不動産投資に興味はあるけれど、まとまった資金がない、急に現金が必要になったとき売れないのが不安——そんな悩みを抱えている方は少なくないでしょう。不動産セキュリティトークン(ST)は、そうした課題を解決する可能性を持つ新しい投資手法として注目を集めています。さらに、トークンを売買できる「セカンダリ市場」の整備が進みつつあることで、不動産投資の流動性という長年の弱点が改善されようとしています。この記事では、不動産STとセカンダリ市場の現状、そして流動性向上があなたの投資にもたらす変化を、初心者の方にもわかりやすく解説します。
不動産STとは何か?従来の不動産投資との違い
不動産STとは、ブロックチェーン技術を活用して不動産の所有権や収益権をデジタル化した投資商品です。金融庁は、セキュリティトークンを「金融商品取引法上の有価証券を、ブロックチェーン技術をはじめとする分散型台帳技術を用いて電子的に表象したもの」と整理しており、金融商品として明確に位置づけられています。この定義が明確になっていることで、投資家保護の枠組みが適用されるのは大きな安心材料といえます。
従来の不動産投資では、物件を丸ごと購入するか、REITのような間接投資を選ぶかという二択が一般的でした。不動産STはその中間に位置する選択肢であり、特定の物件に少額から直接投資できる点が特徴です。ブロックチェーン技術によって大きな資産を細かく分割できるため、10万円程度から参加できるケースも増えています。これは現物不動産投資が数千万円から億単位の資金を必要とすることと比べると、参入ハードルの低さは際立っています。
REITとの違いも押さえておくと便利です。REITは複数の不動産をまとめて運用する投資信託であり、個別物件を選ぶことはできません。一方、不動産STは特定の物件に投資する設計が多く、「どの建物に投資するか」を自分で選べる自由度があります。賃料収入が直接投資家に分配される仕組みが一般的で、物件の収益性をより直接的に享受できる点もREITとの大きな違いです。
セカンダリ市場とは何か?不動産投資における役割
セカンダリ市場とは、すでに発行された証券や資産を投資家同士が売買する市場のことです。株式市場でいえば証券取引所がこれにあたります。この市場が存在することで、投資家は保有資産を換金する手段を持つことができます。
従来の不動産投資では、物件を売却しようとすると数ヶ月から1年以上かかることも珍しくありませんでした。買い手を探し、価格を交渉し、契約手続きを進めるという複雑なプロセスが必要だったからです。この「換金しにくさ」こそが、不動産投資の最大のハードルのひとつでした。不動産STのセカンダリ市場は、この問題を解決する可能性を秘めています。
重要なのは、セカンダリ市場の発展が投資家の選択肢を広げる点です。長期保有を前提とした投資だけでなく、ライフステージの変化に応じて柔軟に資産を組み替えることが可能になります。たとえば、子どもの教育費が必要になったとき、保有する不動産STの一部を売却して資金を調達するといった使い方も現実的な選択肢となっていきます。
日本のセカンダリ市場の現状——STARTの開設とその課題
日本における不動産STの市場規模は、三井住友トラスト基礎研究所の調査によると、2021年7月の国内初発行から約3年半で、取得時鑑定評価額ベースで約3,400億円、ST発行総額ベースで約1,483億円にまで拡大しています。2023年半ば頃からは大型物件を対象とした案件の増加を背景に、拡大ペースが加速しているとも指摘されており、市場そのものは着実な成長軌道にあります。
こうした市場拡大の中、セカンダリ市場の整備も一歩ずつ進んでいます。大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)は、2023年12月25日に日本初のセキュリティトークン二次流通市場「START」を開業しました。STARTは私設取引システム(PTS)として金融庁の認可を得ており、制度的な裏付けのある市場として機能しています。上場銘柄はODXが投資者保護の観点から独自の審査基準を設けており、審査を通過した銘柄のみが取引対象となっています。
ただし、現時点では流動性に関して正直に認識しておくべき課題があります。STARTの公式説明資料には「本取引は市場参加者が限られることから、上場商品と比べ流動性が劣る場合がございます」と明記されています。多くの不動産ST銘柄は証券会社の店頭取引で売買されており、投資対象不動産に自然災害や紛争、大幅な稼働率低下といった重大な影響を及ぼす事象が発生した場合、取引価格の算出が行われない可能性もあります。流動性の高まりに期待しながらも、こうした現実的なリスクは十分に理解しておく必要があります。
流動性向上がもたらす投資家へのメリット
それでも、セカンダリ市場の整備が進むことは投資家にとって確かなメリットをもたらします。まず大きいのは、投資への心理的なハードルが下がる点です。「一度買ったら売れない」という前提が変わることで、これまで不動産投資をためらっていた層も参加しやすくなります。少額から始めて、慣れてきたら投資額を増やすという段階的なアプローチも取りやすくなるでしょう。
次に、ポートフォリオを柔軟に組み替えられる点も見逃せません。市場環境や個人のライフステージに応じて、保有する不動産STを売却し、別の物件に投資し直すことが比較的容易になります。たとえば、オフィス需要が落ち込んでいる地域の物件を手放し、人口増加が見込まれるエリアの住宅物件に乗り換えるという戦略的な動きが現実的になっていきます。
また、価格の透明性が向上する効果もあります。セカンダリ市場で取引が積み重なることで、不動産STの適正価格が市場を通じて形成されやすくなります。従来の不動産取引では情報の非対称性が大きく、売り手と買い手の間で価格認識にズレが生じることがありました。取引データが蓄積・公開されることで、誰もが公平に価格を把握しやすくなるというメリットも期待できます。
取引を始める前に知っておくべきこと
セカンダリ市場での不動産ST取引には多くの可能性がある一方、注意すべき点も存在します。まず理解しておきたいのは、現時点での主な換金手段は「証券会社の店頭取引」か「STARTでの売却」に限られるという点です。市場が発展途上である以上、「いつでも売れる」という過度な期待は禁物で、買い手が見つからない場合もあることを前提に投資計画を立てることが大切です。
手数料体系の理解も欠かせません。セカンダリ市場での取引にはプラットフォーム利用料や売買手数料がかかります。手数料の水準はプラットフォームによって異なるため、頻繁に売買を繰り返すと取引コストが膨らむ点に注意が必要です。また、売却益が生じた場合の税務上の取り扱いについては、個別の事情によって異なるため、税理士など専門家に確認することをお勧めします。
プラットフォーム選びも慎重に行いましょう。取扱物件の種類、手数料体系、セキュリティ対策、サポート体制はプラットフォームごとに異なります。金融庁に登録された事業者かどうかを確認したうえで、複数のサービスを比較することが重要です。実際に少額から試して使い勝手を確かめてから本格的に参加するのも、賢明なアプローチといえます。
さらに、制度・規制環境は現在も変化しています。2024年6月に金融庁が公表した資料では、令和5年金融商品取引法等改正に伴う政令・内閣府令案の内容として「セキュリティトークン関連の見直し」が含まれており、制度整備は継続して進んでいます。最新の動向については金融庁の公式サイト(www.fsa.go.jp)で確認するようにしてください。
今後の展望と投資戦略の考え方
市場拡大の流れは今後も続くと考えられます。三井住友トラスト基礎研究所は、2025年度はさらなる拡大加速の可能性があるとしており、案件数の増加と大型物件の参入が市場を押し上げる主要因として挙げています。市場全体のボリュームが増えることは、セカンダリ市場の参加者数増加にもつながり、結果として流動性の改善にも寄与していくでしょう。
投資戦略としては、分散投資の重要性が増しています。不動産STは少額から投資できる特性上、複数の物件や地域に分散しやすいのが強みです。都心のオフィスビル、郊外の住宅物件、地方の商業施設など、異なる特性を持つ物件に資金を分けることで、特定の物件リスクに偏らない安定的なポートフォリオを構築できます。セカンダリ市場の流動性を活かして定期的に見直すことも有効な手段です。
一方で、長期的な視点を持つことも変わらず重要です。流動性が向上しても、不動産投資の本質は中長期的な資産形成にあります。短期的な価格変動に一喜一憂するより、賃料収入による安定したキャッシュフローを軸に、5年・10年のスパンで計画を立てることが最終的な成功につながります。セカンダリ市場は「出口の選択肢を増やすもの」であり、「短期売買で利益を狙うもの」と捉えるよりも、より広い意味での資産管理ツールとして活用するのが望ましいでしょう。
まとめ
不動産STは、ブロックチェーン技術を活用することで少額投資と透明性を実現した、従来の不動産投資の課題を補う新しい選択肢です。市場全体は2021年の初発行から着実に拡大しており、2023年末には日本初のセカンダリ市場「START」も開業しました。換金性の向上という観点では前進が続いていますが、現時点の流動性は上場商品と比べて限定的であり、必ずしもいつでもスムーズに売却できるわけではない点は正確に理解しておく必要があります。
重要なのは、こうした現状を踏まえたうえで、自分のライフプランや資金計画に合った使い方を考えることです。信頼できるプラットフォームを選び、制度の最新動向を追いながら、分散投資と中長期的な視点を持って臨むことが、不動産STを資産形成に活かすための基本姿勢といえます。市場はまだ発展途上ですが、だからこそ今のうちに仕組みをきちんと理解しておくことが、今後の投資判断に大きな差をもたらすはずです。
参考・出典
- 三井住友トラスト基礎研究所「不動産STにおける市場規模は堅調に拡大、2025年度は拡大がさらに加速する可能性も」(2025年3月17日)— https://www.smtri.jp/report_column/info_cafe/2025_03_17_6501.html
- 大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)「『START』開業セレモニーを開催しました」(2023年12月25日)— https://www.odx.co.jp/ja/news/article/d60smi4inoek/
- SBI証券「既発ST(セキュリティ・トークン)取引に関する説明書」— https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/st/odx_start_exp.pdf
- 金融庁「令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表について」(2024年6月27日)— https://www.fsa.go.jp/news/r5/shouken/20240627/20240627.html
- ケネディクス不動産投資顧問「不動産ST|J-REIT(リート)との共通点・相違点とは?」— https://www.kdx-sto.com/knowledge/articles/006