不動産投資を始めたばかりの方にとって、確定申告の手続きは複雑に感じられるものです。特に「青色申告特別控除」は、正しく活用すれば最大65万円(令和9年分以後は最大75万円)もの所得控除が受けられる制度ですが、「どの控除額が自分に当てはまるのか」「何を準備すればいいのか」と戸惑う方も多いのではないでしょうか。この記事では、国税庁の公式情報をもとに、不動産所得における青色申告特別控除の仕組みと、控除額ごとの要件を初心者にもわかりやすく解説します。手続きの流れや注意点まで丁寧にお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。
青色申告特別控除とは何か

不動産所得に関わる青色申告特別控除は、一定の帳簿記帳や申告要件を満たした青色申告者が、所得金額から一定額を差し引ける制度です。控除額は「10万円」「55万円」「65万円」の3段階があり、どの控除を受けられるかは、貸付規模や記帳方法、申告方法によって変わります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm)。
まず大前提として、青色申告特別控除を受けるには、事前に「青色申告承認申請書」を税務署に提出しておく必要があります。申請書の提出期限は、原則として青色申告をしようとする年の3月15日までです。ただし、1月16日以後に新たに不動産の貸付けを始めた場合は、開始日から2か月以内に提出すれば間に合います(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm)。なお、提出期限が土日祝日に当たる場合は、翌日が期限になります。
また、事業的規模の不動産貸付けを開始したときは、開業の日から1か月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出も必要です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1399.htm)。青色申告承認申請書とあわせて早めに準備しておくと安心です。
10万円・55万円・65万円、控除額の違いを理解する

重要なのは、控除額の違いが「貸付規模」と「記帳・申告の方法」によって決まるという点です。それぞれの要件を正確に理解することが、節税効果を最大化する第一歩になります。
まず「10万円控除」は、青色申告者であれば比較的簡単に受けられる控除です。簡易簿記(単式簿記)での記帳でも対応でき、不動産貸付けが事業的規模でない場合(いわゆる「業務的規模」)はこの10万円控除が上限となります。手軽に始められる反面、節税効果は限定的です。
次に「55万円控除」は、より高い節税効果が期待できる控除です。この控除を受けるには、①不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること、②正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)による記帳をしていること、③貸借対照表・損益計算書・所得の金額の計算に関する明細書を確定申告書に添付すること、④翌年3月15日までに申告書を提出することの4つをすべて満たす必要があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm)。なお、現金主義による所得計算の特例を選択している方は、55万円控除を受けることができません。
そして「65万円控除」は、55万円控除の要件をすべて満たしたうえで、さらに「仕訳帳・総勘定元帳の電子帳簿保存」または「確定申告書等をe-Tax(電子申告)で期限内に提出」のいずれかを満たす必要があります。電子帳簿保存ルートを選ぶ場合は、優良な電子帳簿の要件を満たし、届出書の提出も必要とされています(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm)。
事業的規模かどうかが控除額を左右する
実は、不動産所得で55万円・65万円の控除を受けられるかどうかは、貸付けが「事業的規模」かどうかという点が大きな分岐点になります。この判断を誤ると、せっかく複式簿記で記帳しても、受けられる控除が10万円にとどまってしまいます。
不動産の貸付けが事業的規模かどうかは、原則として社会通念上の事業規模で実質的に判断されます。ただし、建物の貸付けについては、おおむね10室以上(アパート等)またはおおむね5棟以上(一戸建て等)が原則的な基準とされています(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm)。この基準は「5棟10室基準」とも呼ばれ、多くの不動産オーナーが目安にしています。
事業的規模に満たない「業務的規模」の不動産貸付けによる所得は、他に事業所得がある場合を除き、55万円・65万円の青色申告特別控除は適用されません(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2024/pdf/039.pdf)。一方で、不動産所得が業務的規模であっても、別に事業所得を生ずべき事業を営んでいれば、その事業所得が赤字であっても55万円控除の適用余地があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/07/05.htm)。自分の状況がどのケースに当てはまるかは、個別事情によりますので、不明な点は税務署や税理士に確認することをおすすめします。
控除額の上限と給与所得者が注意すべきポイント
青色申告特別控除には、控除額の上限に関する注意点もあります。55万円控除の場合、青色申告特別控除前の不動産所得と事業所得の黒字合計が55万円未満であれば、その合計額が控除の上限になります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm)。たとえば、不動産所得が30万円しかなければ、控除できるのは最大30万円ということです。
給与所得者の方が不動産所得を得ている場合、「給与以外の所得が20万円以下なら確定申告不要」というルールを知っている方も多いでしょう。しかし、この判定では青色申告特別控除(55万円)を適用しないで計算するため、注意が必要です。つまり、55万円控除を前提に「申告不要」と判断してしまうと誤りになる可能性があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/07/04.htm)。不動産所得がある給与所得者の方は、申告の要否を慎重に確認してください。
また、帳簿や書類の保存義務も忘れてはなりません。青色申告では、仕訳帳・総勘定元帳・固定資産台帳などの帳簿は原則7年、損益計算書・貸借対照表などの決算関係書類も7年の保存が必要です。領収書や預金通帳などの現金預金取引等関係書類は7年、請求書・契約書・見積書などその他の書類は原則5年の保存が求められています(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/kichou02.pdf)。申告後も書類を適切に管理することが、後々のトラブル防止につながります。
令和9年分からの改正と75万円控除への道
ポイントは、令和7年12月に公表された税制改正大綱を経て成立した令和8年度税制改正により、令和9年分以後の所得税から青色申告特別控除の仕組みが一部変わるという点です。将来の節税戦略を考えるうえで、今から把握しておくことが大切です。
まず、令和9年分以後は、国税庁によると、簡易簿記による10万円の青色申告特別控除の適用関係が整理されます。具体的には、事業的規模で不動産所得を得ており簡易簿記で記帳している場合、前々年分の収入金額が1,000万円を超えると10万円控除が適用できなくなります(控除額0円)(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/0026004-012.pdf)。不動産所得が業務的規模の方は、従前どおり最大10万円の控除を受けられます。一方、事業的規模で該当する可能性がある方は複式簿記への移行を検討する必要があります。
さらに注目すべきは、令和9年分以後に最大75万円控除が新たに設けられる見込みという点です。65万円控除の要件(複式簿記+e-Tax)に加えて、①仕訳帳・総勘定元帳を優良な電子帳簿として保存すること、②電子取引データを一定の要件を満たして保存し会計データと自動連携させること、のいずれかを満たした場合に、最大75万円の控除を受けられる見込みです(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/0026004-012.pdf)。この改正は令和9年分以後が対象ですので、最新情報は国税庁の公式サイトでご確認ください。
まとめ
不動産所得における青色申告特別控除は、10万円・55万円・65万円の3段階があり、貸付規模や記帳方法・申告方法によって受けられる控除額が変わります。事業的規模(おおむね10室以上または5棟以上)であれば複式簿記とe-Taxの活用で最大65万円の控除が可能です。また、令和9年分以後は最大75万円控除の新設や、制度の変更も予定されています。まずは自分の貸付規模と記帳状況を確認し、青色申告承認申請書の提出から始めてみましょう。不明な点は、国税庁の電話相談センター(0570-00-5901、受付時間:平日8時30分〜17時00分)や所轄の税務署にご相談ください。
参考文献・出典
- 国税庁「No.2072 青色申告特別控除」 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
- 国税庁「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm
- 国税庁「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」 – https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm
- 国税庁「No.1399 新たに不動産の貸付けを始めたときの届出など」 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1399.htm
- 国税庁「令和6年分 青色申告決算書(不動産所得用)の書き方」 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2024/pdf/039.pdf
- 国税庁「事業所得や不動産所得等のある方には(帳簿の記帳・保存)」 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/kichou02.pdf
- 国税庁「国税に関するご相談について」 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/denwa-sodan/
- 国税庁「業務的規模の不動産所得と赤字の事業所得がある場合の青色申告特別控除」 – https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/07/05.htm
- 国税庁「青色申告特別控除(55万円)と確定申告の要否」 – https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/07/04.htm
- 国税庁「簡易簿記による10万円の青色申告特別控除を適用している皆様へ 令和9年分から青色申告特別控除はどう変わる?」 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/0026004-012.pdf