マンションやアパートを経営するオーナーにとって、共用部の電気代は毎月確実に発生する経費です。エントランスや廊下の照明、エレベーター、給水ポンプなど、共用部には稼働し続ける設備が多く、積み重なると収益を静かに削っていきます。2022年以降の電気料金上昇によって、「気づけば負担が大きく増えていた」という声も珍しくありません。
この記事では、共用部の電気代がどのように決まり、物件タイプごとにどれくらいの目安になるのかを、料金の内訳から整理します。そのうえで、初期投資の小さい対策から長期的な省エネ投資まで、実際に効果が見込める削減方法を具体的な数値とともに解説します。まず仕組みを理解することが、無駄のない対策への第一歩となります。
共用部の電気代はどのように決まるのか
共用部の電気代を正しく見積もるには、まず料金の構造を知る必要があります。資源エネルギー庁の解説によると、電気料金は基本料金と、使用電力量に応じて計算する電力量料金、そして再生可能エネルギー発電促進賦課金の合計で決まります。さらに電力量料金には、毎月変動する燃料費調整額が反映される仕組みです。
ここで重要なのは、共用部の設備が「電灯」と「動力」に分かれる点です。東京電力エリアの説明では、小規模な建物は原則として低圧の共同引込線で受電し、電灯と動力がある場合はそれぞれ別系統で引き込まれます。照明やコンセントは電灯契約、エレベーターや給水ポンプなどは動力契約となるため、この2つを分けて考えると実態をつかみやすくなります。
建物の規模によって、そもそも契約できる区分が変わる点にも注意が必要です。東京電力エリアでは、電灯分の最大電力が98kVA以下、かつ動力分の最大電力が49kW以下であれば低圧供給の範囲に入ります。一方、中高層の建物などで電灯分の最大電力が50kVA以上になると、高圧6,000ボルトの供給が視野に入ります。つまり、大規模マンションを低圧の単価表だけで見積もると、実態から大きく外れてしまうのです。
電灯部分の料金水準
照明などの電灯部分は、多くの物件で従量電灯の契約が使われます。東京電力エナジーパートナーの従量電灯Bでは、30アンペア契約の基本料金が月935.25円です。電力量料金は最初の120kWhまで29.80円、120kWhを超え300kWhまで36.40円、300kWhを超える分は40.49円と、使うほど単価が上がる三段階制になっています。
この単価から逆算すれば、自分の物件の電灯部分がどの程度かかっているかを把握できます。たとえば共用照明で月200kWhを使うと、電力量料金だけで約6,500円前後になる計算です。使用量が増えるほど高い単価の段階に入るため、照明の効率化が料金に直接効いてくる構造だと理解しておきましょう。
動力部分の料金水準
エレベーターや給水ポンプといった共用動力は、東京電力の低圧電力メニューでは原則50kW未満向けとして扱われます。この低圧電力の基本料金は1kWあたり月1,098.05円で、電力量料金は夏季27.14円、その他季25.57円です。基本料金が契約電力に比例するため、契約電力の大きさがコストを大きく左右します。
覚えておきたいのは、季節設備が別契約になっている場合の扱いです。低圧電力では、まったく電気を使用しない月の基本料金は半額になります。機械式駐車場のヒーターなど、特定の季節しか動かさない設備が独立契約であれば、停止月の扱いを電力会社に確認するだけで負担を抑えられる可能性があります。
物件タイプ別に見る電気代の目安
全国一律の相場を示す公的統計は見当たらないため、月額をひとくくりに断定することはできません。ただし、料金の仕組みと実測研究を組み合わせれば、規模ごとのおおよその見当はつけられます。ここでは物件タイプ別に、目安の考え方を示します。
小規模アパートの目安
エレベーターのない10戸程度の外廊下型アパートでは、共用部の電気設備は照明が中心です。この場合、電灯部分の従量電灯契約が主な支出となり、使用量が少なければ基本料金と合わせて月数千円から一万円台前半で収まるケースが多くなります。
共用灯がごく少数の物件では、契約メニューそのものを見直す価値もあります。たとえば中部電力ミライズの定額電灯は、総容量400VA以下の小容量で一定の使い方に向いた定額制で、使用量を計量しません。需要家料金が月55円、10Wまでの照明が1灯あたり月92.18円といった水準で、玄関灯だけといった極小規模なら、こうした定額メニューの有無を確認すると得になる場合があります。
中高層マンションの目安
エレベーターや給水ポンプを備えた中高層マンションでは、動力部分が加わるため負担は一段と大きくなります。集合住宅の共用部を調べた実測研究では、中高層3件の共用部の電力量は各月ほぼ一定で、1住戸あたり月60kWh程度でした。この数値を使えば、たとえば50戸の物件なら共用部全体で月3,000kWh前後という規模感が見えてきます。
意外なのは、電力を多く使う設備の内訳です。同じ研究によると、共用部電力の中心は共用照明と給水ポンプ、ディスポーザ処理槽であり、エレベーターや空調はそれぞれ5%程度にとどまっていました。エレベーターは電気を食うという印象が強いものの、実測では給水ポンプやディスポーザ処理槽より少なく、主な使用帯は7時から18時に集中していたのです。つまり、削減効果を狙うなら、まず照明とポンプ系に目を向けるのが合理的だといえます。
電気代が高止まりする構造的な要因
電気代がなぜ上がり続けるのかを理解しておくと、対策の優先順位を立てやすくなります。料金を押し上げる要素と、逆に負担を軽くする支援策の両方を押さえておきましょう。
まず押し上げ要因として大きいのが再生可能エネルギー発電促進賦課金です。これはすべての電気利用者が使用量に応じて負担する費用で、供給エリアや電圧にかかわらず一律に課されます。2026年5月分から2027年4月分の単価は1kWhあたり4.18円です。仮に共用部で月260kWhを使うと、賦課金だけで月約1,087円かかる計算になり、使用量が多い物件ほど影響が大きくなります。
一方で、負担を軽くする方向の要素もあります。燃料費調整額は毎月変動し、円安や燃料価格の動向によってプラスにもマイナスにもなり得ます。直近では2026年7月分の低圧の燃料費調整単価はプラス3.18円(1kWhあたり)となっており、必ずしも請求を押し下げる要素として働くとは限りません。最新の単価は東京電力エナジーパートナーの公式サイト(燃料費調整単価等一覧)で確認してください。加えて、経済産業省・資源エネルギー庁のエネルギー価格支援では、2026年7月使用分と9月使用分が低圧で1kWhあたり3.5円、8月使用分は4.5円の補助となっており、8月分がやや大きく設定されています。こうした支援は時期や単価が変わるため、最新の内容は公式サイトで確認することが欠かせません。
すぐに始められる電気代削減の実践法
対策は、初期投資が小さく効果を実感しやすいものから着手するのが効率的です。共用部の使用電力の中心が照明である点を踏まえると、まず取り組むべきは照明の効率化です。
LED照明への切り替え
照明の見直しで最も費用対効果が高いのがLED化です。資源エネルギー庁の省エネ例では、68Wの蛍光灯器具を34WのLED照明器具に替えると、1灯あたり年間68kWh、約2,108円の節約になるとされています。これを共用廊下の10灯に広げれば、LED化だけで年間およそ2万1,000円の削減が見込める計算です。
ダウンライトのような小型器具でも効果は出ます。PanasonicのFAQ例では、20Wの蛍光タイプを7.3WのLEDタイプに替えると、1灯で月約118円、年約1,417円の差が生じるとされています。20W級の共用灯を10灯LED化すれば、年約1.4万円の削減目安になります。LEDは光源寿命が長く、交換頻度が減ることで管理の手間も抑えられるため、早めの実施が有利です。
センサーと点灯時間の最適化
照明の付け方を工夫するだけでも効果があります。同じ資源エネルギー庁の例では、34WのLED照明器具の点灯時間を1日1時間短くするだけで、1灯あたり年間12.41kWh、約385円の節約になります。わずかに見えても灯数が多ければ無視できない金額です。
より積極的な手段が各種センサーの活用です。Panasonicの設計資料では、人感センサーで30〜60%、昼光センサーで約10%の省エネ目安が示されています。さらに、人の移動が少ない見通しのよい廊下などでは、不在時に25%まで落とす段調光制御も提案されています。実測研究でも、深夜1時から4時にかけて一部照明を間引き運転していると考えられる例があり、深夜帯の間引きは現場でも取り入れられている工夫だとわかります。
動力契約の見直し
照明の次に検討したいのが動力契約です。東京電力エナジーパートナーによると、低圧電力の契約電力の決め方には「主開閉器契約」と「負荷設備契約」の2種類があります。多数の動力機器があっても同時にすべては使わない物件では、主開閉器契約に見直すことで契約電力が下がる場合があります。
この見直しの効果は基本料金に直結します。低圧電力の基本料金は1kWあたり月1,098.05円ですから、契約電力を5kW下げられれば、それだけで基本料金が月約5,490円下がる計算です。設備を増やさずに実現できる削減策として、現在の契約電力が実態に合っているかを一度点検する価値は十分にあります。
長期的な視点での省エネ投資
根本的に負担を下げるには、設備そのものへの投資も選択肢に入ります。ここでは効果が長く続くタイプの対策を紹介します。金額の目安は物件の条件や施工内容で変わるため、必ず複数の専門業者に見積もりを取り、個別に判断してください。
エレベーターについては、更新のタイミングで大きな削減が期待できます。東芝エレベータの比較では、回生電力の活用やLED照明、制御改善を組み合わせた新型機で消費電力を最大50%削減できると説明されています。すぐに更新しない場合でも、待機中のかごの天井照明や換気装置を自動的に休止する機能を備えた機種なら、待機電力を抑えられます。
照明のシーリングライトも進化しています。Panasonicの製品比較では、70Wの蛍光灯器具に対してLED器具は29.3Wで、一般的な丸形蛍光灯シーリングライト比で消費電力が約1/2、光源寿命は40,000時間とされています。共用部の照明をこうした高効率機器へ計画的に置き換えていくことで、削減効果を積み上げられます。
これらの省エネ投資は、電気代の削減にとどまらず物件の資産価値にも影響します。省エネ性能の高い物件は環境意識の高い入居者からの需要が見込め、空室リスクの低減にもつながります。将来的な売却時にもプラス評価となりやすいため、投資効果は多面的に現れます。
管理費見直しと入居者への説明
省エネ対策を尽くしてもなお不足する場合、管理費や共益費の見直しが必要になることがあります。その際に鍵となるのが、入居者との丁寧なコミュニケーションです。値上げの理由を客観的に伝え、理解を得ることでトラブルを防げます。
説明では、感情論ではなく数字を軸にすることが効果的です。電気料金の内訳が基本料金・電力量料金・再エネ賦課金で構成され、賦課金が使用量に応じて一律に課される仕組みであることを示せば、値上げが物件固有の問題ではなく制度的な要因を含むと理解してもらいやすくなります。まずLED化などの省エネ投資を先行し、その削減効果を報告したうえで、必要最小限の調整を提案する段階的なアプローチが望ましいでしょう。
管理会社との連携も欠かせません。管理会社は複数物件のノウハウや電力会社との交渉経験を持つ場合があり、他物件の成功事例を応用できることがあります。年に一度、共用部の電気使用量と料金の推移を入居者に開示するなど、透明性の高い運営を続けることは、入居者の満足度と長期入居の促進にもつながります。
まとめ
共用部の電気代は、基本料金・電力量料金・再エネ賦課金の合計で決まり、照明の電灯契約と、エレベーターや給水ポンプの動力契約に分けて考えると実態をつかみやすくなります。物件規模によって契約できる区分が変わるため、まず自分の物件がどの構造にあるかを確認することが出発点です。
削減はLED化やセンサー活用など、照明の効率化から始めるのが合理的です。実測研究でも共用電力の中心は照明とポンプ系であり、動力契約の見直しでは契約電力を下げることで基本料金を直接減らせます。長期的にはエレベーター更新や高効率照明への置き換えを計画的に進めることで、負担を構造的に軽くできます。
再エネ賦課金の上昇という押し上げ要因がある一方、燃料費調整や国のエネルギー価格支援は時期によって内容が変わります。数値や制度の最新情報は、各公的機関や契約先の公式サイトで必ず確認してください。仕組みを理解し、効果の高い対策から着実に実施することが、長期的な収益の安定につながります。
参考文献・出典
- 資源エネルギー庁「月々の電気料金の内訳」 – https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/fee/stracture/spec.html
- 資源エネルギー庁「照明|無理のない省エネ節約」 – https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/howto/lighting/index.html
- 資源エネルギー庁「エネルギー価格の支援について」 – https://www.enecho.meti.go.jp/category/gekihen_lp/
- 東京電力エナジーパートナー「料金単価表‐電灯」 – https://www.tepco.co.jp/ep/private/plan/chargelist01.html
- 東京電力エナジーパートナー「低圧電力」 – https://www.tepco.co.jp/ep/private/plan/old02.html
- 東京電力エナジーパートナー「低圧電力における契約電力の大きさや決め方」 – https://www.tepco.co.jp/ep/private/ampere2/ampere04.html
- 中部電力ミライズ「定額電灯」 – https://miraiz.chuden.co.jp/home/electric/menu/others/teigaku/
- 集合住宅共用部のエネルギー消費量に関する研究(第1報)(J-STAGE) – https://www.jstage.jst.go.jp/article/shasetaikai/2019.9/0/2019.9_89/_pdf/-char/ja
一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。
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