年収が700万円前後になると、貯蓄だけでは資産形成が頭打ちになりやすく、収益物件への投資を考え始める方が増えます。しかし「失敗したら生活が傾くのでは」と不安に感じるのも当然です。本記事では、年収700万の会社員が直面しやすい資金・融資・物件選びのリスクを整理し、2025年12月時点で利用できる税制や制度を踏まえて安全に一歩を踏み出す方法を解説します。最後まで読めば、数字に裏打ちされた判断基準を持ち、焦らず準備を進める具体的なイメージがつかめるはずです。
年収700万の投資戦略を描く前に

まず押さえておきたいのは、手取りと可処分所得の違いです。総務省の家計調査によると、年収700万円の標準世帯では可処分所得が概ね520万円前後に落ち着きます。このうち住宅ローンや教育費など固定支出を差し引くと、投資に回せる余力は年間150〜200万円程度にとどまるケースが多いです。つまり、自己資金として用意できる額や毎月の返済余力を正確に把握しないと、過大な融資を組んでキャッシュフローが赤字になるリスクが高まります。ここで重要なのは、家計全体のバランスシートを先に組み立て、投資可能枠を数値化することです。
次に、生活防衛資金を6か月分確保してから投資資金を分離する手順が欠かせません。日本銀行「資金循環統計」によれば、投資家が手元流動性を厚く保つほど金融ストレス局面で保有不動産を安売りする比率が下がると示されています。投資枠が明確になれば、自己資金3割・融資7割を基本とする安全モデルに落とし込みやすくなり、借入額が年収の6〜7倍に収まる水準で計画を立てやすくなります。
キャッシュフロー計算の基本と落とし穴

ポイントは、表面利回りよりも実質利回りを重視することです。たとえば表面利回り6%の中古アパート(価格4000万円)を購入すると、年間家賃収入は240万円になります。しかし管理費5%、固定資産税1.5%、修繕積立1.5%を差し引くと、手残りは約180万円に減少します。さらに空室率10%を想定すると162万円となり、ローン返済が月10万円(年間120万円)なら、実質キャッシュフローは42万円にすぎません。言い換えると、想定外の修繕が発生した年は簡単に赤字へ転落します。
実は、年収700万層は返済比率が高くなると生活費への影響が直撃しやすいです。そのため、空室率20%まで耐えられるか、金利が1%上昇しても黒字かをシミュレーションしておく必要があります。国土交通省「不動産価格指数」によると、2020年代後半は地方都市でも価格変動が大きく、出口戦略を考慮しないと評価額と残債の逆転リスクも高まります。数字を厳しく見積もる姿勢が将来の心労を減らす近道です。
融資条件が変えるリスクとリターン
重要なのは、金融機関ごとの審査方針を把握し、自己資金割合を調整することです。都市銀行は1億円超の物件に強い一方で、年収700万では与信枠が限られ、金利も1.8〜2.3%に設定されやすい傾向があります。地方銀行や信用金庫は投資エリアに支店があると金利1.5%前後を提示するケースがあり、融資期間も長めに取れることが多いです。ただし返済期間を伸ばすと総返済額は増えるため、繰上返済計画とセットで検討する姿勢が欠かせません。
また、2025年度まで継続する所得税法上の「青色申告特別控除(最大65万円)」を活用する前提で、事業的規模に届くかどうかもリスクに直結します。5棟10室基準を満たさない小規模投資では控除額が10万円に減るため、税引き後キャッシュフローが悪化する可能性があります。金融機関が重視するのは実質収支なので、控除分を含めたネットキャッシュを事前に説明できるよう試算書を整えると、金利優遇や融資枠拡大につながることもあります。
物件タイプ別リスク比較
まず押さえておきたいのは、木造一棟アパート、RC(鉄筋コンクリート)区分マンション、戸建賃貸でリスク構造が大きく異なる点です。木造は初期費用が抑えやすく利回りも高めですが、耐用年数22年の減価償却が早期に終了し、その後の税負担が増すリスクがあります。RC区分は立地が良い物件が多く空室リスクは低いものの、管理組合の修繕積立金増額が続くと利回りが下がります。戸建賃貸は長期入居が期待できる反面、入居者退去時の原状回復費が高額化しやすい点に注意が必要です。
さらに、人口動態を無視した地方高利回り物件には要警戒です。総務省「住民基本台帳人口移動報告」では2024年時点で全国815市区町村が5年連続人口減となっています。家賃下落が固定化すると、利回り10%でも実質は5%以下へ低下する事例が珍しくありません。年収700万層には、まずは勤務先から通える範囲かつ人口微増エリアの中規模都市を狙い、管理会社と顔を合わせられる距離感で物件を運営する方法が現実的です。
2025年度の制度活用でリスクを抑える
ポイントは、確実に利用できる税制優遇と補助制度を押さえ、複利効果を高めることです。2025年度も継続している減価償却費計上は、物件種別と築年数に応じて経費化でき、実効税率を下げる代表的な手段です。たとえば築20年の木造アパートを法定耐用年数の経過後に取得すると、4年の定率法で大きな経費計上が可能となり、初期数年間のキャッシュフローを守れます。
加えて、「住宅取得等資金の贈与税非課税制度(2025年度)」は賃貸用物件には直接適用されませんが、親からの贈与で自己資金を増やし、借入比率を下げる方法として間接的にリスク低減に役立ちます。小規模企業共済やiDeCoといった節税制度を併用し、所得控除で手残りキャッシュを厚くしておくと、突発的な修繕にも自己資金で対応しやすくなります。つまり、制度は直接的な補助だけでなく、間接的にリスク耐性を高める視点で組み合わせることが大切です。
まとめ
本記事では、年収700万の会社員が収益物件に挑戦する際に直面する資金計画、キャッシュフロー、融資、物件タイプ、制度活用のリスクを整理しました。家計のバランスシートを把握し、空室率20%や金利上昇1%でも耐えられるシミュレーションを行う姿勢が要となります。さらに、青色申告特別控除や減価償却といった2025年度も有効な制度を組み合わせれば、リスクを抑えつつ安定した投資を実現できます。いまから数字に基づく準備を始め、信頼できる管理会社・金融機関と関係を築けば、収益物件は将来の資産形成を力強くサポートしてくれるはずです。
参考文献・出典
- 総務省統計局 家計調査 – https://www.stat.go.jp
- 日本銀行 資金循環統計 – https://www.boj.or.jp
- 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 住民基本台帳人口移動報告 – https://www.soumu.go.jp
- 国税庁 所得税法令集(青色申告・減価償却) – https://www.nta.go.jp