相続した一棟物件の売却で最初につまずくのは、たいてい価格ではなく評価です。相続税の計算に出てくる評価額と、実際に売れる金額が違う。しかも違い方が物件によってばらばらなので、遺産分割の話し合いが評価額を前提に進むと、売った後で辻褄が合わなくなります。当社が独自に集計した売出中の一棟50,061件について、路線価をもとにした土地の評価額が売出価格の何割にあたるかを出しました。中央値は35.8%です。
土地の評価は価格の3分の1あたりに集まる
路線価に地積を掛けた金額を、売出価格で割った割合の分布は次のとおりです。
| 区分 | 土地の評価額が売出価格に占める割合 |
|---|---|
| 下位4分の1の水準 | 22.6% |
| 中央値 | 35.8% |
| 上位4分の1の水準 | 55.2% |
| 80%以上になる物件の割合 | 10.2% |
路線価は公示価格のおおむね8割を目安に定められています。ここに建物の評価が加わり、賃貸中であれば貸家建付地や貸家の減額も入るので、相続税の課税上の評価額はさらに下がります。つまり相続税の申告書に載る金額は、売れる金額よりかなり小さいのが普通だということです。数字の性質が違うだけで、どちらかが間違っているわけではありません。問題は、この差を知らないまま話が進むことです。
ばらつきも大きい。下位4分の1と上位4分の1で2.4倍の開きがあります。同じ「評価額の何倍で売れるか」を一律の係数で当てにいくと、物件によって大きく外します。
築年が古いほど、評価と価格は近づく
この割合を建築年で分けると、はっきりした傾きが出ます。
| 建築年 | 件数 | 土地の評価額が価格に占める割合(中央値) | 表面利回りの中央値 |
|---|---|---|---|
| 2016年以降 | 8,419件 | 21.4% | 5.90% |
| 2006〜2015年 | 4,381件 | 30.1% | 6.76% |
| 1996〜2005年 | 6,352件 | 35.3% | 8.01% |
| 1982〜1995年 | 19,379件 | 39.5% | 8.47% |
| 1981年以前 | 9,195件 | 53.2% | 10.00% |
新しい物件は建物と収益力で価格が組み立てられているので、土地の評価は価格の2割程度にしかなりません。古くなるほど建物の取り分が消え、価格が土地に寄っていきます。相続で引き継ぐ物件は築年が古いことが多いので、実務上は右下の行に当たるケースが多くなります。
1981年以前の建物は、市場に出ている一棟の20.0%を占めます。表面利回りの中央値は10.00%で、1982年以降の7.21%より2.8ポイント高い。この差は「儲かる物件だから」ではありません。買い手が引き算した結果として、価格のほうが下がっているからそう見えるだけです。当社の集計では、1981年以前の物件は93.1%が建物の評価をゼロで計算されます。1982年以降は34.9%ですから、ほとんど別の世界です。
あなたはどのケースでしょうか
相続した一棟の扱いは、だいたい次のどれかに分かれます。
- 相続人が複数いて、分け方が決まっていない——共有のまま登記して先送りしている
- 納税資金が足りない——申告期限までに現金を作る必要がある
- 引き継いだが、経営を続ける気がない——管理会社との関係も含めて整理したい
どのケースでも、動ける期間には期限があります。相続税の申告と納付は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。共有のまま登記してしまうと、後で売るときに全員の同意が必要になります。相続人のうち一人でも反対すれば動きません。
分け方は三つ、選び方は現金化の有無で決まる
遺産分割の方法は、大きく三つです。現物分割は不動産をそのまま誰かが取得する方法。代償分割は一人が取得して、他の相続人に金銭を支払う方法。換価分割は売却して代金を分ける方法です。
当社の集計では、売出中の一棟の価格は下位4分の1が2,900万円、中央値が6,800万円、上位4分の1が1億4,500万円です。代償分割を選ぶ場合、取得する人はこの規模の金額の一部を自分で用意することになります。相続人が3人で6,800万円の物件を一人が取得するなら、他の2人に払う代償金はおよそ4,500万円。手元にその現金がなければ、借入か、結局は売却になります。
共有のまま登記するのは、決めないことを決める選択です。全員が同じ方向を向いているうちは問題になりませんが、次の相続が起きると持分がさらに分かれます。持分が5人、10人と増えた物件は、市場ではほぼ動かなくなります。
売るなら3年以内という区切りがある
相続した不動産を売る場合、相続税の申告期限の翌日から3年以内に譲渡すると、支払った相続税の一部を取得費に加算できる特例があります。譲渡所得が圧縮されるので、税負担が変わります。亡くなった日から数えるとおよそ3年10か月です。
この期限を意識せずに「そのうち考える」としているうちに、期限を過ぎるケースは珍しくありません。加えて、築年は待っている間も進みます。1981年以前の物件が既に9割超で建物ゼロ評価になっている以上、古い物件はこれ以上の目減りが小さいとも言えますが、1982〜1995年の帯にいる物件は、これから建物の取り分が消えていく途中です。判断を先送りするコストは、この帯で最も大きくなります。
当社では、こう見ています
相続に関わる一棟のご相談では、まず登記の名義と持分を確認します。次に、路線価から出した土地の評価と、いま市場で付く価格の距離を出します。この二つが揃うと、代償分割にいくら必要か、換価分割なら一人あたりいくら手元に残るかが金額で見えます。相続人どうしの話し合いが感情の議論になりやすいのは、共通の数字がないからです。数字を先に置くと、話が早く終わります。
次の一歩
先に確認していただきたいのは三つです。登記簿上の名義と持分。建物の建築年。そして直近のレントロールです。この三つが揃えば、分割の選択肢を金額で比較できます。税額そのものは税理士の領域ですが、比較の土台になる「いくらで売れるか」は先に出しておいたほうが、相続人全員の話が噛み合います。
申告書に載る評価額とは別に、いまの市場でいくらの値がつく物件なのかを一度置いてみてください。所在地と構造・築年数・満室想定年収から、収益還元による価格と路線価にもとづく積算を同時に出せます。一棟の簡易査定はこちら(お名前やご連絡先の入力は必要ありません)。
まとめ
- 路線価にもとづく土地の評価額が売出価格に占める割合は、中央値35.8%。下位4分の1は22.6%、上位4分の1は55.2%で2.4倍のひらきがある
- 築年が古いほど価格は土地に寄る。2016年以降は21.4%、1981年以前は53.2%
- 1981年以前の物件は市場の20.0%を占め、93.1%が建物の評価をゼロで計算される。利回りが高く見えるのは価格が下がった結果
- 売出価格の中央値は6,800万円。相続人3人での代償分割なら、取得する人がおよそ4,500万円を用意する計算になる
- 申告と納付の期限は10か月。取得費加算の特例は申告期限の翌日から3年以内。共有のまま置くと次の相続で持分がさらに分かれる