相続税の負担を抑えつつ、安定した家賃収入も得たい––そう考えて「戸建て賃貸 相続対策」に興味を持つ方が増えています。しかし、物件選びや税制度の仕組みを誤解したまま進めると、思わぬ課税や空室リスクに悩まされることも少なくありません。本記事では、相続専門の税理士と連携しながら15年以上戸建て賃貸を運用してきた筆者が、評価減の基本から2025年度の最新制度、出口戦略までをやさしく解説します。読み終えるころには、ご自身の資産と家族に合った具体的な行動ステップが見えてくるはずです。
相続対策として戸建て賃貸が注目される理由

重要なのは、戸建て賃貸が「自宅の延長線上にある賃貸住宅」として扱われやすい点です。共同住宅より土地持ち分が大きいため、建物の減価償却費と土地評価減を同時に狙えます。
まず戸建てはファミリー需要が底堅く、平均入居期間がアパートより3〜5年長いという国交省の調査結果があります。入れ替えコストを抑えられるため、運営が安定しやすいのです。また、庭付きや駐車場付きといった付加価値を付けやすく、家賃下落への耐性も高められます。
相続の観点では、現金を賃貸用建物と土地に組み替えることで、土地は路線価評価、建物は固定資産税評価という「相場より低め」の価格が課税ベースになります。つまり同じ1億円でも、現金のまま相続するより課税評価額を3〜4割圧縮できるケースが珍しくありません。
さらに戸建ての場合、居住用の小規模宅地等の特例(2025年度も継続見込み)を満たしやすく、要件をクリアすれば土地評価が最大80%減になる可能性があります。こうした制度と市場ニーズの両面が、戸建て賃貸の人気を押し上げています。
現金より有利?評価減と税負担の仕組み

ポイントは「貸家建付地評価」と「建物評価」の二段階で課税価値が下がることです。貸家建付地とは、第三者に貸し付けている土地を指し、路線価の約20%が控除されるルールが適用されます。
たとえば、路線価2,000万円の土地を戸建て賃貸として貸し出した場合、土地評価は約1,600万円になります。さらに建物も固定資産税評価額で見るため、新築時点で建築費の50〜60%程度に圧縮されるのが一般的です。国税庁が公表する「財産評価基本通達」に基づく計算なので、手続きも複雑ではありません。
一方、現金や上場株式は額面どおりで評価され、節税余地がほとんどないことと比較すると差は歴然です。ただし、融資を受けて物件を取得した場合、借入金は債務控除として相続財産から差し引けますが、返済が進むと控除額は減るため、長期シミュレーションが欠かせません。
このように評価減は魅力的ですが、過度な税負担軽減だけを目的にすると、賃料下落や空室のリスクに備えられません。相続人が将来も保有したい物件か、売却しても買い手が付く立地かを事前に検討する姿勢が必要です。
成功する物件選びと運営ポイント
まず押さえておきたいのは「出口を見据えた立地選び」です。人口が純増している政令指定都市か、雇用が集中する駅近エリアであれば、築20年を過ぎても戸建て需要が継続しやすい傾向があります。
実はファミリー層が求めるのは家賃だけでなく学区や治安です。筆者は過去に駅から徒歩20分でも人気校区内の物件を取得し、想定を超える家賃設定に成功しました。周辺の同タイプより1万円高くても、転居コストが大きい子育て世帯は長期入居してくれます。
運営面では、定期借家契約を活用して契約更新時に賃料改定交渉をしやすくする方法があります。2025年現在、多くのオーナーは普通借家契約を選びがちですが、長期入居が前提の戸建てこそ定期借家のメリットが生きます。更新事務手数料や原状回復義務を明確にできるからです。
さらにキャッシュフロー管理には、修繕積立金として年家賃収入の10%を別口座にプールするのが現実的です。屋根・外壁・給湯器など高額修繕が10〜15年周期で発生するため、最初から積み立てておけば想定外の持ち出しを防げます。家族が相続後も安心して運営を継続できる体制を築くことが、最終的な資産保全につながります。
2025年度の法制度と活用できる特例
基本的に、相続税法そのものに大幅な改正は予定されていませんが、2025年度も次の特例が続く見通しです。
・小規模宅地等の特例 ・相続時精算課税制度の特別控除2,500万円 ・住宅取得等資金の贈与非課税(期限付き、2026年3月まで)
上記のうち、戸建て賃貸と相性が良いのは小規模宅地等の特例です。賃貸併用住宅のほか、被相続人の居住用と賃貸用双方で使える余地があります。ただし、賃貸経営を継続することが要件となるため、相続人がすぐに売却すると特例が取り消されるリスクがあります。
また、2025年度税制改正大綱では「空き家譲渡特例」の適用期限が2年延長される方針です。もし入居者退去後に売却を検討する場合、譲渡所得3,000万円控除を活用できる可能性があります。条件として昭和56年以前建築の耐震基準などがあるため、早めに建築確認書を確認しておくと安心です。
結論として、制度を使いこなすには「適用要件と継続年数」を把握し、将来の売却や建替え計画と整合させることが最重要です。税と不動産、双方の専門家を交えた年間レビューを行い、制度変更に備える習慣を身につけましょう。
長期視点で見るリスク管理と出口戦略
重要なのは、相続発生後10年、20年先まで視野に入れたリスク管理です。高齢化で空室率が上昇した場合に備え、賃貸から売却、そして場合によっては自己使用へと選択肢を広げておくと資産価値を守れます。
たとえば土地140㎡の戸建てを持つ場合、用途地域次第では分割して更地で売却するほうが収益物件として売るより手残りが大きいケースがあります。国交省の「土地白書」によると、住宅地の平均取引単価は戸建て用地のほうがアパート用地より15〜20%高い傾向が続いています。いざという時に最も換金しやすい形は何か、家族会議で共有することが不可欠です。
一方で、長期保有を前提とするなら家賃保証会社との連携、IoT機器による遠隔管理など、管理負担を軽減する仕組みを相続人世代が理解しておくと運営が滞りません。筆者はスマートロックとオンライン内見を導入し、退去から再入居まで平均空室期間を12日短縮できました。数字で効果を示すことで、家族の納得感も高まります。
最後に、相続開始前に「家族信託」を活用する方法もあります。受益権を分けておけば、認知症リスクで管理が停滞する事態を避けられます。ただし、信託設定にも費用と手間がかかるため、家族の合意形成と専門家のサポートが前提になる点を忘れないでください。
まとめ
本記事では、戸建て賃貸が相続対策として有効な理由、評価減の仕組み、物件選びと運営のコツ、2025年度の制度活用、そして長期リスク管理までを解説しました。戸建て賃貸は税負担を抑えつつ安定収入を生み、家族への承継もしやすい選択肢です。一方で、立地選定と制度要件を誤ると節税効果が薄れ、将来売却も難しくなります。まずは家族と資産の棚卸しを行い、税理士や不動産会社と具体的なシミュレーションを作成しましょう。行動を先延ばしにせず、今日から情報収集と専門家相談を始めることが、家族の未来を守る第一歩です。
参考文献・出典
- 国税庁 – https://www.nta.go.jp
- 国土交通省 住宅局 – https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku
- 総務省統計局 – https://www.stat.go.jp
- 日本政策金融公庫 – https://www.jfc.go.jp
- 一般社団法人 不動産流通経営協会 – https://www.frk.or.jp