不動産を売却したとき、思ったより高く売れれば嬉しいものですが、逆に損失が出てしまうケースも少なくありません。「せっかく売ったのに損をした上に税金まで払うの?」と不安に感じる方もいるでしょう。実は、一定の条件を満たせば、不動産売却で生じた損失を給与所得などと合算して税負担を減らせる「損益通算」という仕組みがあります。この記事では、損益通算の基本的な考え方から、不動産売却に適用できる特例の内容、手続きの流れまでを初心者にも分かりやすく解説します。税金の仕組みを正しく理解することで、損失が出た場面でも賢く対処できるようになります。
損益通算とはどんな仕組みか

まず押さえておきたいのは、損益通算とは「ある所得で生じた損失を、別の所得のプラスと相殺できる制度」だということです。たとえば給与所得が500万円あるのに、不動産売却で200万円の損失が出た場合、条件を満たせば合計所得を300万円として計算できます。その結果、所得税や住民税の課税対象額が下がり、税負担を軽くする効果が生まれます。
所得税の計算では、給与所得・事業所得・不動産所得・譲渡所得など、さまざまな種類の所得が存在します。これらは原則として合算して課税されますが、損失が出た場合にすべてを自由に相殺できるわけではありません。特に不動産の売却(譲渡所得)に関しては、独自のルールが設けられており、損益通算できる場合とできない場合が明確に区別されています。
国税庁の情報によると、個人が土地や建物を譲渡して譲渡損失が生じた場合、その損失はまず他の土地や建物の譲渡所得から控除できます。しかし、控除しきれない損失は原則として事業所得や給与所得など他の所得とは損益通算できないとされています(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3203.htm)。つまり、不動産売却の損失は「原則として損益通算できない」という点が大前提です。
ただし、この原則には重要な例外があります。自分が住んでいるマイホームを売却した場合には、一定の要件を満たすことで損益通算が認められる特例制度が用意されています。次のセクションから、その特例の内容を詳しく見ていきましょう。
マイホーム売却の損失に使える2つの特例

不動産売却の損失に関して損益通算が認められる代表的な制度として、国税庁は2つの特例を案内しています(国税庁 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_3.htm)。どちらも「マイホーム(居住用財産)」の売却が対象であり、投資用物件や別荘などには適用されません。
1つ目は「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。これは、マイホームを売却して損失が出た場合に、新たなマイホームに買い換えることを条件として、損失を給与所得などと損益通算できる制度です。さらに、その年に控除しきれなかった損失は翌年以後3年間にわたって繰り越して控除することができます。
2つ目は「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。こちらは住宅ローンが残っているマイホームを、ローン残高を下回る価額で売却して損失が生じた場合に適用できます。国税庁によると、令和7年12月31日までの売却が対象とされており、新たなマイホームを取得することが要件となります。新たなマイホームを取得しない場合には適用できません(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3370.htm)。いわゆる「オーバーローン」の状態で売却せざるを得なかった方にとって、特に重要な制度といえます。
どちらの特例も、契約書や税務申告書に定められた一定の所有期間要件を満たすマイホームであることが要件として示されています(国税庁 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_3.htm)。短期間で売却した場合には適用されないため、この点は必ず確認しておきましょう。
繰越控除を受けるための手続きと注意点
特例を活用するには、正しい手続きを踏むことが欠かせません。ポイントは、損失が生じた年分の確定申告書を期限内に提出することです。国税庁の情報によると、繰越控除の特例を受けるためには、損失が生じた年分の書類の添付がある確定申告書をその提出期限までに提出することに加え、その後の年分も連続して確定申告書を提出し続ける必要があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3379.htm)。
つまり、「損失が出た年だけ申告すればいい」というわけではありません。繰越控除を使いたい年が続く限り、毎年確定申告を行う義務があります。会社員の方は普段確定申告をしていないケースが多いですが、この特例を使う場合は自分で申告手続きを行う必要があります。
添付書類についても注意が必要です。買換え特例の繰越控除では、各年の12月31日における買換資産に係る住宅借入金等の残高証明書などの添付が求められます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3379.htm)。また、買換えなしの特例では、売却したマイホームの登記事項証明書や、売買契約日の前日の住宅借入金等残高証明書なども必要になります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3393.htm)。書類の準備には時間がかかることもあるため、売却後は早めに税務署や税理士に相談することをおすすめします。
さらに、繰越控除には所得制限もあります。翌年以後3年以内の各年分で繰越控除を使えますが、合計所得金額が3,000万円を超える年分については適用が除かれます(国税庁 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_3.htm)。高収入の年には控除が使えない場合があることも、あらかじめ把握しておきましょう。
不動産所得の赤字と損益通算の違い
ここまでは不動産の「売却(譲渡所得)」における損益通算を解説してきましたが、不動産投資で生じる「不動産所得」の赤字についても触れておきます。実は、不動産所得の赤字と譲渡所得の損失では、損益通算のルールが大きく異なります。
不動産所得とは、アパートや賃貸マンションなどを貸し付けることで得られる収入から、必要経費を差し引いた所得のことです。この不動産所得に赤字が生じた場合、原則として給与所得や事業所得など他の所得と損益通算することができます。たとえば、減価償却費や修繕費などの経費が家賃収入を上回った年には、その赤字を給与所得と相殺して税負担を軽減できる可能性があります。
ただし、すべての不動産所得の赤字が損益通算できるわけではありません。別荘など通常必要でない資産の貸付けによる損失や、土地を取得するための負債利子に相当する部分の損失などは、損益通算の対象外とされています。これらは損失が生じなかったものとみなされ、他の所得から控除することはできません。
このように、不動産に関わる税務は「売却による損失(譲渡所得)」と「賃貸による赤字(不動産所得)」で扱いが異なります。自分の状況がどちらに該当するかを正確に把握した上で、適切な申告を行うことが大切です。個別の判断が難しい場合は、税理士などの専門家に相談することを強くおすすめします。
まとめ
不動産売却で損失が出た場合、原則として他の所得との損益通算はできません。しかし、マイホームの売却については「買換え特例」と「住宅ローン残債がある場合の特例」という2つの制度が用意されており、一定の要件を満たせば給与所得などと損益通算でき、さらに翌年以後3年間の繰越控除も活用できます。重要なのは、一定の所有期間要件や、期限内の確定申告・毎年の継続申告といった手続き上のルールをしっかり守ることです。税制は複雑で個人の状況によって適用可否が変わるため、売却を検討している方は早めに国税庁の公式情報を確認し、必要に応じて税理士に相談しながら進めることが、損をしないための最善策といえるでしょう。
参考文献・出典
- 国税庁「No.3203 不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合」 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3203.htm
- 国税庁「No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき」 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3390.htm
- 国税庁「No.3379 マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を受けるための申告手続と添付書類等」 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3379.htm
- 国税庁「No.3393 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を受けるための申告手続と添付書類」 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3393.htm
- 国税庁「土地や建物を売ったとき」 — https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_3.htm
- e-Gov 法令検索「所得税法」 — https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033/20260101_505AC0000000003