賃貸に出している部屋が、なかなか決まらない。募集を始めて1か月、2か月と過ぎていく。この状態が続くと、多くのオーナーが同じ問いにたどり着きます。家賃を下げてでも貸し続けるのか、それとも売ってしまうのか。判断する前に、まず「ふつうはどれくらいで決まるものなのか」を知っておくと、迷いがずいぶん減ります。当社が独自に集計した東京都と神奈川県の賃貸データで数えてみました。2024年1月から2026年6月までに募集を開始し、成約に至った111,919件が対象です。募集開始から決まるまでの日数は、中央値で37日でした。
ただし、この37日という数字自体はあまり重要ではありません。もっと使えるのは、その内訳のほうです。家賃を一度も下げずに決まった部屋は中央値29日、途中で下げた部屋は64日かかっていました。下げた部屋の下げ幅は、中央値で6.20%です。つまり「粘って待ったから高く決まった」のではなく、「決まらないから下げ、下げてもさらに時間がかかった」という順番で起きています。
まず、決まるまでの日数を並べます
同じ111,919件を、決まるまでの日数で区切ったものです。「値下げ率」は、募集を始めたときの家賃から、実際に決まったときの家賃までの下げ幅を指します。
| 決まるまでの日数 | 件数の割合 | 値下げをした割合 | 値下げ率(中央値) |
|---|---|---|---|
| 30日以内 | 44.1% | 14.6% | 0.00% |
| 31〜60日 | 24.8% | 25.4% | 0.00% |
| 61〜90日 | 13.8% | 36.5% | 0.00% |
| 91〜180日 | 13.1% | 49.3% | 0.00% |
| 181日以上 | 4.2% | 64.4% | 4.53% |
読み取れることは三つあります。ひとつ、4割強の部屋は1か月以内に決まっています。ふたつ、90日を超えた部屋は全体の17.3%で、けっして多数派ではありません。みっつ、日数が延びるほど値下げをした部屋の割合が上がります。30日以内なら14.6%ですが、181日以上では64.4%です。
時期による差も、思ったより大きく出ました。1月と2月に募集を始めた部屋は中央値30日で決まっています。いっぽう7月に始めた部屋は45日でした。1.5倍の開きです。進学や転勤で人が動く時期に募集が重なるかどうかで、同じ部屋でも2週間ほど変わる計算になります。
家賃の水準でも違います。8万円台から12万円未満の部屋は中央値29日、値下げをしたのは23.0%。25万円以上の部屋は64日、44.5%が値下げをしていました。高い部屋ほど、借り手の数が少なく、時間がかかります。駅ごとの日数の違いは空室リスクマップ(駅別・決まるまでの日数)にまとめてあります。なお、あちらは募集が終わったものをすべて数えているため、日数はこの記事の数字より短く出ます。
あなたはいま、どの状況でしょうか
- 募集を始めて1か月以内——まだ何も起きていない段階です。全体の4割強はここで決まります。動くのは早すぎます。見るべきは問い合わせの件数と内見の件数だけです。
- 2〜3か月たった——ここが分かれ目です。この段階まで来た部屋の半分近くは、最終的に値下げをして決まっています。下げるなら、いくら下げるかを先に決める段階です。
- 半年を超えた——全体の4.2%しかない状態です。家賃だけの問題ではない可能性が高くなります。募集の出し方、部屋の状態、設備のどれかに原因があると考えたほうが早く進みます。
- 退去のたびに同じことが起きている——一度の空室ではなく、繰り返しになっている場合です。この記事の後半が、いちばん関係する部分になります。
決まらない原因は、三つに切り分けられる
「決まらない=家賃が高い」と考えてしまいがちですが、原因はもう少し分かれます。切り分ける順番は、問い合わせと内見の数を見ることです。
- 問い合わせが来ない——価格か、募集の出し方の問題です。相場より高いか、掲載している写真や条件が弱いか。このどちらかで止まっています。部屋の中身はまだ見られていないので、部屋のせいではありません。
- 問い合わせは来るが、内見に至らない——条件のどこかが実際と違って伝わっています。管理費の扱い、駐車場の有無、契約期間、ペットや楽器の可否。募集条件の細かい欄で落ちていることが多い部分です。
- 内見は入るが、決まらない——ここで初めて部屋の問題になります。設備の古さ、におい、水回りの状態、日当たり。他の部屋と並べて比べられたうえで負けている状態です。
この切り分けをせずに家賃だけ下げると、内見で負けている部屋は下げても決まりません。結果として、下げたうえにさらに時間がかかります。先ほどの集計で、181日以上かかった部屋の64.4%が値下げをしていたのは、この形が含まれているためです。値下げが効くのは、一つめの「問い合わせが来ない」場合だけだと考えたほうが実態に近くなります。
数字の目安としては、募集を始めて3週間で問い合わせがゼロなら、価格か募集内容のどちらかがずれています。内見が3件入って決まらないなら、部屋の状態のほうです。管理を委託している場合は、この3週間の問い合わせ件数と内見件数を必ず聞いてください。この二つの数字が分からないままでは、何を直せばよいのかが決まりません。
「下げる」と「空けておく」を、金額で比べる
家賃を下げるかどうかで悩むとき、多くの方は下げ幅の大きさを気にします。ですが、比べるべき相手は下げ幅ではありません。空室が1か月延びることの損失です。
ここから先は説明のための計算例です。家賃10万円の部屋があるとします。実測どおり6.2%下げると、月6,200円。年間で74,400円の減収です。いっぽう、空室が1か月延びれば10万円がそのまま消えます。2か月なら20万円です。つまり1か月分の空室は、家賃を6.2%下げて1年4か月ぶん貸したのとほぼ同じ損失になります。5年住んでもらうつもりなら話は変わりますが、2〜3年で入れ替わる部屋なら、下げたほうが手元に残る金額は大きくなります。
もうひとつ、下げ方にも実務上のコツがあります。借り手は8万円、10万円、12万円といった区切りで検索します。9万8,000円の部屋を9万5,000円に下げても、検索の枠は変わりません。同じ3,000円を使うなら、区切りをまたぐように下げたほうが、見てもらえる人の数が増えます。小刻みに何度も下げるより、一度でまたぐ。これは売買でも賃貸でも同じです。
売却に切り替えるかどうかは、三つの合図で見る
一度空室が長引いたからといって、すぐ売る話にはなりません。売却を検討する材料になるのは、次の三つが重なったときです。
合図1:下げないと決まらない状態が、2回続いた。1回なら時期やタイミングの問題かもしれません。2回続くと、部屋の条件が今の相場から離れている可能性が高くなります。前回の募集家賃と今回の募集家賃を並べてみてください。下がっているなら、次の退去でも同じことが起きます。
合図2:手残りが管理費・修繕積立金・固定資産税で薄くなっている。家賃が下がっても、これらの負担は下がりません。むしろ修繕積立金は年数とともに上がります。家賃から差し引いたあとに何が残るかを、いま一度計算してみる価値があります。
合図3:この先、大きな支出が控えている。給湯器やエアコンの交換、和室の洋室化、水回りの更新。いずれも数十万円から百万円単位です。その支出をしても、家賃が上がるとは限りません。支出の直前は、売るかどうかを考える自然な区切りになります。
逆に言えば、この三つに当てはまらないなら、貸し続けるほうが素直です。空室が長引いたのが1回だけで、募集時期が悪かっただけということも、実際にはよくあります。先ほどのとおり、7月に募集を始めた部屋は1月開始より15日ほど余分にかかっていました。退去の連絡を受けた時点で次の募集がどの時期になるかを見ておくと、必要以上に慌てずにすみます。
もうひとつ、売却を考えるときに見落とされやすいのが「いま入居しているかどうか」で売り方が変わる点です。入居者がいるまま売る場合と、退去してから売る場合では、買う人の顔ぶれも価格の付き方も変わります。空室が長引いている部屋は、結果としてどちらの選択もできる状態にあります。空けたまま売るのか、いったん決めてから売るのか。この二つは分けて考える必要があります。
当社では、こう見ています
当社には月に500件ほど、売却のご相談や物件のお持ち込みがあります。賃貸中の部屋についてご相談をいただいたときは、まず「いま入っている家賃」ではなく「次の募集でいくらで決まるか」に置き換えて計算します。この記事で使った成約家賃のデータは、その置き換えにそのまま使っているものです。売買のAI査定も、売り出し中の価格ではなく実際に成約した価格をもとに作っています。そのうえで、賃貸として持ち続けた場合と売った場合の手元の金額を並べてお伝えしています。売却をおすすめすることが目的ではなく、両方の数字が並んで初めて判断できると考えているためです。
次の一歩
最初にやっていただきたいのは、いまの募集家賃が相場からどれくらい離れているかを確かめることです。同じ駅・同じ間取り・近い築年数で、実際にいくらで決まっているか。駅別・間取り別の家賃相場データで確認できます。ここで差が小さければ、決まらない原因は家賃ではありません。募集の出し方か、部屋の状態のほうです。
差が大きい場合、つまり相場より高い家賃で貸し続けてきた場合は、売却額の見当もあわせて持っておくと判断が早くなります。マンション名・専有面積・階が分かれば、成約価格をもとにした金額をその場で確認できます。この記事の下にご案内があります。
まとめ
- 東京都・神奈川県の賃貸111,919件で、募集開始から決まるまでは中央値37日。44.1%は30日以内に決まっている
- 下げずに決まった部屋は29日、下げた部屋は64日で下げ幅は6.20%。長引くほど値下げ率も上がる
- 1〜2月開始は30日、7月開始は45日。25万円以上の部屋は64日と、時期と家賃帯で大きく変わる
- 比べる相手は下げ幅ではなく空室1か月分の家賃。2〜3年で入れ替わる部屋なら下げたほうが残ることが多い
- 売却を考える合図は、①下げないと決まらない状態が2回続く ②手残りが薄い ③大きな支出が控えている、の三つが重なったとき
一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。
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