マンションやアパートを経営するオーナーにとって、共用部の電気代は毎月確実に発生する経費です。エントランスや廊下の照明、エレベーター、給水ポンプなど、共用部には稼働し続ける設備が多く、積み重なると収益を静かに削っていきます。2022年以降の電気料金上昇によって、「気づけば負担が大きく増えていた」という声も珍しくありません。
この記事では、共用部の電気代を誰が負担するのかという基本から、含まれる設備の内訳、物件規模ごとの目安、そして自物件が高いかどうかを診断する手順までを整理します。そのうえで、単価・使用量・基本料金の三方向から実際に効く削減策を、実例とともに具体的に解説します。まず仕組みを理解することが、無駄のない対策への第一歩となります。
共用部の電気代は誰が負担するのか

意外に見落とされがちなのが、共用部の電気代を誰が支払っているかという点です。まず前提として、各住戸の電気(専有部)と共用部の電気は、メーターも電力会社との契約もまったく別になっています。入居者が自分で電力会社と契約して支払う専有部に対し、共用部はオーナーや管理組合が契約者となって支払うのが原則です。
賃貸マンションやアパートでは、オーナーが電力会社と契約して共用部の電気代を支払い、その費用を入居者から集める共益費や管理費で回収する構造が一般的です。共益費には電気代のほか、共用部の水道代や清掃費、設備の保守点検費などが含まれます。つまり、共用部の電気代が上がれば、オーナーの手取りを直接圧迫するか、共益費の設定を見直す必要が生じるわけです。
一方、分譲マンションでは管理組合が電力会社と契約し、区分所有者から集めた管理費で電気代を支払います。この電気代は日常の運営費である管理費会計に含まれ、将来の大規模修繕に備える修繕積立金とは別に管理されます。実際、190戸のあるマンションの事例では、共用部の電気代が年間約280万円に達し、これは当時の年間管理費総額の20.6%を占めていました。管理費のなかで電気代がいかに大きな比重を持つかがわかります。
お持ちのマンションは、いま売るといくらか 無料のAI査定で確かめる
共用部の電気代に含まれる設備の内訳

共用部の電気代を把握するには、そもそもどの設備が電気を使っているかを知る必要があります。マンション標準管理規約では、共用部分の範囲としてエントランスホールや廊下、階段、エレベーター室に加え、ポンプ室、自家用電気室、機械室、受水槽室、高置水槽室などが挙げられています。目に見える照明だけでなく、こうした設備系の共用部も電気を消費している点を押さえておきましょう。
設備の種類で整理すると、まず廊下・階段・エントランス・外構・非常灯といった共用灯があり、これが多くの物件で電気代の中心を占めます。次に動力系として、エレベーター設備、給水ポンプや排水ポンプ、ディスポーザ処理槽などが加わります。さらに近年の物件では、自動ドアや機械式駐車場、宅配ボックス、防犯カメラやオートロックの制御盤、共用インターネット通信設備やテレビ共同受信設備、共用部のエアコンや換気ファンまで、電気を使う設備は多岐にわたります。標準管理規約でも、電気設備や給水設備、消防・防災設備、インターネット通信設備、オートロック設備、宅配ボックスなどが共用部の附属物として明記されています。
これらのうち何がどれだけ電気を使うかは、物件によって大きく異なります。エレベーターのないアパートなら照明がほぼすべてですが、タワーマンションでは空調や増圧ポンプが大きな比重を占めます。自物件にどの設備があるかを一覧にするだけでも、対策すべき箇所が見えてきます。
共用部の電気代はどのように決まるのか

共用部の電気代を正しく見積もるには、料金の構造を知る必要があります。資源エネルギー庁の解説によると、電気料金は基本料金と、使用電力量に応じて計算する電力量料金、そして再生可能エネルギー発電促進賦課金の合計で決まります。さらに電力量料金には、毎月変動する燃料費調整額が反映される仕組みです。
ここで重要なのは、共用部の設備が「電灯」と「動力」に分かれる点です。東京電力エリアの説明では、小規模な建物は原則として低圧の共同引込線で受電し、電灯と動力がある場合はそれぞれ別系統で引き込まれます。照明やコンセントは電灯契約、エレベーターや給水ポンプなどは動力契約となるため、この2つを分けて考えると実態をつかみやすくなります。
建物の規模によって、そもそも契約できる区分が変わる点にも注意が必要です。東京電力エリアでは、電灯分の最大電力が98kVA以下、かつ動力分の最大電力が49kW以下であれば低圧供給の範囲に入ります。一方、中高層の建物などで電灯分の最大電力が50kVA以上になると、高圧6,000ボルトの供給が視野に入ります。つまり、大規模マンションを低圧の単価表だけで見積もると実態から大きく外れるのです。
電灯部分の料金水準
照明などの電灯部分は、多くの物件で従量電灯の契約が使われます。東京電力エナジーパートナーの従量電灯Bでは、30アンペア契約の基本料金が月935.25円です。電力量料金は最初の120kWhまで29.80円、120kWhを超え300kWhまで36.40円、300kWhを超える分は40.49円と、使うほど単価が上がる三段階制になっています。たとえば共用照明で月200kWhを使うと、電力量料金だけで約6,500円前後になる計算です。
動力部分の料金水準
エレベーターや給水ポンプといった共用動力は、東京電力の低圧電力メニューでは原則50kW未満向けとして扱われます。この低圧電力の基本料金は1kWあたり月1,098.05円で、電力量料金は夏季27.14円、その他季25.57円です。基本料金が契約電力に比例するため、契約電力の大きさがコストを大きく左右します。なお低圧電力では、まったく電気を使用しない月の基本料金は半額になるため、機械式駐車場のヒーターなど季節設備が独立契約であれば、停止月の扱いを電力会社に確認する価値があります。
物件タイプ別に見る電気代の目安

全国一律の相場を示す公的統計は見当たらないため、月額をひとくくりに断定することはできません。ただし、料金の仕組みと実測研究を組み合わせれば、規模ごとのおおよその見当はつけられます。以下では、単価の目安を1kWhあたり31円として概算した数値も交えながら、規模別に整理します。
小規模アパートの目安
エレベーターのない10戸程度の外廊下型アパートでは、共用部の電気設備は照明が中心です。この場合、電灯部分の従量電灯契約が主な支出となり、使用量が少なければ基本料金と合わせて月数千円から一万円台前半で収まるケースが多くなります。共用灯がごく少数の物件では、契約メニューそのものを見直す価値もあります。玄関灯だけといった極小規模なら、使用量を計量しない定額メニューの有無を確認すると得になる場合があります。
中高層マンションの目安
エレベーターや給水ポンプを備えた中高層マンションでは、動力部分が加わるため負担は一段と大きくなります。集合住宅の共用部を調べた実測研究では、中高層3件の共用部の電力量は各月ほぼ一定で、1住戸あたり月60kWh程度でした。この数値を使えば、たとえば50戸の物件なら共用部全体で月3,000kWh前後という規模感が見えてきます。東京都のある実測事例でも、共用部の月額電気料金は約3.4万〜3.6万円で、動力より電灯の比重が大きいことが確認されています。
意外なのは、電力を多く使う設備の内訳です。同じ研究によると、共用部電力の中心は共用照明と給水ポンプ、ディスポーザ処理槽であり、エレベーターや空調はそれぞれ5%程度にとどまっていました。エレベーターは電気を食うという印象が強いものの、実測では給水ポンプやディスポーザ処理槽より少なく、主な使用帯は7時から18時に集中していたのです。とりわけ給水方式の差は大きく、条件をそろえた比較では、給水方式の違いだけで約6倍もの差が出た事例もあります。削減効果を狙うなら、まず照明とポンプ系に目を向けるのが合理的です。
大規模・タワーマンションの目安(高圧受電)
100戸を超える大規模物件やタワーマンションでは、料金構造そのものが変わります。こうした物件では高圧6,000ボルトでの受電が前提となり、敷地内にキュービクル(受変電設備)を設置して自前で電圧を下げる管理が必要です。高圧契約の基本料金は契約電力(デマンド、一定期間の最大使用電力)で決まり、力率に応じた割引もあるため、低圧の単価表とはまったく別の見方が求められます。
規模感をつかむために1住戸あたり月60kWhを当てはめると、100戸なら月6,000kWh、200戸なら月12,000kWh前後という水準になります。ただしタワーマンションでは、この目安を大きく上回ることが珍しくありません。高層階へ水を送る加圧給水・増圧ポンプ、非常用発電機、共用ラウンジや内廊下の空調が上振れ要因となるためです。実際、26階建て・総戸数196戸で内廊下方式のタワーマンションでは、46台の空調機で温度調整を行っており、2015年度の共用部電気料金は1,500万円近くに達すると試算されました。別のタワー物件でも共用部の電気料金が年間約2,700万円という事例があり、規模が大きくなるほど桁が変わることを示しています。
自分の物件は高い?現状把握と相場比較の手順

目安を知ったら、次は自物件が高いのか安いのかを診断します。ポイントは、絶対額ではなく1戸あたりに換算して比較することです。まず、検針票や請求書を1年分そろえ、電灯契約と動力契約それぞれの使用量(kWh)と契約容量を月ごとに並べます。次に、その月の使用量を戸数で割り、「1戸あたり月kWh」と「1戸あたり月額」に換算します。
比較の基準になるのが、実測研究で示された中高層マンションの1住戸あたり月60kWh程度という数値です。自物件がこれを大きく上回るなら、削減の余地がある可能性が高いと判断できます。金額でみると、前述の190戸の事例は共用部電気代が年間約280万円で、単純計算すると1戸あたり月約35kWh・約1,227円に相当しました。こうした実例を目安に、自物件の1戸あたり数値を照らし合わせるとよいでしょう。
月別の推移を並べると、季節変動の傾向もつかめます。冬は日照時間が短く共用灯の点灯時間が延びやすく、機械式駐車場にヒーターがあれば冬季の負担が跳ね上がります。どの月に、どの契約で使用量が増えているかを可視化することが、優先すべき対策を見極める近道です。
電気代削減の3つのアプローチ

共用部の電気代を下げる方法は、大きく三つに整理できます。ひとつは電力量を減らすこと、次に基本料金を下げること、そして単価そのものを下げることです。この三方向を意識すると、対策の全体像が見えやすくなります。以下では、初期投資が小さく効果を実感しやすいものから順に解説します。
使用量を減らす①:LED照明への切り替え
照明の見直しで最も費用対効果が高いのがLED化です。資源エネルギー庁の省エネ例では、蛍光灯器具をLED照明器具に替えると、1灯あたり年間の節約が見込めるとされています。これを共用廊下の複数灯に広げれば、年間の削減が期待できる計算です。
日本照明工業会の試算例では、年間点灯時間3,000時間・31円/kWhの条件で、共用部照明のLED化により約56%の省エネと年間約88,300円の削減が示されています。効果は規模が大きいほど顕著で、前述の190戸マンションでは共用灯への照度センサー導入で年間約40万円を削減しました。さらに大規模なタワーマンションの事例では、年間約2,700万円の電気料金のうち共用部照明のLED化だけで年間約580万円、約21%を削減でき、投資回収は4年以内と見込まれています。LEDは光源寿命が長く交換の手間も減るため、早めの実施が有利です。
使用量を減らす②:センサーと点灯時間の最適化
照明の付け方を工夫するだけでも効果があります。同じ資源エネルギー庁の例では、LED照明器具の点灯時間を1日1時間短くするだけで、1灯あたり年間の節約になります。わずかに見えても灯数が多ければ無視できません。人感センサーや昼光センサーを併用すれば、人通りの少ない廊下や階段で不要な点灯を抑えられます。実測研究でも、深夜1時から4時にかけて一部照明を間引き運転していると考えられる例があり、深夜帯の間引きは現場でも取り入れられている工夫です。
使用量を減らす③:給水ポンプの改修
照明に次いで効くのが給水設備です。東京都の省エネ改修資料では、水道本管の水圧を利用し、インバータで自動制御する直結増圧ポンプへ改修することで、電気代が62%減、メンテナンス費用も年間約55%削減できるとされています。受水槽や高置水槽の点検も不要になるため、電気代と管理費の両面で効果が生まれます。給水方式の差が電気代に大きく響くことは前述のとおりで、改修のタイミングで検討する価値があります。
基本料金を下げる:契約電力・契約容量の見直し
基本料金は契約電力に比例するため、契約が実態に合っていなければ払いすぎになります。東京電力エナジーパートナーによると、低圧電力の契約電力の決め方には「主開閉器契約」と「負荷設備契約」の2種類があり、多数の動力機器があっても同時にすべては使わない物件では、主開閉器契約に見直すことで契約電力が下がる場合があります。低圧電力の基本料金は1kWあたり月1,098.05円ですから、契約電力を5kW下げられれば、それだけで基本料金が月約5,490円下がる計算です。
この効果は実例でも裏づけられています。先の190戸マンションでは、浄化槽設備の契約容量を72kWから44kWに変更しただけで年間40万円近くを削減し、電気設備保安管理の委託料も不要になりました。同物件は複数施策を積み重ねた結果、契約容量を最終的に23kWまで下げ、年間の共用部電気代を大きく圧縮しています。設備を増やさずに実現できる削減策として、現在の契約が実態に合っているかを一度点検すべきです。
単価を下げる:電力会社・プランの切り替え
三つ目のアプローチが、供給元やメニューを変えて単価そのものを下げる方法です。共用部だけを新電力へ切り替えることは比較的手軽ですが、契約前には解約金の有無や、市場価格に連動するプランの場合の値動きリスクを確認しておく必要があります。小容量の物件では、定額電灯や従量電灯といったメニューのうち、自物件の使用量に合ったものを選ぶだけでも下がる余地があります。ある小規模集合住宅の研究でも、電灯系の消費比率が高く総使用量が一定以上あれば、電力契約の見直しだけで節約余地があると示唆されています。
より踏み込んだ手段が高圧一括受電です。これは、各戸が個別に結んでいる低圧契約をやめ、マンション全体で単価の安い高圧の大口契約に切り替え、建物内で低圧に変換して各戸へ配る仕組みです。共用部の電気代削減に直結する代表策で、東京電力の56戸の事例では、導入後1年間で共用部電気代が約53万円削減されました。ただし専有部を含めて導入する場合、分譲マンションでは全戸の同意(総会決議)が必要になり、合意形成が実務上の大きなハードルとなります。
契約交渉と切り替えの組み合わせは、超大規模物件で特に効きます。ある事例では、契約内容の変更で年間約1,767万円、さらに追加交渉で約398万円、合計で年2,164万円余りを削減し、加えてLED化で年約460万円の上積み余地が示されました。規模が大きいほど、単価と基本料金の見直しがもたらす金額のインパクトは大きくなります。
長期的な視点での省エネ投資

根本的に負担を下げるには、設備そのものへの投資も選択肢に入ります。金額の目安は物件の条件や施工内容で変わるため、必ず複数の専門業者に見積もりを取り、個別に判断してください。エレベーターは更新のタイミングで大きな削減が期待でき、回生電力の活用やLED照明、制御改善を組み合わせた新型機で消費電力を大幅に減らせる例があります。すぐに更新しない場合でも、待機中のかごの照明や換気を自動休止する機能があれば待機電力を抑えられます。
タワーマンションのように空調負荷が大きい物件では、デマンド制御も有効です。前述の196戸のタワーマンションでは、使用電力のピークを抑えるデマンドコントロールを導入し、ピーク年比で年間約400万円の改善につなげました。こうした省エネ投資は電気代の削減にとどまらず、省エネ性能の高い物件は環境意識の高い入居者からの需要が見込め、空室リスクの低減や将来の売却時の評価にもプラスに働きます。
管理費・共益費の見直しと入居者への説明
省エネ対策を尽くしてもなお不足する場合、管理費や共益費の見直しが必要になることがあります。その際に鍵となるのが、入居者との丁寧なコミュニケーションです。値上げの理由を客観的に伝え、理解を得ることでトラブルを防げます。
説明では、感情論ではなく数字を軸にすることが効果的です。電気料金の内訳が基本料金・電力量料金・再エネ賦課金で構成され、賦課金が使用量に応じて一律に課される仕組みであることを示せば、値上げが物件固有の問題ではなく制度的な要因を含むと理解してもらいやすくなります。まずLED化などの省エネ投資を先行し、その削減効果を報告したうえで、必要最小限の調整を提案する段階的なアプローチが望ましいでしょう。管理会社は複数物件のノウハウや電力会社との交渉経験を持つ場合があり、他物件の成功事例を応用できることもあります。
まとめ
共用部の電気代は、賃貸ではオーナー、分譲では管理組合が契約者となって支払い、共益費や管理費で回収する構造です。含まれる設備は照明だけでなく、エレベーターや給水ポンプ、機械式駐車場、防犯カメラ、共用ネット設備まで多岐にわたります。まずは検針票を1年分並べ、1戸あたり月kWh・月額に換算して、実測研究の目安(1住戸あたり月60kWh程度)と照らし合わせて現状を診断しましょう。
削減は、使用量を減らす・基本料金を下げる・単価を下げるの三方向で整理できます。照明のLED化やセンサー活用、給水ポンプ改修で使用量を、契約電力の見直しで基本料金を、電力会社の切り替えや高圧一括受電で単価を下げられます。実例では、契約容量の見直しや照度センサーだけで年40万円規模、大規模物件では数百万円から数千万円の削減が実現しています。
再エネ賦課金の上昇という押し上げ要因がある一方、燃料費調整や国のエネルギー価格支援は時期によって内容が変わります。数値や制度の最新情報は、各公的機関や契約先の公式サイトで必ず確認してください。仕組みを理解し、効果の高い対策から着実に実施することが、長期的な収益の安定につながります。
参考文献・出典
- マンション標準管理規約(単棟型)(国土交通省) – https://www.mansion-info.mlit.go.jp/
- 資源エネルギー庁「月々の電気料金の内訳」 – https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/fee/stracture/spec.html
- 資源エネルギー庁「照明|無理のない省