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家賃は本当に下がっていくのか|築年数と募集家賃の実データ

「家賃は築年数とともに下がっていく」。賃貸経営の前提として、よく語られる話です。ところが実際に持っている方に聞くと、「うちは下がっていない」という答えがかなり返ってきます。どちらが正しいのでしょうか。当社が独自に集計した東京都と神奈川県の賃貸募集データで、二つの角度から数えてみました。結論を先に書くと、築年数による下落は実在します。ただしこの10年は、相場全体の上昇がそれをほぼ打ち消してきました。二つの力が反対向きに働いていたので、体感としては「下がっていない」ようにも見えていた、というのが実態です。

角度1:いま募集されている部屋を、築年数で並べる

まず、直近2年間に東京都で募集が始まった部屋を、築年数の帯ごとに並べます。家賃は広さによって当然変わるので、1㎡あたりの月額に直してあります。

築年数件数1㎡あたり月額(中央値)30㎡なら
築0〜4年158,184件5,197円約15.6万円
築5〜9年83,424件4,856円約14.6万円
築10〜14年54,190件4,506円約13.5万円
築15〜19年77,565件4,542円約13.6万円
築20〜24年68,392件4,444円約13.3万円
築25〜29年32,297件3,934円約11.8万円
築30〜34年32,426件3,544円約10.6万円
築35〜39年43,342件3,409円約10.2万円
築40年以上58,000件3,388円約10.2万円
2024年9月〜2026年8月に東京都で募集が始まった賃貸マンション・分譲賃貸(当社が独自に集計)

築0〜4年と築40年以上を比べると、1㎡あたり5,197円が3,388円になります。65%の水準です。ただし、この表には落とし穴があります。新しい建物は都心の駅近に建ちやすく、古い建物は郊外にも多い。つまり築年数の差ではなく、場所の差を見ている可能性があるのです。

そこで、市区と広さの帯をそろえて計算し直しました。同じ市区・同じ広さの帯の中だけで築年数を比べ、それを244の組み合わせで平均したものです。対象は東京都と神奈川県の943,165件。築0〜9年を100としたときの水準は、次のようになりました。

  • 築10〜19年:88.2(約12%下)
  • 築20〜29年:77.0(約23%下)
  • 築30〜39年:66.9(約33%下)
  • 築40年以上:62.1(約38%下)

場所と広さをそろえても、下落はしっかり残りました。ならして見ると、築30年までは1年あたり1%強のペースで下がり、そこから先はゆるやかになります。家賃12万円の部屋なら、10年で1万4,000円ほど、20年で2万7,000円ほど下の水準です。これが「築年数の力」の大きさです。

角度2:同じ部屋が、次に募集されたときいくらだったか

ここまでは、違う部屋どうしを比べた話です。もっと直接的な見方があります。同じ建物の同じ階、同じ広さ、同じ間取りの部屋が、退去のあと次にいくらで募集されたか。これを追いかければ、その部屋自身に何が起きたかが分かります。230,465組を並べました。前回の募集からの間隔は、中央値で790日。およそ2年2か月です。

  • 前回より下がった:55,144組(23.9%)。下げ幅の中央値は4.64%
  • ほぼ同じ:58,025組(25.2%)
  • 前回より上がった:117,296組(50.9%)。上げ幅の中央値は6.25%

下がったのは4組に1組で、上がったのは半分です。全体の中央値は0.75%の上昇でした。築年数は確実に2年進んでいるのに、家賃は下がっていません。しかも、間隔が空くほど上げ幅は大きくなります。

前回の募集からの間隔組数家賃の変化(中央値)上がった割合
1〜2年98,066組0.00%45.1%
2〜4年84,180組+1.08%52.0%
4〜7年37,722組+2.80%60.5%
7〜10年10,497組+3.45%61.9%
同じ建物・同じ階・同じ広さ・同じ間取りの部屋の、前回募集と今回募集の比較(当社が独自に集計)

二つの結果は、矛盾していません

角度1では「築年数で下がる」、角度2では「同じ部屋は下がっていない」。逆のことを言っているように見えますが、理由はひとつです。相場そのものが上がってきたからです

築年数の条件をそろえて、年ごとの家賃だけを取り出すと、それがはっきり出ます。東京都で築20〜29年の部屋の1㎡あたり月額は、2015年が3,306円、2026年は4,406円でした。11年で33%の上昇です。神奈川県も同じ形で、2018年の2,088円が2026年は2,778円。8年で33%上がっています。

整理すると、こういう構図です。築年数は1年あたり1%強ずつ家賃を押し下げます。いっぽう相場は、この10年ほど年3%前後のペースで押し上げてきました。押し上げるほうが強かったので、実際の募集家賃は横ばいか、やや上がって見えていた。それだけのことです。

先ほどの再募集の表も、この目で見直すと読み方が変わります。間隔が1〜2年の組は中央値0.00%、4〜7年になると2.80%の上昇でした。「長く置いたほうが上がる」わけではありません。間隔が長いほど、その間に積み上がった相場の上昇分が大きくなるだけです。築年数の下落は同じように進んでいます。表に出ている数字は、二つの力の差し引きの結果です。

ここに、判断のうえで大事な点があります。相場の上昇が止まると、築年数の分だけ素直に下がります。過去10年の実績は、これから10年の保証ではありません。今の家賃が維持できているのは、部屋が劣化していないからではなく、相場が持ち上げてくれていたからだ、という前提で計画を立てるほうが安全です。

下がる理由と、下げ止まる理由

築年数で家賃が下がる理由は、建物が傷むからだけではありません。むしろ大きいのは、比べられる相手が変わることです。借りる人は、同じ家賃で借りられる部屋を横に並べて選びます。10年たてば、その並びに10年ぶんの新しい部屋が入ってきます。宅配ボックス、追い焚き、独立洗面台、インターネット無料。こうした設備は、建てられた年代でほぼ決まります。あとから足せるものもありますが、間取りや水回りの配置は変えられません。

そのうえで、下落は永久には続きません。表を見ると、築30〜34年が3,544円、築35〜39年が3,409円、築40年以上が3,388円。ここはほとんど横ばいです。市区と広さをそろえた指数でも、築30〜39年の66.9から築40年以上の62.1まで、下がり方はゆるくなります。ある水準まで来ると、そこから先は「古さ」より「立地」と「広さ」で家賃が決まるようになるためです。設備で選ぶ層はすでに離れていて、残っているのは価格と場所で選ぶ層だからです。

言い換えると、家賃が大きく削られるのは築10年から30年にかけての区間です。ここでの下落が、賃貸経営の収支にいちばん効きます。表の中で築10〜14年より築15〜19年のほうがわずかに高く出ているのは、この帯に都心の大型物件が多く含まれるためで、きれいな一直線にはなりません。それでも、全体の向きは変わりません。

あなたの部屋は、どのケースでしょうか

  • 退去のたびに家賃を上げられている——相場の上昇が築年数の下落を上回っている状態です。この記事でいちばん多いケースにあたります。ただし上げ幅が回を追うごとに小さくなっているなら、力関係が変わりつつあります。
  • 据え置きでしか決まらない——押し上げと押し下げが釣り合っています。次の退去では下げ側に傾く可能性があります。
  • 2回続けて下げている——相場の上昇でも支えきれない状態です。原因は築年数だけとは限りません。設備、間取り、周辺に新しい供給が増えたかどうかも見る必要があります。
  • 長く同じ方が住んでいて、募集していない——いちばん注意が要るケースです。10年前の家賃のまま入っているなら、それは10年前の相場です。次の募集で今の相場に置き換わります。上がるか下がるかは、確かめてみないと分かりません。

当社では、こう見ています

当社には月に500件ほど、売却のご相談や物件のお持ち込みがあります。賃貸中の物件を評価するときは、いま入っている家賃をそのまま使いません。一戸ずつ、いまの募集相場に置き換えて計算し直します。長く住んでいる方の家賃は、その方が入居した時点の相場だからです。この置き換えで数字が大きく動く物件は、売る側と買う側で価格の見え方がずれます。この記事で使った家賃データも、その置き換えにそのまま使っているものです。売買のAI査定でも、想定家賃は募集相場から作っています。

次の一歩

いちばん先にやっていただきたいのは、いま受け取っている家賃と、同じ条件の部屋がいまいくらで決まっているかを並べてみることです。同じ駅・同じ間取り・近い築年数の実際の成約家賃は、駅別・間取り別の家賃相場データで確認できます。差が小さければ、その家賃は今の相場で説明のつく水準です。受け取っている家賃のほうが高ければ、次の退去で下がります。その差額を12か月ぶんかけたものが、これから毎年減っていく金額です。

差が大きいと分かった場合は、そのまま持ち続けたときの手残りと、いま売った場合の金額を並べて比べる段階になります。マンション名・専有面積・階が分かれば、成約価格をもとにした売却額をその場で確認できます。この記事の下にご案内があります。

まとめ

  • 市区と広さをそろえて比べると、家賃は築0〜9年を100として築20〜29年で77.0、築30〜39年で66.9。築年数による下落は実在する
  • 同じ部屋の再募集230,465組では、下がったのは23.9%だけ。50.9%は上がっており、全体の中央値は0.75%の上昇
  • 矛盾ではなく、相場の上昇が築年数の下落を打ち消していたため。東京都・築20〜29年の1㎡単価は11年で33%上がった
  • 相場の上昇が止まれば、築年数の分(年1%強)がそのまま出てくる。過去の横ばいを将来の前提にしない
  • 長期入居の部屋は、いまの家賃が入居時点の相場のまま。次の募集で置き換わるので、先に相場と並べておく
電宅男
監修 電宅男 宅地建物取引士 / MBA|株式会社青山地所 営業部

一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。

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