賃貸経営を続けていると、ある時期から「帳簿では利益が出ているのに、手元にお金が残らない」という状態が起きます。これをデッドクロスと呼びます。名前だけは聞いたことがある、という方が多いと思います。この記事では、何と何が交差するのかを分解したうえで、実際に賃貸オーナーがどの時期に売っているのかを数字で見ていきます。当社が独自に集計した首都圏の中古マンションの成約データでは、入居中のまま売られた部屋の築年数は中央値27年でした。空室で売られた部屋の22年より、5年遅い時期です。
デッドクロスとは、何と何が交差するのか
交差するのは、減価償却費とローンの元金返済です。まず、この二つを順番に説明します。
減価償却費とは、建物の代金を、購入した年に一度に経費にするのではなく、何年かに分けて少しずつ経費にしていく仕組みです。建物は年数とともに価値が減っていくという考え方に基づいています。分ける年数は税法で決まっていて、これを法定耐用年数と呼びます。鉄筋コンクリート造の住宅なら47年、木造なら22年です。中古で買った場合は、もっと短い年数で計算します。
ここが大事な点なのですが、減価償却費は帳簿の上だけの経費です。実際にお金が出ていくわけではありません。買ったときに払い終わっているものを、あとから少しずつ経費として計上しているだけです。ですから、この経費がある間は、税金の計算上の利益が小さく抑えられます。手元の現金は減らないのに、税金だけが軽くなる。これが減価償却の効き目です。
いっぽう、ローンの返済は元金と利息に分かれます。経費にできるのは利息の部分だけです。元金の返済は、お金は出ていくのに経費になりません。そして、元利均等返済では、返済が進むにつれて利息の割合が減り、元金の割合が増えていきます。つまり年を追うごとに、お金は出ていくのに経費にならない部分が増えていくということです。
この二つを重ねると、何が起きるか分かります。減価償却費は年々減るか、償却が終わればゼロになります。元金返済は年々増えます。どこかで上下が入れ替わります。交差した先は、利益が出ているのに現金が足りない状態です。帳簿の利益に対して税金がかかり、その税金を、実際には手元にない利益から払うことになります。
数字で追ってみる(説明のための例)
以下は実在の物件ではなく、仕組みを見るために作った例です。中古の区分を2,000万円で購入し、うち建物部分が800万円。減価償却の期間を20年とします。年間の家賃収入は120万円。借入は1,600万円、35年返済とします。
| 購入から5年目 | 購入から18年目 | 購入から23年目 | |
|---|---|---|---|
| 家賃収入 | 120万円 | 110万円 | 105万円 |
| 減価償却費 | 40万円 | 40万円 | 0円 |
| その他の経費(利息含む) | 50万円 | 44万円 | 40万円 |
| 帳簿上の利益 | 30万円 | 26万円 | 65万円 |
| 元金返済(現金の支出) | 34万円 | 42万円 | 46万円 |
| 税金(所得税・住民税を2割と仮定) | 6万円 | 5万円 | 13万円 |
| 実際に手元に残る現金 | 30万円 | 19万円 | 6万円 |
18年目までは、家賃が下がっても現金はまだ残っています。ところが償却が終わった23年目に、帳簿上の利益が急に増えます。65万円です。実際に増えたお金はないのに、税金だけが13万円に増えます。手元に残る現金は6万円。5年目の30万円から、5分の1になりました。
この例は分かりやすくするために単純化していますが、起きていることの形は同じです。家賃が下がる、償却が終わる、元金返済が増える。この三つが同じ時期に重なるところで、手残りが一気に薄くなります。
実際のデータでは、どの時期に売られているか
ここからは実データです。2022年以降に成約した区分マンションを築年数で分け、そのうち入居中のまま売られた部屋の割合を出しました。賃貸オーナーが売った割合の目安になります。
| 築年数 | 成約件数 | 入居中のまま売られた割合 |
|---|---|---|
| 築0〜4年 | 12,951件 | 4.8% |
| 築5〜9年 | 22,515件 | 9.5% |
| 築10〜14年 | 18,701件 | 8.8% |
| 築15〜19年 | 23,378件 | 9.4% |
| 築20〜24年 | 21,714件 | 7.6% |
| 築25〜29年 | 17,570件 | 6.4% |
| 築30〜34年 | 13,292件 | 15.9% |
| 築35〜39年 | 12,132件 | 16.0% |
| 築40〜44年 | 14,927件 | 11.4% |
| 築45年以上 | 23,879件 | 10.6% |
築25〜29年で6.4%だった割合が、築30〜34年では15.9%に跳ね上がります。2.5倍です。築35〜39年も16.0%で高いまま、そのあと下がっていきます。築30年台に、賃貸オーナーの売却が集中していることが読み取れます。
ただし、この山がデッドクロスだけで起きていると言い切ることはできません。考えられる理由は複数あります。ローンの返済が終わりに近づく時期であること。2回目、3回目の大規模修繕の時期にあたること。修繕積立金の値上げが実施される時期であること。そしてこの築年数の建物は、当時さかんに売られた投資用ワンルームの世代でもあります。どれか一つではなく、重なっていると考えるのが自然です。
それでも、この山は判断の材料になります。同じ時期に多くのオーナーが同じ結論に達している、という事実だからです。入居中のまま売られた部屋の築年数は中央値27年、4分の1は築39年を超えていました。空室で売られた部屋の中央値22年と比べると、賃貸として持ち続けたぶんだけ売却が遅くなっているのが分かります。
同じ時期に、ほかの数字も動いている
デッドクロスは税金の話ですが、手残りを削る力はそれだけではありません。当社の別の集計では、次のことも分かっています。
- 家賃は、場所と広さをそろえて比べると、築0〜9年を100として築20〜29年で77.0、築30〜39年で66.9の水準
- 修繕積立金は、同じマンションの同じ広さで5年前と比べると47.3%が値上げされ、上がった場合の上げ幅は中央値49.9%
- 入居中のまま売ると、同じマンションの空室の部屋より1㎡単価が5〜8%低くなる
家賃が下がり、負担が上がり、税金が増える。三つが同じ時期に重なります。デッドクロスという言葉は税金の話に限って使われますが、実務で効いてくるのはこの三つの合計のほうです。
そして四つめとして、売るときの価格も同じ時期に効いてきます。入居中のまま売れば単価は下がり、空室にして売れば家賃が止まります。築年数が進んでいる部屋ほど、空室が埋まるまでの時間も読みにくくなります。つまり、交差する時期は「持ち続けにくくなる時期」であると同時に、「売る条件も良くなくなり始める時期」でもあります。だから、来てから考えるのでは遅いのです。
いつ確かめておけばよいか
交差する時期は、物件ごとに違います。確かめる材料は三つです。
1つめ。減価償却が終わる年です。確定申告書の決算書に、償却の残り年数が書かれています。あと何年で終わるかを確認してください。中古で買った物件は期間が短いので、思ったより早く来ます。
2つめ。ローンの返済予定表です。各年の元金返済額が並んでいます。償却が終わる年に、元金がいくらになっているかを見ます。この二つの数字を並べれば、交差する年はその場で分かります。
3つめ。長期修繕計画です。次の大規模修繕がいつで、修繕積立金の引き上げが予定されているかを見ます。管理組合の総会資料に載っています。
この三つを並べたうえで、交差する年の3年ほど前に一度、持ち続けた場合と売った場合を比べておくと落ち着いて決められます。交差してから慌てて売ると、時間の余裕がないぶん条件が悪くなります。なお、交差したからといって必ず売るべきというわけではありません。繰り上げ返済で元金を減らす、借り換えで返済期間を延ばす、という選び方もあります。売却はそのうちの一つです。
当社では、こう見ています
当社には月に500件ほど、売却のご相談や物件のお持ち込みがあります。賃貸中の区分についてご相談をいただいたときは、いまの利回りではなく、これから先に手元に残る現金で並べます。家賃はいまの募集相場に置き換え、修繕積立金は同じ築年数の建物と比べた水準で見ます。そのうえで、持ち続けた場合と売った場合の金額を両方お出ししています。なお、税金の具体的な計算については、税理士の方にご確認いただくようお願いしています。物件ごとの購入時の内訳や、他の所得との関係で変わる部分だからです。この記事で使った成約価格・家賃・修繕積立金のデータは、いずれも日々の査定にそのまま使っているものです。
次の一歩
手元に残る現金を計算するには、まず家賃の見立てが要ります。いま受け取っている家賃ではなく、次の募集で決まる家賃のほうです。同じ駅・同じ間取り・近い築年数の実際の成約家賃は、駅別・間取り別の家賃相場データで確認できます。決まるまでにかかる日数の目安は空室リスクマップにまとめてあります。
そのうえで、いま売った場合の金額を並べれば比較ができます。マンション名・専有面積・階が分かれば、成約価格をもとにした金額をその場で確認できます。この記事の下にご案内があります。
まとめ
- デッドクロスとは、減価償却費(帳簿だけの経費)が減り、元金返済(経費にならない支出)が増えて入れ替わる時点のこと
- 交差したあとは、帳簿の利益に税金がかかる一方で手元の現金が足りなくなる
- 実データでは、入居中のまま売られる割合が築25〜29年の6.4%から築30〜34年で15.9%に跳ね上がる
- 同じ時期に家賃の下落と修繕積立金の値上げも重なる。効いてくるのは三つの合計
- 確認するのは、償却の残り年数・返済予定表の元金・長期修繕計画の三つ。交差する3年前に比べておく
一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。
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