事業用不動産、とりわけオフィスへの投資を検討するうえで、空室率は収益性を左右する最重要指標です。2026年のオフィス市場は、コロナ禍を経た働き方の変化を吸収し、明確な回復局面に入っています。単純に面積を削減する企業がある一方で、生産性向上を重視して質の高いオフィスへ移転する動きも活発化しています。
この記事では、2026年の事業用不動産の空室率を最新データにもとづいて解説し、オフィスREITへの投資判断に必要な視点をお伝えします。都心と地方の格差、新築と既存の二極化、そして個別REITの評価方法まで、初心者の方にも理解しやすい形で説明していきます。
2026年の事業用不動産の空室率は歴史的低水準へ
まず押さえておきたいのは、2026年のオフィス空室率が大きく改善しているという事実です。三鬼商事の調査によると、東京ビジネス地区(都心5区)の平均空室率は2026年5月時点で2.07%まで低下しました。オフィスビルの健全な運営が可能とされる5%の基準を大きく下回っており、需給バランスが貸手優位に傾いていることを示しています。
ただし、この平均値の内側には明確な二極化が潜んでいます。同じ調査では、既存ビルの空室率が1.89%であるのに対し、新築ビルは11.78%と大きな差が生じています。つまり、竣工直後のビルはテナント募集の途上にあるため一時的に空室が多く見えますが、既存の稼働済みビルはほぼ満室に近い状態にあるのです。この構造を理解しないと、平均値だけを見て市場を誤解してしまいます。
賃料も上昇基調が続いています。東京ビジネス地区の平均賃料は坪あたり22,845円で、前年同月比では9.96%も上昇しました。空室が減るなかで貸手が強気の価格設定に転じており、収益性の面でも追い風が吹いている状況です。実際、三菱地所リアルエステートサービスのレポートによると、2025年度の東京主要7区の成約面積は募集開始面積の約2倍に達し、市場全体は「需要過多・貸手優位」と整理されています。
重要なのは、空室率の数値そのものよりも、その背景にある市場構造を理解することです。企業は従業員の働きやすさや生産性を重視した質の高いオフィスを求めるようになりました。このトレンドが物件グレードによる空室率の格差を生み、優良物件への需要が旺盛である一方、競争力の低い物件は苦戦するという構図を定着させています。
働き方の変化がオフィス需要を根本から変えた
働き方改革とテレワークの定着により、企業がオフィスに求める機能は根本的に変わりました。従来のオフィスは個人が作業を行う場所という位置づけでしたが、現在は「コミュニケーションとイノベーションの場」として再定義されています。この認識の変化が、オフィス需要の質的転換をもたらしています。
実は、テレワークが定着してもオフィス回帰の流れは着実に進んでいます。CBREのテナント調査では、2025年時点で一般社員の全国の出社率は72.2%に達しました。同調査によると「毎日出社」を求める経営層は多く、今後もオフィス環境の改善や充実のために投資を増やす予定の企業が多いと報告されています。人材確保の観点から、働く場所の質が採用競争力に直結すると考える企業が増えているのです。
この変化を象徴するのが、フリーアドレス制やコワーキングスペースの普及です。固定席を廃止し、用途に応じて働く場所を選べる設計が主流になりつつあります。その結果、広めの共用スペースや会議室を備えた物件への需要が高まっています。環境性能への関心も高まっており、ESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視した投資)の観点から、省エネ性能の高いビルが選好される傾向が強まっています。
立地に対する考え方にも変化が見られます。従来は駅からの距離が最重要視されていましたが、現在は周辺環境の充実度も重視されるようになりました。カフェやレストラン、公園などが近く、従業員がリフレッシュできる環境が整ったエリアの人気が高まっています。これは、オフィスを単なる作業場所ではなく、働く人の生活の質を高める場所として捉える企業が増えていることの表れです。
エリア別に見る空室率の明暗
ひとくちに事業用不動産といっても、エリアによって空室率には大きな差があります。それぞれの特性を理解することで、より精度の高い投資判断が可能になります。
東京都心5区の内部格差
東京都心5区は全体として極めて低い空室率を維持していますが、区ごとにも差があります。三鬼商事の2026年5月データでは、千代田区が1.23%、渋谷区が1.28%と特に低く、中央区は2.92%とやや高めでした。千代田区の大手町・丸の内エリアは大手企業の本社需要に支えられ、渋谷区はIT・メディア系企業の集積を背景に堅調な需要が続いています。
一方で、中央区の日本橋エリアなどでは大規模な再開発が進行しており、新規供給のタイミングによっては一時的に空室率が動く可能性があります。ただし前述のとおり、新築ビルの空室は募集途上のものが中心であり、竣工後の吸収力は高い状況です。実際にJLLによると、2026年に供給予定の東京Aグレードオフィス約46万平方メートルのうち、すでに約60%が内定しているといいます。
大阪・名古屋の回復基調
関西・中部の主要都市も改善が続いています。大阪ビジネス地区の平均空室率は2026年5月時点で3.04%となり、5カ月連続の低下を記録しました。平均賃料も坪あたり13,239円へ上昇しており、需給の引き締まりが賃料に波及しています。名古屋ビジネス地区は3.57%で、名駅地区が2.45%と好調な一方、伏見地区は4.65%とサブマーケットによる差が見られます。
日本不動産研究所が2026年4月に公表した予測でも、この回復基調は続く見通しです。同予測では、東京ビジネス地区の2026年空室率が2.0%まで低下し、賃料は前年比5%前後の上昇が続くとされています。大阪は空室率3.0%、賃料5.5%上昇、名古屋は約7万坪の大量供給が見込まれても、リーシングが好調なため空室率は3.5%へわずかに低下すると予測されています。
地方主要都市とエリア内の二極化
地方都市では、同じ都市の中でもエリアによって明暗が分かれます。福岡ビジネス地区の平均空室率は2026年5月時点で4.50%ですが、天神地区が6.91%と高めである一方、博多駅前地区は3.19%と低く、その差は歴然としています。天神ビッグバンと呼ばれる再開発により新規供給が進んでいることが、天神エリアの数値に影響していると考えられます。
このように、地方都市への投資を検討する際は、都市単位ではなくエリア単位、さらにはビル単位で需給を見極めることが欠かせません。人口動態や企業の進出状況、再開発計画の有無などを総合的に分析することで、投資判断の精度が高まります。なお、札幌や仙台など準主要都市の最新動向は個別事情によって異なるため、最新情報は各調査機関の公式レポートでご確認ください。
オフィスREITが保有する物件の特性を理解する
オフィスREITが保有する物件は、一般的な賃貸オフィスビルとは異なる特徴を持っています。この特性を理解することで、個別のREITを評価する際の視点が明確になります。
最も顕著な特徴は立地の優位性です。主要なオフィスREITは、都心部の主要駅から徒歩数分という好立地の物件を中心に保有しています。このような立地は景気変動の影響を受けにくく、長期的に安定した稼働率を維持しやすい傾向があります。実際、ジャパンエクセレント投資法人は2026年5月末時点で月次稼働率98.1%を達成しており、32物件で資産規模は約2,913億円に上ります。日本ビルファンド投資法人でも、2026年3月末時点の総合計稼働率は98.0%と高水準を維持しています。
物件規模も重要な評価ポイントです。REITが保有するオフィスビルは中大規模物件が中心で、複数のテナントが入居するため、一社の退去による収益への影響を分散できます。多くのREITは定期的な大規模修繕や設備更新を計画的に実施し、築年数が経過しても競争力を維持できるよう努めています。空調設備の最新化やセキュリティシステムの導入により、築年数を重ねた物件でも新築に近い機能性を実現するケースが増えています。
さらに注目したいのが、賃料上昇局面を収益に取り込む戦略です。ジャパンエクセレント投資法人は、賃料増額の目標として入替時に増額率10%以上、改定時に増額割合40%以上、増額改定率7%以上というKPIを掲げています。空室率が下がり賃料が上昇している市場環境を、テナント入替や賃料改定を通じて分配金の成長につなげようとしているのです。こうした運用姿勢の有無が、REIT間の実力差として表れてきます。
空室率を投資判断に活用するための分析手法
空室率を投資判断に活用する際は、単純な数値だけでなく、その推移と背景を総合的に分析することが重要です。ここでは実践的な視点を解説します。
まず注目すべきは空室率のトレンドです。過去数年の推移を確認し、改善傾向にあるのか悪化傾向にあるのかを見極めましょう。現在の空室率が同じ水準でも、そこへ至る方向性によって評価は大きく変わります。このトレンド分析により、そのREITの運営能力や市場での競争力を推測できます。
次に、空室率の定義そのものにも注意が必要です。三菱地所リアルエステートサービスは、募集中の全フロアを対象とした「潜在空室率」(2026年5月時点で主要7区2.38%)と、即日入居可能な区画のみを対象とした「空室率」(同1.14%)を分けて公表しています。同じ市場でも定義によって数値が変わるため、比較する際は前提をそろえることが欠かせません。
空室率と賃料水準の関係も重要な分析ポイントです。空室率が低くても、賃料を大幅に下げて達成している場合は、実質的な収益性が低下している可能性があります。逆に、適正な賃料を維持しながら低い空室率を実現しているREITは、真の競争力を持つと評価できます。決算資料やIR資料で開示される坪単価の推移を確認することで、この点を検証できます。
将来の新規供給予定も考慮すべき要素です。ただし、JLLの分析によれば2026年供給予定の東京Aグレードオフィスは供給前から6割が内定しており、新規供給が必ずしも空室率悪化に直結しない点は注目に値します。新規供給は既存物件からの移転需要を生み出す側面もあるため、供給増加を一律にネガティブと捉えるのは適切ではありません。
2026年以降のオフィスREIT市場の展望
2026年以降のオフィスREIT市場は、賃料上昇という追い風のなかで、金利という向かい風と向き合う局面に入っています。投資家として注目すべきトレンドとリスク要因を整理しておきましょう。
まず、市場全体の投資マネーは活況を呈しています。CBREによると、2025年の日本の不動産投資額は6兆円を超えて過去最高となり、2026年も高水準の投資活動が続く見通しです。オフィスの多機能化やスマートビルディング技術の導入により付加価値を高められるREITは、テナント満足度と賃料単価を同時に引き上げやすく、競争優位を確立しやすい環境にあります。
一方で、金利上昇はREIT特有のリスク要因です。借入コストの増加は分配金に影響しうるため、各REITの資金調達方針を確認することが重要になります。ジャパンエクセレント投資法人は、平均残存期間4.2年という長期資金の安定性を活かして金融コスト上昇を抑制する方針を示し、LTV47%までの借入余力を物件取得に活用する考えを明示しています。こうした財務戦略の巧拙が、金利上昇局面での明暗を分けることになります。
したがって、これからのオフィスREIT選びでは、稼働率の高さだけでなく、賃料増額を実現する運用力と、金利上昇に耐える財務基盤の両面を評価することが求められます。景気後退により企業のオフィス需要が減退するリスクも常に存在するため、複数のREITへ分散し、長期的な視点で投資判断を行うことが大切です。
まとめ
2026年の事業用不動産市場は、働き方の変化を吸収して質の高いオフィスへの需要が着実に回復し、空室率は歴史的な低水準に達しています。東京都心5区の平均空室率は2.07%まで低下し、賃料も前年比約10%上昇するなど、貸手優位の環境が鮮明です。ただし新築と既存、エリアやサブマーケットによる格差は依然として大きい点に注意が必要です。
投資判断においては、空室率の数値や定義、そのトレンド、賃料水準との関係、そして各REITの財務戦略を総合的に分析することが成功の鍵となります。まずは複数のREITの決算資料や月次稼働率を比較検討し、稼働率の高さと賃料成長力、財務の健全性を見比べることから始めてみてください。継続的な情報収集と冷静な分析が、長期的な投資成果につながります。
参考文献・出典
- 三鬼商事株式会社 オフィスマーケット(東京・大阪・名古屋・福岡) – https://www.e-miki.com/
- 一般財団法人日本不動産研究所 オフィス市場動向予測推計 2026年版 – https://www.reinet.or.jp/
- JLL 東京Aグレードオフィス市場レポート – https://www.jll.com/ja-jp/
- CBRE オフィスの利用状況に関するテナント調査2025/Japan Market Outlook 2026 – https://www.cbre.co.jp/
- 三菱地所リアルエステートサービス 東京オフィスマーケット動向 – https://www.mecyes.co.jp/
- ジャパンエクセレント投資法人 決算説明資料 – https://www.excellent-reit.co.jp/
- 日本ビルファンド投資法人 物件別稼働率 – https://www.nbf-m.com/
※本記事は市場データにもとづく一般的な解説であり、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。最新の数値や制度情報は各機関の公式サイトでご確認ください。