副業として不動産投資に挑戦するサラリーマンが増えています。とはいえ「会社勤めを続けながら本当に運用できるのか」「どの物件を選べば安全なのか」と不安は尽きません。この記事では、収益物件を選ぶ際に欠かせない査定方法を中心に、キャッシュフローの読み方や最新の税制メリットまで具体的に解説します。読み終えるころには、自分に合った投資判断を下せる基準が身につくはずです。
サラリーマンが収益物件を選ぶ前に理解すべき基礎

重要なのは、給与所得と不動産所得の違いを把握し、リスクとリターンのバランスを見極めることです。給与は毎月安定して入りますが、賃料収入は空室や修繕で変動します。つまり、最初にキャッシュフローの変動幅を許容できるかを自問する作業が欠かせません。
一般に都心のワンルームは価格が高めでも空室率が低く、サラリーマンの副業との相性が良いといわれます。一方で郊外のファミリータイプは初期費用が安く利回りが高い傾向にありますが、人口減少による賃料下落リスクを抱えます。国土交通省「住宅着工統計」(2025年8月速報)によると、23区のワンルーム平均空室率は4%前後、郊外三県では7%台です。この差が長期収益に及ぼす影響は小さくありません。
さらに、給与収入があるサラリーマンは融資審査で優遇されやすい半面、返済比率を超える借入は却下されやすいという特徴もあります。日本政策金融公庫の融資姿勢を見ると、2025年度は年間返済負担率35%以内が目安とされています。したがって購入前に年間家賃収入とローン返済額を比較し、余裕資金を確保できるラインを明確にしておくと安心です。
高精度でキャッシュフローを読む査定方法

ポイントは、表面利回りではなく実質利回りを計算し、さらに長期修繕費と税負担まで織り込んで判断することです。表面利回りは「年間家賃÷物件価格」で求められますが、管理費や固定資産税を無視しているため誤差が生じます。
まず押さえておきたいのは、年間のランニングコストが家賃収入の15〜20%に達するケースが多いという事実です。例えば家賃収入120万円、費用20%なら24万円が消えるため、実質利回りは表面より2〜3ポイント下がります。国税庁の「令和6年度税制改正のあらまし」では、木造賃貸の法定耐用年数は22年と示されています。築20年超の物件は減価償却費が大幅に取れる一方、修繕費の発生確率も高まる点に注意が必要です。
次に空室率のシミュレーションです。日本賃貸住宅管理協会の統計では、全国平均空室率は2025年上期で12.1%ですが、都市圏と地方で差があります。保守的には20%で計算し、家賃下落1%シナリオも加えておくとリスクが見えやすくなります。これらを踏まえ、ローン金利上昇1%までは耐えられるか確認すれば、堅実な査定が可能です。
最後にDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法も導入しましょう。将来のキャッシュフローを割引率3〜5%で現在価値に換算し、購入価格と比較します。面倒に感じるかもしれませんが、エクセル関数を使えば30分ほどで作成できます。こうした手順を踏むことで、広告利回りの数字に惑わされない目を養えます。
金融機関と向き合うための実務ポイント
まず、融資を引き出すカギは「給与所得との安定的なバランスを示す資料」です。最新の源泉徴収票、預金残高、既存借入一覧をセットで提出し、返済余力を具体的にアピールすることが効果的です。
一方で、2025年4月から施行された「住宅ローン不動産投資併用監視指針」により、居住用と偽った投資ローン契約には金融機関が厳格なチェックを行っています。したがって、投資用ローンでの申請が前提となり、金利は自宅用より0.3〜0.8ポイント高い水準です。融資上限は年収の7〜8倍が目安ですが、物件の収益性が高ければ10倍近くまで伸ばせるケースもあります。
また、金利タイプの選択も重要です。日本銀行の「貸出平均金利」(2025年9月公表)によると、変動金利は平均1.9%、10年固定は2.5%前後です。長期投資である以上、金利上昇局面を想定すると、当初固定期間を長めに取るか、借換え手数料を見込んだシミュレーションを用意したいところです。
2025年度の税制・補助を活用した収益最大化
実は、税メリットを計画的に使うことで、手取り収益を押し上げる余地があります。2025年度も継続している「耐震・省エネ改修特別償却」は、一定の基準を満たした賃貸住宅の改修費用を即時償却または税額控除できる制度です。適用期限は2026年3月末までと明記されているため、古いアパートを取得してバリューアップする戦略と相性が良いでしょう。
さらに、個人の不動産所得は総合課税となるため、給与と合算して計算されます。損失が出た場合は給与所得と損益通算できるため、初年度に減価償却を厚く取り、課税所得を抑える手法も実務では一般的です。ただし、国税庁は2024年以降、過度な赤字申告に対するチェックを強化しており、経費計上の根拠資料を保管しておくことが必須です。
最後に、法人化の選択肢も検討に値します。課税所得が年間900万円を超えるあたりから、所得税より法人税の方が低くなるケースが多く、社会保険の最適化と合わせて手取りが増える可能性があります。ただし設立費用や決算手数料が発生するため、物件規模と将来の投資計画を総合的に見て判断することが求められます。
まとめ
ここまで、収益物件を査定する具体的な手順と、サラリーマンが利用できる金融・税制の最新情報を見てきました。まずは実質利回りと空室率を厳しく見積もり、ローン返済に十分な余裕があるかを数値で確認することが大切です。そのうえで、金融機関との交渉材料を整え、2025年度の改修特別償却など有効な制度を組み合わせれば、安定したキャッシュフローを確保できます。最初の一歩は小さくても構いません。エクセルでシミュレーションを作成し、気になる物件を一つひとつ丁寧に査定する習慣を今日から始めてみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅着工統計 2025年8月速報 – https://www.mlit.go.jp
- 日本政策金融公庫 融資基準の概要 2025年度版 – https://www.jfc.go.jp
- 日本銀行 貸出平均金利推移 2025年9月公表 – https://www.boj.or.jp
- 国税庁 令和6年度税制改正のあらまし – https://www.nta.go.jp
- 日本賃貸住宅管理協会 賃貸住宅市場景況感調査 2025年上期 – https://www.jpm.jp