いま売るべきか、もう少し待つべきか。売却を考えている方から、必ず出る質問です。「金利が上がると不動産価格は下がる」とよく言われます。買う人が借りられる額が減るからです。理屈としては筋が通っています。
では、実際に何が起きたのでしょうか。金利ははっきり上がりました。そのあいだ、中古マンションの成約価格はどう動いたのか。当社が独自に集計した首都圏の成約データで見ていきます。2024年1月から2026年8月までに成約した110,887件が対象です。
金利は、たしかに上がりました
まず金利のほうを確かめます。広く公表されている指標を並べると、こうなります。
| 指標 | 2024年1月 | 2025年1月 | 2026年1月 | 2026年7月 |
|---|---|---|---|---|
| 変動金利の基準となる金利 | 2.475% | 2.625% | 2.875% | 3.125% |
| 全期間固定型の最も低い金利 | 1.87% | 1.86% | 2.08% | 3.14% |
| 10年国債の利回り | 0.66% | 1.21% | 2.20% | 2.77% |
変動金利の基準となる金利は、長いあいだ2.475%のまま動きませんでした。それが2025年には2.625%になり、2026年7月には3.125%まで上がっています。実際に借りる人の金利は、ここから優遇の分を引いた数字ですが、上がっていることに変わりはありません。
買主にとって、これは「借りられる額が減る」ということです。同じ月々の返済額でも、金利が上がれば借入額は小さくなります。ですから、理屈のうえでは価格が下がってもおかしくありません。
ここまでのまとめ:この2年半で、住宅ローンの金利ははっきり上がりました。
ところが、成約価格は下がっていません
同じ期間の成約データです。㎡単価とは、1平方メートルあたりいくらか、という数字です。
| 年 | 件数 | 成約の㎡単価(中央値) | 売れるまでの日数(中央値) | 売出価格からの下げ幅(中央値) |
|---|---|---|---|---|
| 2024年 | 35,640件 | 67.18万円 | 95日 | 4.12% |
| 2025年 | 47,545件 | 67.79万円 | 90日 | 4.55% |
| 2026年(1〜8月) | 27,294件 | 69.82万円 | 87日 | 4.89% |
単価は下がるどころか、上がっています。売れるまでの日数も、95日から87日へ短くなりました。金利が上がったから価格が下がる、ということは、この2年半では起きていません。
ただし、都県ごとに分けると景色が変わります。
| 都県 | 2024年 | 2025年 | 2026年(1〜8月) | 2年半の変化 |
|---|---|---|---|---|
| 東京都 | 90.54万円 | 96.00万円 | 101.17万円 | +11.7% |
| 神奈川県 | 53.80万円 | 51.11万円 | 52.28万円 | −2.8% |
| 埼玉県 | 40.57万円 | 37.50万円 | 40.16万円 | −1.0% |
| 千葉県 | 34.24万円 | 33.84万円 | 35.85万円 | +4.7% |
上がっているのは、ほぼ東京都だけです。神奈川県と埼玉県は、むしろ少し下がっています。「首都圏の相場が上がっている」というニュースを見て自分の部屋も上がっていると考えるのは、東京都以外では危うい、ということになります。
ここまでのまとめ:金利が上がっても価格は下がっていません。ただし上がっているのは、ほぼ東京都だけです。
ただし、売主の期待だけが先に上がっています
もう一度、年ごとの表を見てください。見落としやすい列があります。売出価格からの下げ幅です。
2024年は4.12%でした。2026年は4.89%です。成約価格は上がっているのに、売り出した価格からの下げ幅は広がっています。東京都だけで見ると、2024年の3.42%から2026年の4.46%へ、もっとはっきり広がっています。
これは何を意味するでしょうか。相場が上がっているというニュースを見て、売主が強気の価格を付けるようになった。ところが買主はそこまで付いてこない。だから最後に下げる幅が大きくなる。そういう形です。
では、自分の部屋はどうなのか。駅・築年数・間取りから相場の位置と売り時の傾向を調べると、その駅の成約単価がここ数年のどのあたりにあるのか、あと5年持ったときに築年数の分でどれだけ目減りするのかを並べて見られます。
つまり、あなたの場合はこう考えてみてください。相場が上がっていることは、高く売り出してよい理由にはなりません。上がっているのは成約価格で、期待値ではありません。
ここまでのまとめ:成約価格は上がりましたが、売主の値付けはそれ以上に強気になっています。
あなたはどのケースですか
- 住み替えを考えている——売るのと買うのが同時なら、相場が上がっても下がっても影響は打ち消し合います。待つ理由はあまりありません
- 売って現金にしたい——相場の影響をまともに受けます。ただ、いつが天井かは誰にも分かりません。判断は次の節で書きます
- 相続した部屋を売る——期限があります。相続税の申告は10か月以内。売却して納税するなら、逆算するとあまり余裕はありません
- 賃貸に出している部屋を売る——空室になるのを待つか、賃貸のまま売るかで金額が変わります。集計では、賃貸中のまま売った部屋は同じ建物の真ん中より5.5%低い単価でした
ここまでのまとめ:住み替えなら相場を待つ意味は小さい。現金化が目的のときだけ、相場が効きます。
売り時を決めるときの四つの見方
1. 相場より先に、自分の予定を置く
売却には時間がかかります。売れるまで中央値91日、契約から引き渡しまでさらに1〜2か月。合わせて5か月ほどです。「来年の春までに」と決めているなら、逆算するといつ動き出すかは自動的に決まります。相場を待つ余地は、そもそもあまりありません。
2. 待つ費用を数える
1年待つあいだにも、管理費と修繕積立金はかかります。集計では合計で月に約25,200円が中央値なので、1年で約30万円。住宅ローンが残っていれば、その返済と利息も続きます。加えて、部屋は1年ぶん古くなります。築年数が1年進むと、その分だけ評価は下がります。相場が1年で数%上がったとしても、これらを引くと残らないことがあります。
3. 金利は、買主の予算として見る
売主にとって金利が効くのは、価格そのものではなく、買主の人数を通してです。金利が上がると、同じ月々の返済額で買える金額が下がります。すると、価格帯の上のほうにいた買主が一つ下の帯に移ってきます。
ですから、影響が出やすいのは総額の大きい部屋です。逆にいえば、買主の層が厚い価格帯(首都圏では3,000万円台から5,000万円台)は、金利が動いても買主が消えにくい帯だといえます。
4. 季節は、思ったほど効きません
「春が売り時」とよく言われます。たしかに1月から3月は、買主の動きが増える時期です。ただ、同時に売り出す部屋も増えます。競争相手が増えるので、価格の面で有利になるとは限りません。数か月ずらすかどうかで悩むより、値付けを相場に合わせるほうが、金額への効き目はずっと大きいです。
ここまでのまとめ:自分の予定・待つ費用・買主の予算。この三つで決まります。季節はあまり関係ありません。
当社では、こう見ています
当社は買取と仲介の両方を行っており、相場の見立ては毎月の成約データで更新しています。売り時のご相談をいただいたときは、相場の予想を申し上げることはしていません。当たる保証がないからです。代わりに、いまの成約データで出した見込み額と、1年待った場合にかかる費用を並べてお見せしています。月に500件ほど売却のご相談やお持ち込みをいただきますが、「待って良かった」と言えるのは、待つ費用より相場の上がり幅が大きかった場合に限られます。
次の一歩
売り時を考えるには、まず「いまなら、いくらか」が要ります。それが分からないと、待つ費用と比べられません。マンション名・専有面積・部屋番号が分かれば、実際に売れた価格をもとにした金額をその場で確認できます。この記事の下にご案内がありますので、必要な方はそちらからどうぞ。
ご自分の建物や駅で価格がどう動いてきたかは、マンション棟別の相場データと駅別の中古マンション相場データで確かめられます。都県全体の平均より、その二つのほうがご自分に近い数字です。
まとめ
- この2年半で金利ははっきり上がったが、成約の㎡単価は下がっていない(67.18万円→69.82万円)
- 上がっているのはほぼ東京都だけ(+11.7%)。神奈川県と埼玉県は少し下がっている
- 売出価格からの下げ幅は4.12%→4.89%に拡大。売主の値付けだけが先に強気になっている
- 1年待つ費用は、管理費などだけで約30万円。返済と築年数の進みも加わる
- 金利は買主の予算として効く。総額の大きい部屋ほど影響を受けやすい
一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。
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