不動産物件購入・売却

売り出し中の価格は、同じ建物の成約より15.8%高い|なぜ成約価格を自分で集計するのか

不動産の相場を調べようとすると、まず目に入るのは「いま売りに出ている価格」です。似た部屋がいくらで出ているかを何件か眺めて、だいたいの見当をつける。自然なやり方だと思います。ただ、その数字は売主が「この値段で売りたい」と決めた金額であって、買主が納得した金額ではありません。売出価格は希望であって、市場の答えではありません。

では、希望と答えはどれくらい離れているのでしょうか。当社が独自に集計しているデータには、「いま売り出されている部屋の価格」と「同じ建物で実際に決まった価格」の両方が入っています。両方がそろっている建物は14,586棟ありました。この2つを建物ごとに並べたところ、売出中の㎡単価は、同じ建物の直近1年の成約より中央値で15.8%高いという結果になりました。売出のほうが高い建物は、全体の81.1%です。

値上がりしているから、ではありません

この15.8%を見て、まず浮かぶのは「相場が上がっているから、新しく出た部屋のほうが高いのでは」という説明だと思います。もっともな疑問なので、同じデータで確かめました。成約した価格だけを取り出して、㎡単価の中央値が半年ごとにどう動いたかを見たものが次の表です。

成約した時期件数㎡単価の中央値
2023年 上半期17,425件63.6万円
2023年 下半期16,639件65.4万円
2024年 上半期18,589件67.3万円
2024年 下半期17,358件67.0万円
2025年 上半期24,111件66.6万円
2025年 下半期23,771件69.2万円
2026年 上半期23,355件69.7万円
中古マンションの成約価格を㎡単価に直し、半年ごとに中央値を出したもの(当社独自集計)

3年半で63.6万円から69.7万円になりました。上がってはいます。ただ、年に直すと3%前後です。この動きで15.8%の差は説明できません。

差の正体は、もっと単純です。適正な価格で出た部屋は、早めに決まって売り場から消えます。高すぎる価格で出た部屋は、決まらないので残ります。つまり、いま並んでいる在庫には「まだ決まっていない部屋」だけが集まっているのです。売り場に長くいる部屋ほど、その並びの中で目につくようになります。だから、売出中の価格を平均すると、実際に決まった価格より上に寄ります。

ここまでのまとめ:売出中の価格が高く出るのは、相場が上がっているからではありません。決まらなかった部屋が残っているからです。

ずれ方は、種別によってまるで違います

ここが実務でいちばん役に立つところです。「売り出した価格」と「決まった価格」の開きは、扱うものによって大きく変わります。同じやり方で4つの種別を集計しました。

種別集計した成約差(中央値)差(平均)下げて決まった割合決まるまでの日数
中古マンション123,849件4.5%6.9%71.8%91日
土地33,735件5.9%8.8%68.7%71日
戸建66,406件5.6%8.0%72.9%124日
賃貸(部屋を貸す)95,081件0.0%2.2%30.8%38日
売買は直近3年、賃貸は直近2年に成約したもの。日数は中央値(当社独自集計)

賃貸だけ、はっきり性質が違います。募集を出したときの賃料と、実際に決まった賃料の差は中央値0.0%。つまり賃貸の募集賃料は、半分以上がそのまま決まっているということです。下げて決まったのは30.8%だけ。決まるまでの日数も38日でした。

売買はまるで違います。中古マンションで71.8%、戸建では72.9%が、途中で価格を下げて決まっています。戸建が決まるまでの日数は中央値124日。4か月です。

理由は、比べる相手の数です。賃貸は同じ駅に似た部屋がいくつも出ています。借りる側も貸す側も、相場をすぐ確かめられます。だから最初から実勢に近い金額が出ます。売買はそうはいきません。同じ建物の同じ間取りが次に売りに出るのは、何年も先かもしれない。比べる相手がいないところに、住宅ローンの残りや「買ったときの値段」といった売主の事情が乗ります。その結果、最初の値付けが上に寄ります。

つまり、あなたの場合はこう考えてください。広告の価格をそのまま相場とみなしてよいのは、賃貸くらいです。売買では、広告の価格は出発点であって、着地点ではありません。

ここまでのまとめ:賃貸の募集賃料は、ほぼ実勢どおりです。売買の売出価格は、7割が下がって決まります。

あなたはいま、どの立場で相場を見ていますか

見るべき数字は、立場によって変わります。ご自分に近いものを探してみてください。

  • 売る前に、だいたいの目安を知りたい——広告の価格から1〜2割引いたあたりが、現実的な着地です。ただし引き算で当てるより、その建物で実際に決まった価格を見たほうが早く、しかも正確です。
  • もらった査定額が妥当か確かめたい——査定額そのものではなく、根拠に使われた事例を聞いてください。売り出し中の価格を根拠にしているのか、決まった価格を根拠にしているのか。ここで話の中身が変わります。
  • 買う側として、高値づかみを避けたい——同じ建物の過去の成約と、いまの売出価格を並べます。差が2割を超えているなら、その理由を確かめる価値があります。
  • 貸すか売るかで迷っている——賃料の見立ては当てやすく、売却価格の見立ては外れやすい。この違いを前提に、賃料は募集の相場で、売価は成約の相場で計算してください。

ここまでのまとめ:どの立場でも、判断の土台に置くのは「決まった価格」です。

公表されている統計だけでは、足りません

成約価格を扱う統計や指数は、世の中にもあります。作り方は堅く、大きな流れを知るには十分です。それでも当社が自分で集計しているのは、実際の判断には三つ足りないからです。

一つめは、時間差です。公表される統計は、集計して確認して出すまでに時間がかかります。売主が値付けを決めるのは「いま」です。半年前の水準では、いまの判断材料になりません。

二つめは、粒度です。多くの統計は、市区や広い地域の単位でまとまっています。ところが同じ区の中でも、駅が違えば㎡単価は倍近く違います。同じ駅でも、建物が違えば違います。「区の平均」は、あなたの部屋の値段をほとんど説明しません。

三つめは、条件の細かさです。階数、向き、角部屋かどうか、リフォーム済みかどうか、管理費と修繕積立金がいくらか。売買の現場で価格を動かすのは、こういう条件です。広い単位の統計では、そこまで分けられません。

だから当社は、自分たちで数えることにしています。数えたものは、マンション棟別の相場データ東京・神奈川の家賃相場データ土地・戸建ての相場データとして公開しています。ご自身の建物やお住まいの市区を、そのまま見ていただけます。

ここまでのまとめ:公表統計は流れを知るためのものです。自分の物件の値段を出すには、粒度が足りません。

数える前に、必ずやっている確認

件数が多ければ正しい、というものではありません。むしろ件数が増えるほど、おかしな記録も一緒に増えます。当社が集計の前に必ず通している確認を、そのまま書きます。

1つめ。「終わった」と「売れた」を区別します。売り出しが終わったからといって、売れたとは限りません。売主が取り下げた場合も、条件が折り合わなかった場合も、売り出しは終わります。当社の集計では、販売が終わった記録のうち、成約と確認できたものは4割弱でした。残りは、売れた事例としては数えていません。ここを混ぜると、成約価格の集計に「売れなかった部屋の価格」が入り込みます。

2つめ。あり得ない値を落とします。築年が西暦1000年になっている記録。専有面積が3㎡や900㎡になっている記録。成約価格が売出価格の3倍になっている記録。こうした桁違いや入力ミスは、必ず一定数まぎれ込みます。1件でも残れば平均は動きます。上下の極端を機械的に外してから数えます。

3つめ。件数が少ないところは出しません。3件しかない駅の中央値は、相場ではなく偶然です。当社の公開ページに載せているのは、事例が十分にある建物・駅・市区だけです。載っていない場所は「相場が無い」のではありません。「まだ人に見せられるほど数えられていない」という意味です。

4つめ。平均だけを見ません。平均は、一部の高額な取引に引っぱられます。実感に近いのは中央値のほうです。この記事の数字も、平均と中央値を並べて出しました。二つが大きく離れているときは、その裏に何があるかを必ず確かめます。

5つめ。鮮度で区切ります。10年前の成約は、いまの値付けの根拠にはなりません。集計は毎月やり直し、記事や査定に使うのは直近の期間だけにしています。この記事の売買の数字が直近3年、賃貸が直近2年なのは、そのためです。

ここまでのまとめ:件数の多さより、「何を数えないか」を決めるほうが結果を左右します。

当社では、こう見ています

当社は買取と仲介の両方を行っています。買取では自社の資金で買うため、見立てが甘ければそのまま損になります。ですから判断の土台は、いま出ている売出価格ではなく、実際に決まった価格に置いています。この記事で使った数字は、日々の査定でそのまま使っているものと同じです。AIによる査定も、成約価格をもとに作っています。売出価格をもとにすると、ここまで説明した「上に寄りやすい」という偏りを、そのまま覚えてしまうからです。数字が出たあとは、その建物で実際に何が起きたかと突き合わせます。数字だけで結論を出すことはありません。

次の一歩

売出価格と成約価格の差については、金額の帯や売れるまでの日数で分けた詳しい集計を売出価格と成約価格は、実際どれくらい違うのかにまとめてあります。値付けを決める前の方は、こちらを先に読んでいただくと順番が良いと思います。

ここまでは、全体の傾向の話でした。実際に必要なのは、平均でも中央値でもなく「自分の物件はいくらか」という一つの数字です。マンション名・専有面積・部屋番号が分かれば、成約価格をもとにした金額をその場で確認できます。この記事の下にご案内がありますので、必要な方はそちらからどうぞ。

まとめ

  • 同じ建物で比べると、売出中の㎡単価は直近1年の成約より中央値15.8%高い(14,586棟)。相場の上昇では説明できません
  • 差が出るのは、決まらなかった部屋が売り場に残るためです。在庫の平均は上に寄ります
  • ずれ方は種別で違います。賃貸の募集賃料は中央値0.0%とほぼ実勢どおり。売買は7割が下げて決まります
  • 公表統計は流れを知るのに向きますが、時間差・粒度・条件の細かさが足りず、個別の値付けには使えません
  • 集計では「終わった」と「売れた」を区別し、あり得ない値を落とし、件数の少ない場所は出しません
電宅男
監修 電宅男 宅地建物取引士 / MBA|株式会社青山地所 営業部

一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。

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