不動産物件購入・売却

金融機関は一棟の何を見ているか|32機関の融資条件から読む評価の型

一棟を売るとき、価格を最終的に決めているのは買い手ではありません。買い手に融資を出す金融機関です。買い手がいくら気に入っても、融資が付かなければ取引は成立しません。ですから売主の側も、金融機関がどこを見ているかを知っておくと、提示された金額の意味が読めるようになります。当社は一棟向け融資の条件を金融機関ごとに整理したデータベースを独自に作っています。現在32機関を収録していて、内訳は銀行が18、信用金庫が7、ノンバンクが4、信用組合が2、その他が1です。この記事では、そこから見えてくる評価の型を、機関名を出さずにカテゴリごとに整理します。

積算を見る機関のほうが多い

まず評価の方法です。32機関のうち、担保評価に積算を使うと明記しているのが20機関、収益還元を使うと明記しているのが16機関でした。両方を併記しているのは9機関です。外部の鑑定評価を使うと明記しているのは3機関にとどまります。

ここから分かるのは、収益還元だけで評価が完結する機関は少数派だということです。売主の側は利回りで価格を組み立てますが、融資の側は土地と建物の積み上げを主に見ています。この非対称が、売出価格と成約価格の差の一部を作っています。

もう一つ、両方を併記している9機関の存在も重要です。両方見るということは、多くの場合、低いほうに寄せるということです。積算と収益還元が大きく食い違う物件は、どちらの数字で説明しても、結局は低いほうで融資額が決まります。

融資期間は建物の残存年数で決まる

次に融資期間です。一棟向けでは「構造ごとの基準年数から築年数を引く」という形式が主流です。収録機関のうち構造別の基準年数を明記しているものを集計すると、次のようになりました。

構造明記している機関数法定耐用年数と同じかそれ以下それより長く取る基準年数の中央値
木造18機関12機関6機関22年
軽量鉄骨造14機関5機関9機関26年
鉄骨造15機関8機関7機関34年
RC造19機関12機関7機関47年
一棟向け融資の構造別基準年数(当社が独自に集計)

木造では18機関中9機関が22年ちょうどを基準にしていました。20年とさらに短く置く機関が3、逆に25年から50年まで長く取る機関が6です。RC造では19機関中12機関が47年、それより長い50年から60年を採る機関が7でした。

融資期間は建物の残存年数で決まり、交渉では動きません。木造で基準が22年なら、築15年の物件は残り7年です。築22年を超えれば残存はゼロになります。この計算は毎年進むので、売却を先送りするたびに買い手の返済期間が短くなります。返済期間が短くなれば毎月の返済額が増え、同じ価格でも手残りが減ります。買える人が減る、ということです。

ただし表のとおり、法定耐用年数より長く取る機関も一定数あります。木造で6機関、RC造で7機関です。築年が進んだ物件でも売れなくなるわけではありません。買い手の融資先が絞られ、条件が厳しくなる、という変化です。

あなたはどのケースでしょうか

金融機関の目線が問題になるのは、だいたい次の場面です。

  • 買付は入るのに、決済まで進まない——融資の内諾が取れずに流れることが続いている
  • 買い手が「自己資金が足りない」と言う——価格は納得しているのに資金が組めない
  • 検査済証や図面が揃っていない——それがどう効くのかが分からない

三つ目は見落とされがちですが、影響が大きい項目です。以下で順に見ていきます。

自己資金の割合と金利の幅

融資額の上限は、評価額に対する割合で決まります。この割合を明記している28機関で見ると、中央値は85%でした。100%まで出すとしている機関が9、80%以下に抑えている機関が14です。つまり多くの場合、買い手は評価額の1割から2割にあたる自己資金と、それとは別に諸費用を用意する必要があります。ここで言う評価額は売出価格ではなく、積算や収益還元で出した金額であることに注意してください。積算が売出価格の半分しかない物件では、融資額はさらに小さくなります。

金利については、収録している35のプランで下限の中央値が2.475%でした。カテゴリ別に下限の中央値を並べると、信用金庫が2.26%、銀行が2.45%、信用組合が2.75%、ノンバンクが2.93%です。上限まで含めた範囲は1.00%から9.00%と広く、同じ物件でも借りる先によって毎月の返済額はまったく違ってきます。

融資期間の上限を明記している24機関では、中央値が35年、35年以上とする機関が15ありました。ただしこれは上限であって、先ほどの残存年数の計算がこれより短ければ、短いほうが採用されます。上限35年という表記を見て、築30年の木造でも35年組めると考えるのは誤りです。

物件の属性で最初に弾かれる項目

評価の前に、そもそも取り扱わないと決めている条件があります。物件条件について可否を明記している機関を集計すると、次のような分布でした。

物件条件不可条件付き
民泊での運用12機関4機関2機関
再建築不可5機関0機関0機関
建ぺい率オーバー5機関3機関2機関
違法建築4機関0機関0機関
シェアハウス4機関0機関0機関
容積率オーバー3機関3機関3機関
既存不適格3機関2機関2機関
検査済証なし1機関2機関1機関
一棟向け融資の物件条件(当社が独自に集計。明記のある機関のみ)

再建築不可と違法建築は、明記している機関がすべて不可でした。この二つは評価額の問題ではなく、入口で止まります。建ぺい率オーバーと容積率オーバーは、不可・条件付き・可に分かれます。ここは機関によって扱いが割れる領域なので、買い手の融資先次第で結果が変わります。

検査済証については、不可と明記しているのは1機関だけですが、条件付きが2機関です。「無ければ融資が出ない」というより、「無いと確認に時間がかかり、条件が付く」という性質です。売主の側で書類を揃えておくことの効果は、ここに出ます。

民泊での運用は、明記している18機関のうち12機関が不可でした。既存の入居者が民泊事業者であるケースも含めて、買い手側から確認が入ります。運用形態を変えている物件は、売却前にこの点を整理しておく必要があります。

物件だけでなく、買い手の属性も同時に効く

ここまでは物件側の話でしたが、融資条件には買い手側の条件も同時にかかります。売主から見ると自分ではどうにもならない部分ですが、知っておくと「なぜこの買い手では通らなかったのか」が分かります。

完済年齢を明記している8機関では、中央値が81歳、範囲は75歳から85歳でした。仮に上限が80歳で買い手が60歳なら、返済期間は最長20年です。この20年が、先ほどの残存年数の計算とぶつかります。どちらか短いほうが採用されるので、築年の進んだ物件を年配の買い手が買おうとすると、期間が二重に削られます。

資産管理法人での購入については、可否を明記している11機関のうち7機関が可としていました。個人での購入が前提の機関もあるので、法人名義で買いたい買い手は最初から選択肢が狭まります。団体信用生命保険については、必須としている機関が明記5機関のうち3機関ありました。必須の場合は金利に上乗せが載るので、その分だけ買える価格が下がります。複数の物件をすでに保有している買い手についても、条件付きとする機関が6ありました。

まとめると、同じ物件でも買い手が変われば融資条件が変わり、結果として出せる価格が変わります。売主の立場では、価格は物件だけで決まっているのではなく、買い手の属性まで含めた組み合わせで決まっている、ということになります。

カテゴリごとの傾向

収録機関の内訳から読み取れる、おおまかな傾向を書きます。個別の機関を特定できる書き方は避け、カテゴリの水準として整理しています。

銀行は数が多く、幅も広いカテゴリです。融資額の上限の中央値は90%と最も高い一方で、金利の下限は1.00%から5.00%まで広がります。評価方法も、積算を明記する機関と収益還元を明記する機関が入り混じります。買い手の属性や取引の経緯で条件が動きやすい、と考えたほうが実態に近いでしょう。

信用金庫は融資額の上限の中央値が80%と控えめですが、金利の下限は最も低い水準でした。融資期間の上限は35年以上を明記する機関が中心です。営業エリアの制約が強いので、物件の所在地で使えるかどうかが最初に決まります。

ノンバンクは金利の水準が最も高く、融資額の上限の中央値も80%です。ただし築年や物件条件については柔軟な扱いをする機関が含まれます。他で通らない物件の受け皿になる代わりに、返済負担が重くなる、という位置づけです。

売主の立場では、自分の物件がどのカテゴリの射程に入るかを考えることになります。積算が価格の半分を割り、木造で築25年を超えているような物件は、銀行と信用金庫の標準的な条件からは外れます。そのとき買い手が使える先はノンバンクに寄り、金利が高い分だけ買える価格が下がります。これが、築年が価格に効く経路の実際です。

当社では、こう見ています

当社には月に500件ほど、売却のご相談や物件のお持ち込みがあります。一棟については、収益還元と積算を出したあとに、この融資条件データベースを当てて「この物件に融資を出しうる機関がいくつあるか」を数えています。数が多い物件は買い手の層が厚く、価格の交渉余地が小さくなります。数が少ない物件は、買い手を探すというより、その物件を扱える融資先を探す作業になります。査定額の差は、ここで生まれることが多いです。物件そのものの良し悪しではなく、買い手が資金を引ける経路が何本あるかが金額を決めています。

次の一歩

売主の側でできる準備は、書類を揃えることです。検査済証、建築確認の書類、竣工図面、修繕の履歴。これらは価格を上げるためではなく、買い手の融資審査で条件が付くのを防ぐために効きます。もう一つは、構造ごとの基準年数から築年数を引いた残り年数を把握しておくことです。木造なら22年、鉄骨造なら34年、RC造なら47年が出発点になります。

実際にどの条件で何機関が射程に入るかは、物件の所在地・構造・築年・積算が分かれば計算できます。レントロール・登記簿・建物の概要が分かる資料をお預かりできれば、その本数と、そこから逆算した価格帯までご説明します。一棟物件のご相談窓口はこの記事の下にご案内があります。

まとめ

  • 収録32機関のうち、積算を評価に使うと明記が20機関、収益還元が16機関、両方併記が9機関。収益還元だけで完結する機関は少数派
  • 融資期間は「構造ごとの基準年数−築年数」が主流。木造は18機関中12機関が22年以下、RC造は19機関中12機関が47年を基準にしている
  • 融資額の上限は28機関の中央値で評価額の85%。評価額は売出価格ではないので、積算が低い物件は融資額も小さくなる
  • 再建築不可と違法建築は、明記している機関がすべて不可。建ぺい率・容積率オーバーは機関によって扱いが割れる
  • 売主の準備は書類を揃えることと、残存年数を把握すること。査定額の差は「買い手が資金を引ける経路の本数」から生まれる

融資が伸びる物件かどうかは、積算が収益価格の何割にあたるかでおおよその見当がつきます。その比率も一緒に出しています。一棟の簡易査定はこちら(入力は所在地・築年・満室想定年収だけで、お名前やご連絡先は必要ありません)。

電宅男
監修 電宅男 宅地建物取引士 / MBA|株式会社青山地所 営業部

一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。

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