親が住んでいた家を相続した。とりあえず鍵を閉めて、そのままになっている。——よくある状況だと思います。やることが多すぎて、家のことは後回しになりがちです。ただ、決めずに置いておくのがいちばん損をします。この記事では、選べる道を3つに整理して、順番に見ていきます。
最初に、実際の数字を一つ。当社が独自に集計した東京・神奈川・千葉の戸建の成約データで、築30年以上の家がどう売れているかを数えました。直近3年の12,396件です。成約価格は中央値2,050万円、売り出してから決まるまでは中央値80日でした。1年以上かかった家は10.5%です。思ったより早い、と感じる方が多いのではないでしょうか。
まず、数字を見てみます
築年数ごとに分けた結果です。ここでいう築年数は、売れた時点で数えています。
| 売れた時点の築年数 | 件数 | 成約価格(中央値) | 土地の広さ | 売れるまでの日数 | 値下げ幅(中央値) |
|---|---|---|---|---|---|
| 築20〜30年 | 9,814件 | 3,480万円 | 120.8㎡ | 104日 | 10.5% |
| 築30〜40年 | 6,365件 | 2,380万円 | 150.0㎡ | 98日 | 12.7% |
| 築40〜50年 | 3,664件 | 1,750万円 | 141.1㎡ | 76日 | 14.3% |
| 築50年以上 | 2,367件 | 1,700万円 | 109.4㎡ | 45日 | 15.3% |
面白いのは、古い家ほど早く売れていることです。築50年以上は中央値45日。築20〜30年の104日の半分以下です。理由は、値段が下がっているからです。古い家は土地の値段に近づくので、買い手にとって分かりやすくなります。値下げ幅も、古いほど大きくなっています。最初の値付けが高すぎることが多い、ということです。
ここまでのまとめ:築30年以上の家は、中央値2,050万円・80日で売れています。売れないわけではありません。
建物には、もう値段が付いていません
ここを先に受け入れておくと、あとの判断が楽になります。同じ市区で売れた「土地だけ」の単価を1.00として、戸建の単価がどのあたりにいるかを計算しました。
- 築30年未満:1.65
- 築30〜40年:1.00
- 築40〜50年:0.79
- 築50年以上:0.62
築30〜40年でちょうど1.00です。建物の値段がゼロになり、土地の値段だけになった地点です。そして築40年を超えると、建物の値段はゼロを下回ります。0.79ということは、更地より2割安いということです。建物が邪魔なもの、つまり壊す費用が乗ったものとして扱われています。
金額に直します。土地120㎡で、その市区の土地の相場が1㎡25万円だとします。更地なら3,000万円です。築45年の家が建っていると、0.79を掛けて2,370万円。630万円の差です。この630万円が、解体の費用と、古い家を引き受ける手間の値段だと思ってください。
ですから「まだ使える家だから、もったいない」という気持ちは、いったん置いてください。市場は、そう見ていません。
ここまでのまとめ:築40年を超えた家は、土地の値段からマイナスされる側に回ります。
3つの選択肢を、同じものさしで比べる
選べる道は3つです。売る、貸す、住む。それぞれ、1年でいくらの得になるかで並べてみます。
売る
一度にまとまったお金が入ります。管理も税金も、そこで終わります。兄弟で分ける場合は、お金にしてから分けるのがいちばん揉めません。デメリットは、戻せないことです。
貸す
家賃がいくらになるかは、地域でかなり違います。当社の集計に、人に貸したままの状態で売り出されている戸建があります。ここから、1年分の家賃が物件の価格の何%にあたるかを見ました。
- 東京都:価格の中央値2,490万円に対して、1年分の家賃は6.81%(年約170万円・月14万円)
- 神奈川県:1,380万円に対して8.90%(年約123万円・月10万円)
- 千葉県:580万円に対して13.06%(年約76万円・月6万円)
これは投資として売買されている物件の数字なので、家賃が付きやすい家に偏っています。あくまで上限に近い目安と考えてください。
そして、この家賃がまるまる手元に残るわけではありません。固定資産税、火災保険、管理を頼む費用、そして修繕を引きます。空室の期間もあります。手元に残るのは、家賃の6割から7割というのが実感に近いところです。
さらに、貸す前にお金がかかります。相続した家は、水回りと屋根が傷んでいることが多い。人に貸せる状態にするだけで、100万円から300万円かかることはめずらしくありません。
つまり、あなたの場合はこう考えてください。1,400万円で売れる神奈川の家なら、家賃は年123万円ほど。手取りは年80万円前後です。売った金額に追いつくには17年かかります。17年後、その家は築60年を超えています。
住む
家賃を払わずに済む分が、そのまま利益になります。いま賃貸にお住まいなら、月10万円払っているとして年120万円。貸すより効率がよいことも多いのです。
確かめることが一つあります。地震への強さです。1981年5月31日までに建築の確認を受けた家は、いまの基準より弱い作りになっています。築45年以上なら、ほぼこれに当たります。補強するかどうかを、住む前に考えてください。
ここまでのまとめ:貸す場合の手取りは、年に物件価格の4〜9%ほど。売った金額に追いつくのに10年以上かかります。
決めずに置いておくと、何が起きるか
「しばらく様子を見る」がいちばん多い選択です。ただ、置いておく間にも費用は出ていきます。何が出ていくのかを並べます。
- 固定資産税と都市計画税——住んでいなくても毎年かかります。
- 火災保険——空き家は保険料が上がるか、そもそも入れないことがあります。
- 庭と建物の手入れ——草が伸び、雨どいが詰まり、近所から連絡が来ます。
- 建物の傷み——人が住まない家は、住んでいる家より早く傷みます。換気が止まるからです。
もう一つ、法律の話があります。管理されていない空き家は、市区町村から指導を受けることがあります。それでも直さないと、住宅用地としての税金の軽減が外れることがあります。そうなると土地の固定資産税は数倍になります。いきなりそうなるわけではなく、段階を踏んで通知が来ますが、放っておける状態ではなくなります。
そして、いちばん大きいのは次の章の話です。時間が経つと、税金を軽くする決まりが使えなくなります。
ここまでのまとめ:置いておくのは無料ではありません。毎年の費用と、傷みと、期限が同時に進みます。
気をつけたい期限が、2つあります
ここは、知らないと数百万円を損する話です。相続した家を売るときに使える、税金を軽くする決まりが2つあります。どちらにも期限があります。
一つめは、相続した空き家を売ったときに、もうけから3,000万円を差し引ける決まりです。古い基準で建てられた家であること、亡くなった方が一人で住んでいたこと、売るまで人に貸したり住んだりしていないこと、といった条件があります。期限は、亡くなった日から3年が過ぎる日の年末までです。
二つめは、払った相続税の一部を、売却のもうけの計算に足せる決まりです。こちらは相続税を納めた方だけが使えます。期限は、相続税の申告期限からさらに3年以内。亡くなってからおよそ3年10か月です。
大事なのは、一つめの決まりは、その家を人に貸してしまうと使えなくなるということです。「とりあえず貸してみて、だめなら売る」という順番は、実はかなり高くつきます。条件は細かく、改正もありますので、税理士か税務署で必ず確かめてください。
ここまでのまとめ:貸すか売るかは、貸す前に決めてください。順番を逆にすると、戻れなくなります。
判断の順番
4つの手順にまとめます。
- 売ったらいくらかを、先に知る。これが全部の出発点です。売らない場合でも、この金額が分からないと比べられません。市区ごとの成約価格は土地・戸建ての相場データベースで見られます。
- 自分か家族が住む予定があるかを決める。住むなら話は早い。3年以内に決まらないなら、住まないと考えたほうが現実的です。
- 貸す場合の手取りを計算する。年に物件価格の4〜9%が目安です。ここから、貸せる状態にするための費用を引いて考えます。
- 税金の期限を確かめる。亡くなった日から3年。この日付をカレンダーに書いてください。
相続人が複数いる場合は、もう一つ足してください。誰か一人が住む、あるいは貸す場合、他の相続人にお金を渡すことになります。そのときの家の値段をいくらとみるか。ここを先に決めておかないと、あとで必ずもめます。
それから、名義の話です。売るには、その家が誰のものかが登記の上で決まっている必要があります。相続の登記は2024年から義務になりました。ここが済んでいないと、買い手が見つかっても契約できません。売ると決めたら、まず名義を確かめてください。
当社では、こう見ています
当社には相続にまつわるご相談が毎月多く寄せられますが、実務でお伝えしているのは「売るかどうかを先に決めないでください」ということです。順番が逆だからです。先に金額を出して、そのうえで貸す場合・住む場合と並べる。この順番でご説明すると、ほとんどの方はその場で結論を出されます。判断の材料には、いま出ている売出価格ではなく、実際に売買が成立した価格を使っています。売出価格を基準にすると、貸すほうが得だという結論に傾きやすく、その差が数百万円になることがあるためです。
次の一歩
まずは、売った場合の金額を知るところからです。住所と土地の広さ、建物の広さ、建てられた年が分かれば、そのエリアの成約価格から概算の幅を出せます。売ると決めていなくても構いません。むしろ、決める前に知っておくべき数字です。この記事の下にご案内がありますので、必要な方はそちらからどうぞ。
兄弟で話し合う前に、この数字を全員が持っていること。それだけで、話の進み方がずいぶん変わります。
まとめ
- 築30年以上の戸建12,396件は、中央値2,050万円・80日で売れている。1年以上かかったのは10.5%
- 築40年を超えると、戸建の単価は同じ市区の土地の0.79倍。建物は価値ではなく費用として見られている
- 貸した場合の1年分の家賃は物件価格の東京6.81%・神奈川8.90%・千葉13.06%。手取りはその6〜7割
- 相続した空き家を売るときの3,000万円の控除は、貸すと使えなくなる。期限は亡くなった日から3年
- 順番は「売ったらいくらか」を知ることから。住む・貸すの判断は、そのあと
一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。
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