相続した実家や土地を売ろうとしたとき、「税金が思ったより高くなりそう」と感じた方は多いのではないでしょうか。実は、相続した財産を一定の期間内に売ると、支払った相続税の一部を「売ったときの費用」として計上できる制度があります。これを「取得費加算の特例」といいます。この特例をうまく使えば、譲渡所得税(不動産を売ったときにかかる税金)を大きく減らせる可能性があります。この記事では、特例を受けるために何が必要か、どんな書類を用意すればいいかを、できるだけわかりやすく説明します。
取得費加算の特例とは何か

まず、この制度の基本的な仕組みを押さえておきましょう。「取得費加算の特例」とは、相続または遺贈(遺言による財産の受け取り)で取得した財産を売ったとき、支払った相続税のうち一定の金額を「取得費(その財産を手に入れるためにかかった費用)」に上乗せできる制度です(租税特別措置法第39条)。
取得費が増えると、売ったときの利益(譲渡所得)が少なくなります。利益が少なくなれば、かかる税金も少なくなります。つまり、相続税を払ったことで、売却時の税負担を軽くできるという仕組みです。
ただし、この特例には使える条件があります。国税庁のチェックシート(S1・S2)によると、主な要件は次のとおりです。まず、売った財産が「相続または遺贈で取得したもの」であること。次に、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までの間に売ること(国税庁 https://www.nta.go.jp/about/organization/okinawa/topics/sisan/sisan/r06/pdf/1-08.pdf)。そして、売ったことで利益(譲渡益)が出ていること。譲渡損失(売って損が出た場合)のときは、この特例は使えません。
また、「被相続人の居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除(措法35条3項)」を同じ売却で適用している場合でも、国税庁通達によると、取得費加算の特例は併用できます。ただし、国税庁によると、取得費に加算できる相続税額の計算には制限があります。どちらの特例が有利かは、個別の状況によって異なりますので、税務署や税理士に相談することをおすすめします。
ここまでのまとめ: 相続した財産を申告期限から3年以内に売り、利益が出ていれば、相続税の一部を費用として差し引ける制度です。
特例を受けるために必要な書類3点

重要なのは、この特例は確定申告のときに自分で書類を用意して申告しなければ、自動的には適用されないという点です。国税庁の案内(S1)によると、申告時に中心となる書類は以下の3点です。
1つ目は「確定申告書」です。不動産を売った翌年の2月16日から3月15日の間に、納税地(住んでいる場所)を管轄する税務署に提出します(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/joto/annai/1647_01.htm)。
2つ目は「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)」です。不動産を売ったときの収入・費用・利益を計算するための書類で、税務署やe-Tax(国税庁のオンライン申告システム)で入手できます。
3つ目が、この特例の核心となる「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」です。この書類に、加算できる相続税額を自分で計算して記入します。国税庁の様式一覧(S4)では、「平成27年1月1日以後相続開始用」と「令和5年1月1日以後相続開始用」の2種類が掲載されています。相続が発生した時期によって使う様式が異なりますので、必ず確認してください(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/syotoku/r06.htm)。
ここまでのまとめ: 確定申告書・譲渡所得の内訳書・計算明細書の3点が申告の中心書類です。
計算明細書を作るために必要な手元資料
計算明細書を正しく記入するには、いくつかの手元資料が必要です。国税庁の案内(S1)では、「取得費に加算される相続税額の計算には、相続税の申告書の控えが必要」と明記されています(国税庁 https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/topics/tokurei/pdf_r06/21.pdf)。
相続税の申告書の控えとは、相続が発生したときに税理士や自分で作成・提出した申告書のコピーです。これがないと計算ができませんので、手元にない場合は早めに確認しましょう。相続を担当した税理士がいれば、その方に問い合わせるのが最も早い方法です。
また、売却した不動産の「元の取得費」も計算に必要です。国税庁(S6)によると、相続で取得した土地・建物の取得費は、被相続人(亡くなった方)が購入したときの代金や手数料をもとに計算するのが原則です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm)。つまり、亡くなった方が昔その不動産を買ったときの売買契約書や領収書が必要になります。
もし購入当時の書類が見つからない場合でも、売った金額の5%を取得費とみなす「概算取得費」という方法が使えます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm)。ただし、この概算取得費を使う場合は、相続人が支払った登記費用などを取得費に含めることはできないという制限があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm)。
ここまでのまとめ: 相続税申告書の控えと、被相続人が購入したときの契約書が計算の土台になります。
売却時に合わせて用意する書類
計算明細書以外にも、確定申告全体として必要な書類があります。国税庁の確定申告書等作成コーナーの案内(S9)では、土地・建物の譲渡所得を申告する際に、以下の書類をそろえてから入力を始めるよう案内しています(国税庁 https://www.keisan.nta.go.jp/r7yokuaru/ocat3/ocat32/cid1012.html)。
まず、売ったときの書類として「売買契約書」と「売却にかかった費用の領収書」が必要です。仲介手数料や印紙代などの領収書は、売却後も大切に保管しておきましょう。次に、取得時の書類として「被相続人が購入したときの売買契約書」と「購入時の費用の領収書」も必要です。これらが取得費の計算に使われます。
さらに、同一年中に相続財産を複数売った場合は、売った資産ごとに加算できる相続税額を別々に計算する必要があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/topics/tokurei/pdf_r06/21.pdf)。1枚の計算明細書で済ませることはできませんので、注意が必要です。
また、相続税の修正申告を行った場合など、当初の相続税額に変更があった場合は、変更後の金額で計算し直す必要があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/topics/tokurei/pdf_r06/21.pdf)。修正申告書の控えも手元に用意しておきましょう。
ここまでのまとめ: 売却時・購入時の契約書と領収書、修正申告があればその控えも必要です。
申告先と相談窓口
書類がそろったら、納税地(住んでいる場所)を管轄する税務署に確定申告書を提出します(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/joto/annai/1647_01.htm)。税務署の場所は国税庁のウェブサイトで確認できます(国税庁 https://www.nta.go.jp/about/organization/access/map.htm)。
「書類の書き方がわからない」「自分のケースで特例が使えるか確認したい」という場合は、国税庁の電話相談センターに問い合わせることができます。国税相談専用ダイヤルは0570-00-5901で、音声案内の「3」を選ぶと、譲渡所得・相続税・贈与税・財産評価に関する相談につながります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shirabekata/9200.htm)。
ただし、個別の計算や申告書の作成については、税理士に依頼するのが確実です。特例の計算は複雑な部分もあり、計算ミスがあると本来受けられる節税効果が得られないこともあります。費用はかかりますが、専門家に任せることで安心して手続きを進められます。
ここまでのまとめ: 申告先は住所地の税務署、わからないことは0570-00-5901の電話相談か税理士へ。
まとめ
取得費加算の特例は、相続した不動産を売るときに税負担を軽くできる大切な制度です。ただし、自分で申告しなければ適用されません。必要な書類は「確定申告書」「譲渡所得の内訳書」「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」の3点が中心で、計算には相続税申告書の控えと被相続人の購入時の書類が必要です。申告期限(相続税の申告期限の翌日から3年以内の売却が条件)を過ぎると特例が使えなくなりますので、売却を検討している方は早めに書類の確認を始めることをおすすめします。不安な点は税務署や税理士に相談しながら、一つひとつ確認していきましょう。
ご自身の売却でどれだけ税負担が変わるかは、実際の売却価格と相続税額をもとに計算してみるのが一番の近道です。
参考文献・出典
- 国税庁 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例適用チェック表(R6) – https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/topics/tokurei/pdf_r06/21.pdf
- 国税庁 相続財産を譲渡した場合の相続税額の取得費加算の特例チェックシート(令和6年分用) – https://www.nta.go.jp/about/organization/okinawa/topics/sisan/sisan/r06/pdf/1-08.pdf
- 国税庁 確定申告書等の様式・手引き等(令和6年分) – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/syotoku/r06.htm
- 国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm
- 国税庁 No.3258 取得費が分からないとき – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
- 国税庁 申告手続き(譲渡所得関係 申告書添付書類) – https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/joto/annai/1647_01.htm
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー 入力に必要な書類 – https://www.keisan.nta.go.jp/r7yokuaru/ocat3/ocat32/cid1012.html
- 国税庁 税についての相談窓口 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shirabekata/9200.htm
- 国税庁 税務署の所在地などを知りたい方 – https://www.nta.go.jp/about/organization/access/map.htm
一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。
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