相続の手続きで「路線価」という言葉をはじめて見た、という方は多いと思います。路線価とは、土地の相続税を計算するために国が決めた、1㎡あたりの値段のことです。毎年7月に公表されます。ここで、多くの方が同じことを考えます。「この金額で売れるのだろうか」。
先に答えを書きます。ほとんどの場所では、実際に売れる値段のほうが高くなります。当社が独自に集計した東京・神奈川・千葉の土地の成約データで確かめました。直近3年に売買が成立した33,072件を、129の市区に分けて数えたものです。実際に売れた1㎡あたりの価格は、相続税路線価の中央値で1.34倍でした。ただし、この1.34倍をご自分の土地にそのまま当てはめてはいけません。市区によって0.85倍から2.76倍まで開いているからです。
まず、数字を見てみます
集計したのは、東京・神奈川・千葉の129市区です。それぞれの市区で「実際に売れた1㎡あたりの価格」を出し、同じ市区の路線価の水準で割りました。その倍率を並べた結果が次のとおりです。
- 集計した土地の成約:33,072件(直近3年・129市区)
- 実勢価格は路線価の何倍か:中央値1.34倍
- 低いほうの市区(下から1割の位置):1.11倍
- 高いほうの市区(上から1割の位置):1.59倍
- 路線価そのものより安く売れていた市区:129のうち4市区
- 1.5倍以上だった市区:129のうち25市区
「中央値」という言葉が出てきました。中央値とは、全部を順番に並べたときに、ちょうど真ん中に来る数字のことです。平均だと、一部の極端な場所に引っぱられます。ふつうの土地の実感に近いのは、中央値のほうです。
金額に直してみます。路線価が1㎡あたり20万円の土地を、100㎡お持ちだとします。相続税の計算では2,000万円の土地です。ここに1.34倍を掛けると2,680万円。低いほうの1.11倍なら2,220万円。高いほうの1.59倍なら3,180万円です。同じ路線価でも、場所によって960万円の開きが出ます。
ですから「路線価の1.3倍くらい」という言い方は、平均としては正しいのですが、ご自分の土地の目安としては粗すぎます。まず知るべきは、お住まいの市区がどのあたりにいるかです。
ここまでのまとめ:実勢価格は路線価のおよそ1.3倍。ただし市区ごとの開きが大きく、1,000万円近い差になります。
その前に。路線価は2種類あります
ここでよくある行き違いを一つ。「路線価」と呼ばれるものは、実は2種類あります。
- 相続税路線価——相続税や贈与税の計算に使います。国税庁が毎年7月に公表します。この記事で扱っているのはこちらです。
- 固定資産税路線価——毎年の固定資産税を計算するために、市区町村が決めます。3年に一度、見直されます。
二つは水準が違います。相続税路線価は公示地価の8割、固定資産税路線価は7割が目安です。手元の書類にある数字がどちらなのかを、まず確かめてください。固定資産税の通知書に載っている「評価額」を相続税路線価だと思って計算すると、1割ほど低く見積もることになります。
ここまでのまとめ:計算を始める前に、その数字がどちらの路線価かを確かめてください。
なぜ、路線価は売値より低いのか
仕組みの話です。ここを知っておくと、あとの計算が腑に落ちます。
国は土地の値段をいくつも公表しています。そのうち「公示地価」が、時価にいちばん近いとされる数字です。相続税路線価は、この公示地価の8割を目安に決められています。相続税を払うときに評価が高すぎると困る人が出るので、あらかじめ低めに置いてあるのです。
この「8割」は、実際にそうなっていました。当社の集計でも、路線価は公示地価の79.2%でした。国が言っている水準とほぼ一致します。ということは、路線価を0.8で割り戻せば公示地価に戻ります。計算すると1.25倍です。路線価の1.25倍が、理屈の上での出発点ということになります。
実測の中央値は1.34倍でしたから、理屈より少し高いところに実勢価格があります。理由は三つあります。
- 路線価は1月1日の時点の値段です。公表は7月。値上がりが続いている場所では、実際の取引が先に進んでいます。
- 路線価は道路ごとの平均です。その道路に面した土地をまとめて一つの数字にしています。角地や日当たりのよい区画は、実際にはもっと高く売れます。
- 売れた土地には偏りがあります。売りやすい土地から順に決まっていきます。売れ残ったものは集計に入りません。
ここまでのまとめ:路線価は公示地価の8割。割り戻すと1.25倍。実測はそれより少し高い1.34倍でした。
1.0倍を割る場所も、実際にあります
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。倍率は場所によってまったく違います。代表的な市区を並べます。
| 市区 | 路線価の水準(円/㎡) | 実際に売れた価格(円/㎡) | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 大田区 | 460,000 | 758,600 | 1.65倍 |
| 世田谷区 | 590,000 | 851,700 | 1.44倍 |
| 葛飾区 | 300,000 | 414,400 | 1.38倍 |
| 練馬区 | 370,000 | 485,400 | 1.31倍 |
| 横浜市青葉区 | 240,000 | 309,400 | 1.29倍 |
| 港区 | 1,750,000 | 2,179,100 | 1.25倍 |
| 市川市 | 270,000 | 275,500 | 1.02倍 |
| 船橋市 | 150,000 | 150,400 | 1.00倍 |
| 八王子市 | 125,000 | 125,400 | 1.00倍 |
大田区と船橋市では、倍率が0.65も違います。同じ「路線価×1.3」で計算していたら、船橋市の土地は3割ほど高く見積もっていたことになります。1,500万円の土地なら、450万円の見込み違いです。
なぜ、こういう差が出るのでしょうか。買いたい人の数の差です。都心に近く、駅から歩ける小さな区画は、買いたい人が多くいます。だから路線価から離れて上がります。反対に、郊外で区画が大きい土地は、買える人が限られます。総額が上がるからです。その結果、路線価に張り付いたままになります。
もう一つ理由があります。路線価は毎年見直されますが、下がるときの動きが遅いのです。値下がりしているエリアでは、路線価のほうが実勢に追いついていないことがあります。集計で1.0倍を割った4市区は、いずれも郊外でした。
つまり、あなたの場合はこう考えてください。「駅から歩ける小さめの土地か」「車がないと不便な広い土地か」。前者なら倍率は高め、後者なら1.0倍前後を疑ってかかったほうが、当たります。
ここまでのまとめ:倍率は市区で大きく違います。郊外や広い区画では、路線価とほぼ同じ値段でしか売れないこともあります。
あなたはいま、どの状況ですか
路線価を見る理由は、人によって違います。ご自分に近いものを探してみてください。
- 相続税の申告をしている——このときの路線価は、税金の計算のための数字です。売値とは別物と考えてください。申告と売却は、切り離して進めて構いません。
- 兄弟で分けようとしている——ここが一番もめます。ひとりが土地をもらい、他の人にお金を渡す場合、その土地をいくらとみるかで結論が変わるからです。路線価で分けるか、売れる値段で分けるかを、先に決めてください。
- 売るかどうか迷っている——手元にいくら残るかを知る段階です。路線価から出した概算を出発点にして、そこから測量や解体などの費用を引いていきます。
- 不動産会社から査定額をもらった——その金額が路線価の何倍かを計算してみてください。市区の相場から大きく外れていたら、理由を聞く価値があります。
ここまでのまとめ:路線価は税金の数字です。売値の話をするときは、必ず倍率を挟んでください。
では、路線価をどう使えばよいのか
実際の手順にします。4つです。
1. まず、路線価を1.25倍する
路線価はご自宅の住所から調べられます。国税庁の「財産評価基準書」というページで、毎年7月に公表されます。地図の上に「300D」のような数字が並んでいます。この300が、1㎡あたり300千円、つまり30万円という意味です。アルファベットは借地に関する記号なので、売値の計算では気にしなくて構いません。
30万円 × 土地の面積 × 1.25。これがいちばん低い見立てです。100㎡なら3,750万円になります。
2. 市区の倍率で、幅をつくる
次に、お住まいの市区の倍率を掛けます。市区ごとの数字は土地・戸建ての相場データベースに載せてあります。市区のページには、路線価を入れると実勢価格の概算が出る計算欄も置いてあります(たとえば世田谷区のページ)。一点だけ数字を出すのではなく、上下に幅を持たせて見てください。
3. 土地の形と、道路の付き方で引く
ここまでは市区全体をならした数字です。実際の土地には個性があります。間口が狭い、旗のような形をしている、道路より低い、道路が4mない。こうした条件があると、市区の相場より下がります。逆に、角地や南側が道路の土地は上がります。
どれくらい下がるかは条件によりますが、一つ二つ当てはまるだけで1割前後は動きます。3,000万円の土地なら300万円です。小さい額ではありません。
4. 最後は、実際に売れた価格で確かめる
広告サイトに出ている価格は、売主が「この値段で売りたい」と決めて出した希望の金額です。売れた証拠ではありません。確かめるべきは、同じエリアで実際に売買が成立した価格のほうです。市区ごとの成約価格・値下げ幅・売れるまでの日数は、先ほどの相場データベースで見られます。
ここまでのまとめ:路線価×1.25を下限にして、市区の倍率で幅を作り、土地の条件で調整し、成約価格で答え合わせをする。
当社では、こう見ています
当社は売買と仲介の両方を行っているため、判断の材料を「いま出ている売出価格」ではなく「実際に売れた価格」に置いています。この記事で使った成約データは、日々の仕事でそのまま使っているものです。路線価は、その土地の下限を確かめる道具として使います。上限を決める道具としては使いません。相続で持ち込まれるご相談では、まず路線価から概算の幅を出し、そのうえで現地の道路付けと形を見て、幅を狭めていく順番で進めています。ご相談は毎月500件ほどいただいており、そこで価格が実際にどう決まったかも合わせて見ています。
次の一歩
ここまでは、市区全体の傾向の話でした。ただ、実際に売るときに必要なのは、平均でも中央値でもありません。「うちの土地はいくらか」という、一つの数字です。住所と面積が分かれば、市区の成約価格から概算の幅を出せます。この記事の下にご案内がありますので、必要な方はそちらからどうぞ。
売ると決めていない段階でも構いません。むしろ、兄弟で分け方を決める前や、相続税の申告をする前に幅を知っておくほうが、あとの判断が楽になります。申告のあとで「思ったより高く売れた」と分かると、話がややこしくなることがあるからです。
まとめ
- 東京・神奈川・千葉の土地の成約33,072件で、実勢価格は相続税路線価の中央値1.34倍だった
- 路線価は公示地価の8割(実測79.2%)。割り戻した1.25倍が、いちばん低い見立てになる
- 倍率は市区で大きく違う。大田区1.65倍に対し、船橋市・八王子市は1.00倍
- 駅から歩ける小さめの土地ほど倍率は高く、郊外の広い区画は路線価に張り付きやすい
- 路線価×1.25を下限に、市区の倍率で幅を作り、形と接道で調整し、成約価格で確かめる
一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。
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