相続した実家や長年放置していた空き家を売ろうと考えたとき、「税金はどのくらいかかるのだろう」と不安になる方は多いのではないでしょうか。譲渡所得の計算は複雑に見えますが、基本的な仕組みを理解すれば、自分でも大まかな税額を把握できます。この記事では、空き家売却における譲渡所得の計算方法を3つのステップで整理し、取得費が分からない古い家への対処法や、所有期間によって変わる税率の仕組みまで、初心者にも分かりやすく解説します。特例を活用すれば税負担を大きく減らせる可能性もあるため、ぜひ最後まで読んでみてください。
譲渡所得の基本的な計算式を理解する

空き家を売ったときの税金を計算するには、まず「譲渡所得」という概念を正しく理解することが出発点です。譲渡所得とは、売却によって得た利益のことであり、売却金額そのものではありません。
国税庁によると、課税譲渡所得金額の計算式は「収入金額 ー(取得費+譲渡費用)ー 特別控除額 = 課税譲渡所得金額」です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm)。収入金額とは売却代金のことですが、注意が必要な点があります。売買代金とは別に受け取る固定資産税・都市計画税の精算金(未経過分)も収入金額に含まれるため、実際の売却金額より少し多くなる場合があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3214.htm)。
取得費は、もとの購入代金や建築代金、購入時の仲介手数料などが含まれます。ただし建物については、所有期間中の「減価償却費相当額」を差し引く必要があります。建物は時間とともに価値が下がるという考え方に基づくもので、この計算を忘れると取得費を過大に見積もってしまうため注意が必要です。
譲渡費用は、売却のために直接かかった費用のことです。仲介手数料や売買契約書の印紙代、建物を取り壊して更地にした場合の解体費用などが該当します。一方、固定資産税や修繕費など、売却とは直接関係のない維持管理費用は譲渡費用に含められません(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3255.htm)。この区別が実務では迷いやすいポイントです。
取得費が分からない古い家はどう計算するか

相続した実家や数十年前に購入した物件では、当時の売買契約書が見つからず、取得費が不明なケースが少なくありません。そのような場合でも、計算を諦める必要はありません。
国税庁は、取得費が分からない場合には「売却金額の5%相当額」を取得費として使えると定めています(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm)。これを「概算取得費」と呼びます。たとえば2,000万円で売却した場合、概算取得費は100万円となり、残りの1,900万円が課税対象の利益として計算されます。つまり、取得費が低く見積もられるほど税負担が重くなるため、できる限り実際の取得費を証明する書類を探すことが重要です。
実際の取得費を証明するためには、売買契約書や建築工事請負契約書が最も有力な証拠になります。これらが見つからない場合でも、通帳の出金記録、当時の不動産会社の領収書、登記費用の領収書などが参考資料として使えることがあります。また、相続した物件の場合は、被相続人(亡くなった方)が購入したときの取得費と取得時期をそのまま引き継ぐのが原則です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm)。
建物の取得費を計算する際は、減価償却費相当額の控除も必要です。国税庁によると、非業務用建物の減価償却費相当額は「建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数」で求めます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm)。経過年数は6か月以上を1年、6か月未満を切り捨てて計算し、控除できる上限は取得価額の95%です。なお、償却率は建物の構造(木造・鉄骨造など)によって異なるため、国税庁の償却率表で確認することをおすすめします。
所有期間で税率が大きく変わる仕組み
譲渡所得の税率は、売却した年の1月1日時点での所有期間によって大きく異なります。この仕組みを知らずに売却タイミングを決めると、思わぬ税負担が生じることがあります。
所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」として扱われ、税率は所得税15%・住民税5%の合計20%です。一方、所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」となり、所得税30%・住民税9%の合計39%が課税されます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm)。短期と長期では税率がほぼ倍近く異なるため、売却のタイミングは慎重に検討する必要があります。
また、平成25年から令和19年までの譲渡については、復興特別所得税も別途申告・納付する必要があります。2026年現在もこの期間内に該当するため、実際の税率は上記に復興特別所得税分が加算されます。
相続した空き家の場合、所有期間の起算点は「被相続人が取得した日」から引き継ぐのが原則です。つまり、親が30年前に購入した家を相続して翌年売却した場合でも、所有期間は30年超として長期譲渡所得の税率が適用されます。これは相続人にとって有利に働くことが多い点です。
空き家売却で使える3,000万円特別控除の要件
空き家を売却する際に最も注目すべき特例が、「被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除」です。この特例を活用できれば、課税対象となる譲渡所得を大幅に圧縮できます。
国税庁によると、この特例は平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡が対象で、一定の要件を満たす場合に譲渡所得から最高3,000万円を控除できます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm)。ただし、令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合は、控除上限が2,000万円に引き下げられています。
対象となる家屋の基本要件は3つあります。まず昭和56年5月31日以前に建築された建物であること、次に区分所有建物登記(マンションなど)がされていないこと、そして相続開始直前に被相続人以外の居住者がいなかったことです。また、相続後から売却までの間に、事業用・貸付用・居住用として使っていないことも重要な条件です。
売却代金が1億円以下であること、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することも必要です。さらに、親族など特別な関係にある人への売却や、他の特例(取得費加算特例など)との併用はできません。確定申告の際には、市区町村が交付する「被相続人居住用家屋等確認書」をはじめとする複数の書類が必要になるため、早めに準備を進めることをおすすめします(国土交通省 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html)。
確定申告の手続きと注意点
譲渡所得が生じた場合は、翌年の確定申告が必要です。手続きの流れと注意点を把握しておくことで、申告漏れや書類不備を防げます。
国税庁によると、譲渡所得の申告期限は、売却した年の翌年2月16日から3月15日までです(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm)。通常の確定申告書に加えて、「申告書第三表(分離課税用)」と「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]」を一緒に提出する必要があります。
空き家の3,000万円特別控除を受ける場合は、さらに追加書類が必要です。具体的には、売却した資産の登記事項証明書、家屋所在地の市区町村長が交付した「被相続人居住用家屋等確認書」、耐震証明書類または建物の除却関係書類、売買契約書の写しなどが求められます。「被相続人居住用家屋等確認書」は家屋が所在する市区町村に申請しますが、確認資料として売買契約書や電気・水道・ガスの閉栓資料などが必要になります(国土交通省 https://www.mlit.go.jp/common/001396932.pdf)。
また、相続税が課税されている場合は、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」(取得費加算特例)という別の特例も存在します。相続開始翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合に、相続税額の一部を取得費に加算できる制度です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm)。ただし、空き家の3,000万円特別控除とは併用できないため、どちらの特例が有利かを事前に試算することが大切です。
まとめ
空き家売却の譲渡所得計算は、「収入金額 ー(取得費+譲渡費用)ー 特別控除額」という基本式を軸に、取得費の正確な把握と所有期間の確認が重要なポイントです。取得費が不明な場合は売却金額の5%を使う概算取得費が利用できますが、実際の取得費を証明できる書類を探す努力が節税につながります。また、所有期間5年超か以下かで税率が大きく変わるため、売却タイミングも慎重に検討しましょう。相続した空き家であれば、令和9年12月31日まで適用される3,000万円特別控除の活用も視野に入れてください。税務の判断は個別事情によって異なるため、具体的な計算や申告については税理士などの専門家への相談もおすすめします。
参考文献・出典
- 国税庁 No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき) — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm
- 国税庁 No.3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3214.htm
- 国税庁 No.3252 取得費となるもの — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm
- 国税庁 No.3255 譲渡費用となるもの — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3255.htm
- 国税庁 No.3261 建物の取得費の計算 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm
- 国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm
- 国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁 No.3102 譲渡所得の申告期限 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm
- 国土交通省 空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除) — https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html
- 国土交通省 被相続人居住用家屋等確認書申請における確認事項及び提出書類について — https://www.mlit.go.jp/common/001396932.pdf
- 豊島区公式ホームページ 空き家の譲渡所得に対する特別控除(「被相続人居住用家屋等確認書」の交付) — https://www.city.toshima.lg.jp/315/1912170857.html