不動産の税金

一棟アパート法人化の節税戦略

不動産投資を始めてしばらく経ち、所得税や住民税の負担が重く感じられるタイミングで「法人化」という言葉が気になり始めた方は多いはずです。しかし、一棟アパートを法人で保有するメリットとリスクを正しく理解しないと、節税どころか手取りが減る可能性もあります。本記事では、一棟アパート 法人化の基本から具体的な税務メリット、融資条件の変化、さらに2025年の市場動向までを分かりやすく解説します。読み終えるころには、ご自身の投資方針に合った最適なスキームを判断できるようになるでしょう。

法人保有が個人保有と決定的に違う理由

法人保有が個人保有と決定的に違う理由のイメージ

まず押さえておきたいのは、法人化によって課税主体が変わる点です。個人投資家は累進課税により、所得が増えるほど税率が高くなります。一方で法人税は一律課税に近く、2025年度の中小企業実効税率は概ね23.2%前後に収まります。この差が節税余地を生みます。

次に社会保険の扱いが関係します。個人事業では国民健康保険と国民年金ですが、法人化すると役員報酬に対して厚生年金や健康保険を払う必要があります。保険料負担は増えるものの、将来の年金受給額も増えるため、長期視点でのメリットは小さくありません。

さらに相続対策の観点も見逃せません。法人株式は相続税評価が純資産ベースで計算されるため、物件を直接相続するより評価額を抑えやすい傾向にあります。つまり節税と相続対策を同時に図れる点が、一棟アパート 法人化が注目される大きな理由です。

節税効果を最大化する損益計算のしくみ

節税効果を最大化する損益計算のしくみのイメージ

重要なのは、法人化しても経費計上のルール自体は大きく変わらないという事実です。ただし法人では役員報酬と配当を柔軟に設計できるため、所得分散が可能になります。たとえば家族を役員に登用し、適正額の報酬を支払えば、課税所得を意図的にコントロールできます。

減価償却も節税の要です。一棟アパートを新築で取得した場合、構造によって22~47年の法定耐用年数が定められています。法人で保有すると赤字が生じた年に繰越控除できる期間が10年に延び、個人よりも損金活用の幅が広がります。赤字の繰戻し還付(2025年度も継続)は、資金繰りに貢献する制度として覚えておくとよいでしょう。

また、家事関連費の計上には注意が必要です。法人名義の車両や通信費を過大に経費化すると税務調査で否認されるリスクがあります。実は、役員借入金の返済ルールも税務署が重点的に見るポイントで、利息設定が市場金利とかい離していないかチェックされています。適正な経費処理が節税効果を守る鍵になります。

融資環境とキャッシュフローの変化を読み解く

ポイントは、法人化により金融機関の融資スタンスが大きく変わることです。個人では年収倍率や返済比率が重視されますが、法人では物件収益力と決算書が評価軸になります。そのため設立直後は実績がなく、金利が高めに設定されやすい点を理解しておく必要があります。

一方で法人は長期で見た借入枠が拡大しやすく、リファイナンスの選択肢も豊富です。例えば、自己資本比率を30%以上に保ち、3期連続黒字決算を示せば、地銀や信用金庫での金利交渉が進みやすくなります。2025年10月時点の平均融資金利は変動で2.1%、固定で2.6%前後ですが、優良決算を維持できれば1%台前半も十分現実的です。

キャッシュフロー計算では、役員報酬を経費処理するぶん、手元に残る現金が個人保有より少なく見えるケースがあります。しかし法人では消費税還付や赤字繰越があるため、長期的な純資金増加率が高まることが多いです。空室リスクにも触れておくと、国土交通省の2025年10月データでは全国アパート空室率が21.2%と前年より0.3ポイント改善しました。法人でも個人でも、保守的に25%程度の空室を想定したシミュレーションが欠かせません。

設立手続きと運営上の注意点

まず、法人設立は司法書士に依頼する方法と自分で登記する方法があります。自分で行えば登録免許税と定款認証費用を含めて約20万円で済みますが、定款の不備や登記ミスは後々のトラブルにつながります。専門家報酬を10万円前後支払っても、早く正確に完了させるほうがコストパフォーマンスは高いと考えられます。

運営が始まると、法人決算と税務申告が毎期求められます。税理士費用は年間20万〜40万円が相場で、物件数や仕訳量に応じて変動します。この費用を高いと感じるかどうかは、節税効果との比較で判断します。たとえば所得税率が33%の個人投資家が法人化して23%の法人税に下げられれば、1000万円の課税所得で約100万円の節税になります。税理士費用を払っても十分にお釣りが来る計算です。

さらに金融機関は、法人代表者個人の信用情報も審査します。代表者が既に住宅ローンを抱えている場合、連帯保証が求められるため、負債と資産のバランスを示す資料をしっかり用意しましょう。言い換えると、法人と個人の資金繰り表を分けて管理し、銀行提出用に整えておくことが、金利交渉を有利に進める土台となります。

2025年市場動向とこれからの戦略

実は、2023年頃から続く建築費の高騰が一段落し、2025年は鉄骨造で坪単価が前年比8%下落しました。物件価格がピークアウトする兆しが見え、一棟アパートの表面利回りは都市部で平均6.1%、地方中核市で7.8%に上昇しています。法人化のタイミングとしては、購入前に設立しておくと登記費用を二度払う必要がなく、融資スキームも組みやすいです。

2025年度は、賃貸住宅の省エネ性能向上を支援する「住宅省エネ2025事業」が継続しており、窓改修や高効率給湯器の導入に対して1戸最大30万円の補助があります。法人で申請すると、工事費の損金算入と補助金収入を同時に享受できます。ただし補助枠には年度上限があるため、リフォーム計画は早めに立案することが肝心です。

空室率改善の流れはあるものの、人口減少トレンドは変わりません。そのため、法人として複数物件を持つ場合でも、エリア分散と築年数分散を意識してください。物件管理を外部委託する際は、管理料のほかに修繕積立を法人内に見込んでおくと、突発的な支出を借入で賄わずに済み、財務健全性を保てます。

まとめ

一棟アパート 法人化は、税率差や損金繰越、相続対策など多面的なメリットがあります。とはいえ、設立コストや社会保険料負担、融資条件の変化といったデメリットも無視できません。この記事で紹介した節税のしくみや市場動向を踏まえ、シミュレーションを重ねたうえで最適なタイミングを見極めてください。長期目線でキャッシュフローと信用を積み上げれば、法人化は資産拡大の強力なエンジンになるはずです。

参考文献・出典

  • 国土交通省 住宅統計調査(2025年10月速報) – https://www.mlit.go.jp
  • 財務省 法人税等の税率一覧(2025年度版) – https://www.mof.go.jp
  • 経済産業省 住宅省エネ2025事業 公式サイト – https://www.meti.go.jp
  • 日本政策金融公庫 融資平均利率(2025年9月公表) – https://www.jfc.go.jp
  • 日本銀行 金融システムレポート(2025年4月) – https://www.boj.or.jp

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