マンションの査定を何社かに頼むと、たいてい金額がそろいません。同じ部屋なのに、300万円も400万円も違う。どれが本当なのか分からなくなります。多くの方がここで手が止まります。
ただ、査定に使う材料そのものは、どの会社もほとんど同じです。駅からの距離、築年数、階、広さ、部屋の状態。違うのは、その材料をどれくらい重く見るかです。ですから、材料の中身を知っておけば、出てきた金額をご自分で確かめられます。この記事では、その中身を一つずつ開けていきます。
同じマンションの中でも、価格はこれだけ違います
最初に、意外に思われるかもしれない数字をお見せします。当社が独自に集計した、2024年1月から2026年8月までに成約した首都圏の中古マンション110,887件のデータです。
このうち、同じマンションで8件以上の成約があった建物だけを取り出しました。そして、その建物の真ん中の㎡単価を100として、部屋ごとの単価を並べ直しました。㎡単価とは、1平方メートルあたりいくらか、という数字です。結果はこうなりました。
| 同じ建物の中での位置 | ㎡単価(建物の真ん中を100とする) |
|---|---|
| 下から10%のあたり | 83.8 |
| 下から4分の1のあたり | 92.8 |
| ちょうど真ん中 | 100.0 |
| 上から4分の1のあたり | 107.8 |
| 上から10%のあたり | 119.3 |
下のほうと上のほうで、約1.4倍の開きがあります。同じ建物です。同じ立地で、同じ築年数です。それでも部屋によってこれだけ違います。
ですから「このマンションは㎡◯万円」という一つの数字では足りません。査定は建物にではなく、部屋ごとに付くものだからです。逆にいえば、建物の平均だけを見て「うちも同じくらいだろう」と考えると、上にも下にも外します。
ここまでのまとめ:同じマンションの中でも、部屋によって単価は1.4倍ほど違います。
あなたはいま、どの段階にいますか
この先の読み方は、いまお持ちの情報によって変わります。近いものを探してみてください。
- まだ何も頼んでいない——先に材料を知っておくと、あとで出てくる金額の見え方が変わります。この記事を読んでから頼むことをおすすめします。
- 簡易査定の金額だけ受け取った——簡易査定とは、部屋を見ずに、住所や広さなどの情報だけで出す金額のことです。幅のある予想だと考えてください。ここから先を読むと、その幅がどこから来るのかが分かります。
- 何社かの金額がバラバラで困っている——いちばん多いご相談です。金額そのものより、その根拠として何件の事例が使われたかを聞いてください。理由は後半で説明します。
- 1社にだけ頼んで、妥当か分からない——比べる相手がいない状態です。材料ごとの効き方を知れば、ご自分で当たりを付けられます。
ここまでのまとめ:どの段階でも、まず必要なのは金額そのものではなく、その金額の材料です。
材料を、一つずつ開けます
ここからが本題です。それぞれの材料が、実際にどれくらい価格を動かしているのか。同じ集計から取り出しました。
1. 駅からの距離
同じ駅を使う部屋だけを集めて、その駅の真ん中の単価を100として並べました。エリアの違いを外して、徒歩分数だけを見るためです。
| 駅からの徒歩分数 | 件数 | ㎡単価(同じ駅の真ん中を100) |
|---|---|---|
| 1〜3分 | 16,039件 | 111.4 |
| 4〜5分 | 17,173件 | 107.4 |
| 6〜7分 | 14,940件 | 103.2 |
| 8〜10分 | 19,275件 | 101.0 |
| 11〜15分 | 16,520件 | 92.3 |
| 16分以上 | 8,614件 | 73.6 |
同じ駅でも、徒歩3分と徒歩16分では単価が約1.5倍違います。目立つのは、10分と11分のあいだの段差です。ここを境に急に下がります。買主が検索するときに「徒歩10分以内」で区切ることが多いためです。
つまり、あなたの部屋が徒歩11分なら、10分の部屋と同じ感覚で値付けをすると高すぎます。逆に徒歩3分以内なら、それは強い材料です。査定でそこが評価されているか、確かめる価値があります。
2. 築年数
同じやり方で、築年数ごとに並べました。
| 築年数 | 件数 | ㎡単価(同じ駅の真ん中を100) |
|---|---|---|
| 5年未満 | 5,805件 | 146.1 |
| 5〜9年 | 11,464件 | 129.1 |
| 10〜14年 | 9,812件 | 121.3 |
| 15〜19年 | 11,068件 | 109.4 |
| 20〜24年 | 11,650件 | 104.0 |
| 25〜29年 | 9,958件 | 97.5 |
| 30〜34年 | 6,380件 | 86.1 |
| 35〜39年 | 5,697件 | 75.3 |
| 40〜49年 | 13,590件 | 68.9 |
| 50年以上 | 7,661件 | 58.8 |
下がり方は一定ではありません。25年を過ぎたあたりから、傾きが急になります。もう一つ、大きな段差があります。1981年の建築基準法の改正です。この年を境に、地震に対する建物の基準が変わりました。集計でも、1980年以前に建った部屋は同じ駅の真ん中の62.3%。1984年以降は108.1%でした。
売れるまでの日数にも差が出ます。1980年以前の建物は中央値102日、1984年以降は87日でした。中央値とは、全部を順番に並べたときに真ん中に来る数字のことです。
3. 階
階が上がると価格も上がる。これはよく言われます。ただ、どれくらい上がるのかは、あまり語られません。
同じ建物で8件以上の成約がある1,708棟について、階と単価の関係を建物ごとに計算しました。真ん中の建物で、1階上がるごとに0.68%でした。10階違えば、およそ7%です。4,000万円の部屋なら約280万円になります。
ただし建物によって幅が大きく、下から4分の1の建物では1階あたり0.06%、上から4分の1では1.40%でした。眺望が開ける高層の建物では階の効き方が強く、5階建てのような建物ではほとんど効きません。「階は必ず◯%」という決まった数字はない、ということです。
4. 広さ
| 専有面積 | 件数 | ㎡単価(同じ駅の真ん中を100) |
|---|---|---|
| 30㎡未満 | 7,261件 | 76.4 |
| 30〜44㎡ | 9,578件 | 91.3 |
| 45〜59㎡ | 18,322件 | 91.5 |
| 60〜74㎡ | 35,061件 | 107.1 |
| 75〜89㎡ | 17,343件 | 104.4 |
| 90㎡以上 | 5,524件 | 100.6 |
いちばん単価が高いのは60〜74㎡の帯です。ファミリー向けとして買いたい人がいちばん多い広さだからです。90㎡以上になると単価はむしろ下がります。総額が大きくなりすぎて、買える人が減るためです。売れるまでの日数も、90㎡以上は中央値107日と長くなります。
5. 部屋の状態と、売り方
同じ建物の真ん中を100として、条件ごとに比べました。
- リフォーム済として売られた部屋:110.6(売れるまで中央値185日)
- 角部屋:100.5(角部屋でない部屋は100.0)
- 賃貸中のまま売った部屋:94.5(空室で売った部屋は100.0)
- 不動産会社が売主だった部屋:107.1(個人が売主の部屋は100.0)
いずれも同じ建物の真ん中を100とした値です(当社が独自に集計)。角部屋の差が0.5しかないのは、意外に思われるかもしれません。角部屋は一般に人気があります。ただ、価格に乗る分は小さいのです。角部屋であることを理由に強気の値付けをすると、根拠が薄くなります。
ここまでのまとめ:立地と築年数で大枠が決まり、階・広さ・状態で調整される。角部屋のように、言われるほど効かない材料もあります。
それでも金額がそろわないのは、なぜか
材料が同じでも、出てくる金額は変わります。理由は三つです。
一つめ。比べる相手の選び方が違います。査定は、似た部屋がいくらで取引されたかを土台にします。その「似た部屋」を、同じ建物から選ぶのか、同じ駅から選ぶのか、同じ区から選ぶのか。ここで金額は動きます。範囲を広げれば事例は増えますが、似ていない部屋が混ざります。
二つめ。売れた価格を見ているか、売り出し中の価格を見ているかです。広告に出ている価格は、売主が「この値段で売りたい」と決めた数字です。実際に売れた価格ではありません。売り出し中の価格を土台にすると、査定額は自然と高めに出ます。
三つめ。査定額には幅があります。「3,800万円から4,200万円くらい」という幅の、どこを伝えるか。上を伝えるか、真ん中を伝えるか。これは会社の判断です。売主は高い金額を出した会社を選びがちなので、上を言ったほうが選ばれやすくなります。高い査定額は、高く売れる保証ではありません。
ですから、査定を受け取ったら金額の下に一つだけ質問をしてください。「この金額の根拠にした事例を、何件、どの範囲から選びましたか」。答えられる会社と、答えられない会社があります。
ここまでのまとめ:金額の差は、比べる相手の選び方と、幅のどこを言うかから生まれます。
当社では、こう見ています
当社の査定は、売り出し中の価格ではなく、実際に売れた価格を土台にしています。この記事で使った成約データも、日々の査定でそのまま使っているものです。AIによる査定も同じで、成約価格を答えとして作っています。出した金額は、あとで答え合わせをしています。直近に成約した1,015件で見ると、査定額と実際の成約価格のずれは中央値6.43%、±10%以内に収まったものが67.7%でした。加えて、月に500件ほど売却のご相談やお持ち込みをいただいており、その現場で価格がどう動いたかも合わせて見ています。
次の一歩
ここまでは、材料ごとの効き方という一般の話でした。実際に必要なのは、それを全部足した「自分の部屋はいくらか」という一つの数字です。マンション名・専有面積・部屋番号が分かれば、成約価格をもとにした金額をその場で確認できます。この記事の下にご案内がありますので、必要な方はそちらからどうぞ。
建物ごとの成約価格はマンション棟別の相場データで、駅ごとの相場は駅別の中古マンション相場データで確認できます。ご自分の部屋の査定額が妥当かどうか、まずこの二つと突き合わせてみてください。
まとめ
- 同じマンションの中でも、部屋によって㎡単価は約1.4倍違う。査定は建物ではなく部屋に付く
- 同じ駅でも徒歩3分と16分以上で単価は約1.5倍。徒歩10分と11分のあいだに段差がある
- 築年数は25年を過ぎると下がり方が急になる。1980年以前の建物は同じ駅の真ん中の62.3%
- 階は1階あたり0.68%が真ん中。ただし建物によって0.06%から1.40%まで幅がある
- 金額がそろわない理由は、比べる事例の選び方と、幅のどこを伝えるか。根拠にした事例の件数と範囲を聞くとよい
一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。
プロフィール詳細 →