親が亡くなり、家や土地を引き継ぐことになった。葬儀と役所の手続きが一段落して、ふと我に返る。あの家をどうすればいいのだろう。多くの方が、ここで手が止まります。誰に聞けばいいのかも分かりません。そのまま半年が過ぎ、一年が過ぎていきます。
ですが、相続には日付の決まった期限がいくつもあります。いちばん重いのは、相続税の申告と納付です。亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内と決められています。もし納税のために不動産を売るなら、その10か月の中で売り切らなければなりません。では、不動産は売ると決めてからどれくらいで売れるのか。当社が独自に集計した成約データで数えました。中古マンションで中央値91日、戸建てで126日。ここに引き渡しまでの期間が足されます。10か月から逆算すると、決める時間は最初の90日しかありません。
まず、数字を見てみます
売り出してから買い手が決まるまでの日数です。中央値とは、全部を順番に並べたときに真ん中に来る数字のことです。平均より実感に近くなります。
| 種類 | 件数 | 決まるまで(中央値) | 90日以内 | 300日以内 | 1年を超えた |
|---|---|---|---|---|---|
| 中古マンション | 122,718件 | 91日 | 49.8% | 87.4% | 8.6% |
| 中古戸建て | 64,823件 | 126日 | 38.8% | 85.5% | 9.4% |
| 土地 | 33,437件 | 70日 | 57.0% | 87.4% | 9.1% |
読み取れることは三つあります。ひとつ、半分は3か月ほどで決まります。ふたつ、10か月(約300日)以内に決まったものは、どの種類でも85%を超えています。みっつ、1割弱は1年を超えています。つまり、売ると決めて動き出せば、10か月に間に合う可能性はかなり高い。ただしそれは「売り出せていれば」の話です。
売り出すまでにも時間がかかります。誰が相続するかを決め、名義を変え、書類をそろえる。この準備に2〜3か月かかるのは、めずらしくありません。10か月から、売れるまでの3か月と、契約から引き渡しまでの1〜2か月を引く。残るのは、はじめの4か月ほどです。
実際の日付で置いてみます。4月1日に亡くなったとします。相続税の期限は翌年の2月1日です。そこから逆算すると、引き渡しは1月まで。契約はその1か月前の12月。売り出しは、そこからさらに3か月前の9月。ということは、売り出す準備をすべて終えているべき時期は8月末です。四十九日が終わって、少し落ち着いたころには、もう半分が過ぎていることになります。
もちろん、売らずに納税できるなら急ぐ必要はありません。ですが「足りるかどうか」を確かめるにも、不動産がいくらかを知る必要があります。結局のところ、最初にやることは同じです。
ここまでのまとめ:売れるまでは3か月前後。逆算すると、決めて動き出すのに使えるのは最初の3〜4か月だけです。
日付の決まった期限を、先に並べます
ここからは公表されている制度の話です。2026年時点の一般的な内容として、期限だけを並べます。細かい条件はご事情で変わりますので、金額の判断は税理士に確かめてください。
- 3か月——相続放棄や限定承認をするかどうかの期限です。借金のほうが多いかもしれない、という場合はここが最初の関門になります。判断が難しければ、期間を延ばしてもらう申立てもあります。
- 4か月——亡くなった方の分の確定申告(準確定申告)の期限です。事業や不動産の収入があった場合に必要になります。
- 10か月——相続税の申告と納付の期限です。現金で一括して納めるのが原則です。誰が何を相続するかが決まっていないと、受けられない軽減もあります。
- 3年——不動産の名義を変える手続き(相続登記)の申請義務の期限です。2024年4月から義務になりました。制度が始まる前に起きた相続も対象で、その分の猶予は2027年3月31日までとされています。くわしくは相続登記の義務化と期限にまとめてあります。
- 3年10か月——相続税を納めた人が売る場合の「取得費加算」という軽減が使える期限です。相続税の申告期限の翌日から3年以内に売ることが条件です。
- 2027年12月31日——空き家になった実家を売るときの3,000万円の控除の適用期限です。今のところ、この日までの売却が対象とされています。
数え方に注意が必要です。3か月も10か月も、起点は「亡くなった日」ではなく「亡くなったことを知った日」です。ふつうは同じ日になります。相続の関係が遠い方だと、ずれることがあります。
ここまでのまとめ:期限は3か月・10か月・3年の三つが軸です。売却の軽減には3年10か月と2027年末という別の期限があります。
あなたはいま、どの分かれ道にいますか
- 亡くなってから1か月以内——まだ何も決めなくて構いません。この時期にやることは、財産と借金がどれだけあるかを数えることだけです。3か月の期限は、この作業のためにあります。
- 3か月から半年——分け方の話し合いをする時期です。ここで止まる家庭が多くなります。止まる理由はたいてい「その家がいくらなのか、誰も知らない」ことです。金額が分からないと、公平に分ける案が作れません。
- 半年から10か月——申告と納税の準備が中心になります。売って納税に充てるつもりなら、この時点で売り出しが始まっていないと厳しくなります。
- もう1年以上たっている——期限をいくつか過ぎている可能性があります。それでも、できることは残っています。まず名義の状態を確かめるところからです。
ここまでのまとめ:どの段階でも、次の一手は「その不動産がいくらか」を知ることから始まります。
最初の90日でやることは、三つだけです
やることを絞ります。この三つ以外は、後回しにして構いません。
1. 誰のものになるかを決める。相続人が全員そろっているかを、戸籍で確かめます。ここが抜けていると、あとの手続きが全部やり直しになります。そのうえで、誰が何を取るかを話し合います。決まらないまま「とりあえず全員の共有」にするのは、いちばん避けたい形です。共有にすると、売るときに全員の合意が必要になります。人数が増えるほど、まとまらなくなります。
2. 何があるかを数える。不動産だけでなく、預金・保険・借金も含めて一覧にします。不動産は、権利証や固定資産税の通知書を集めるところからです。ここで初めて「聞いていない土地があった」と分かることもあります。地方の山林や、昔の私道の持ち分などです。
3. その不動産がいくらかを、早めに知る。これがいちばん後回しにされます。ですが、金額が分からないと分け方も決められませんし、納税に足りるかも分かりません。相続税の計算に使う評価額と、実際に売れる金額は別物です。両方を知っておく必要があります。
3番について、少し補います。相続税の評価は、土地なら路線価という決まった基準で計算します。実際に売れる金額とは、上にも下にもずれます。「評価額が低いから安心」と思っていたら、売ってみたら高く売れて税金の計算が変わった。逆に「評価額どおりに売れるはず」と考えていたら、買い手がつかなかった。どちらも起きます。
ここまでのまとめ:90日でやるのは、相続人の確定・財産の一覧・不動産の金額の三つだけです。
決めずに置いておくと、どうなるか
放っておいても、家は静かに待っていてくれるように見えます。実際には三つのことが進みます。
ひとつめ。費用が出ていきます。固定資産税、マンションなら管理費と修繕積立金、戸建てなら草刈りや点検です。誰も住んでいなくても止まりません。
ふたつめ。関係者が増えます。話し合いが終わらないうちに相続人の誰かが亡くなると、その方の相続人が加わります。三人だった話が、七人になることがあります。
みっつめ。売るときの条件が悪くなります。同じ集計で、売り出してから1年を超えたマンションは、最初の価格から中央値で12.1%下がって決まっていました。90日以内に決まったものは1.7%です。時間がたつから下がるのではありません。決まらないから下げることになるのです。
ここまでのまとめ:置いておく間に、費用が出て、関係者が増えて、値段が下がります。
当社では、こう見ています
当社は買取と仲介の両方を行っており、月に500件ほど売却のご相談やお持ち込みをいただいています。相続がきっかけのご相談では、金額の話より先に「相続人が何人で、名義がどうなっているか」を確かめます。ここが固まっていないと、価格を出しても使えないためです。査定に使う数字は、いま広告に出ている売出価格ではなく、実際に売れた価格に置いています。この記事の日数も、同じデータから数えたものです。売る・貸す・持つのどれを選ぶ場合でも、まず金額を一つ置いてから比べるのが、実務での順番です。
次の一歩
ここまでは全体の話でした。実際に必要なのは、平均でも中央値でもなく「その家はいくらか」という一つの数字です。マンションなら、建物の名前と広さと部屋番号が分かれば、実際に売れた価格をもとにした金額をその場で確かめられます。この記事の下にご案内があります。売却の税金の全体像は相続した実家を売却したときの税金にまとめてあります。
この先は、引き継いだものがマンションか、戸建てや土地かで道が分かれます。マンションなら実家のマンションを相続したらへ。空き家のまま持つ費用と、売り時の見方をまとめてあります。戸建てや土地なら実家の土地と家を相続したら、まず何を調べるかへ。売り出す前に固めておくことを、順番に並べてあります。
まとめ
- 売り出してから決まるまでは、マンション91日・戸建て126日・土地70日(中央値)。1割弱は1年を超える
- 相続税の申告と納付は10か月。売って納税に充てるなら、準備と引き渡しを引いて、決めるのに使えるのは最初の3〜4か月
- 期限の軸は3か月(放棄)・10か月(申告)・3年(登記)。売却の軽減には3年10か月と2027年末という別の期限がある
- 90日でやるのは三つだけ。相続人の確定、財産の一覧、不動産の金額を知ること
- 置いておくと費用が出て、関係者が増え、1年を超えた物件は最初の価格から中央値12.1%下がって決まっている
一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。
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