建物の話ばかりしていると見落とすのが、足元の土地の条件です。再建築ができるか、土地の権利が所有権か、道路にどう接しているか。ここに引っかかりがあると、収益がいくら出ていても買い手の数がはっきり減ります。当社が独自に集計した売出情報93,473件のうち、再建築不可と表示されている一棟は2,669件、2.9%でした。数としては少ないのですが、この2.9%の値動きは他と明確に違います。
再建築不可は、利回りが1.6倍で出ている
| 区分 | 件数 | 表面利回りの中央値 | 建築年の中央値 |
|---|---|---|---|
| 再建築不可の表示なし | 90,804件 | 7.30% | 1991年 |
| 再建築不可 | 2,669件 | 12.00% | 1972年 |
12.00%に対して7.30%。1.6倍です。築年の中央値も19年古い1972年。再建築不可の高い利回りは、収益力が高いのではなく価格が下がった結果です。同じ賃料に対して価格を4割ほど落とさないと買い手が付かない、という関係を裏から見ています。
なぜそこまで下がるのか。理由は出口です。建て替えができない土地は、建物が使えなくなった時点で更地としての用途がほぼありません。買い手にとっては、いま入っている賃料をどこまで取り切れるかがすべてになります。将来の建て替えや売却で回収する道が閉じているので、価格でしか調整できません。
値下げの起こり方が、はっきり違う
2026年5月末から8月末までの約3か月間の価格改定を、土地の条件で分けました。
| 土地の条件 | 母数 | 3か月で値下げした割合 | 値下げ幅の中央値 |
|---|---|---|---|
| 再建築不可 | 2,669件 | 16.1% | 13.0% |
| 借地権・地上権 | 707件 | 11.5% | 10.0% |
| それ以外 | 90,097件 | 10.8% | 7.2% |
再建築不可は、値下げに至る割合が1.5倍、下げ幅が1.8倍です。既に安く出しているのに、そこからさらに深く下げています。安く出せば早く決まる、という直感が効かない領域です。理由は簡単で、価格を下げても買い手の母数がほとんど増えないからです。融資が付かない前提で現金で買える相手だけが対象なので、価格弾力性が低い。
土地の権利は、階段状に効く
統合したデータベースで土地の権利が判明している一棟のうち、所有権が38,489件、借地権が474件でした。所有権以外は全体の1.2%です。売出情報のほうで権利の種類まで細かく見ると、次のようになります。
| 土地の権利 | 件数 | 表面利回りの中央値 |
|---|---|---|
| 所有権 | 92,733件 | 7.37% |
| 旧法賃借権 | 449件 | 8.56% |
| 定期賃借権 | 37件 | 9.88% |
| 普通賃借権 | 224件 | 10.70% |
| 普通地上権 | 14件 | 13.68% |
旧法賃借権は8.56%と、所有権より1.2ポイント高い程度に収まっています。借地借家法の改正前に設定された権利で、更新が原則として認められるため、実務では所有権に近い扱いを受けます。一方、定期賃借権は期限が来れば返す前提なので9.88%まで下がり、普通賃借権は10.70%です。件数が少ない区分は幅を持って読む必要がありますが、「借地はひとくくりで不利」ではなく、権利の種類ごとに市場の評価が違うことは読み取れます。
借地の物件を売るときに効くのは、地主の承諾です。譲渡には承諾が要り、承諾料の水準が決まっていないと買い手は動けません。売り出す前に地主と条件を詰めておくと、価格の議論に入れます。ここが未定のまま出すと、買付が入ってから止まります。
書類がない、という形の減点
もうひとつ、土地と建物の適法性に関わる材料です。当社の集計では、売出情報93,473件のうち建築確認番号が記載されていたのは9,332件、10.0%にとどまりました。私道負担があると明示されている物件は4,618件、4.9%です。
記載がないことは、書類が存在しないことと同じではありません。ただ、買い手や金融機関の側から見れば、確認できない情報は「無い」と扱われます。建築確認済証と検査済証は、あるとプラスになる書類ではなく、無いとマイナスになる書類です。特に検査済証がない建物は、増改築や用途変更のときに手続きが取れず、担保評価の段階で条件が付くことがあります。
私道負担も同じで、負担している面積が有効宅地から外れるので積算が下がります。ただし、私道の持分を持っていること自体は接道を確保する根拠になるので、持分の有無と面積を明示できれば、むしろ交渉材料になります。
当社では、こう見ています
土地に条件がある物件のご相談では、最初に「直せる減点」と「直せない減点」を分けます。書類の不足、境界の未確定、私道持分の不明は、時間と費用をかければ直せます。再建築不可と借地は直せません。直せない減点を持つ物件は、価格を下げて広く探すのではなく、その条件でも買える相手を先に特定してから出します。値下げの実データが示すとおり、価格を刻んで下げても母数は増えないからです。直せる減点は、売り出す前に片づけたほうが結果として高く決まります。
次の一歩
お手元の資料で確認できるのは三つです。登記事項証明書で土地の権利と筆の数。建築確認済証と検査済証の有無。そして公図と測量図で接道の幅と私道の持分です。この三つが揃っていれば、直せる減点かどうかの仕分けはその場で終わります。揃っていない項目があるなら、それ自体が売り出し前の準備の一覧になります。
そのうえで、いまの条件で市場がいくらと見るかを置いてみてください。所在地と構造・築年数・満室想定年収から、収益還元による価格と路線価にもとづく積算が同時に出ます。土地の条件による減点は、この二つの価格からどれだけ差し引かれるかという形で現れます。一棟の簡易査定はこちら(お名前やご連絡先の入力は必要ありません)。
まとめ
- 再建築不可の一棟は売出情報の2.9%。表面利回りの中央値は12.00%で、それ以外の7.30%の1.6倍。価格が下がった結果として高く見えている
- 3か月で値下げした割合は再建築不可16.1%・下げ幅13.0%。それ以外の10.8%・7.2%より深い。安く出しても母数が増えない
- 借地は権利の種類で評価が分かれる。旧法賃借権8.56%に対し、普通賃借権は10.70%
- 建築確認番号の記載は10.0%、私道負担の明示は4.9%。確認できない情報は「無い」と扱われる
- 直せる減点(書類・境界・私道持分)は売り出す前に片づける。直せない減点(再建築不可・借地)は相手を先に絞る