この記事の結論
- 相続不動産の取得費は被相続人の購入価格を引き継ぐため、売却益が大きくなりやすい点に注意が必要です。
- 取得費加算の特例や空き家3,000万円控除など、要件を満たせば税負担を大幅に減らせる特例があります。
- 2024年4月から相続登記が義務化されており、売却前に必ず名義変更を完了させる必要があります。
親や祖父母から不動産を相続したとき、「売却したいけれど何から手をつければいいのか」と戸惑う方は少なくありません。相続した不動産の売却は、通常の不動産売却と異なる税務ルールや手続きが絡み合うため、知識なしに進めると思わぬ税負担を招くことがあります。この記事では、相続不動産を売却する際に必ず押さえておきたい取得費の考え方、使える税務特例、相続登記の義務化、そして売却までの実務の流れを、初心者にもわかりやすく解説します。最後まで読むことで、損をしない売却の全体像が見えてくるはずです。
取得費の引き継ぎが売却益を左右する

相続不動産の売却で最初に理解すべきポイントは、取得費の計算方法です。売却益(譲渡所得)は「売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた金額」で計算されますが、相続の場合はこの取得費の扱いが独特です。
国税庁によると、相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費は、被相続人(亡くなった方)が買い入れたときの購入代金や購入手数料などをもとに計算します(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm)。つまり、相続人が「いくらで相続したか」ではなく、「被相続人がいくらで買ったか」が基準になるわけです。これは、数十年前に安く購入した物件を相続した場合、現在の売却価格との差額が非常に大きくなり、課税される譲渡所得も膨らみやすいことを意味します。
また、業務に使われていない土地・建物を相続した際に相続人が支払った登記費用や不動産取得税は、実際の取得費(実額取得費)を使う場合に限り、取得費に含めることができます。一方、取得費が不明な場合は、売却価格の5%相当額を取得費として使う「概算取得費」という方法が認められています(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm)。ただし、概算取得費を選んだ場合は、登記費用などを別途加算することはできない点に注意が必要です。
さらに、所有期間の判定でも重要なルールがあります。相続不動産の所有期間は、相続開始日ではなく被相続人が取得した日から起算します(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm)。売った年の1月1日時点で所有期間が5年超なら「長期譲渡所得」として所得税15%・住民税5%が適用され、5年以下なら「短期譲渡所得」として所得税30%・住民税9%という高い税率になります(国税庁 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_3.htm)。被相続人が長年保有していた物件であれば、相続直後に売却しても長期譲渡所得の低い税率が適用されるケースが多いでしょう。
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税負担を減らす2つの重要な特例

相続不動産の売却には、要件を満たすことで税負担を大幅に軽減できる特例が存在します。代表的なものが「取得費加算の特例」と「相続空き家の3,000万円特別控除」の2つです。
取得費加算の特例は、相続税を実際に負担した相続人が一定期間内に相続財産を売却した場合に使える制度です。国税庁によると、この特例を使うには「相続や遺贈により財産を取得した者であること」「その財産に相続税が課税されていること」「相続開始の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること」という3つの要件をすべて満たす必要があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm)。この特例を適用すると、負担した相続税の一部を取得費に上乗せできるため、課税される譲渡所得を圧縮することができます。ただし、加算できる金額は譲渡益を上限とする点も覚えておきましょう。
もう一つの「相続空き家の3,000万円特別控除」は、被相続人が居住していた家屋(空き家)を売却する際に活用できる特例です。国税庁によると、令和9年12月31日までの譲渡が対象で、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却、売却代金が1億円以下であることなどが主な要件です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm)。令和6年1月1日以後の譲渡では、相続人が3人以上の場合は控除上限が2,000万円に引き下げられている点は特に注意が必要です。この特例を申告する際は、譲渡所得の内訳書や登記事項証明書に加え、市区町村長から交付を受ける「被相続人居住用家屋等確認書」なども必要になります。
2つの特例は原則として重複して使うことができません。どちらが有利かは個々の状況によって異なるため、複雑な案件では所轄の税務署で面接相談を受けることをおすすめします(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/denwa-sodan/index.htm)。
売却前に必須の相続登記と義務化の影響
相続した不動産を売却するには、まず名義を相続人に変更する「相続登記」を完了させなければなりません。これは法律上の要件であり、被相続人名義のままでは売却手続きを進めることができません。
法務省によると、令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されました(法務省 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html)。この義務化は施行前に開始した相続にも適用され、未登記の場合は原則として令和9年3月31日までに対応が必要です。正当な理由なく期限内に申請しない場合は、10万円以下の過料の対象となり得ます。売却を検討している方はもちろん、当面売却予定がない方も、早めに相続登記を済ませておくことが重要です。
相続登記に必要な費用として、登録免許税があります。法務局によると、相続登記の登録免許税は不動産の固定資産税評価額に1,000分の4を乗じた金額が基本です(法務局 https://houmukyoku.moj.go.jp/morioka/page000001_00110.html)。また、100万円以下の土地については令和9年3月31日までの期間限定で登録免許税の免税措置が設けられている場合があります(法務局 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000017.html)。
相続人が複数いる場合、民法第898条により相続財産は共有に属します(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)。共有不動産の売却には他の共有者全員の同意が必要であるため(民法第251条)、遺産分割協議を先に整えることが売却をスムーズに進める鍵となります。協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることもできます(裁判所 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html)。
売却までの実務の流れと必要書類
相続不動産の売却は、大きく「相続手続き」「売却準備」「売却・申告」の3段階で進みます。全体の流れを把握しておくことで、手続きの抜け漏れを防ぐことができます。
まず相続手続きの段階では、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本・住民票、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書などを収集します(裁判所 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html)。相続人が複数いる場合は遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印を押印した上で印鑑証明書を添付します(法務局 https://houmukyoku.moj.go.jp/matsuyama/page000001_00350.pdf)。これらの書類をもとに相続登記を申請し、不動産の名義を相続人に移します。
被相続人が所有していた不動産の全体像を把握したい場合は、「所有不動産記録証明制度」を活用する方法もあります。法務省によると、この制度を使うことで特定の被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を一覧的に確認でき、登記漏れの防止に役立ちます(法務省 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00740.html)。
売却が完了した翌年には、確定申告が必要です。国税庁によると、土地・建物の譲渡所得がある場合は、確定申告書に加えて分離課税用の「申告書第三表」と「譲渡所得の内訳書(土地・建物用)」を作成して所轄税務署に提出します(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm)。特例を適用する場合はさらに添付書類が増えるため、早めに準備を始めることをおすすめします。
まとめ
相続した不動産の売却は、取得費の引き継ぎルール、譲渡所得税の計算、特例の活用、相続登記の義務化と、複数の重要な知識が絡み合う手続きです。まず被相続人の取得費と所有期間を確認し、取得費加算の特例や空き家の3,000万円特別控除が使えるかどうかを早い段階で検討することが、税負担を最小化するための第一歩となります。
相続登記は令和6年4月から義務化されており、売却の有無にかかわらず早期対応が求められています。複数の相続人がいる場合は、遺産分割協議を円滑に進めることが売却成功の鍵です。税務や法律の判断が難しい場合は、税務署や司法書士・税理士などの専門家に相談しながら進めることで、安心して売却を完了させることができます。
参考文献・出典
- 国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm
- 国税庁 No.3258 取得費が分からないとき — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁 土地や建物を売ったとき — https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_3.htm
- 国税庁 No.3102 譲渡所得の申告期限 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm
- 国税庁 国税に関するご相談について — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/denwa-sodan/index.htm
- 法務省 相続登記の申請義務化について — https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
- 法務省 所有不動産記録証明制度について — https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00740.html
- 法務局 登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編) — https://houmukyoku.moj.go.jp/matsuyama/page000001_00350.pdf
- 法務局 相続登記の登録免許税の免税措置について — https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000017.html
- 盛岡地方法務局 Q&A(相続登記の登録免許税の額等) — https://houmukyoku.moj.go.jp/morioka/page000001_00110.html
- 裁判所 遺産分割調停 — https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html
- e-Gov法令検索 民法(第898条・第907条・第251条) — https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089