賃貸トラブル・退去

賃貸のクローゼットが壊れた!費用は誰が負担?

賃貸住宅で暮らしていると、ある日突然クローゼットの折れ戸が外れたり、収納内部の棚板がぐらついたりすることがあります。「これは自分で直すべきなのか」「退去時に高額な修理費を請求されないか」と不安を感じる方は少なくありません。実は、収納扉や棚が壊れたときの費用負担は、壊れた原因によって大きく変わります。この記事では、国土交通省や民法などの一次情報をもとに、賃貸のクローゼットや棚が壊れたときの費用負担の考え方と、修理費の目安、不当請求への対処法まで、初心者にもわかりやすく整理します。

費用負担の基本は「壊れた原因」で決まる

まず押さえておきたいのは、賃貸住宅の修繕費用は「誰の責任で壊れたか」によって負担者が決まるという点です。国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、建物や設備の自然的な劣化・損耗(経年変化)や、通常の使用によって生じる損耗(通常損耗)は貸主が負担するのが原則とされています。一方で、借主の故意・過失や善管注意義務違反、通常の使用方法を超える使い方による損耗は、借主が負担すべき費用と整理されています。

この考え方の出発点となるのが民法です。民法第606条は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と定めています。つまり、収納扉の自然な建付け不良や、通常使用のなかで起きた部品の劣化は、まず貸主が修繕すべき対象と考えるのが法的な整理です。さらに民法第621条では、退去時の原状回復義務から通常損耗と経年変化が明確に除外されています。古くなって壊れたクローゼット扉について、借主に責任がなければ原則として請求しにくいのは、こうした条文の裏付けがあるからです。

収納扉に当てはめて考えると、長年の使用でレールが摩耗したり、蝶番がゆるんだりといった劣化は通常損耗に該当する可能性が高く、貸主の負担となるのが基本です。反対に、扉を強く蹴って割ってしまったり、家具を動かす際に強くぶつけて変形させたりした場合は、借主の過失として修繕費を求められることになります。同じ「壊れた」でも、原因によって結論が正反対になる点が重要です。

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収納扉や棚板は原状回復の検討対象になる

実は、収納扉や棚板は国土交通省のガイドラインでも明確に原状回復の検討対象として挙げられています。ガイドラインの別表には「押入れ・天袋」「戸棚類」「室内ドア・扉」が洗浄・補修・調整・交換の対象箇所として記載されており、クローゼットの扉や内部の棚板もこれらの建具・戸棚類として扱われます。ここで誤解しやすいのは、対象箇所に挙がっているからといって自動的に借主負担になるわけではないという点です。あくまでも「誰の責任で損傷が生じたか」という原因の判断が先に来ます。

具体的な線引きの参考になるのが、公的住宅を運営するJKK東京が公表している負担区分の考え方です。同機構の基準では、扉の破損が「家具等を動かす際にぶつけたこと」による場合は入居者負担の例とされる一方で、戸車の取替を含む建具の調整は公社負担とされています。つまり、自然な建付け不良や部品の摩耗による調整は貸主側の責任、ぶつけて壊した破損は借主側の責任と切り分けられているわけです。棚板についても、同じ基準では「重量物を乗せたことによる破損」は入居者負担の例とされており、通常の収納量を超えて過度に重いものを載せて割ったようなケースは借主負担に傾きます。

さらに注意したいのが、収納内部にDIYで棚を後付けするケースです。国土交通省の相談事例では、自作の棚を設置するために壁にくぎを打ち、下地ボードの張替えが必要な程度になった場合は、通常の使用による損耗を超えると判断されることが多いとされています。収納の使い勝手を良くしようとした工夫が、かえって原状回復費用の負担につながることもあるため、後付けの造作には慎重さが求められます。

気づいたらすぐ連絡・自己判断の修理は避ける

収納扉の不具合を見つけたとき、「大したことないから後でいいか」と放置してしまう方は少なくありません。しかし、これは大きなリスクを伴います。国民生活センターの案内でも、入居時から設置されていた設備に不具合や故障が起きた場合は、すぐに貸主側へ連絡して相談するよう促されています。連絡を怠った結果、被害が拡大した場合には、その二次的な損傷について借主の責任を問われる可能性があります。たとえば、外れたレールを放置して扉が落下し、床や壁を傷つけてしまえば、その傷は借主負担と判断されかねません。

ここで特に強調したいのが、自己判断で修理してしまわないことです。国民生活センターは、貸主側に無断で修繕を行うと退去時の原状回復の際にトラブルになる可能性があると注意を促しています。実務上も、賃貸物件では原状回復義務が定められているため、たとえきれいに直せたとしても自己判断で修理すると追加請求や契約違反のリスクが生じることがあると指摘されています。良かれと思って自分で直した結果、かえって話がこじれることは避けたいところです。

なお、民法第607条の2では、貸主に修繕が必要である旨を通知したのに相当の期間内に修繕しない場合や、急迫の事情がある場合には、借主が自ら修繕できる余地も認められています。ただし、これは例外的な規定です。原則としては、故障に気づいたらまず管理会社や大家さんへ連絡することが、自分自身を守る一番の方法になります。連絡する際は故障の状況を写真に撮り、連絡した日時や対応内容もメモに残しておくと、後の話し合いで役立ちます。

クローゼットや棚の修理費はどのくらいかかる?

借主負担になった場合に気になるのが、実際の修理費用です。金額は壊れ方やメーカー、サイズによって幅がありますが、目安を知っておくと請求内容の妥当性を判断しやすくなります。メーカー公式が公表している折れ戸タイプのクローゼット扉の修理目安を見ると、建付け調整でおよそ1万5千円から4万円、丁番の交換で1万7千円から4万3千円、ガイドローラーの交換で2万7千円から5万3千円、吊り車の交換で3万円から5万7千円程度とされています。引戸タイプに近い構造では、戸車一式の交換で2万4千円から3万6千円、引手の交換で1万8千円から2万5千円程度が公式の目安として示されています。

民間のリフォーム相場では、建具の補修が1枚あたり5千円から3万円、クローゼット扉の補修が1箇所あたり1万円から2万5千円、折戸を交換する場合は2万円から5万円程度が一つの目安とされています。棚板については、メーカー公式の押入・クローゼット用の棚板セットが参考価格で2千3百円から3万5千円程度とされており、これに工賃が加わる形になります。ある自治体が公開している原状回復単価では、クローゼットの下地補修が木製で1箇所6千5百円、化粧シートの張替えが1平方メートルあたり1万5千円といった参考単価も示されています。以下に主な目安を整理します。

作業内容費用の目安
折れ戸の建付け調整約1.5万〜4万円
丁番・戸車などの部品交換約1.7万〜5.7万円
クローゼット扉の補修約1万〜2.5万円/箇所
折戸の交換約2万〜5万円
棚板セットの部材約2,300〜3.5万円/セット(工賃別)

ただし、古い物件や特注サイズ、廃番になった建具では、同じ部品が手に入らず、部品交換ではなく近似品への交換になるケースもあります。その場合は費用が上振れすることもあるため、あくまで目安として捉えてください。

退去時に不当な請求をされたときの対処法

退去の立会いで収納扉の修理費を請求され、困惑するケースも少なくありません。ここで知っておきたいのは、立会い時に損傷確認のサインをしたからといって、すべての費用を自動的に負担しなければならないわけではないという点です。国土交通省のガイドラインでも、借主の故意・過失等によらない損傷については、その分まで負担する必要はないと整理されています。まずは請求内容の根拠を確認し、通常損耗や経年変化に当たるものが含まれていないかを見極めることが第一歩です。

請求金額の範囲についても重要な目安があります。東京都が公表している賃貸住宅トラブル防止のガイドラインでは、原状回復費用の負担は「破損部分の補修工事に必要な施工の最小単位」に限定されるとされています。つまり、扉なら1枚単位、壁なら平方メートル単位が原則で、一部の傷を理由にクローゼット全体の交換費用を請求されるのは過大な請求である可能性があります。また、借主が負担する場合でも経過年数を考慮した残存価値が前提となり、耐用年数を経過した建具の価値は非常に低く見積もられる考え方が示されています。古い扉を最新の高級品に交換する費用を全額請求されても、そのまま応じる必要はありません。

納得できない場合は、まず貸主や管理会社にガイドラインを根拠として説明を求め、話し合いの場を設けましょう。それでも解決しないときは、国民生活センターや各地の消費生活センターに相談するという選択肢があります。収納扉の修理費程度の金額であれば、少額の金銭の支払いを求める訴えに使える少額訴訟制度が選択肢になることもあります。感情的に争うのではなく、公的な基準に沿って冷静に交渉することが、結果的に納得のいく着地につながります。

特約と火災保険もあわせて確認しておく

賃貸契約には、本来なら貸主負担となる費用を借主が負担するよう定めた「特約」が含まれていることがあります。こうした特約は一定の条件を満たせば有効とされますが、自動的に効力を持つわけではありません。東京都のガイドラインでは、特約が認められるための要件として、特約の必要性があり暴利的でないなどの客観的・合理的な理由が存在すること、借主が通常の原状回復義務を超えた義務を負うことを認識していること、そして借主がその負担意思を示していることが挙げられています。「収納扉の修繕費は借主が負担する」といった漠然とした一文だけでは、有効な特約と認められない可能性があります。契約時に不明な点があれば、署名する前に必ず内容を確認しておきましょう。

もう一つ知っておきたいのが、火災保険の活用です。加入している火災保険に「汚損・破損」の補償が付いていれば、引越し中に家具をぶつけてクローゼット扉を傷つけた、子どもが遊んでいて穴を開けてしまったといった偶発的な事故が補償の対象になる場合があります。ただし、補償の有無や免責金額は保険商品によって差が大きく、すべてのケースが対象になるわけではありません。実際に使えるかどうかは、加入している保険会社に補償内容と適用条件を個別に確認することが必要です。

まとめ

賃貸のクローゼットや棚が壊れたときの費用負担は、「通常の使用による経年劣化か」「借主の故意・過失によるものか」という原因の判断が基本です。民法や国土交通省のガイドラインでは、通常損耗や経年変化は貸主負担、借主の過失による損傷は借主負担という整理が示されています。故障に気づいたら放置や自己判断の修理を避け、まず管理会社や大家さんへ連絡することが、自分を守る第一歩です。退去時に不当な請求を受けた場合も、負担は補修の最小単位に限られ、経過年数が考慮されるという基準を知っていれば冷静に交渉できます。正しい知識を備えて、安心できる賃貸生活を送ってください。なお、個別の事情によって結論が変わることもあるため、最新情報や具体的な判断は各公的機関の公式サイトや専門窓口でご確認ください。

参考文献・出典

  • 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について — https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html
  • 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版) — https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf
  • 国土交通省 賃貸住宅標準契約書(改訂版) — https://www.mlit.go.jp/common/001319685.pdf
  • e-Gov 民法 第606条(賃貸人による修繕等) — https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • e-Gov 民法 第607条の2(賃借人による修繕) — https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089/20200401_429AC0000000044
  • e-Gov 民法 第621条(賃借人の原状回復義務) — https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 東京都「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」 — https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/fudosan/tintai/310-3
  • 国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブルにご注意!」 — https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20260217_1.html
  • 国民生活センター「住み始める時から、いつか出ていく時に備えておこう!」 — https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20230201_2.html

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