不動産投資を始めたばかりの方にとって、最大の不安は「本当に利益が出るのか」という一点ではないでしょうか。特に一棟マンションは金額が大きく、想定外の支出が重なると家計に深刻な影響を与えます。そこで役立つのが詳細なシミュレーションです。本記事では、シミュレーションの構造と使い方を丁寧に説明し、投資判断を数字で裏づける方法を提示します。読了後には、あなた自身で収支を組み立て、リスクを具体的に把握できるようになるでしょう。
一棟投資に欠かせない収支計算の全体像

まず押さえておきたいのは、収支計算が単なる家賃と返済額の比較では終わらない点です。購入時には仲介手数料や登記費用、金融機関事務手数料など多様な諸経費が発生します。また、運営段階では管理委託料、固定資産税、修繕積立金に加え、空室期間の損失も考慮すべき項目です。つまり、年間キャッシュフローを正確に把握するためには、発生時期と金額を網羅的に整理する必要があります。
一棟マンション シミュレーションでは、まず年間家賃収入を算出し、そこから運営経費を差し引いて「ネット収入」を求めます。次に、ローン元利金を控除して手元に残る「税引き前キャッシュフロー」を確認します。その後、減価償却費を用いて課税所得を下げ、所得税・住民税を計算する流れが一般的です。これらを時系列で並べると、将来の資金繰りが視覚的に理解でき、返済余力の判断に役立ちます。
実は、シミュレーション表を作る際に最も時間を要するのが諸経費の入力です。国土交通省の「賃貸住宅市場調査」によると、築20年を超える物件では年間修繕費が家賃収入の12%を占めるケースが散見されます。この数値を無視すると、数年後に大規模修繕が発生した瞬間にキャッシュフローが赤字へ転落しかねません。だからこそ、実績データを参考にして保守的に見積もる姿勢が欠かせないのです。
キャッシュフローを左右する五つの変数

ポイントは、シミュレーションの結果が五つの主要変数で大きく変動することです。具体的には「金利」「空室率」「賃料下落率」「修繕費率」「出口価格」です。この五つを動かしながら感度分析を行うことで、収益の安定性を立体的に確認できます。
金利については0.5%の違いでも30年間で数百万円の差が生じます。たとえば1億円を1.8%で借り入れた場合と2.3%で借りた場合とでは、総返済額が約900万円変わる試算となります。一方で空室率は地域ごとに傾向が異なります。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2025年の東京23区の世帯数は微増しているものの、地方中核都市では横ばいに留まる見込みです。こうした人口動態を反映させると、想定空室率は都心5%、地方15%という差が現れます。
さらに賃料下落率も長期的に影響します。不動産経済研究所のデータによれば、築15年から30年の賃料は平均で年0.8%ずつ下がる傾向があります。この比率を無視すると、初年度の高い収入を前提にした甘い計画になりがちです。また、修繕費率は築年数に応じて上昇します。築30年以降は建物設備のリプレースが重なるため、家賃収入の15%前後を見込むと安全です。最後に出口価格ですが、長期投資では売却時点の利回り期待が価格を決めます。都心の2025年平均表面利回りは4.3%ですので、この数値で逆算すると適正な売却価格を推定できます。
具体的な一棟マンション シミュレーション手順
重要なのは、エクセルなどで再現可能な手順を身につけることです。最初に物件情報として購入価格、戸数、想定家賃、表面利回りを入力します。次に、諸経費率を設定し、ネット利回りを自動計算できるシートを作成します。ここまでの準備が整えば、ローン条件を変数化し、金利や返済期間の異なるシナリオを複数走らせることが可能になります。
実践例として、購入価格2億円、自己資金20%、金利2%、期間30年というベースラインを設定してみましょう。年間家賃収入が1,600万円、運営経費を25%と置くと、ネット収入は1,200万円です。元利返済は年間約888万円となり、税引き前キャッシュフローは312万円になります。ここに減価償却費400万円を計上すると課税所得はマイナスとなり、所得税負担が軽減されます。この状態を金利2.5%、空室率10%という悲観シナリオに切り替えると、キャッシュフローはわずか42万円へ縮小します。差額が大きいほどリスクが顕在化しやすいため、自己資金の追加や返済期間の延長で安全域を確保する判断が求められます。
なお、東京23区の新築マンション平均価格が7,580万円という最新データを使うと、物件の再調達価格も算出しやすくなります。仮に戸当たりの再調達価格が4,000万円、築後25年の残存価格を40%と見込むと、出口価格の見積もりに現実味が生まれます。このように最新データを取り込みながら、計算シートをアップデートし続ける姿勢が成功への近道です。
シミュレーションを活かす融資戦略と出口戦略
まず、融資戦略では自己資金と返済比率のバランスが鍵を握ります。金融機関は返済比率50%以下を好む傾向にあり、この条件を満たすと金利交渉が有利に働きます。また、2025年度も続く「中小企業経営強化法に基づく低利融資枠」は、個人事業として賃貸業を営む場合に適用可能です。低金利枠を利用すると、シミュレーションの感度分析でリスクを大幅に低減できることが確認できます。
一方で出口戦略は、買い手が期待する利回りから逆算する「逆数法」を基礎にします。例えば買い手の利回り期待を5%とすると、年間ネット収入1,000万円の物件は2億円で売却できる計算です。ただし、売却時に仲介手数料や譲渡所得税が発生します。シミュレーション表では売却益だけでなく、それらのコストを差し引いた「手残り金額」を示すことで、投資期間全体の内部収益率(IRR)が明確になります。
さらに、ファンドやREITが取得を検討しやすい30戸以上の規模にすると出口先が広がります。マーケットの需要を読み解きながら、物件規模や所在地を戦略的に選ぶことで、売却時の価格を上振れさせる余地が生まれます。シミュレーションを行う段階から出口シナリオを複数用意することが、最終的な利益を最大化するコツと言えるでしょう。
2025年度の税制・補助金のポイント
実は、税制優遇を正しく盛り込むことで、シミュレーションの精度は格段に向上します。2025年度も賃貸住宅の省エネ改修に対する特別償却(取得価額の10%)が継続しており、工事完了年度に大きな節税効果をもたらします。たとえば1,000万円の省エネ工事を行うと、その年の損金に100万円を上乗せできるため、実効税率33%の個人では約33万円の税負担が軽減されます。
また、不動産所得に対する青色申告特別控除65万円も引き続き有効です。複式簿記で帳簿を作成し、電子申告を行えば、年間所得を65万円減らせます。これはキャッシュアウトを伴わないため、実質的には所得税と住民税を合わせて約20万円前後の節税効果が見込めます。シミュレーションに反映する際は、毎年の税引き後キャッシュフローが底上げされる点を忘れないようにしましょう。
さらに固定資産税の軽減措置も視野に入ります。新築または一定の耐震改修を行った賃貸住宅は、最長5年間にわたり1/2に軽減される制度が2025年度も継続予定です。固定資産税が年間80万円の物件なら、40万円の削減が可能です。これらの制度を適用するタイミングをシミュレーションに組み込めば、資金繰り計画がより現実的になります。
まとめ
ここまで、一棟マンション シミュレーションの基本構造と活用法を解説しました。要点は、諸経費や税制まで視野に入れ、五つの主要変数を動かしながら複数シナリオを比較することです。適切な融資枠と出口戦略を同時に検討し、制度優遇を正確に反映すれば、数字は投資判断の力強い味方になります。ぜひ本記事を参考に、実際の物件データを入力し、自分だけの収支モデルを作成してください。行動することでしか得られない発見が、あなたの投資を次の段階へ導いてくれるはずです。
参考文献・出典
- 不動産経済研究所 – https://www.fudousankeizai.co.jp
- 国土交通省 賃貸住宅市場調査 – https://www.mlit.go.jp
- 国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口 – https://www.ipss.go.jp
- 財務省 税制改正の解説 2025年度版 – https://www.mof.go.jp
- 中小企業庁 経営強化法関連資料 – https://www.chusho.meti.go.jp