この記事の結論
- 相続した不動産を売却するには、まず相続登記を完了させる必要があります。
- 売却益にかかる税率は所有期間5年超か否かで大きく異なり、長期なら税率20%・短期なら39%です。
- 空き家特例や取得費加算特例を活用すれば、税負担を大幅に抑えられる可能性があります。
親や配偶者から不動産を相続したとき、「売却したほうがいいのか」「どんな手続きが必要なのか」と戸惑う方は少なくありません。相続不動産の売却は、通常の不動産売却と異なる手順や税務ルールが絡み合うため、知識なしに進めると思わぬ損をしてしまうことがあります。この記事では、相続登記の義務化から譲渡所得税の計算方法、使える特例まで、2026年10月時点の最新情報をもとに体系的に解説します。手続きの全体像を把握することで、売却のタイミングや節税策を正しく判断できるようになるはずです。
相続登記の義務化と売却の前提条件

相続した不動産を売却するには、まず名義変更(相続登記)を完了させることが絶対条件です。これは法律上の要件であり、登記が済んでいない状態では買主への所有権移転ができません。
法務省の情報によると、2024年4月1日以降、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務が生じています(法務省 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html)。この義務化は過去の未登記物件にも適用されており、2024年4月1日より前に開始した相続で未登記のままの場合は、2027年3月31日までの経過措置期間内に手続きを行う必要があります。正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になり得るため、早めの対応が重要です。
相続登記に必要な書類としては、被相続人の死亡事実が確認できる戸籍謄本や除籍謄本が基本となります(法務局 https://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/content/001396077.pdf)。また、登記簿上の住所と被相続人の住所のつながりが確認できない場合は、住民票の除票や戸籍の附票なども追加で必要になることがあります。さらに、登録免許税の計算には固定資産課税明細書などで不動産の評価額を確認する作業も欠かせません。
なお、「相続人申告登記」という簡易な手続きも存在しますが、これは売却時の権利移転登記の代わりにはなりません。法務省のQ&Aでも「相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には相続登記をする必要がある」と明記されています(法務省 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html)。売却を検討しているなら、最初から正式な相続登記を進めることが賢明です。
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譲渡所得税の計算と所有期間の考え方

相続登記が完了したら、次に理解しておきたいのが売却時にかかる税金の仕組みです。不動産を売って利益が出た場合、その利益(譲渡所得)に対して所得税と住民税が課されます。
譲渡所得の計算式は、国税庁の情報によると「譲渡価額 −(取得費+譲渡費用)= 譲渡所得金額」という方式です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/keisubetsu/fudousan.htm)。取得費とは、被相続人がその不動産を購入したときの代金や手数料などを指します。相続した不動産の場合、取得費は被相続人が買い入れたときの購入代金を引き継いで計算するのが原則です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm)。
購入当時の資料が見つからない場合は、売却価額の5%相当額を概算取得費として使うことができます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm)。ただし、この方法では取得費が非常に低くなり、課税される利益が大きくなりやすいため、できる限り当時の売買契約書や領収書を探すことをおすすめします。
税率については、売却した年の1月1日時点での所有期間が5年を超えるかどうかで大きく変わります。5年超の「長期譲渡所得」なら所得税15%・住民税5%、5年以下の「短期譲渡所得」なら所得税30%・住民税9%が適用されます(国税庁 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_3.htm)。重要なのは、相続不動産の所有期間は被相続人が取得した時点から引き継いで計算するという点です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm)。たとえば被相続人が30年前に購入した物件なら、相続直後に売却しても長期譲渡所得として扱われます。
相続税の取得費加算特例で節税する方法
相続税を納めた方には、売却時の税負担をさらに軽減できる「取得費加算の特例」が用意されています。この特例を知らずに売却してしまうと、大きな節税機会を逃すことになります。
取得費加算の特例とは、相続税額のうち一定額を不動産の取得費に上乗せできる制度です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm)。取得費が増えることで課税対象の譲渡所得が減り、結果として税負担が軽くなります。主な適用要件は、相続等で財産を取得したこと、その取得者に相続税が課税されていること、そして売却が「相続開始翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」であることです。
ここで押さえておきたいのが、相続税の申告期限です。国税庁によると、相続税の申告期限は被相続人の死亡日の翌日から10か月以内とされています(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm)。つまり、取得費加算特例を使える売却期限は、おおよそ相続開始から3年10か月以内ということになります。この期限を過ぎると特例が使えなくなるため、売却のタイミングを慎重に検討する必要があります。
なお、取得費加算特例と後述の空き家3,000万円特別控除は、どちらが有利かはケースによって異なります。個別の状況に応じた判断が必要なため、税理士などの専門家に相談することを強くおすすめします。
空き家特例と低未利用土地特例の活用ポイント
相続した実家が空き家になっているケースでは、売却時に使える強力な特例があります。「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」、いわゆる空き家3,000万円特別控除です。
この特例を使うと、一定要件を満たす空き家の売却で、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm)。ただし、2024年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合は上限が2,000万円に引き下げられています。主な適用要件としては、対象の家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたこと、区分所有建物(マンション等)でないこと、相続開始直前に被相続人以外の居住者がいなかったことなどが挙げられます。
手続き面では、市区町村長が発行する「被相続人居住用家屋等確認書」の取得が必要です(国土交通省 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html)。ケースによっては耐震基準適合証明書や建設住宅性能評価書、売買契約書の写しなども必要になります。また、2024年1月1日以後の譲渡では、売却後でも翌年2月15日までに家屋を取り壊した場合に特例を適用できるケースもあります。
もう一つ知っておきたいのが、低未利用土地等の特別控除です。一定の低未利用土地等を500万円以下(一定区域では800万円以下)で売却し、長期譲渡所得に該当する場合は、100万円の特別控除を受けられる可能性があります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3226.htm)。市区町村長の確認書などが必要になりますが、郊外の土地や小規模な物件を売却する際には検討に値する特例です。
売却にかかる費用と確定申告の流れ
税金の特例と並んで、売却にかかる諸費用の把握も重要です。費用を見落とすと、手元に残る金額が想定より大幅に少なくなることがあります。
仲介手数料については、国土交通省の情報によると、売買価格が800万円以下の宅地建物は「低廉な空家等」として特例の対象になり得ます(国土交通省 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bf_000013.html)。この場合、売主または買主の一方から受け取れる仲介手数料の上限は税込33万円とされています。一般的な仲介手数料の計算とは異なるルールが適用されるため、低価格帯の物件を売却する際は事前に確認しておきましょう。
売却によって譲渡所得が生じた場合、確定申告が必要になります。国税庁によると、所得税の確定申告は原則として売却年の翌年2月16日から3月15日までに行います(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1000.htm)。特例を適用する場合も、この期間内に申告書と必要書類を提出することが条件となります。申告を忘れると特例が使えなくなるだけでなく、延滞税などのペナルティが生じる可能性もあるため注意が必要です。
また、登録免許税についても確認しておきましょう。相続による所有権移転登記の登録免許税率は原則0.4%で、課税標準は固定資産課税台帳価格が基本となります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm)。売却前の相続登記の段階でこの費用が発生することを、資金計画に織り込んでおくことが大切です。
まとめ
相続不動産の売却は、相続登記・譲渡所得税・各種特例と、複数の手続きと知識が絡み合う複雑なプロセスです。まず相続登記を期限内に完了させ、次に取得費や所有期間の計算を正確に行い、空き家特例や取得費加算特例が使えるかを確認する、という順序で進めることが成功への近道です。
特に特例の適用には期限や細かい要件があり、売却のタイミングを誤ると大きな節税機会を失うことになります。不確かな点は「最新情報は国税庁や法務省の公式サイトでご確認ください」とお伝えしたうえで、税理士や司法書士などの専門家に早めに相談することを強くおすすめします。相続不動産の売却を焦らず、正しい知識と専門家のサポートを活用して進めていきましょう。
参考文献・出典
- 国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm
- 国税庁 No.3258 取得費が分からないとき — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁 No.3226 低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3226.htm
- 国税庁 土地や建物を売ったとき — https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_3.htm
- 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
- 法務省 相続登記の申請義務化について — https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
- 法務省 相続登記の申請義務化に関するQ&A — https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
- 法務局 相続登記の必要書類チェックリスト — https://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/content/001396077.pdf
- 国土交通省 空き家の発生を抑制するための特例措置 — https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html
- 国土交通省 不動産取引に関するお知らせ — https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bf_000013.html