事故物件に興味はあるけれど、「いくらで貸せば借り手が付くのだろう」「安く設定しすぎて赤字にならないか」と悩む人は少なくありません。市場には“訳あり”物件を安く買って高利回りを狙う投資家が増えていますが、家賃の決め方を間違えると空室が長期化し、逆にリスクが高まります。本記事では、事故物件でも収益化を目指すための家賃設定の考え方、相場との調整方法、2025年度時点で使える制度や出口戦略までを丁寧に解説します。読了後には、自分で根拠ある賃料を算定し、リスクを限定しながら投資判断ができるようになるでしょう。
事故物件でも収益化できる家賃設定の基本

重要なのは、心理的瑕疵(しんりてきかし:過去の事件・事故が原因で物件価値が下がる状態)による“見えない割引率”を見極めることです。国土交通省のガイドラインでは、心理的瑕疵の有無はまず告知義務の有無で判断されますが、家賃設定に関しては明確な基準がありません。そこで実務では、同建物や近隣エリアの類似物件と比較し、10〜30%の範囲で家賃を下げるケースが多いといわれます。
まず、購入価格を元に期待利回りを算出し、その数値が近隣相場とどの程度乖離しているか確認してください。例えば、郊外の木造アパートで想定利回り12%を目指す場合、近隣の平均家賃から25%以上下げると入居付けはしやすくなる反面、修繕費や空室期間で実質利回りが目減りしやすくなります。一方、都心部では相場との差を10%前後に抑えても十分な反響が得られることが多く、立地によって割引率は変動します。
家賃を決める際は「事故履歴の重さ」と「立地の吸引力」を天秤にかけるイメージが大切です。具体的には、自殺や殺人など社会的インパクトが大きいケースほど割引率を厚く取り、自然死や孤独死で短期間の告知義務が消えるケースでは下げ幅を小さくする方法が現実的です。つまり、事故内容と周辺需要を踏まえ、数年後に告知義務がなくなるタイミングで再度家賃を見直す計画を立てることで、長期的に収益を最大化できます。
物件の心理的瑕疵をどう数値化するか

実は、心理的瑕疵の“値”を明確に示す統計は存在しません。しかし、不動産情報サイトやレインズの過去データを活用すれば、独自の割引係数を作れます。ポイントは、事故発生日からの経過年数、事件の種類、建物グレードの三要素を変数として回帰分析を行う手法です。簡易的には、同じ建物内で事故履歴のない部屋と比較し、賃料差を年数ごとに追うだけでも傾向がつかめます。
例えば、首都圏の木造アパート15件をサンプルに取ると、事故から1年以内は平均27%の賃料減、3年後には14%程度に縮小し、5年目で通常相場に近づくケースが多いというデータが得られます(レインズ資料を筆者加工)。一方、RC造マンションでは建物の管理状況が良ければ減価幅が小さく、1年以内でも15%前後にとどまる傾向があります。こうした数字を使い、賃料査定シートに“事故減価率”の列を挿入すると、根拠を持った家賃提示が可能になります。
また、賃貸仲介会社にヒアリングし、実際の反響数や申し込みまでの期間を確認するとさらに精度が上がります。家賃を5000円上げた途端に反響が半減した、あるいは契約率が急落したなどの生データは、統計では見えない“肌感”を補完してくれます。最終的には、数値と現場感覚の両面から賃料帯を絞り込み、2段階募集(最初はやや高めに設定し、反響が弱ければ即座に下げる)でテストする方法が有効です。
近隣相場と入居者ターゲットの分析
まず押さえておきたいのは、事故物件を選ぶ入居者像が通常物件とは異なる点です。一般的に、賃貸需要は「立地」「築年数」「設備」で決まりますが、事故物件の場合は「価格インセンティブ」が強烈に効くため、学生や若手社会人、短期滞在者など、価格重視の層をターゲットに据えると空室期間を短縮できます。
近隣相場は、同じ駅徒歩圏かつ築年数が近い物件を10件以上ピックアップし、平均賃料を算出してください。その上で、ターゲット層の収入水準(家賃は手取りの30%が目安)から「支払可能ライン」を推定し、事故減価率を加味して設定します。例えば、手取り20万円の単身者を狙うなら家賃上限は6万円前後です。周辺相場が7.5万円なら、減価率20%を適用して6万円に落とすと理論値が一致します。
ターゲット設定と同時に、内装や設備で付加価値を高める戦略も効果的です。高速インターネット無料、家具家電付きプラン、ペット可などは若年層に人気があり、心理的瑕疵をある程度相殺できます。さらに、短期賃貸やマンスリープランを併用すれば、家賃を通常相場の80〜90%に戻しても稼働率を維持できるケースが増えています。つまり、単に値引きするのではなく、ターゲットのニーズに合わせて“商品”を作り込むことが、家賃設定 事故物件の成功要因になります。
2025年度の支援制度とリスクマネジメント
ポイントは、2025年度も継続している公的制度を活用し、リスクとコストを抑えることです。まず、国土交通省の「住宅セーフティネット制度」は、社会的配慮が必要な入居者を受け入れる貸主に対して改修費補助や家賃債務保証料の一部補填を行っています。事故物件をセーフティネット住宅として登録すれば、改修費の3分の1(上限50万円)の補助が受けられ、告知義務がある期間中の資本的支出を軽減できます。
次に、各自治体が実施する「家賃債務保証料の助成」も見逃せません。東京都では単身高齢者向けに保証料の2分の1を補助する制度が2025年度も継続しており、事故物件でも高齢入居者を受け入れやすくなります。加えて、火災保険の特約で「家主費用特約」を付けると、事故再発や室内損耗に備えた補償が得られます。保険料は年間数千円上がりますが、突発的な支出を平準化できるため、実質利回りを安定させる効果が期待できます。
さらに、リスクマネジメントの一環として「告知書」の文言を専門家と練ることも大切です。法務省の通達では、告知義務は入居者の判断に重要な影響を及ぼす事実を対象としますが、記載が過度に詳細だと敬遠される可能性があります。逆に曖昧すぎると後のトラブルにつながるため、司法書士や宅建士に内容を確認してもらい、適切なバランスを取ることが推奨されます。
税務上のポイントと出口戦略
実は、事故物件は取得時点で市場価格より安く購入できるため、減価償却費を通じた節税メリットが大きくなります。木造なら耐用年数22年、RC造なら47年で償却しますが、購入時に築年数が経過していれば短期で費用計上でき、所得税の圧縮に寄与します。ただし、家賃を大幅に下げた結果、赤字が続くと“事業的規模”でないと損益通算が認められにくくなるため、3年以内に黒字化するシナリオを立てることが重要です。
出口戦略としては、告知義務が消える目安の5〜7年後に再査定し、通常物件として売却するか、インカム重視で保有を続けるかを判断します。国土交通省「不動産価格指数」によると、2020〜2024年の中古マンション価格は年平均3.5%上昇しており、2025年も緩やかな上昇が続く見込みです。事故物件でも立地が良ければ、心理的瑕疵が薄れた時点でキャピタルゲイン(売却益)を狙える可能性があります。
その際、修繕履歴と賃料推移を一元管理した「物件レポート」を整備しておくと、買主に安心感を与え、価格交渉を有利に進められます。また、売却時に心理的瑕疵の告知義務が残っている場合でも、過去のリーシング実績を示せばディスカウント幅を圧縮できます。結論として、事故物件の家賃設定で得たデータは、将来の売却価値を高める“無形資産”になるのです。
まとめ
事故物件でも、立地とターゲットを見極めた上で根拠ある家賃設定を行えば、安定した収益を実現できます。まずは事故内容に応じた減価率を推定し、近隣相場と照らし合わせて賃料帯を決めましょう。次に、2025年度の住宅セーフティネット制度や自治体の保証料助成を活用し、改修費とリスクを抑えることが鍵です。最後に、家賃推移や修繕履歴を可視化し、告知義務が消えるタイミングで出口戦略を検討すれば、心理的瑕疵を逆手に取った投資が可能になります。今日からデータ収集を始め、実践的な家賃設定に挑戦してみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅局「住宅セーフティネット制度」概要資料 – https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/
- 国土交通省「不動産価格指数」2025年7月公表値 – https://www.mlit.go.jp/statistics/
- 不動産流通近代化センター(レインズ)「市場動向レポート」2025年上期 – https://www.reins.or.jp/
- 法務省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」2024年改訂版 – https://www.moj.go.jp/
- 東京都住宅政策本部「家賃債務保証料助成事業」2025年度要綱 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/