未登記建物の売買を検討していると、「契約書にどんな特約を入れればよいのか」「そもそも未登記のまま売買できるのか」といった不安がつきまといます。未登記建物は通常の不動産取引とは異なるリスクや手続きを伴うため、契約書の内容が取引の安全性を大きく左右します。この記事では、未登記建物の基本的な仕組みから、売買契約書での建物の特定方法、盛り込むべき特約の考え方、融資や税金の注意点、専門家への相談まで、公的な情報をもとに整理して解説します。読み終える頃には、未登記建物の取引で押さえるべきポイントが明確になっているはずです。
未登記建物とはどういう状態か
まず押さえたいのは、「未登記建物」がどういう状態を指すのかという基本です。建物を新築したり、区分建物以外で表題登記がない建物を取得したりした人には、所有権を取得した日から1か月以内に表題登記を申請する義務があります(不動産登記法)。この義務を果たさないまま放置された建物が、いわゆる未登記建物です。表題登記とは、建物の物理的な状況を初めて登記記録に記録する手続きのことをいいます。
未登記建物には大きく2つのパターンがあります。ひとつは建物そのものが一切登記されていないケース、もうひとつは増築部分など建物の一部だけが登記されていないケースです。後者は「増築未登記」とも呼ばれ、古い住宅ではよく見られます。どちらの場合も、登記がない部分については登記記録から所有者を確認できないため、取引上のリスクが高まる点は共通しています。
重要なのは、未登記でも売買契約そのものは有効に成立し得るという点です。民法では、物権の設定や移転は当事者の意思表示のみでその効力を生じるとされています(民法第176条)。一方で、不動産に関する物権の変動は、登記をしなければ第三者に対抗できないとも定められています(民法第177条)。つまり未登記のまま売買を完了させると、買主は自分が所有者であることを他人に対して法的に主張しにくい立場に置かれてしまうのです。さらに、正当な理由なく表題登記の申請義務を怠ると、10万円以下の過料の対象になり得る点にも注意が必要です(不動産登記法)。
売買契約書で建物をどう特定するか
未登記建物の売買契約書を作成する際、最初に直面する課題が「建物の特定」です。登記済みの建物であれば、登記記録に記載された家屋番号や所在をそのまま契約書へ転記できます。しかし未登記建物には登記記録が存在しないため、別の方法で建物を明確に特定する必要があります。
建物の表示として公示される基本項目には、所在、地番、家屋番号、種類、構造、床面積などがあります(法務省 不動産登記のABC)。未登記建物であっても、これらに準じた情報を契約書へ明記することが求められます。とくに新築で未登記の場合は、建築確認済証や検査済証を表示の根拠とする文例が実務で用いられており、その番号や日付を記載しておくと建物の同一性を担保しやすくなります。ただし、こうした資料に基づく面積は、後に登記された際の登記簿面積と差異が生じることがある点は理解しておきましょう。
増築未登記の場合は、登記されている部分と未登記部分を明確に区別することが欠かせません。増築で床面積が増えている場合には、建蔽率や容積率が指定の制限を超えていないかの確認も必要とされ、超過しているのであれば重要事項説明書にその旨を記載しなければならないという実務解説もあります。未登記部分の位置や面積は別紙を添付して補足すると、より丁寧な契約書になります。
また、自治体への申告という観点からも契約書の記載は重要です。未登記の家屋であっても、賦課期日現在の現実の所有者が家屋補充課税台帳に登録され、固定資産税が課され得ます(国税庁)。市町村によっては未登記家屋の所有者変更届を別途求める例があり、たとえば船橋市では届出書に加えて売買契約書、印鑑登録証明書、住民票または法人登記簿謄本の提出を挙げています。こうした申告に備えるためにも、建物の特定情報や権利移転の事実を曖昧に書かないことが大切です。
特約に盛り込むべき核心的な内容
売買契約書における特約は、未登記建物取引の成否を左右する最も重要な部分です。特約で明確にすべき核心は、「登記をいつ・誰の負担で・どの段階まで行うか」という3点に集約されます。ここが曖昧だと、決済後に登記が放置されてトラブルの火種になりかねません。
実務では、売主が先に表題登記と所有権保存登記を完了させてから、買主への所有権移転登記を行う方式が検討されることがあります。この方式であれば、買主は登記済みの建物を受け取れるため、権利保全の観点から安全性が高まります。業界団体の特約文例のなかにも、「売主は未登記の建物について、売買決済時までに登記を行うものとします」といった条項や、逆に増築部分が未登記であることを買主が承知して買い受ける旨の条項が用意されています。ただし、公的機関が定めた唯一の標準契約書ひな形があるわけではなく、個別の事情に応じて内容を設計する必要があります。
特約には期限の明記も欠かせません。「いつまでに登記を完了させるか」が曖昧なままでは、決済後も登記が放置されるリスクが残ります。あわせて、売主が期限内に登記を完了できなかった場合の対応、たとえば契約解除の可否や損害賠償の有無についても特約で定めておくと安心です。実務向けのチェック表でも、「現状引渡し」なのか「引渡しまでに登記」なのかを特約や覚書で明確にしているかが確認項目とされています。
なお、未登記のまま決済・引渡しを行う特約はリスクが高いといえます。前述のとおり未登記では第三者に対抗できないため、決済前に登記を完了させる流れを特約で担保することが基本的な考え方となります。所有権移転登記を代金支払時とする特約を置く場合には、登記の際に売買契約書だけでなく代金の領収証など、移転の事実を裏づける追加資料が求められることも念頭に置いておきましょう。
融資を使う場合の注意点と登録免許税
買主が住宅ローンなどの融資を利用する場合、未登記建物の取引はさらに慎重さが求められます。融資を予定するときには、売主に建物表題変更登記などの実施を義務付ける特約を売買契約書に置く実務があるとされています。もっとも、金融機関が未登記や増築未登記をどう扱うかについては全国一律の公的な基準を確認できませんでした。判断は個別の事情によって異なるため、事前審査や照会を通じて金融機関へ直接確認することが現実的な対応となります。
融資特約(ローン特約)を盛り込む場合は、申込金融機関、融資金額、承認期限、不承認だったときの対応策を具体的に明記することが重要です。金融機関名を「銀行等」とぼかさず、具体的な機関名を記載しておくほうがトラブル予防に有効です。未登記の登記是正を売主に義務付ける特約と融資特約は密接に関係するため、両者を一体として設計する視点が求められます。
費用面では、建物の所有権保存登記にかかる登録免許税の税率は、契約書に定められた税率に基づいて計算されます(国税庁 登録免許税の税額表)。固定資産課税台帳に価格が登録されていない未登記建物の場合は、登記機関が認定した価額が課税標準となる扱いで、具体的な価額はその不動産を管轄する法務局に照会するよう案内されています。契約前に費用感を把握しておくと、負担割合を巡る交渉もスムーズに進みます。
固定資産税の清算についても契約書での書き方に注意が必要です。年の中途で不動産を売買した際に授受する金銭については、契約書に明記された趣旨に基づいて課税関係が判断されます。一方、引渡し後に所有権移転登記をしなかったことを原因として前所有者へ固定資産税が課税された場合、当事者間でその固定資産税相当額であることを明記して授受した金額は、対価に該当しない取扱いとされています。清算条項を入れる際は、「固定資産税精算」とだけ書くのではなく、何の趣旨の金銭かを明記しておくことが税務上も重要です。
専門家への相談と手続きの流れ
未登記建物の売買では、複数の専門家が関与します。役割分担を理解しておくと、相談先で迷わずに済みます。建物の新築時の表題登記など、不動産の表示に関する登記を担うのは土地家屋調査士です。これに対し、所有権の移転や抵当権の設定といった権利に関する登記を担うのは司法書士です(法務局 不動産登記申請手続)。未登記建物の取引では、この両者へ早い段階から相談することが不可欠です。
売買による所有権移転登記の場面では、一般に登記原因証明情報、売主の印鑑証明書、売主の登記識別情報または登記済証、買主の住民票の写しなどの準備が必要とされています。ただし、未登記建物の類型ごとに必要書類を横断的にまとめた全国一律の一覧は、公的な一次情報では確認できませんでした。建築確認の有無や工事完了資料の残存状況、相続・贈与の有無などによって必要書類は変わるため、土地家屋調査士や司法書士に個別に確認することが確実です。
契約前の段階で専門家に相談すれば、登記是正の実現可能性や費用感、スケジュールを事前に把握できます。これらの情報は特約の内容設計に直結します。決済日に表題登記から保存登記、所有権移転登記までをどの順序で処理するかを網羅した公的な手順書は確認できなかったため、なおさら実務経験のある専門家の助言が役立ちます。「まず専門家に相談してから契約書を作成する」という順序を守ることが、未登記建物取引における最大のリスク管理といえるでしょう。
まとめ
未登記建物の売買は、通常の不動産取引よりも多くの注意点を伴います。契約は当事者の意思表示で成立し得るものの、登記がなければ第三者に対抗できないため、特約で「誰が・いつまでに・どの費用負担で登記を完了させるか」を明確に定めることが肝心です。買主の権利保全の観点からは、売主が先に表題登記と所有権保存登記を済ませてから移転登記を行う方式が安全とされています。融資を使う場合はローン特約と登記是正特約を一体で設計し、金融機関への事前確認も欠かせません。あわせて、自治体への未登記家屋の名義変更申告や固定資産税の清算文言にも配慮しましょう。土地家屋調査士と司法書士へ早めに相談し、安全な取引を実現してください。
参考文献・出典
- 民法 | e-Gov法令検索 — https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法 | e-Gov法令検索 — https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記のABC | 法務省 — https://www.moj.go.jp/MINJI/minji02.html
- 不動産登記申請手続 | 法務局 — https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/touki1.html
- 売買 記載例 | 法務局 — https://houmukyoku.moj.go.jp/shizuoka/page000001_00153.pdf
- 登記の申請はどのような方法でしなければならないのですか | 法務局 — https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/000130965.pdf
- 登記申請を御自身ですることを検討されている方からよくある質問 | 法務局 — https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page_000001_00057.html
- No.7191 登録免許税の税額表 | 国税庁 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
- 不動産の引渡しに伴い登記をしなかった場合の固定資産税 | 国税庁 — https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/02/17.htm
- 固定資産税 | 国税庁 — https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishishiken/point2023/11.htm
- 未登記家屋の所有者に変更があった場合 | 船橋市 — https://www.city.funabashi.lg.jp/kurashi/zei/003/02/p000835.html
- 増築未登記のある土地建物売買における重要事項説明方法と取引における留意事項 | 公益財団法人不動産流通推進センター — https://www.retpc.jp/archives/20394/