築古物件を所有しているオーナーの多くは「家賃を下げれば入居は決まるのか」「設備投資に見合う家賃を取れるのか」と迷います。特に築30年以上になると、建物の価値は減少しながらもローン返済や固定資産税は続くため、適正家賃を見失いやすいものです。本記事では、築30年以上 家賃設定のポイントを最新データと現場感覚の両面から解説します。読み終えたとき、あなたは競合分析の方法からリノベ費用とのバランスまで、具体的な判断基準を手に入れられるでしょう。
築30年以上物件の価値をどう見るか

まず押さえておきたいのは、法定耐用年数だけで家賃を決めてはいけないという点です。国税庁の耐用年数表では木造住宅が22年、鉄骨造が34年と定められていますが、実際には管理状態しだいで住み心地は大きく変わります。逆に図面上は新しくても、管理を怠れば築浅でも賃料は下がるのが現実です。
2025年の国土交通省「住宅市場動向調査」によると、築30年超の賃貸でも「設備が新しい」「共用部が清潔」という条件を満たせば、周辺相場の8〜9割を維持できると報告されています。つまり築年数自体はマイナス材料でも、管理・改善で相当程度の価値を回復できるのです。
一方で、建物構造そのものは時間とともに劣化します。耐震補強が未実施の場合、入居者の安全性が疑問視され家賃下落が加速します。したがって耐震診断や大規模修繕の実施履歴を明確にし、それを家賃交渉の材料に使う姿勢が欠かせません。
適正家賃を決める三つの視点

重要なのは「費用」「需要」「競合」という三つの軸を同時に見ることです。費用とはローン残債や修繕費を含む保有コストで、需要はエリアの人口動向、競合は近隣物件との比較を指します。いずれか一つでも見落とせば収支計画は崩れやすくなります。
費用面では、家賃収入から管理費や固定資産税を差し引いたキャッシュフローが黒字になる設定が大前提です。例えば月7万円の家賃で空室率10%を想定した場合、実質収入は6.3万円になります。そこから管理費1万円と修繕積立1万円を引くと4.3万円が残り、この額がローン返済額を下回れば赤字です。
需要面では総務省の住民基本台帳によると、地方都市でも駅徒歩10分圏内は人口が微増している一方、郊外は微減が続いています。同じ築古でも駅近なら家賃を1割高く設定しても成約する例が多く、立地が需要を底支えしていることがわかります。
競合分析では、ポータルサイトに掲載されている「成約事例」を参考にします。見かけの掲載家賃は下げ交渉を前提に高めに出ているケースが多いため、実際の申込家賃を仲介会社からヒアリングして平均5〜7%の乖離を調整すると実勢価格に近づきます。
修繕と設備更新が家賃に及ぼす影響
ポイントは、修繕費を投下した分だけ家賃を上げられるのかを数値で検証することです。例えばユニットバス交換が80万円、家賃上昇が月3000円なら回収には約22年かかります。一方、インターネット無料化は一戸あたり初期2万円、月額1000円の家賃アップで約2年で償却できるため費用対効果が高いと言えます。
また、築30年以上の物件は断熱性能が低く光熱費がかさみがちです。内窓設置や高効率エアコン導入は、入居者のランニングコストを下げるため訴求力が高まります。国の断熱リフォーム補助は2025年度も継続しており、上限が30万円に拡充されたため費用負担を抑えられる点は見逃せません。
修繕の優先順位を決める際は、「機能回復」「快適性向上」「デザイン刷新」の順で検討します。まず雨漏りや給排水トラブルは家賃以前に物件価値を大きく毀損するからです。次に設備更新で快適性を上げ、最後にアクセントクロスなど見栄えを整える流れが合理的です。
競合分析で実勢賃料を見極める
実は、競合を調べる際に築年数だけを揃えても意味がありません。同じ築古でもフルリノベ済み物件と未改装物件では入居者の評価がまったく異なるからです。そのため内装グレード、設備年式、駅距離を項目化し、条件をそろえた上で家賃を比較することが不可欠です。
ここで役立つのが、国土交通省「不動産取引価格情報検索」を活用した周辺取引事例の確認です。過去1年以内に成約した賃貸の実質家賃を抽出し、築年数でフィルターをかけると平均値だけでなく分布も把握できます。中央値と最頻値を併用すると、極端な高値・安値の影響を軽減できるため、より現実的な家賃帯をつかめます。
データだけでなく仲介会社へのヒアリングも欠かせません。募集から成約までの平均日数を聞くと、想定賃料での決まりやすさがわかります。平均募集期間が60日以内なら設定家賃は適正、90日を超えるようなら高止まりの可能性が高いと判断できます。
家賃設定後に必ず行うべきフォロー
家賃を決定したあとも、定期的な見直しが安定経営には必要です。総務省家計調査によると、2024~2025年の単身世帯の住居費割合は平均16%でほぼ横ばいですが、光熱費は上昇傾向にあります。入居者の可処分所得が圧迫されれば、家賃に対するシビアな目線は強まります。
募集開始後は、週に一度はポータルサイトの閲覧数や問い合わせ数を確認し、反応が薄い場合は写真の差し替えやコメント追加を行います。それでも問合せが増えなければ、家賃を1〜2%刻みで下げる「スライド方式」を取り入れ、長期空室を回避します。
さらに、入居者アンケートを実施して「こうだったら家賃を上げても住み続けたい」と感じるポイントを把握する方法も有効です。例えば宅配ボックスや防犯カメラの設置が要望上位に挙がるケースが多く、小規模な投資で満足度を高めやすい設備として人気です。
まとめ
結論として、築30年以上 家賃設定で成功する鍵は、築年数のハンデを管理状態とデータ分析でカバーすることに尽きます。費用・需要・競合の三軸を数値で把握し、費用対効果の高い修繕を優先すれば、周辺相場の8〜9割程度の賃料を維持することは十分可能です。大切なのは設定後の小まめな検証と改善で、家賃を決めた瞬間から次の見直しが始まると意識することです。今日から実勢データの収集と物件診断を進め、長期的な安定経営へ一歩を踏み出しましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅市場動向調査2025年度版 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 住民基本台帳人口移動報告2025年 – https://www.soumu.go.jp
- 国税庁 令和7年度 耐用年数表 – https://www.nta.go.jp
- 国土交通省 不動産取引価格情報検索システム – https://www.land.mlit.go.jp
- 総務省 家計調査報告 2025年版 – https://www.stat.go.jp