地方や郊外の一棟は売りにくい、とよく言われます。実際にはどのくらい違うのか。当社が独自に集計した売出中の一棟アパート・一棟マンション32,950件を、東京都、神奈川・埼玉・千葉、大阪・愛知・福岡・兵庫・京都、その他の道県の四つに分けて並べました。件数で見ると、その他の道県が14,087件で全体の43%を占めます。売れないから溜まっているのではなく、そもそも棟数が多いエリアです。
価格は3分の1、利回りは倍近い
| エリア | 件数 | 売出価格の中央値 | 表面利回りの中央値 | 建築年の中央値 |
|---|---|---|---|---|
| 東京都 | 5,248件 | 1億6,900万円 | 5.23% | 2003年 |
| 神奈川・埼玉・千葉 | 6,026件 | 8,760万円 | 7.00% | 1993年 |
| 大阪・愛知・福岡・兵庫・京都 | 7,589件 | 9,000万円 | 7.22% | 1994年 |
| その他の道県 | 14,087件 | 4,980万円 | 9.83% | 1993年 |
東京と地方で価格は3.4倍、利回りは1.9倍の差があります。この二つは同じことを裏表から言っています。同じ賃料に対して東京は高い値がつき、地方は安い値しかつかない。ここまでは想像どおりでしょう。押さえておきたいのは、その差が売却の進み方にどう出るかです。
値下げの起こり方は、地方のほうが厳しい
2026年5月末から8月末までの約3か月間の価格改定を、エリア別に追いました。
| エリア | 母数 | 3か月で値下げした割合 | 値下げ幅の中央値 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 15,645件 | 8.9% | 4.6% |
| 神奈川・埼玉・千葉 | 17,757件 | 7.3% | 4.9% |
| 大阪・愛知・福岡・兵庫・京都 | 13,016件 | 8.8% | 5.9% |
| その他の道県 | 15,604件 | 11.4% | 6.7% |
地方は値下げに至る割合が11.4%で、神奈川・埼玉・千葉の7.3%の1.6倍。下げ幅も6.7%で1.8ポイント大きい。値下げは「起こりやすく、かつ深い」というかたちで地方に集中しています。初値を強気に置いたときの反動が大きいということでもあります。
ただし、地方には土地という下支えがある
不利な面ばかりではありません。積算評価が売出価格に占める割合を見ると、関係が逆転します。
| エリア | 件数 | 積算が価格に占める割合(中央値) | 積算が価格以上になる割合 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 6,795件 | 43.7% | 5.0% |
| 神奈川・埼玉・千葉 | 7,524件 | 47.7% | 6.4% |
| 大阪・愛知・福岡・兵庫・京都 | 11,140件 | 46.7% | 6.7% |
| その他の道県 | 21,177件 | 54.7% | 12.1% |
地方の物件は価格の54.7%を積算でまかなえており、12.1%は積算が価格を上回っています。東京の5.0%の2.4倍です。積算が価格を超えている物件は、担保評価の側から見て価格に無理がありません。融資が付きやすく、値下げが一定のところで止まる根拠になります。
逆に東京の物件は、価格の半分以上が収益力で組み立てられています。賃料が下がると価格の支えがなくなる構造で、これは相場が反転したときの弱さになります。
返済後に手残りが出るのは、むしろ地方
買い手の視点に立つと、もっとはっきりします。当社が独自に整理した一棟向け融資の条件データベース32機関を、掲載された表面利回りがある物件22,494件に当てはめ、条件を満たす組み合わせの中で返済後の手残りが最も大きくなるものを取りました。手残りが物件価格の1.5%を超えるものを「返済後に残る物件」として数えます。
| エリア | 件数 | 返済後に残る物件の割合 | 手残りの対価格比(中央値) |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 3,898件 | 47.6% | 1.43% |
| 神奈川・埼玉・千葉 | 4,085件 | 83.4% | 2.61% |
| 大阪・愛知・福岡・兵庫・京都 | 5,726件 | 76.8% | 2.45% |
| その他の道県 | 8,785件 | 91.1% | 4.30% |
地方の一棟は、買った人の手元に残る金額では東京を上回ります。東京は47.6%しか基準に届かず、手残りの対価格比の中央値は1.43%です。つまり東京の物件を買う人は、毎年の手残りではなく、資産としての保全や将来の売却を見て買っている。地方の物件を買う人は、毎年の手残りを見て買っている。買う理由が違うということです。
売主から見ると、これは訴求の順序を決めます。地方の物件で「資産価値」を語っても響きません。逆に、レントロールの安定性、修繕の履歴、入居の付きやすさといった手残りに直結する材料は、そのまま価格の根拠になります。
駅からの距離は、思ったほど効かない
地方の物件でよく心配されるのが駅距離です。当社の集計で、一棟アパートの表面利回りを徒歩分数で分けると次のようになります。
| 駅からの距離 | 件数 | 表面利回りの中央値 |
|---|---|---|
| 徒歩5分以内 | 2,425件 | 7.20% |
| 徒歩6〜10分 | 4,076件 | 6.75% |
| 徒歩11〜15分 | 2,857件 | 7.38% |
| 徒歩16分以上 | 4,167件 | 9.04% |
徒歩15分までは6.75〜7.38%の範囲に収まり、順番もきれいには並びません。段差が出るのは16分以上のところで、ここだけ9.04%に跳ねます。駅距離が価格に効くのは「徒歩圏かどうか」の一点で、5分と10分の違いは一棟ではほとんど値段になりません。区分マンションの感覚とは違うところです。徒歩15分の物件を「駅から遠いから」と最初から諦める必要はありません。
当社では、こう見ています
地方の一棟のご相談では、まず積算が価格をどれだけ支えているかを見ます。積算が価格に届いているなら、価格の底は堅く、時間をかければ買い手は現れます。届いていないなら、収益側の数字で戦うことになるので、レントロールの整備が最優先です。次に、買い手が返済後にいくら残せるかを計算します。地方では、この金額が買付の可否をほぼ決めます。エリアの不利は、手残りの数字を先に示すことでかなり埋められます。
次の一歩
ご自身の物件について、まず積算と収益価格のどちらが上に来るかを確かめてください。積算のほうが高い、あるいは近い水準にあるなら、価格の下支えがある物件です。地方の12.1%はここに入ります。積算が収益価格の半分以下なら、賃料が価格を作っている物件なので、レントロールの中身が交渉の焦点になります。
この判定は、所在地と構造・築年数・満室想定年収を置けばその場で出ます。エリアの実測利回りは市区ごとに持っているので、東京の数字を地方に当てはめることはありません。一棟の簡易査定はこちら(お名前やご連絡先の入力は必要ありません)。
まとめ
- 売出価格の中央値は東京都1億6,900万円に対しその他の道県4,980万円。表面利回りは5.23%と9.83%
- 3か月で値下げした割合は地方が11.4%で最も高く、下げ幅の中央値も6.7%と最も大きい
- 一方で積算が価格に占める割合は地方が54.7%と最も高く、積算が価格以上になる物件は12.1%。東京の5.0%の2.4倍
- 32機関の融資条件を当てはめると、返済後に手残りが出る物件の割合は地方91.1%、東京47.6%。買う理由がそもそも違う
- 一棟アパートの利回りは徒歩15分までほぼ横ばい。段差が出るのは徒歩16分以上(9.04%)