アパート経営を始めてしばらく経つと、「修繕費はどのくらい積み立てておけばいいのだろう」という疑問が浮かんでくる方は多いのではないでしょうか。外壁の塗り替えや屋根の補修、設備の交換など、まとまった費用が必要になる場面は必ず訪れます。それなのに積立額の目安がわからず、漠然とした不安を抱えたまま経営を続けているオーナーも少なくありません。この記事では、修繕費の積立割合の目安から、計画的な積立の考え方、税務上の取り扱いまで、初心者でも理解しやすいように丁寧に解説します。読み終えるころには、自分のアパートに合った修繕費計画の方向性が見えてくるはずです。
修繕費の積立が必要な理由

アパート経営において、修繕費の積立は「あれば安心」ではなく「なければ危険」なものです。建物は時間とともに必ず劣化し、定期的なメンテナンスなしには入居者の満足度が下がり、空室率の上昇につながります。つまり、修繕費の準備不足は経営リスクに直結するのです。
特に問題になるのは、修繕費が「突然まとまった金額として発生する」という点です。毎月の家賃収入から少しずつ積み立てておかなければ、いざ大規模修繕が必要になったときに資金が足りず、借入に頼らざるを得ない状況に陥ることがあります。国土交通省の民間賃貸住宅向けガイドブックでも、「長期修繕計画によって特に高額な修繕費が必要な時期も分かりますから、将来に備えて計画的に資金を積み立てることをお勧めします」と明記されています(国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」)。
また、修繕を先送りにすることで、小さな不具合が大きな損傷に発展するケースも珍しくありません。雨漏りを放置すれば構造体にまでダメージが及び、修繕費が数倍に膨らむこともあります。計画的な積立と定期的なメンテナンスは、長期的に見ると経営コストを抑える合理的な選択でもあるのです。
修繕費の積立は家賃収入の何割が目安か

実際に「何割積み立てればいいのか」という点は、多くのオーナーが最も気になるところでしょう。業界では一般的に、年間家賃収入の一定割合を修繕費として積み立てることが目安とされています。
複数の不動産事業者の解説では、賃貸マンションの修繕費の目安として、年間の家賃収入の一定割合を修繕費として積み立てておくことが推奨されています。また、東建コーポレーションの解説記事でも、将来的な支出に備える積立金として「家賃収入の10〜15%程度」を目安として挙げています(東建コーポレーション「アパート経営は何年で黒字になる?」)。
これらの数字を参考にすると、たとえば月間家賃収入が50万円のアパートであれば、毎月5万〜10万円を修繕費として別口座に積み立てておくイメージになります。もちろんこれはあくまで目安であり、建物の築年数や構造、立地条件によって必要な積立額は変わります。築年数が古い物件や、設備が多い物件では、より多めに積み立てておくことが賢明です。
一方で、国土交通省のガイドブックでは、25年目までに必要な修繕費用をまかなう前提の例として「毎月1戸あたり約7,000円」と仮定した試算も示されています(国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」)。これはあくまで一例ですが、戸数が多いほど積立総額が大きくなることを実感できる数字です。
長期修繕計画を立てることが積立の第一歩
修繕費の積立割合を決める前に、まず「いつ、どんな修繕が必要になるか」を把握することが重要です。これを整理したものが長期修繕計画であり、計画的な積立の土台となります。
長期修繕計画では、外壁塗装・屋根補修・給排水管の更新・共用部の設備交換など、時期ごとに必要な工事を洗い出します。一般的に外壁塗装や屋根の補修は10〜15年サイクルで必要になるとされており、これらは1回あたりの費用が大きくなりやすい項目です。HOME4Uオーナーズの解説でも、「大きな修繕に関する費用は5年・10年単位で修繕計画をあらかじめ立てておき、修繕積立費として毎月プールしておく」ことが推奨されています(HOME4Uオーナーズ「アパート経営の利回り」)。
計画を立てる際は、建物の設計図書や過去の修繕履歴を確認しながら、専門家(建築士や管理会社)に相談することをお勧めします。自分だけで判断するよりも、プロの目線で見落としを防ぐことができ、より精度の高い計画が作れます。また、計画は一度作ったら終わりではなく、実際の建物の状態に合わせて定期的に見直すことが大切です。
修繕計画が明確になれば、必要な積立額も自然と見えてきます。逆に計画なしに「なんとなく10%積み立てている」だけでは、実際の修繕時期に資金が不足するリスクが残ります。計画と積立はセットで考えることが、安定したアパート経営の基本です。
修繕費の税務上の取り扱いを理解しておこう
アパート経営において、修繕費は経費として計上できる重要な項目です。ただし、税務上は「修繕費」と「資本的支出」に区別されており、この違いを理解しておくことが節税の観点からも大切です。
修繕費とは、建物の現状を維持・回復するための支出を指します。一方、資本的支出とは、建物の価値を高めたり耐用年数を延ばしたりする支出のことで、こちらは減価償却として複数年にわたって費用計上する必要があります。たとえば、壊れた設備を同等品に交換するのは修繕費ですが、より高性能な設備にグレードアップする場合は資本的支出に該当する可能性があります。
国税庁は、修繕費か資本的支出かが判断しにくい場合の基準として、「支出した金額が60万円未満のとき、またはその支出した金額が固定資産の取得価額のおおむね10%以下であるときは修繕費とすることができる」としています(国税庁「No.5402 修繕費とならないものの判定」令和7年4月1日現在法令等)。さらに、継続的な処理として「支出した金額の30%相当額」と「取得価額の10%相当額」のいずれか少ない金額を修繕費とする方法も認められています(同上)。
ただし、税務上の判断は個別の状況によって異なります。実際の申告にあたっては、税理士などの専門家に相談することを強くお勧めします。修繕費の積立と税務処理を正しく理解することで、キャッシュフローの改善と節税効果の両方を得られる可能性があります。
積立を無理なく続けるための実践的な考え方
修繕費の積立は、「毎月必ず一定額を別口座に移す」という習慣を作ることが最も大切です。家賃収入が入ったら、まず修繕積立分を分けてしまうことで、使い込みを防ぎ、いざというときに確実に資金を確保できます。
積立額を決める際は、まず現在の家賃収入の10〜15%を基準にしてみましょう。そのうえで、長期修繕計画を作成し、大規模修繕の時期が近づいているなら積立率を引き上げるなど、柔軟に調整することが重要です。築年数が古い物件や、すでに修繕が遅れている物件では、20%近くを目標にすることも選択肢の一つです。
また、修繕費の積立は経営計画全体の中で考える必要があります。ローン返済・管理費・保険料・税金などの固定費を差し引いたうえで、手元に残るキャッシュフローの中から無理なく積み立てられる金額を設定することが長続きのコツです。無理に高い積立率を設定して資金繰りが苦しくなるよりも、現実的な金額を継続して積み立てる方が、長期的な経営の安定につながります。
さらに、積み立てた資金は普通預金ではなく、定期預金や専用の口座に分けて管理することをお勧めします。日常の運転資金と混在させると、気づかないうちに修繕費に充てるべき資金を使ってしまうリスクがあります。シンプルな仕組みを作ることが、着実な積立の継続を支えます。
まとめ
アパート経営における修繕費の積立は、年間家賃収入の一定割合が一つの目安とされています。ただし、この割合はあくまで出発点であり、建物の築年数・構造・修繕計画の内容によって最適な金額は変わります。重要なのは、長期修繕計画を作成したうえで必要な積立額を逆算し、毎月コツコツと積み立てる習慣を作ることです。また、税務上の修繕費と資本的支出の区別を理解しておくことも、経営の質を高めるうえで欠かせません。修繕費の準備は、入居者への安心と自分自身の経営安定の両方を守る大切な行動です。まずは今の家賃収入の10%から積立を始め、計画を立てながら少しずつ最適化していきましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」 — https://www.mlit.go.jp/common/001231404.pdf
- 国税庁「No.5402 修繕費とならないものの判定」(令和7年4月1日現在法令等) — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5402.htm
- 国土交通省「賃貸住宅の計画修繕推進セミナー」 — https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000118.html
- 東急リバブル「安定収益、家賃設定、修繕費など、マンション経営に関するよくあるご質問」 — https://www.livable.co.jp/kashitai/fudosan-kashitai-faq/management-06/
- 東建コーポレーション「アパート経営は何年で黒字になる?黒字化を早めるポイントもご紹介!」 — https://www.token.co.jp/estate/column/estate-library/138/
- HOME4Uオーナーズ「徹底解説 アパート経営の利回り 最低&理想ラインは?相場や目安、計算方法を解説」 — https://home4u-owners.jp/contents/construction-apartment-11-14037