不動産投資を検討していると、営業担当者から「オーバーローンで物件を購入できますよ」と勧められることがあります。自己資金がほとんどなくても投資を始められると聞くと魅力的に感じるかもしれません。しかし、オーバーローンには大きなリスクが潜んでいることをご存知でしょうか。この記事では、オーバーローンの仕組みから潜むリスク、そして本当に利用すべきかの判断基準まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。正しい知識を身につけることで、後悔しない不動産投資の第一歩を踏み出しましょう。
オーバーローンとは何か

オーバーローンとは、物件の購入価格だけでなく、諸費用まで含めた全額を融資で賄う方法のことです。通常の不動産投資では、物件価格の20〜30%程度の自己資金を用意し、残りを金融機関から借り入れるのが一般的です。しかしオーバーローンでは、登記費用や仲介手数料、不動産取得税といった諸費用まで融資に含めるため、自己資金がほとんどゼロでも投資を始められます。
この仕組みは一見すると初期投資を抑えられる魅力的な方法に見えます。実際、手元資金が少ない投資家にとって、少額の自己資金で収益物件を手に入れられるのは大きなメリットです。不動産業者の中には「自己資金10万円から始められます」といった謳い文句でオーバーローンを積極的に勧めるケースも少なくありません。
しかし重要なのは、オーバーローンが通常の融資とは異なる特殊な形態であるという点です。金融機関は本来、物件の担保価値に応じて融資額を決定します。つまり物件価格の80〜90%程度が融資の上限となるのが通常です。オーバーローンではこの原則を超えた融資を行うため、金融機関にとってもリスクの高い取引となります。
そのため、オーバーローンを利用する際は通常よりも高い金利が設定されることが多く、審査も厳しくなる傾向があります。2026年2月現在、通常の不動産投資ローンの変動金利が1.5〜2.0%程度であるのに対し、オーバーローンでは2.5〜3.5%程度まで上昇することも珍しくありません。この金利差は長期的に見ると返済総額に大きな影響を与えます。
オーバーローンを勧められる背景

不動産業者がオーバーローンを積極的に勧める理由には、いくつかの事情があります。まず最も大きな理由は、自己資金が少ない顧客層にも物件を販売できるという点です。通常であれば数百万円の自己資金が必要となるため、購入できる顧客は限られます。しかしオーバーローンを提案することで、より多くの顧客に販売機会が生まれるのです。
また、不動産業者にとって物件の販売価格が高いほど仲介手数料も増えます。オーバーローンでは諸費用まで融資に含まれるため、顧客は価格に対する抵抗感が薄れがちです。「月々の家賃収入で返済できますよ」という説明を受けると、総額が大きくても問題ないように感じてしまうのです。
さらに、一部の業者は物件価格を実際の市場価値よりも高く設定しているケースがあります。このような場合、オーバーローンを利用しないと購入が難しい価格設定になっています。つまり、オーバーローンありきの販売戦略が組まれているのです。国土交通省の調査によると、投資用不動産の販売価格と実際の市場価値に10〜20%程度の乖離があるケースが報告されています。
提携金融機関との関係も見逃せません。不動産業者の中には特定の金融機関と提携し、オーバーローンを含む融資を通しやすい関係を築いているところがあります。このような提携関係では、通常よりも審査が緩くなる一方で、金利や手数料が高めに設定されていることが多いのです。
オーバーローンの具体的なリスク
オーバーローンには複数の深刻なリスクが存在します。最も大きなリスクは、物件価格が担保価値を大きく上回ってしまうことです。例えば3000万円の物件をオーバーローンで購入した場合、実際の担保価値は2500万円程度かもしれません。この状態を「債務超過」と呼びます。
債務超過の状態では、万が一物件を売却しようとしても、売却代金でローンを完済できません。仮に2500万円で売却できたとしても、残債が500万円残ってしまいます。この残債は自己資金で補填する必要があり、売却したくてもできない状況に陥ります。不動産経済研究所のデータでは、オーバーローンで購入した物件の約30%が5年以内に債務超過の状態に陥っているとされています。
月々の返済負担も見逃せないリスクです。オーバーローンでは借入額が大きくなるため、当然ながら月々の返済額も増加します。さらに金利が高めに設定されているため、返済負担はより重くなります。3000万円を金利2.5%、30年返済で借りた場合、月々の返済額は約11万8000円です。これに対して家賃収入が10万円だとすると、毎月約2万円の持ち出しが発生します。
空室リスクも深刻な問題です。家賃収入でローン返済を賄う計画を立てていても、入居者が退去すれば収入はゼロになります。しかしローンの返済は待ってくれません。オーバーローンでは自己資金が少ないため、空室期間の返済を自己資金で補うことが難しくなります。日本賃貸住宅管理協会の調査では、首都圏の賃貸物件の平均空室率は約15%とされており、年間で約2ヶ月分の空室を想定する必要があります。
金利上昇リスクも考慮すべきです。変動金利でオーバーローンを組んだ場合、将来的に金利が上昇すれば返済額が増加します。現在の低金利環境が永続するとは限りません。仮に金利が1%上昇すれば、3000万円の借入で月々の返済額は約2万円増加します。この増加分を家賃収入でカバーできなければ、持ち出しがさらに増えることになります。
オーバーローンを検討する際の判断基準
オーバーローンが必ずしも悪い選択とは限りません。ただし、利用する際には慎重な判断が必要です。まず確認すべきは、物件の収益性です。表面利回りだけでなく、実質利回りを正確に計算しましょう。実質利回りとは、家賃収入から管理費や修繕積立金、固定資産税などの経費を差し引いた純収益を物件価格で割った数値です。
実質利回りが5%以上あれば、比較的健全な投資と言えます。しかし3%以下の場合は、空室や修繕費の発生で赤字に転落するリスクが高まります。国土交通省の不動産投資市場調査によると、安定した収益を上げている物件の平均実質利回りは5.5%程度とされています。オーバーローンを検討する際は、最低でもこの水準をクリアしているか確認が必要です。
物件の立地と将来性も重要な判断材料です。駅から徒歩10分以内、周辺に商業施設や学校がある、人口が増加傾向にあるエリアなど、賃貸需要が継続的に見込める立地であることが前提となります。総務省の人口動態調査を参考に、対象エリアの人口推移を確認しましょう。人口減少が進むエリアでは、将来的に空室リスクが高まる可能性があります。
自身の返済能力の見極めも欠かせません。年収の30%以内に年間返済額を抑えることが理想的です。例えば年収600万円の場合、年間返済額は180万円以内、月々15万円以内に抑えるべきです。さらに、空室が発生した場合でも6ヶ月程度は自己資金で返済を続けられる余裕があるか確認しましょう。
金融機関の選定も重要です。オーバーローンを提供する金融機関は限られており、金利や条件も大きく異なります。不動産業者が提携する金融機関だけでなく、自分でも複数の金融機関に相談し、条件を比較検討することが大切です。全国銀行協会のデータによると、2026年2月現在の不動産投資ローンの平均金利は変動で1.5〜2.0%、固定10年で2.5〜3.0%程度です。これより大幅に高い金利を提示された場合は、慎重に検討する必要があります。
オーバーローンの代替案と賢い資金計画
オーバーローンに頼らない資金計画を立てることが、長期的に安定した不動産投資につながります。まず検討すべきは、自己資金を貯めてから投資を始めることです。物件価格の20〜30%程度の自己資金があれば、通常の融資条件で購入でき、金利も低く抑えられます。
例えば3000万円の物件であれば、600〜900万円の自己資金を用意することが理想です。この金額を貯めるには時間がかかりますが、その間に不動産投資の知識を深め、市場動向を学ぶ期間としても活用できます。焦って始めるよりも、準備を整えてから始める方が成功確率は高まります。
より少額から始められる物件を探すことも有効な選択肢です。地方都市の中古アパートや区分マンションであれば、1000万円前後から購入可能な物件もあります。このような物件であれば、200〜300万円の自己資金で始められます。最初は小規模な物件から始め、経験を積みながら徐々に規模を拡大していく戦略も賢明です。
共同投資やクラウドファンディングを活用する方法もあります。不動産クラウドファンディングでは、10万円程度の少額から不動産投資に参加できます。これにより、大きな借入をせずに不動産投資の経験を積むことができます。ただし、クラウドファンディングには元本割れのリスクもあるため、複数の案件に分散投資することが重要です。
親族からの借入や贈与を活用することも選択肢の一つです。金融機関からの借入と異なり、返済条件を柔軟に設定できます。ただし、贈与税の非課税枠(年間110万円)を超える場合は税金が発生するため、税理士に相談しながら進めることをお勧めします。
実際にオーバーローンで失敗した事例
実際の失敗事例から学ぶことは多くあります。Aさん(30代会社員)は、年収500万円で3500万円の新築ワンルームマンションをオーバーローンで購入しました。営業担当者から「家賃収入で返済できるので実質負担はゼロです」と説明され、自己資金50万円で投資を始めました。
購入当初は月々の家賃収入9万円に対して、ローン返済が8万5000円、管理費等が1万5000円で、毎月1万円の持ち出しが発生していました。しかし購入から2年後、入居者が退去し、3ヶ月間の空室期間が発生しました。この間、月々10万円の返済を自己資金から捻出する必要がありましたが、貯蓄が少なかったAさんは支払いに苦労しました。
さらに、再入居の際に家賃を8万円に下げざるを得なくなり、毎月の持ち出しが2万円に増加しました。5年後、転勤のため物件を売却しようとしたところ、購入価格3500万円に対して査定額は2800万円でした。ローン残債が3200万円あったため、売却しても400万円の借金が残る状態となり、売却を断念せざるを得ませんでした。
Bさん(40代自営業)のケースも教訓的です。Bさんは地方都市の中古アパート一棟を5000万円でオーバーローンにより購入しました。表面利回り10%という高利回りに魅力を感じての購入でしたが、築25年の物件だったため、購入後すぐに給湯器の交換や外壁塗装などの大規模修繕が必要になりました。
修繕費用として300万円が必要でしたが、自己資金がほとんどなかったBさんは、さらに借入を増やすことになりました。また、古い物件だったため入居率が徐々に低下し、当初80%だった入居率が3年後には50%まで下がりました。家賃収入が大幅に減少する一方で、ローン返済額は変わらず、毎月15万円以上の持ち出しが発生する状態が続いています。
これらの事例に共通するのは、楽観的な収支計画と不十分なリスク管理です。空室リスクや修繕費用、家賃下落といった想定されるリスクに対する備えがなかったことが、失敗の大きな要因となっています。
成功するための具体的なステップ
オーバーローンを避け、健全な不動産投資を実現するためには、段階的なアプローチが重要です。まず、不動産投資の基礎知識をしっかりと身につけることから始めましょう。書籍やセミナー、信頼できるウェブサイトなどを通じて、物件の選び方、収支計算の方法、税金の仕組みなどを学びます。最低でも3ヶ月程度は学習期間を設けることをお勧めします。
次に、自己資金の準備計画を立てます。目標とする物件価格の20〜30%を自己資金として貯める計画を作成しましょう。月々の貯蓄額を設定し、達成までの期間を明確にします。例えば、2000万円の物件を目標とする場合、400〜600万円の自己資金が必要です。月々5万円貯蓄できれば、7〜10年で達成できます。
並行して、物件の情報収集を始めます。不動産ポータルサイトや地域の不動産業者を通じて、興味のあるエリアの物件情報を定期的にチェックしましょう。価格相場や利回りの傾向を把握することで、適正価格の判断力が養われます。実際に現地を訪れて、周辺環境や交通の便、商業施設の有無などを確認することも重要です。
金融機関との関係構築も早めに始めましょう。複数の金融機関に相談し、融資条件や必要書類、審査基準などを確認します。自分の年収や勤務先、勤続年数などの属性で、どの程度の融資が受けられるか事前に把握しておくことが大切です。金融機関によって融資姿勢は大きく異なるため、3〜5行程度に相談することをお勧めします。
実際に物件を購入する際は、必ず複数の専門家に相談しましょう。不動産業者だけでなく、税理士やファイナンシャルプランナー、できれば不動産投資の経験者にも意見を求めます。第三者の客観的な視点は、冷静な判断を助けてくれます。特に、収支シミュレーションは保守的な条件で作成し、空室率20%、家賃下落10%、金利上昇1%といった厳しい条件でも収支が成り立つか確認しましょう。
購入後も継続的な管理と見直しが必要です。入居者の募集や物件の維持管理を適切に行い、定期的に収支を確認します。また、市場環境の変化に応じて、家賃設定や管理方法を見直すことも重要です。不動産投資は購入して終わりではなく、長期的な運営が成功の鍵となります。
まとめ
オーバーローンは自己資金が少なくても不動産投資を始められる魅力的な方法に見えますが、大きなリスクを伴います。債務超過による売却困難、高い返済負担、空室時の資金繰り悪化など、多くの投資家が失敗に直面しています。不動産業者から勧められても、安易に飛びつくのではなく、冷静にリスクを評価することが重要です。
本当に成功する不動産投資を実現するには、十分な自己資金の準備、適正価格での物件購入、保守的な収支計画が不可欠です。時間をかけて準備を整え、知識を深めることで、長期的に安定した収益を得られる投資が可能になります。焦らず、着実に進めることが、不動産投資成功への最短ルートです。
もしオーバーローンを勧められたら、この記事で紹介した判断基準を参考に、本当に自分にとって適切な選択か慎重に検討してください。不明な点があれば、複数の専門家に相談し、納得できるまで質問することを恐れないでください。あなたの大切な資産を守り、増やすための賢明な判断を応援しています。
参考文献・出典
- 全国銀行協会 – https://www.zenginkyo.or.jp/
- 国土交通省 不動産市場動向調査 – https://www.mlit.go.jp/
- 不動産経済研究所 – https://www.fudousankeizai.co.jp/
- 日本賃貸住宅管理協会 – https://www.jpm.jp/
- 総務省統計局 人口推計 – https://www.stat.go.jp/
- 国税庁 贈与税の情報 – https://www.nta.go.jp/
- 日本不動産研究所 不動産投資家調査 – https://www.reinet.or.jp/