不動産物件購入・売却

入居中のまま売ると、価格と期間はどう変わるか|オーナーチェンジの実測

賃貸に出している部屋を売るとき、選択肢は二つあります。入居者がいるまま売るか、退去を待って空室にしてから売るか。前者をオーナーチェンジと呼びます。所有者だけが入れ替わり、賃貸借契約はそのまま次の所有者に引き継がれる売り方です。よく「オーナーチェンジは安くなる」と言われますが、実際いくら安いのでしょうか。当社が独自に集計した首都圏の中古マンションの成約データで数えました。2024年以降に成約した111,348件のうち、オーナーチェンジは11,391件。全体の1割強です。

まず全体像です。オーナーチェンジで売れた部屋は、中央値で築26年・34.6㎡・2,410万円。売り出しから成約まで126日かかっていました。それ以外の部屋は築23年・67.6㎡・4,238万円で、88日です。ただしこの比較には意味がありません。広さも築年数も違う部屋を並べているだけだからです。オーナーチェンジは投資用のワンルームが多く、それ以外は自分で住むためのファミリー向けが多い。物件の性格が最初から違います。

同じマンションの中で、直接くらべる

正しく比べるには、条件をそろえる必要があります。そこで、同じマンションの中でオーナーチェンジの成約とそれ以外の成約が両方あるケースだけを抜き出しました。1,480棟、オーナーチェンジ4,738件と、それ以外16,510件です。同じ建物なので、立地も築年数も管理状態も同じです。

  • 1㎡あたりの成約単価は、オーナーチェンジのほうが中央値で8.0%低い
  • 1,480棟のうち73.7%で、オーナーチェンジのほうが低かった
  • 売り出しから成約までの日数は、中央値で62日長い

広さの帯もそろえて計算し直すと(1,085の組み合わせ、オーナーチェンジ3,348件とそれ以外10,310件)、差は5.1%に縮みました。低かった建物の割合は66.0%、日数の差は71日です。数字の幅はありますが、向きは変わりません。同じ建物なら、入居中のほうが5〜8%安く、2か月ほど長くかかると考えておくのが実態に近いところです。

金額に直します。2,400万円の部屋なら、5%で120万円、8%で192万円。空室にしてから売れば、その分は取り戻せる可能性があります。ただし、そのためには退去を待ち、空室のあいだの家賃をあきらめ、原状回復の費用を払う必要があります。この引き算は、あとで具体的にやります。

なぜ安くなるのか

理由は、買える人の数が減るからです。入居者がいる部屋は、自分で住みたい人が買えません。買主は投資として買う人に限られます。当社の集計でも、オーナーチェンジで「リフォーム済み」として売られた部屋は3.2%しかありませんでした。それ以外の部屋は8.7%です。中を見られないので、直しようがないためです。

投資として買う人は、部屋の見た目ではなく利回りで判断します。利回りは家賃を価格で割った数字ですから、家賃が決まっている以上、価格を下げないと数字が合いません。ここが値段の下がる仕組みです。加えて、買主は中を見られません。内装の状態も、水回りの傷み具合も、退去してみないと分からない。この不確かさの分も、価格から引かれます。

時間がかかる理由も同じです。買える人の母数が小さいので、条件に合う買主が現れるまでに時間がかかります。ファミリー向けの部屋なら、自分で住む人と投資で買う人の両方が候補になりますが、オーナーチェンジは後者だけです。

なお、オーナーチェンジでの売却は年々増えています。成約全体に占める割合は、2015年の6.4%から2025年は11.4%になりました。珍しい売り方ではなくなっています。

もうひとつ、買主が家賃をそのまま信じないという点も知っておく必要があります。買主が見るのは、契約書に書かれた現在の家賃と、その部屋がいま募集されたら決まる家賃の、両方です。長く住んでいる方の家賃は、その方が入居した時点の相場です。差が小さければ、いまの家賃がそのまま価格の根拠になります。差が大きければ、買主は低いほうで計算します。売主が「利回り6%です」と思っていても、置き換えた結果が5.2%なら、提示される価格はそちらに寄ります。

この置き換えは、売る前に自分でもできます。同じ駅・同じ間取り・近い築年数で、いくらで決まっているかを調べればよいだけです。差が大きいと分かった場合、選択肢は二つあります。差を承知のうえでオーナーチェンジで売るか、退去を待って空室で売るか。少なくとも、提示された金額を見てから驚くことはなくなります。

あなたはどのケースでしょうか

  • いま入居中で、契約は当分続く——選べるのは基本的にオーナーチェンジです。定期借家でない普通の賃貸借契約は、貸主の都合で終わらせられません。退去をお願いする話ではなく、いまの家賃でいくらになるかを確かめる話になります。
  • 退去の連絡が来たところ——いちばん選択肢が多い状態です。空室にして売る、直して売る、次を入れてから売る。この記事の後半の計算が、そのまま使えます。
  • いま空室で、募集するか売るか迷っている——決めるべきは、募集にかける時間と、それで得られる家賃の合計です。
  • 家賃が相場より高い状態で入居中——注意が要るケースです。買主はいまの家賃をそのまま信じません。次の募集の相場に置き換えて計算します。売主が思う金額と、提示される金額が開きやすい典型です。

空室にしてから売る場合の引き算

ここから先は説明のための計算例です。実在の部屋ではありません。2,400万円で売れる見込みの区分、家賃9万円、いま退去の連絡が来たところとします。

  • 空室にして売った場合の上乗せ:2,400万円 × 5〜8% = 120万〜192万円
  • 原状回復と最低限の手直し:△30万〜80万円
  • 売れるまでの家賃収入がゼロになる期間(中央値88日+引き渡しまで1か月):9万円 × 4か月 = △36万円
  • その間の管理費・修繕積立金・固定資産税:△12万円

上乗せの幅と手直しの費用に幅があるので、組み合わせで結果が変わります。三通り出してみます。

  • 上乗せが120万円・手直しが30万円で済んだ場合:120 − 30 − 36 − 12 = +42万円
  • 上乗せが120万円・手直しに80万円かかった場合:120 − 80 − 36 − 12 = △8万円
  • 上乗せが192万円・手直しが30万円で済んだ場合:192 − 30 − 36 − 12 = +114万円

同じ部屋でも、前提を少し変えるだけで結論がひっくり返ります。マイナスになるのは、手直しに費用がかかったときです。ほかにも、売れるまでに時間がかかる立地、家賃が高めの部屋では、空室のあいだの損失が大きくなって逆転します。逆に言えば、この四つの数字さえ出せば自分で計算できるということでもあります。上乗せの見込み、手直し費用、空室になる期間、その間の固定費。順番に並べるだけです。

入居中のまま売るなら、価格は資料で決まる

買主は中を見られません。見られない以上、判断できるのは書類だけです。だからオーナーチェンジの売却では、資料がそろっているかどうかが、そのまま価格に出ます。用意しておくものは四つです。

1つめ。賃貸借契約書です。契約の開始日、期間、家賃、敷金の額、更新の条件。買主はこれを見て、いつまでこの家賃が続くのかを判断します。普通の賃貸借契約か定期借家契約かでも、扱いが変わります。定期借家は期間が来れば終わる契約なので、買主にとっては自分で使う道が見えます。

2つめ。家賃の入金記録です。契約書に書かれた家賃が、実際に毎月入っているか。ここが確認できないと、買主は最悪の場合を前提に計算します。直近1年ぶんの通帳の記録か、管理会社からの送金明細で足ります。

3つめ。設備の交換と修繕の履歴です。給湯器、エアコン、水回り。いつ交換したかが分かれば、買主は次の出費の時期を読めます。分からなければ、全部近いうちに来ると見なされます。

4つめ。入居時の写真か、直近の点検記録です。中を見られない不安を減らせる材料であれば、何でも効きます。前回の入退去のときに撮った写真が残っていれば、それでもかまいません。

これらをそろえずに売りに出すと、買主は分からない部分を安全側に見積もります。安全側とは、価格を下げることです。逆に言えば、資料の準備は費用がかからないのに価格に効く、数少ない手段でもあります。

当社では、こう見ています

当社には月に500件ほど、売却のご相談や物件のお持ち込みがあります。入居中の区分についてご相談をいただいたときは、いま入っている家賃をそのまま使わず、次の募集でいくらで決まるかに置き換えて計算します。長く住んでいる方の家賃は、その方が入居した時点の相場だからです。そのうえで、入居中のまま売った場合と、空室にしてから売った場合の両方の金額を出してお伝えしています。どちらが有利かは物件によって変わるので、片方だけ出しても判断できないと考えているためです。この記事で使った成約価格と家賃のデータは、その計算にそのまま使っているものです。

次の一歩

最初に確かめていただきたいのは、いま受け取っている家賃と、同じ条件の部屋がいくらで決まっているかの差です。ここが小さければ、その家賃はそのまま価格の根拠になります。大きければ、買主は低いほうで計算します。同じ駅・同じ間取り・近い築年数の実際の成約家賃は、駅別・間取り別の家賃相場データで確認できます。

そのうえで、売却額の見当を持っておくと、退去の連絡が来たときに慌てずに決められます。マンション名・専有面積・階が分かれば、成約価格をもとにした金額をその場で確認できます。この記事の下にご案内があります。

まとめ

  • 同じマンションの中で比べると、入居中のまま売った部屋の1㎡単価は中央値で5〜8%低く、73.7%の建物で低かった
  • 売れるまでの日数は中央値で62〜71日長い。買える人が投資目的に限られるため
  • オーナーチェンジでリフォーム済みとして売られた部屋は3.2%。中を直せないことも価格に効いている
  • 空室にして売るかは、上乗せの見込み・手直し費用・空室期間・その間の固定費の四つを並べて決める
  • 賃貸借契約書・家賃の入金記録・修繕の履歴・室内の写真の四つがそろっているほど、価格から引かれる部分が減る
電宅男
監修 電宅男 宅地建物取引士 / MBA|株式会社青山地所 営業部

一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。

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