築20年を迎えた賃貸物件は、見えない所からじわじわと劣化が進みます。配管のサビや外壁のひび割れは入居者満足度を下げ、家賃収入に直結するからです。とはいえ「どこから手を付ければ良いのか」「資金は足りるのか」と悩むオーナーは多いでしょう。本記事では築20年を区切りに考えるべき修繕計画の組み立て方を、費用相場や2025年度の補助制度まで網羅的に解説します。読み終える頃には、計画表を自力で作成できる判断軸が身につくはずです。
築20年から始める長期修繕の考え方

まず押さえておきたいのは、築20年は「小修繕」から「計画的大規模修繕」へ舵を切るタイミングという点です。国交省の「民間賃貸住宅の維持管理ガイドライン」によると、設備と構造の耐用年数が一斉に重なるのが20〜25年目とされます。つまり表面的な補修だけでは追いつかなくなり、複数の部位を同時に更新する方が結果的にコストを抑えられるのです。
次に、年間キャッシュフロー全体の一〇〜一五%を修繕準備金として確保するルールを作ります。例えば年間家賃収入一千万円の物件なら、一二〇万円前後を毎年積み立てるイメージです。この比率は日本不動産研究所の収益不動産調査でも「長期的に空室率を抑えるための目安」として紹介されています。
最後に、修繕サイクルを一度で終えようとせず、三年ごとのローリング方式で更新することがポイントです。屋上防水・給水管更新・外壁塗装を同年に集中させるのではなく、資金繰りを平準化しながら劣化スピードの速い部分から順次取り組む方法がリスクを最小化します。
修繕箇所と費用相場を2025年データで読む

ポイントは、見積額を部位ごとではなく「㎡単価」で比較することにあります。2025年上期の建設物価調査会資料によれば、外壁塗装は二千五百〜三千円/㎡、屋上防水は三千八百〜四千五百円/㎡が標準価格帯です。これを延べ床一千㎡の三階建てRC造に当てはめると、外壁だけで約三百万円、屋上防水で四十万円前後となります。
一方、給水・排水管の更生は素材によって大きく変動します。塩ビライニングなら二万五千円/戸、ステンレス管へ全面更新すると十二万円/戸が相場です。築二十年時点で配管トラブルが多い場合は、漏水事故による賠償リスクを考慮し、思い切って更新した方が長期の損益は安定します。
内装については、単価が低くても頻度が高い点に注意が必要です。クロス貼り替えが千円/㎡、クッションフロアが二千円/㎡でも、退去率が上がればトータルコストは跳ね上がります。国土交通省の「賃貸市場実態調査」では、築二十年以降の平均入居期間は五年未満に短縮すると指摘されています。したがって、内装材は耐用年数よりも退去サイクルに合わせた予算取りが不可欠です。
キャッシュフローへの影響と資金調達の選択肢
重要なのは、修繕費を「必要経費」として計上できるものと、資本的支出として減価償却するものを分けて考えることです。例えば外壁塗装の色替えを伴わない補修は原状回復扱いになり、その年の経費化が可能です。一方で、断熱性能を高めるための窓交換は資本的支出となり、十五年程度で償却します。税務上の扱いを誤るとキャッシュフローの見通しが大きく狂うため、着工前に税理士へ確認しておきましょう。
資金調達は、日本政策金融公庫の「生活衛生改善貸付」や地銀のアパートローンが候補になります。2025年十二月時点で、変動金利は一・五%前後、固定金利は二・三〜二・五%が一般的です。金利だけでなく返済期間も重要で、修繕部分の耐用年数以内に設定すると資金の回収が加速します。例えば屋根の防水を一五年で行うなら、返済期間も一五年以内に抑えると財務バランスが整います。
さらに、現金が潤沢な場合でも全額自己資金を投入するのは避けたいところです。理由は、突発的な空室増や自然災害リスクに備える安全資金を残せるからです。自己資本比率三〇〜四〇%を維持しつつ、低利融資でレバレッジをかける方が総合的な利回りは高くなる傾向があります。
管理計画と業者選定で失敗しないコツ
まず、修繕計画書には「劣化度判定」「優先度」「次回予定年」の三項目を盛り込みます。この三点があれば、管理会社が変更になってもデータの引き継ぎが容易で、長期的なメンテナンスが断絶しません。
業者選定では相見積もりが定番ですが、価格だけの比較は危険です。現場監督の資格保有者数やアフター保証年数を情報公開しているかを確認し、同等の施工内容で比較する姿勢が求められます。また、施工後の定期点検が契約に含まれているかどうかも見落としがちなポイントです。
実は、施工管理アプリを活用すると写真付きで工程を可視化でき、遠隔地オーナーでも進捗を共有しやすくなります。国土交通省の「建設業のDX推進ガイドライン」でも、クラウド型管理ツールの導入効果が紹介されており、品質トラブルの早期発見につながると報告されています。
2025年度の補助制度と税制優遇を活用する
まず押さえておきたいのは、2025年度も継続する「長期優良住宅化リフォーム推進事業」です。賃貸住宅の省エネ・耐震・劣化対策をセットで行う場合、最大二五〇万円の補助が受けられます。交付申請は着工前に行う必要があり、申請枠が年度後半に消化する傾向にあるため、夏頃までの準備が安全です。
また、一定基準の耐震改修を実施すると固定資産税が一年度分、半額になる特例も継続しています。築二十年超の木造アパートでは一戸あたり約二万円の減税効果が期待でき、改修費用の一部を実質的に回収できます。
加えて、環境省の「先進的窓リノベ2025」では断熱性能を高める窓改修に対し、性能区分ごとに還元率が設けられています。外壁塗装と同時に行えば足場費用を共有でき、補助金と合わせてコストを三〇%程度圧縮できるケースもあるため、工事時期を合わせるメリットは大きいでしょう。
まとめ
築20年の賃貸物件では、小手先の修繕から卒業し、中長期を見据えた計画的メンテナンスが不可欠です。外壁・配管・屋上防水など耐用年数が重なる部位をローリング方式で更新し、年間キャッシュフローの一割強を積み立てれば急な出費にも慌てません。さらに、2025年度の補助制度や税制優遇を組み合わせることで、実質コストを抑えつつ物件価値を底上げできます。今から行動すれば、十年後の家賃水準と売却価格に確かな差が生まれるはずです。まずは劣化度の現状把握から着手し、無理のない資金計画を一枚の表に落とし込んでみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅局「民間賃貸住宅の維持管理ガイドライン」 – https://www.mlit.go.jp
- 建設物価調査会「建築工事費データ 2025年版」 – https://www.kensetu-bukka.or.jp
- 日本不動産研究所「賃貸住宅市場調査 2025」 – https://www.reinet.or.jp
- 国土交通省「建設業のDX推進ガイドライン」 – https://www.mlit.go.jp
- 環境省「先進的窓リノベ2025 事業概要」 – https://www.env.go.jp
- 国税庁「資本的支出と修繕費の区分Q&A」 – https://www.nta.go.jp