総戸数は、一棟の売却で最も見落とされる変数です。価格や利回りは誰でも気にしますが、戸数そのものが買い手の顔ぶれを決めていることは、あまり意識されません。当社が独自に集計した売出中の一棟アパート・一棟マンション23,378件を戸数で五つに分けると、価格も、構造も、担保としての中身も、階段状に変わっていきます。
戸数が増えると、構造が入れ替わる
| 総戸数 | 件数 | 売出価格の中央値 | 表面利回りの中央値 | 建築年の中央値 |
|---|---|---|---|---|
| 4戸以下 | 3,995件 | 2,790万円 | 8.00% | 1992年 |
| 5〜8戸 | 7,102件 | 5,980万円 | 7.35% | 1995年 |
| 9〜12戸 | 5,468件 | 1億円 | 7.01% | 1999年 |
| 13〜24戸 | 5,006件 | 1億4,890万円 | 7.60% | 1993年 |
| 25戸以上 | 1,807件 | 2億4,000万円 | 8.28% | 1991年 |
注目していただきたいのは利回りの列です。単調に増えも減りもしません。4戸以下が8.00%、9〜12戸で7.01%まで下がり、25戸以上で8.28%に戻ります。利回りが最も低い、つまり最も高く評価されているのは9〜12戸の帯です。この帯は価格が1億円前後で、個人が一棟目に選びやすく、かつ規模として管理が回る。買い手の層が最も厚いところに、最も高い値がついています。
構造の内訳を見ると、この帯が境目であることがよく分かります。
| 総戸数 | 木造の割合 | 鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造の割合 |
|---|---|---|
| 4戸以下 | 63.4% | 6.4% |
| 5〜8戸 | 58.5% | 11.3% |
| 9〜12戸 | 44.8% | 25.6% |
| 13〜24戸 | 22.4% | 46.6% |
| 25戸以上 | 6.4% | 68.4% |
9〜12戸のあたりで、木造と鉄筋コンクリート造が入れ替わります。木造の基準年数は22年、鉄筋コンクリート造は47年ですから、この境目をまたぐと融資の時計の長さも切り替わります。戸数の話をしているつもりが、実は構造と融資年数の話になっている、というのがこの表の意味です。
1戸あたりの価格は、25戸以上で落ちる
| 総戸数 | 1戸あたりの価格(中央値) |
|---|---|
| 4戸以下 | 875万円 |
| 5〜8戸 | 875万円 |
| 9〜12戸 | 990万円 |
| 13〜24戸 | 850万円 |
| 25戸以上 | 686万円 |
9〜12戸の990万円をピークに、25戸以上では686万円まで落ちます。3割の減価です。大きい物件は「まとめ買いの値引き」が効いている、と読めます。買い手の数が限られるので、単価を下げないと消化されません。規模が大きいほど1戸あたりは安く売ることになります。
これは分割して売るという発想につながりますが、一棟を戸単位に分けて売るには区分登記が必要で、実務上は簡単ではありません。むしろ意味があるのは、複数棟を所有している場合です。まとめて1件で出すより、棟ごとに分けて出したほうが1戸あたりの単価は取りやすくなります。
担保としては、小さいほうが強い
| 総戸数 | 件数 | 積算が価格に占める割合(中央値) | 積算が価格以上になる割合 |
|---|---|---|---|
| 4戸以下 | 3,733件 | 56.4% | 11.5% |
| 5〜8戸 | 6,626件 | 51.4% | 7.0% |
| 9〜12戸 | 5,058件 | 48.4% | 5.0% |
| 13〜24戸 | 4,538件 | 48.1% | 4.5% |
| 25戸以上 | 1,533件 | 47.5% | 4.8% |
4戸以下は価格の56.4%を積算でまかなえており、11.5%は積算が価格を上回ります。小さい物件は土地の比率が高く、担保として素直です。戸数が増えるほど収益で価格を作る商品になり、積算は価格に届かなくなります。「土地値」の話が通じるのは小さい物件、「利回り」の話しか通じないのが大きい物件、という分かれ方をします。
値下げは両端で起きやすい
| 総戸数 | 母数 | 3か月で値下げした割合 | 値下げ幅の中央値 |
|---|---|---|---|
| 4戸以下 | 9,495件 | 9.7% | 6.7% |
| 5〜8戸 | 19,728件 | 8.9% | 5.7% |
| 9〜12戸 | 15,933件 | 8.3% | 4.9% |
| 13〜24戸 | 12,778件 | 9.4% | 5.6% |
| 25戸以上 | 4,083件 | 9.8% | 5.0% |
値下げに至る割合も、下げ幅も、9〜12戸が最も小さい。両端に向かって上がっていきます。利回りの表と同じ形です。4戸以下は下げ幅6.7%と最大で、これは戸数が少ないぶん1戸の空室が数字を大きく揺らすことと、土地値の議論に持ち込まれやすいことの両方が効いています。
返済後の手残りは規模に比例する
当社が独自に整理した一棟向け融資の条件データベース32機関を当てはめて、買い手の返済後の手残りを計算すると、金額は素直に規模に比例します。4戸以下で年90万円、5〜8戸で158万円、9〜12戸で246万円、13〜24戸で384万円、25戸以上で708万円が中央値です。
ただし、手残りが基準を超える物件の割合は47.0〜50.9%の範囲でほぼ横並びでした。規模を大きくしても、価格に対する効率が上がるわけではないということです。買い手が大きい物件を選ぶ理由は効率ではなく、一件あたりの手残りの絶対額と、管理の手間が戸数に比例しないことにあります。
当社では、こう見ています
戸数を聞いた時点で、声をかける相手の見当がつきます。8戸以下なら個人の投資家、9〜12戸なら個人と資産管理法人の両方、13戸を超えると法人が中心です。25戸以上になると、買える相手はかなり絞られます。相手が絞られる物件では、売り出す前に何社に当たれるかを先に確かめます。広く出してから反応を待つ進め方は、母数が少ない商品では時間だけが過ぎます。
次の一歩
ご自身の物件の戸数がどの帯にあるかを確かめて、そこから逆算してください。9〜12戸ならいちばん値がつきやすい帯にいるので、相場に素直に置けば動きます。4戸以下なら土地の評価が交渉の軸になるので、路線価と地積を先に押さえます。25戸以上なら、1戸あたりの単価が落ちる前提で、価格よりも相手の探し方に時間を使う判断になります。
収益還元で置いた価格と積算のどちらが上に来るかは、戸数帯によって傾向が変わります。所在地と構造・築年数・満室想定年収から両方を出せるので、自分の帯の標準からどれだけ離れているかを見てみてください。一棟の簡易査定はこちら(お名前やご連絡先の入力は必要ありません)。
まとめ
- 表面利回りが最も低い(=最も高く評価される)のは9〜12戸の7.01%。両端に向かって上がり、25戸以上は8.28%
- 木造と鉄筋コンクリート造が入れ替わるのも9〜12戸の帯。融資年数の基準が22年と47年で切り替わる
- 1戸あたりの価格は9〜12戸の990万円がピーク。25戸以上では686万円まで落ちる
- 積算が価格に占める割合は4戸以下が56.4%と最も高い。小さい物件ほど土地値の議論が通じる
- 買い手の返済後の手残りは規模に比例して増えるが、価格に対する効率は横並び。規模の効用は絶対額と手間の節約にある