相続・空き家

相続不動産の共有名義を売却する3つの進め方と税金の注意点

この記事の結論

  • 共有名義の不動産を全体売却するには、共有者全員の同意が必要です。
  • 売却前に相続登記を済ませることが法律上の義務であり、期限があります。
  • 売却益には譲渡所得税がかかりますが、使える特例で大幅に節税できる場合があります。

親や祖父母が亡くなり、不動産を複数の相続人で引き継いだとき、「この家、どうやって売ればいいの?」と戸惑う方は少なくありません。共有名義の不動産は、一人の判断だけでは動かせないルールがあるため、手続きの順番を間違えると売却が止まってしまうことがあります。この記事では、相続不動産の共有名義を解消して売却するための具体的な進め方を、法律の根拠とともに分かりやすく解説します。税金の特例や注意点も合わせてお伝えしますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

相続不動産が共有名義になる仕組みと売却の大原則

相続不動産が共有名義になる仕組みと売却の大原則のイメージ

まず押さえておきたいのは、なぜ相続不動産が共有名義になるのか、という点です。民法第898条では「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と定められています(民法 | e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)。つまり、遺産分割が終わる前の不動産は、相続人全員が共同で所有している状態になるのです。

この共有状態は、相続人が何も手続きをしなければそのまま続きます。兄弟3人で相続した実家なら、3人全員が「共有者」として不動産に関わることになります。一見シンプルに見えますが、この状態で不動産を売ろうとすると、法務省の資料にも明記されているとおり「共有者全員の同意が必要」という大きなハードルが生じます(法務省 https://houmukyoku.moj.go.jp/matsue/content/001435904.pdf)。

共有名義の不動産を全体売却するには、共有者全員の合意が絶対条件です。一人でも反対すれば、その不動産を市場で売ることはできません。これが共有名義最大のリスクであり、相続後できるだけ早く話し合いを始めるべき理由でもあります。

なお、共有者の一人が自分の「持分」だけを第三者に売ることは法律上可能ですが、買い手が限られる上に市場価格より大幅に低くなるのが一般的です。できれば全員合意のうえで不動産全体を売却する方法を目指すことをお勧めします。

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売却前に必ず済ませる相続登記の手続き

売却前に必ず済ませる相続登記の手続きのイメージ

売却の話し合いが整っても、登記が済んでいなければ売ることはできません。重要なのは、相続登記には法律上の申請義務と期限があるという点です。法務省の案内によると、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。また、2024年4月1日より前の相続で未登記のものも対象となり、原則として2027年3月31日までに申請が必要です(法務省 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html)。

相続登記の申請に必要な書類は、大まかに次のとおりです。被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍・除籍謄本、被相続人の住民票除票、遺産分割協議書、そして相続人全員の印鑑証明書が標準的に求められます(法務局 https://houmukyoku.moj.go.jp/otsu/content/001437041.pdf)。書類の量が多く感じるかもしれませんが、「法定相続情報一覧図」を法務局で作成しておくと、複数の手続きで戸除籍謄本の束を何度も提出する手間を省くことができます(法務局 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000013.html)。

また、登記簿の名義人が亡くなった方の親など前の世代のままになっているケースもあります。その場合は、まず前世代からの相続登記を行う必要があります(法務局 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/fudousan4.html)。相続が数世代にわたって放置されていると、関係する相続人の数が膨大になることもあるため、早めの対応が肝心です。

なお、「相続人申告登記」という簡易な手続きもありますが、相続人申告登記だけでは売却や抵当権設定はできず、別途の相続登記が必要です(法務省 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00602.html)。売却を目的とするなら、正式な相続登記を選んでください。

共有名義を解消する3つの方法

相続登記が完了したら、次は共有名義をどう解消するかを検討します。主な方法は3つあります。

方法①:遺産分割協議で全体売却する

最もシンプルで売却価格も高くなりやすい方法です。相続人全員で話し合い(遺産分割協議)を行い、不動産を売却して代金を分け合うことに合意します。民法第907条では「共同相続人は、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる」と定められており(民法 | e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)、全員が同意すれば柔軟に進められます。

方法②:共有持分を他の共有者に買い取ってもらう

自分の持分を他の相続人に買い取ってもらい、単独名義にしてから売却する方法です。これを「代償分割」と呼びます。買い取る側に資金力が必要ですが、外部の第三者を関与させずに解決できるため、家族間のトラブルを最小限に抑えられます。

方法③:協議がまとまらない場合は家庭裁判所へ

話し合いが平行線をたどる場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。申立費用は被相続人1人につき収入印紙1,200円と比較的低額です(裁判所 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html)。調停でも解決しない場合は審判に移行し、裁判所が不動産を任意売却して換価することを命じたり、代償分割を命じたりすることができます(家事事件手続法 | e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052)。

売却時の税金と使える特例

共有名義の不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、原則として確定申告が必要です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/keisubetsu/fudousan.htm)。ここでは、相続不動産の売却に特有の税務上のポイントを整理します。

まず取得費の考え方です。相続した不動産の取得費は、原則として被相続人(亡くなった方)が購入したときの金額を引き継ぎます。所有期間の判定も被相続人の取得日から計算します。取得費が分からない場合は、売却額の5%を概算取得費として使うことができます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm)。ただし、概算取得費5%を使う場合は、相続人が支払った登記費用や不動産取得税を取得費に上乗せすることはできない点に注意が必要です。

次に、相続税を支払っている方向けの「取得費加算の特例」があります。相続で取得した財産を、相続開始の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却した場合、支払った相続税額の一部を取得費に加算できます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm)。この特例を使うには、確定申告書に「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」などを添付する必要があります。

さらに、被相続人が住んでいた空き家を売る場合は「空き家3,000万円特例」も検討に値します。2027年12月31日までの売却で一定要件を満たすと、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm)。ただし、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却であること、売却代金が1億円以下であること、他の特例と重複適用できないことなど、いくつかの要件があります。また、国税庁によると、令和6年1月1日以後の譲渡では、相続人が3人以上の場合、特別控除の上限は2,000万円です。

なお、遺産分割のためにかかった訴訟費用などは、譲渡所得計算上の取得費には含められません(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm)。税務の判断は個別事情によって大きく変わるため、具体的な計算は税理士への相談をお勧めします。

相続税の申告期限と未分割のリスク

売却の話し合いに時間がかかる場合でも、相続税の申告・納税期限は変わりません。国税庁によると、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内が申告・納税の期限です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4208.htm)。遺産分割が終わっていなくても、この期限は延びません。

未分割のまま申告すると、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減といった有利な特例が使えない状態での申告になります。これらの特例を後から適用するには、原則として申告期限から3年以内に分割が成立していることが条件です。つまり、分割協議を長引かせると使えるはずだった特例を失うリスクがあるということです。

相続税の申告期限が近づいているにもかかわらず分割協議がまとまらない場合は、税理士や弁護士に早めに相談することが重要です。「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、一定の猶予を得られる場合もありますが、詳細は税務署や専門家にご確認ください。

まとめ

相続不動産の共有名義を売却するには、①全員合意のもとで遺産分割協議を行う、②相続登記を期限内に済ませる、③税金の特例を活用する、という3つのステップが基本です。話し合いがまとまらない場合は家庭裁判所の調停という選択肢もあります。また、相続税の申告期限は遺産分割の完了を待ってくれないため、売却の準備と並行して税務の手続きも進めることが大切です。共有名義の解消は複雑に見えますが、手順を一つひとつ確認しながら進めれば必ず道は開けます。まずは法務局や税務署の窓口、または専門家への相談から始めてみてください。

参考文献・出典

  • 民法(e-Gov法令検索) — https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 法務省:相続登記の申請義務化について — https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
  • 法務省:相続人申告登記について — https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00602.html
  • 法務局:不動産の所有者が亡くなった — https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/fudousan4.html
  • 法務局:「法定相続情報証明制度」について — https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000013.html
  • 裁判所:遺産分割調停 — https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html
  • 家事事件手続法(e-Gov法令検索) — https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052
  • 国税庁:No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm
  • 国税庁:No.3252 取得費となるもの — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm
  • 国税庁:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
  • 国税庁:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
  • 国税庁:No.4208 相続財産が分割されていないときの申告 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4208.htm
  • 国税庁:不動産等を売却した方へ(令和7年分 確定申告特集) — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/keisubetsu/fudousan.htm

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