に交渉を進めることが、売主との信頼関係を保ちながら納得のいく条件を引き出すポイントになります。越境の問題は複雑に見えますが、正しい知識と手順を踏めば、初心者でも十分に対応できます。不安な点は仲介業者や専門家に積極的に相談しながら、安心できる中古物件購入を実現してください。
参考文献・出典
- 国土交通省「建設産業・不動産業:消費者の皆様向け 不動産取引に関するお知らせ」 — https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bf_000013.html
- 国民生活センター「消費者問題をよむ・しる・かんがえる 国民生活2022年12月号」 — https://www.kokusen.go.jp/pdf_dl/wko/wko-202212.pdf
- HOMES「値引き交渉はできる? 中古住宅を購入するときのポイント」 — https://www.homes.co.jp/cont/money/money_00352/
- SUUMO「値引き交渉(指し値)への対応。売り出し価格や引き渡し条件などポイント解説」 — https://suumo.jp/baikyaku/guide/entry/jukatsu-kousho/
- 公益社団法人 全日本不動産協会「隣接地への越境の有無」 — https://www.zennichi.or.jp/law_faq/%E9%9A%A3%E6%8E%A5%E5%9C%B0%E3%81%B8%E3%81%AE%E8%B6%8A%E5%A2%83%E3%81%AE%E6%9C%89%E7%84%A1/
- RETIO判例検索システム「越境物の説明不備をめぐるトラブル」 — https://www.retio.or.jp/case_search_category/case4-1-6/