不動産投資を始めて確定申告の準備をしていると、「青色申告の65万円控除ってどうすれば受けられるの?」という疑問にぶつかる方は多いものです。特に「電子帳簿保存」という言葉を見て、何をどう準備すればいいのか戸惑ってしまうケースも少なくありません。この記事では、国税庁の公式情報をもとに、65万円控除を受けるための条件を段階的にわかりやすく解説します。e-Taxルートと電子帳簿保存ルートの違いや、届出書の提出方法まで丁寧に説明しますので、初めて青色申告に挑戦する方もぜひ最後まで読み進めてください。
青色申告特別控除の仕組みと65万円控除の位置づけ

まず押さえておきたいのは、青色申告特別控除には「10万円」「55万円」「65万円」という3つの水準があるという点です。どの控除額が適用されるかは、記帳方法や申告方法によって決まります。
不動産投資家にとって特に重要なのは、65万円控除を受けるには「55万円控除の要件をすべて満たした上で、さらに追加の条件をクリアする」という二段階の構造になっていることです。つまり、65万円控除はいきなり目指すものではなく、まず55万円控除の土台を固めることが先決になります。
また、不動産貸付けが「事業的規模」かどうかによっても、受けられる控除額が変わってきます。国税庁の情報(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm)によると、建物の賃貸であれば「おおむね10室以上」または「おおむね5棟以上」が事業的規模の目安とされています。この規模に満たない小規模な不動産貸付けだけを行っている場合は、原則として55万円・65万円の控除は受けられず、10万円控除の扱いになります。ただし、別に事業所得を生ずる事業を兼業している場合は、65万円または55万円の控除が適用される可能性があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2024/pdf/046.pdf)。
55万円控除の基本要件

65万円控除への道は、55万円控除の要件を満たすことから始まります。国税庁の情報(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm)によると、55万円控除を受けるには複数の条件をすべて満たす必要があります。
第一に、不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいることが必要です。前述のとおり、不動産貸付けの場合は事業的規模であることが求められます。第二に、取引を「正規の簿記の原則」、一般的には複式簿記によって記帳していることが条件です。単純な収支メモや家計簿のような記録では認められません。第三に、貸借対照表・損益計算書などを確定申告書に添付し、確定申告期限(翌年3月15日)までに申告書を提出することが必要です。
ここで注意したいのは、還付申告の場合でも期限は変わらないという点です。「還付申告は期限後でも出せる」と思っている方もいますが、55万円または65万円の青色申告特別控除を受けるためには、必ず翌年3月15日までに提出しなければなりません(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm)。また、現金主義による所得計算の特例を選択している場合は、55万円・65万円いずれの控除も受けられないため、この点も確認しておきましょう。
65万円控除に必要な「上乗せ条件」とは
55万円控除の要件を満たした上で、65万円控除を受けるにはさらに2つのルートのうちいずれかを選ぶ必要があります。「e-Taxルート」と「電子帳簿保存ルート」です。どちらか一方を満たせば65万円控除が適用されます。
e-Taxルートは、スマートフォンやパソコンを使ってe-Taxで確定申告書および青色申告決算書のデータを、確定申告期限までに送信する方法です(国税庁 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0021010-076.pdf)。ただし、確定申告書や貸借対照表・損益計算書などをスキャンした「イメージデータ」で送信することはできません。データとして作成・送信することが条件です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm)。e-Taxを使い慣れている方にとっては、比較的取り組みやすいルートといえるでしょう。
電子帳簿保存ルートは、事業に係る仕訳帳および総勘定元帳を「優良な電子帳簿」の要件を満たした形で電子データとして保存する方法です。こちらは後述する届出書の提出も必要になるため、やや手続きが多くなります。どちらのルートが自分に合っているかは、使用している会計ソフトや申告環境によって異なりますので、状況に応じて選択してください。
電子帳簿保存ルートで必要な「優良な電子帳簿」の要件
電子帳簿保存ルートを選ぶ場合、単に帳簿をパソコンで作るだけでは不十分です。「優良な電子帳簿」と認められるためには、具体的な技術的要件を満たす必要があります。
国税庁の情報(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/0021012-127_01.pdf)によると、優良な電子帳簿には主に4つの要件があります。①訂正・削除の履歴が残ること、②帳簿間で相互関連性があること、③検索機能があること、④モニターや説明書などを備え付けることです。これらはすべて、帳簿の信頼性と透明性を確保するための要件です。
重要なのは、対象となる帳簿が「仕訳帳と総勘定元帳」であるという点です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09_2.htm)。これらの帳簿を優良な電子帳簿の要件に従って保存・備え付けることが求められます。なお、国税庁によると、令和4年1月1日以後、電子帳簿保存では事前承認が不要になりました。同日以後、スキャナ保存も承認制度が廃止されています。電子取引データ保存は別制度で、保存要件の順守が必要です(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/0021005-038.pdf)。この改正により、電子帳簿保存への移行はかつてより取り組みやすくなっています。
電子帳簿保存ルートを選ぶ場合は、届出書の提出も必要です。届出書は、適用を受けようとする年の翌年3月15日(法定申告期限)までに提出します(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09_2.htm)。届出書はe-Taxでも紙でも提出できます。ただし、令和3年分以前からすでに電子帳簿保存の要件で65万円控除を受けており、令和4年分以後も引き続き要件を満たしている場合は、新たな届出書の提出は不要です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm)。
青色申告を始めるための事前手続きと今後の制度変更
不動産貸付けを始めた年分から青色申告をしたい場合は、事前に「所得税の青色申告承認申請書」を提出して承認を受ける必要があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1399.htm)。提出期限は、開業日から2か月以内が原則です。ただし、その年の1月15日以前に開業した場合は3月15日までが期限となります。また、一般的なルールとして、青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで、1月16日以後に新たに事業を開始した場合は開始日から2か月以内が提出期限です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm)。申告の準備を始める前に、まずこの承認申請が済んでいるかどうかを確認しましょう。
なお、令和8年度税制改正により、令和9年分(2027年分)以後の所得税から青色申告特別控除の仕組みが変わることが既に法律で決まっています(所得税法等の一部を改正する法律=令和8年法律第12号、2026年3月31日成立・公布)。最高控除額は65万円から75万円に引き上げられる一方、75万円控除を受けるにはe-Tax申告に加えて「優良な電子帳簿」または「請求書データ等との自動連携」のいずれかが必須となり、書面申告のままだと控除額が大幅に縮小される見込みです(住民税への反映は令和10年度分以後)。2027年分での対応を見据え、2026年中に電子帳簿保存やe-Taxの準備を進めておくことをおすすめします。
不動産投資を長く続けていく上で、税制の変化に早めに対応することは節税効果を最大化するための重要な視点です。制度が変わるタイミングで慌てないよう、日頃から国税庁の公式サイトや税務署の情報をチェックする習慣をつけておくと安心です。
まとめ
2027年分(令和9年分)以後は青色申告特別控除の仕組みが変わる見込みのため、今のうちから電子帳簿保存やe-Taxへの対応を整えておくと安心です。青色申告の65万円控除を受けるには、まず複式簿記による記帳・財務諸表の添付・期限内申告という55万円控除の基本要件を満たし、その上でe-Taxによる電子申告か優良な電子帳簿の保存というどちらかの条件を追加でクリアする必要があります。不動産投資家の場合は、事業的規模(おおむね10室以上または5棟以上)であることも重要な前提条件です。
65万円の控除は所得税・住民税の節税に直結する大きなメリットです。会計ソフトを活用すれば複式簿記や電子帳簿保存の要件を比較的スムーズに満たせるケースも多いため、まだ取り組んでいない方はぜひ検討してみてください。具体的な手続きや個別の状況については、所轄の税務署への相談(事前予約が必要)や、国税庁の電話相談センター(平日8時30分〜17時00分)を活用することをおすすめします(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/denwa-sodan/)。
参考文献・出典
- 国税庁 No.2072 青色申告特別控除 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
- 国税庁 No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm
- 国税庁 No.1399 新たに不動産の貸付けを始めたときの届出など — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1399.htm
- 国税庁 A1-15、H4-9 国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る65万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出手続 — https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09_2.htm
- 国税庁 A1-8 所得税の青色申告承認申請手続 — https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm
- 国税庁 e-Taxによる申告又は優良な電子帳簿の保存により65万円の青色申告特別控除を適用しましょう! — https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0021010-076.pdf
- 国税庁 青色申告者のための貸借対照表作成の手引き(青色申告特別控除Q&A) — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2024/pdf/046.pdf
- 国税庁 個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/index.htm
- 国税庁 国税に関するご相談について — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/denwa-sodan/