不動産投資に興味はあるけれど、いきなり物件を買うのは怖い――そう感じる人は少なくありません。そこで近年注目を集めているのが、少額から始められる「REIT(リート)」です。しかし銘柄の選び方や購入後の管理方法が分からず、一歩を踏み出せない方も多いでしょう。本記事では、投資歴十五年の筆者が「REIT ステップ」という考え方を使い、最初の一口購入から長期運用までの道筋を丁寧に解説します。読後には、口座開設の準備から購入判断、運用のチェックポイントまで具体的な行動イメージを持てるはずです。
REIT入門と「REIT ステップ」の全体像
まず押さえておきたいのは、REITが不動産を小口化して証券化した商品である点です。投資家は取引所を通じて株式と同じ感覚で売買でき、賃料収入や物件売却益が分配金として還元されます。実はこの手軽さゆえ、資金が少ない初心者にも門戸が開かれているわけです。とはいえ、無計画に買えば価格変動の波に翻弄されるため、段階的に学びながら資金を投入していく「REIT ステップ」が役立ちます。
次に、その全体像を簡潔に示すと、①資金準備と口座開設、②銘柄選定と初回購入、③運用中のモニタリングと再投資、という三段階です。各段階で必要な知識と判断基準が異なるため、ステップを飛ばさず進むことがリスク管理につながります。たとえば東証REIT指数は2025年8月末時点で2,100ポイント前後ですが、指数の動向と個別銘柄の収益性は必ずしも一致しません。つまり、市場全体の流れを捉えつつ、個別物件の質まで掘り下げる視点が欠かせません。
さらに、REITは金融商品取引法の規制下にあり、情報開示が充実しています。四半期ごとの運用報告書には物件稼働率やLTV(負債比率)が掲載されるため、投資家はデータをもとに判断できます。国土交通省の不動産価格指数によると、商業地は前年同月比で3.2%上昇しており、賃料の底堅さを反映していますが、地方物件はエリア差が拡大中です。こうした背景を踏まえ、次のステップでは実際の資金計画を具体的に考えていきます。
資金準備と証券口座開設のステップ

ポイントは、生活資金と投資資金を明確に分けることです。REITは価格変動リスクがあるため、当面使う予定のない余裕資金で行うのが基本となります。金融庁の家計金融行動調査(2024年版)では、30代の平均金融資産は約460万円とされていますが、筆者はその2〜3割程度を上限に初期投資額を設定する案を推奨しています。
資金が決まったら、次は証券口座を開設します。ネット証券なら手数料が低く、NISA(少額投資非課税制度)を活用できる点が魅力です。2025年度NISAは年間投資枠360万円、非課税期間は無期限の恒久制度となりました。REIT分配金も非課税対象になるため、初期からNISA口座での購入を検討すると税負担を抑えられます。
また、購入単価を知るため単位口価格を確認しましょう。たとえば大手都市型REITのA投資法人は2025年9月現在で1口16万円前後です。この水準なら、月3万円の積立を半年行うと購入資金が貯まります。つまり、あらかじめ期間と目標額を設定すると、計画的にステップを進められるわけです。
銘柄選定と購入タイミングのステップ
重要なのは、物件ポートフォリオと財務健全性を同時に見ることです。具体的には、①保有物件の立地、②稼働率、③LTV、④分配金性向、の四指標を軸に比較します。
- 立地と稼働率:都心オフィスREITの平均稼働率は2025年6月時点で97%台、地方商業系は92%前後
- LTV:安全圏は50〜55%以下、上昇局面では資金繰りに余裕
- 分配金性向:目安は90%前後。高すぎる場合は将来修繕資金が不足する懸念
タイミングについては、東証REIT指数の移動平均線と金利動向を併用する方法が有効です。日本銀行の長期国債利回りが0.7%台に上昇した2024年秋には一時価格調整が起こりましたが、利回りが落ち着いた2025年春以降は分配金利回りの5%前後が再評価される展開となりました。つまり、金利上昇局面での押し目買いが機能しやすいのです。
加えて、複数銘柄に分散することで空室リスクやエリア偏重リスクを軽減できます。筆者は最初の買付を3銘柄に分ける「スリーショット戦略」を推奨しています。都市型オフィス、住宅特化、物流施設系を組み合わせると景気変動への耐性が高まるからです。
運用中のモニタリングと再投資のステップ
実は購入後こそ運用の腕が試されます。分配金が入るたびに使い切るのではなく、再投資へ回すことで複利効果が働きます。例えば年間分配金5万円を再投資し、平均利回り4.5%を維持できれば、10年後には投資元本が約1.55倍に膨らむシミュレーションになります。
モニタリングでは四半期決算資料を読み、稼働率低下やLTV上昇に早期に気づく姿勢が欠かせません。さらに、管理会社の運用能力を見るうえで、物件取得実績や売却益の計上状況にも注目しましょう。売却益が安定的に出ているREITは、物件入れ替えによる成長戦略が機能していると判断できます。
また、相場全体が高値圏に入った場合は、分配金利回りが3%台に低下することがあります。その際は部分的に利益確定し、価格調整局面での再購入資金を確保する戦略も有効です。つまり、配当を受け取りつつ保有比率を機動的に変える柔軟性が、長期パフォーマンスを押し上げる鍵となります。
2025年度の制度と最新市場動向
ポイントは税制と金利の両面を把握することです。まず税制面では、2025年度も上場REITの分配金に対する所得税15.315%、住民税5%の源泉徴収が続きますが、前述のNISA利用でこれを回避可能です。期限は設けられていないものの、年間投資枠を超える部分は課税口座になるため、枠内で計画的に購入すると効果が高まります。
一方、金融政策では日本銀行が2025年7月にマイナス金利を解除し、政策金利を0.25%に引き上げました。ただし長期金利の上昇は緩やかで、J-REITの分配金利回りとの差は依然3ポイント前後あります。金融庁のレポートによれば、このスプレッドは海外投資家の資金流入を呼び込み、流動性を保つ要因になっています。
さらに、ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮したグリーンREITが拡大しています。2025年9月時点で東証に上場するグリーンボンド発行REITは12銘柄へ増加し、エネルギー効率化改修によるコスト削減が分配金向上に寄与しています。こうしたトレンドを踏まえ、銘柄選定時にESG方針を確認する視点も欠かせません。
まとめ
この記事では、少額から始められるREIT投資を三段階に整理した「REIT ステップ」という考え方で解説しました。重要なのは、余裕資金を用意しNISA口座を活用しつつ、立地と財務に注目して銘柄を選び、購入後もデータで運用状況を点検し続ける姿勢です。金利変動や税制の最新情報を押さえれば、分配金を再投資しながら安定的に資産を拡大できるでしょう。今日からできる第一歩として、証券口座の準備と候補銘柄の比較表作成に取り組んでみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp/
- 金融庁 家計金融行動調査2024 – https://www.fsa.go.jp/
- 日本取引所グループ 東証REIT指数データ – https://www.jpx.co.jp/
- 日本銀行 金融政策決定会合資料 2025年7月 – https://www.boj.or.jp/
- 東証REIT協会 ESGレポート2025 – https://www.j-reit.jp/