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築20年の物件で叶える相続対策―税負担と収益を同時に抑えるコツ

築20年ほど経過した実家や投資用マンションを相続するとき、「古いから売るしかない」と考える人は少なくありません。しかし実は、築20年の物件こそ相続税評価額を抑えつつ安定収益を生むチャンスがあります。本記事では、相続対策として築20年物件を有効活用するメリットや2025年度の制度動向、具体的なリフォーム戦略までを解説します。読み終えた頃には、家族に余計な負担を残さないための具体策が明確になるでしょう。

築20年の物件が相続対策に向く理由

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まず押さえておきたいのは、築年数が進むほど固定資産税評価額が低くなりやすい点です。国税庁の資料によると、木造住宅の建物価値は22年で減価償却がほぼ終了し、土地と合わせても相続税評価額が大幅に下がる傾向があります。つまり同じ広さの新築よりも評価額が低く、課税対象が圧縮されるのです。

また、相続開始前に賃貸運用をしておけば「貸家建付地」や「貸家」の評価減が適用できます。土地は最大約20%、建物は30%程度下がるケースがあり、評価額を二重に引き下げられる点が大きな魅力です。さらに築20年なら修繕実績が蓄積されているため、金融機関も長期融資を組みやすいという現実的メリットがあります。

重要なのは、評価額だけを見て安直に売却しないことです。売って現金化すると評価額がそのまま金融資産に置き換わり、節税余地がなくなります。資産を守る観点では、賃貸経営を通じて収益を得ながら評価額を抑える発想が有効となります。

税務メリットを最大化するリフォーム戦略

税務メリットを最大化するリフォーム戦略のイメージ

ポイントは、必要最小限のリフォームで賃料を底上げし、投資額を回収しやすくすることです。築20年物件なら設備の一部更新で見違えるように価値が上がります。例えば国土交通省「賃貸住宅市場の動向報告」では、キッチンと水回りを同時に更新した場合、平均賃料が約8%上昇するというデータがあります。

しかし全面改修に走ると、工事費が高くなり減価償却期間も長くなるため、節税効果が薄まります。2025年度の税制では、内装や設備の修繕費が20万円未満なら一括経費計上が可能です。そこでキッチン交換を分割発注し、期中の経費として落とす方法が現実的です。

一方で耐震補強や給排水管交換など、10年単位で発生する大規模修繕は計画的に実施すべきです。これらは資本的支出として数年の減価償却になりますが、空室リスクを回避し長期で収益を確保する意味があります。投下コストと節税メリットのバランスを見極めることが、築20年物件を活かす鍵となります。

現金化か保有か―賃料収入で家族を守る方法

実は、相続対策で悩む多くの家庭が「売却して均等分配」か「保有して賃貸運用」かで迷います。結論として、親世代が元気なうちに賃貸運用を始め、キャッシュフローを可視化しておく方が後継者の合意を得やすい傾向があります。総務省「家計調査」によると、家賃収入は年平均2.4%の安定成長を続けており、預貯金利率を大きく上回ります。

保有を選ぶ場合、家族信託の仕組みを活用して管理権限を委任すると運営がスムーズです。信託契約は公証役場で手続きを行い、実務上の費用は30万円前後で済むことが多いです。一方で売却する際は譲渡所得税や仲介手数料が発生し、税負担が賃料10年分に匹敵するケースもあります。

つまり、長期的に見れば賃貸運用で得るキャッシュフローが税負担を薄め、家族の生活資金として機能します。保有と現金化のどちらが自分たちのライフスタイルに合うか、数字に落とし込んで検討することが欠かせません。

2025年度の法改正ポイントと注意点

まず、2025年度の相続税基礎控除や税率そのものに大きな変更は予定されていません。しかし、国税庁は「タワマン節税」など過度な評価引き下げを防ぐ通達を継続しており、地価と賃料が乖離しすぎた評価は否認リスクが高まります。築20年の普通住宅は乖離が小さいため、過度なリスクを抱えにくい点で有利と言えます。

また、固定資産税の住宅用地特例は2025年度も継続予定ですが、都市部では空き家対策が強化されています。管理が不十分な物件は「特定空家」に指定され、最大で固定資産税が4倍になる可能性があります。家賃収入があっても維持管理費を削るのは禁物です。

さらに、環境配慮型リフォームに関する補助金は2025年度も公募が続きます。窓断熱や高効率給湯器などの工事費が最大40万円補助される制度があり、申請期限は2026年3月末です。補助金を活用すれば実質的な初期投資を抑え、節税と家賃アップを同時に狙えます。

成功事例に学ぶリスク管理と出口戦略

重要なのは、築20年物件を相続対策に使った先人の事例から学ぶことです。たとえば、東京都江戸川区で木造アパートを相続したAさんは、外壁塗装と宅配ボックス設置に計120万円を投じ、賃料を一戸当たり月1万円上げました。年間増収は72万円となり、投資回収は約1年半で完了しています。

Aさんは同時に家族信託を設定し、管理権限を長男へ移譲しました。その結果、相続発生時も運営体制が変わらず、相続税は賃貸経営による評価減で約800万円抑えられました。もし売却していれば手取りは増えたものの、将来の収益源を失うところでした。

一方、群馬県前橋市のBさんは築23年の戸建てを維持管理できず空き家化し、特定空家に指定されました。修繕費用が膨らみ固定資産税も増額されたため、結局土地価格の7割で売却せざるを得ませんでした。賃貸活用や適切な管理を怠ると、評価減の恩恵どころか負担が拡大する典型例です。

これらの事例は、リフォーム費用を絞りつつ計画的に運用すれば、築20年でも十分な利回りを保ちつつ相続税負担を軽減できることを示しています。同時に、管理を怠れば制度上の優遇が一転してペナルティに変わるリスクも忘れてはなりません。

まとめ

築20年の物件は「古いから負債」という先入観を捨てれば、評価額の低さと賃貸運用によるキャッシュフローで相続対策の切り札になります。最低限のリフォームで賃料を上げ、貸家評価減を活用すれば税負担を抑制しながら家族の生活資金を確保できます。さらに、2025年度も続く補助金や特例を組み合わせれば持ち出しを最小化できる点も魅力です。まずは現状の評価額と修繕コストを把握し、家族全員で「保有と運用」を前提にしたプランを練ることから始めてみましょう。

参考文献・出典

  • 国税庁「相続税評価基準」 – https://www.nta.go.jp
  • 国土交通省「賃貸住宅市場の動向報告2025」 – https://www.mlit.go.jp
  • 総務省統計局「家計調査報告」 – https://www.stat.go.jp
  • 東京都都市整備局「特定空家等に対する措置状況」 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp
  • 一般社団法人家族信託普及協会「家族信託の実務ガイド」 – https://www.fiduciary.or.jp

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